『来ヶ谷さんがただソーセージを食べるだけのお話』
今、目の前には来ヶ谷さんがいた。
「やあ、理樹君」
来ヶ谷さんは僕にそう挨拶すると、目の前にあった朝食を食べ始める。
そこにはおっきなソーセージがあった。
来ヶ谷さんはそのソーセージを取ると口にほおばろうとする。
「む……結構大きいな。口に入りきらんぞ。それにかなり熱い」
食べにくそうにしている唯湖さん。
やがてあきらめたのかソーセージから口を離す。
「仕方ない、まず軽く冷ますとするか」
来ヶ谷さんはソーセージにふっと息を吹きかけると舌を出し、ソーセージに這わせはじめた。
どうやら味を確認しているようだ。周りを嘗め回している。
「そういう食べ方ってどうかと思うんだけど」
「何、食べ方なんて人それぞれだ」
来ヶ谷さんは僕のつっこみを歯牙にもかけずその行為を続ける。
「さて、そろそろいいだろう」
ある程度用意は整ったのか、唯湖さんはふたたびソーセージを口の中へと挿れた。
「あむ…ふぐぅ……」
やはり大きかったのだろう。苦戦しているようだ。
「ふ…あむ……くふ……」
それでも、ようやくくちの中に入るとそれをむさぼり始める。
まるで待ち焦がれていたかのように。
「ぐ…ふむっ! ぷはぁ、びっくりしたよ。まさか中にチーズが入っているとは」
来ヶ谷さんの口からソーセージが離れる。
少し、チーズが口からたれてきていた。
「こんなに白くて粘っこいものが入っていたとは……侮れん」
少し来ヶ谷さんはびっくりしているようだった。てっきり僕は知っているものかと思っていたんだけど。
「しかし……嫌いではない」
来ヶ谷さんは笑みを浮かべると再びソーセージを口に頬張る。
「うむ、あく…ふぅ」
おいしそうにソーセージを食べ続ける来ヶ谷さん。
普段見せないような顔をしている。必死だけど、決して嫌そうな顔ではない。
ただ、求めている顔。
「あむ…くぅ……、ふぅ、ごちそうさま。うむ、とても美味だったぞ」
ソーセージを食べつくした来ヶ谷さんは、この上なく良い表情をしていた。
「ん、どうした理樹君。前にかがみこんで」
「いや、別に……」
どうしてこの人はただ朝食に出た大きなチーズ入りソーセージを食べるだけでこんなに卑猥なのだろう。
思わず少し興奮してしまった。僕も男なんだと再認識させられる。
「ふむ、その思っていたことを実際に後でしてあげようか」
「えっ!?」
「ははは、冗談だ」
どうやら鋭い来ヶ谷さんには僕が何を思っていたのかばれていたようだ。
「えっと、ごめん。変なこと考えてしまって」
からかわれてしまったことに対する怒りよりも、自分のなさけなさに対するくやしさの方が勝ってしまい大きく落ち込んでしまう。
「まあ、私としては悪い気はしない」
「え、それって――?」
「う…ええい、私に言わせるな!」
顔を真っ赤にして怒る来ヶ谷さん。
やばい、ものすごくかわいい。
さっきまでの欝な気分がその表情を見てふっとんだ。
「来ヶ谷さんってさ……」
「な、何だ理樹君」
攻められると弱いよね。
そう言おうとして途中で止める。
教えてあげるより、実際にやってみた方が楽しそうだと思ったからだ。
「いや、なんでもない。それより……」
僕は自分の皿にあったウィンナーを箸で取り、来ヶ谷さんに近づける。
「ん、これは?」
「いや、ね」
ちょっと恥ずかしい気もするけれど、来ヶ谷さんの反応はきっとその代償を支払う価値があるはず。
僕は来ヶ谷さんに向けて笑顔で言った。
「来ヶ谷さん、僕のウィンナー食べる?」
「うっっっっっ!!!!!!!!!」
来ヶ谷さんが顔を真っ赤にする。
普通に聞けばよくある台詞だ。来ヶ谷さんがさっきいってた台詞の後でなければ。
案の定来ヶ谷さんの驚く姿を見れて満足する。
「くっ! 理樹君にうまく返されてしまった……」
「ちょっと恥ずかしかったけどね。来ヶ谷さんの驚く顔見れて満足だよ」
「くそっ、覚えておけ少年。この借りはいつか必ず返すからな」
来ヶ谷さんは顔を真っ赤にしたまま席から立ち上がり、この場を去っていく。
ちょっとやりすぎたかなと思いつつ、来ヶ谷さんのかわいい姿を見れたことにただただ満足する僕だった。
おわり
あとがき
このSSはタイトルどおり唯湖がソーセージを食べるだけのしごく健全なSSです。
理樹君の行動なんかものすごくほほえましいですよね。ご飯のおかずあげるとか恋人みたいだ。
異論は受け付けます(ぇ