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「やばい! 遅刻しちゃう!」

 僕は街中をそれこそメロスのごとく必死で駆けていた。
 と、いうのも今日は唯湖さんとのデートの日で、今日の13時ごろに会う約束をしていたからだ。
 今現在時刻は12時55分、ギリギリ間に合うかどうかのレベルである。

「遅刻すると怖いんだよなあ、唯湖さん」

 僕は彼女の冷めた表情を思い出し、肩を震わせる。
 紆余曲折あって、ようやく僕は彼女のことを唯湖さんと名前で呼ぶことができるようになったのだ、もしかしたら怒ってそれを取り消してしまうかもしれない。
 何せ、唯湖さんいわく『名前を呼んでいいのは未来の旦那様』だけなのだから。
 つまり、僕は唯湖さんに旦那様と認められているわけで……思わず、笑みがこぼれてしまった。

「ここまで色々あったからなあ」

 僕はこれまでの過程を思い出す。
 僕と唯湖さんが出会ったのはクラス替えのときだった。
 それから、僕らのリトルバスターズに唯湖さんが加わって、他にも加わったたくさんの仲間と野球して。
 あの、決して記憶が薄れることがないだろう修学旅行から、帰ってきて。
 その頃から、僕と唯湖さんはみんなの集まり以外でも関わるようになって――そして夕方の教室で、僕は唯湖さんに告白されたんだ。
 僕もずっと唯湖さんのことが気になっていたから喜んでそれを受け入れた。
 以来、教室でバカップルしたり、デートしたり、つい一線越えちゃったり――。
 それこそあま〜くて濃密な時間を過ごすようになった。
 まあ、これからもずっとそうするつもりなんだけどね。大分唯湖さんのことはわかってきたんだけど、それでも飽きるなんてことが全くないし。
 そんなことを考えているうちに、ちょうど道路の向こう側に目的地が見えてきた。
 もちろんそこには既に唯湖さんの姿がある。あんな黒くて長い髪をしたスタイル抜群の、周囲の視線をいやがおうにでもひきつける人なんて僕は唯湖さんしかしらない。

「おーい、唯湖さーん!!!」

 僕は思わず大きな声で唯湖さんのことを呼びながら走り続ける。
 どうやら唯湖さんも僕の大きな声に気づいたらしく、こちらを向いてきた。
 少しでも早く近くに行きたい、僕はさらに速度をあげた。
 そのことにびっくりしたのか唯湖さんは大きな声をあげながら手を前に突き出してくる。

「お、おい! 理樹君止まれ! トラックがき――」

 唯湖さんの言葉は、耳をつんざくようなクラクションの音に掻き消された。
 両手を差し出し、唯湖さんに抱き着こうとしていた僕には唯湖さんしか目に入ってなかったんだ。

「ぶぼべらっ!!?」

 よくわからない悲鳴をあげる僕。
 街中がくるくると回っているように見えるのは僕自身が回っているからだろう。
 その一瞬でトラックが急停止しているのが見えた。ああ、あれが僕を轢いたのか。
 というか轢かれたのにやけに冷静だな、僕。こういうときって走馬灯が見えるものだというのにぜんっぜんそんなことないし。
 やがて地面へごろごろと転がって着地する。
 そんな僕の元へたくさんの足音が近づいてきた。これが人間の野次馬根性ってやつだろうか。
 でも、そんな中に一人、僕の好きな人がいて。その手が僕の頬と首筋に触れて、ブルブルと震えているのが伝わってきた。

「お、おいっ! 大丈夫かっ!? しっかりしろっ! だ、誰か救急車を呼んできてくれ!! 一刻も早くだ!!」

 まさかこんなに震えて、慌てている唯湖さんを見ることができるなんて。大丈夫だよといってあげたいけど、さすがにこの状況じゃ、ちょっと……。
 サイレンの音が近づいてくる。どうやら救急車がやってきたようだ。
 その安心感からか僕は意識が遠くなっていくのを実感しながら、ふと、こんなことを考えた。
 どうか神様。次に目覚めるのが3年後で、その間に唯湖さんが他の男に人に取られていませんように、と。





『教えて! 唯湖先生』





 目を覚ますと長い年月がたって――いなかった。カレンダーを見ると、どうやらたった1日だけたっていたようだ。そんな僕に待っていたのはながーい入院生活でも、可愛い看護婦さんとのうっはうはなハーレム生活でもなく、徹底した精密検査だった。

「何故だ! 何故トラックに撥ねられたというのにほぼ無傷なんだ!」

 いや、そんなの僕にいわれても。
 確かに、トラックに撥ねられた僕にあった怪我というのは実は軽い打撲だけだった。おそらくぶつかった瞬間と、地上に落ちた瞬間に出来たものだろう。
 まあ案外奇跡って簡単に起こるものだし、こんなことあってもおかしくはないんじゃないだろうか。絶望的なバス事故から全員生還という奇跡を体験した僕には強くそう思える。
 ともかく僕はあっさり退院することができた。警察の方ともお話したけど、あのときのトラックは信号不注意だったらしく、僕の方が責任を負う部分はあまりないらしい。まあ、治療費自体あまりかかってないからそこまで問題にすることでもないけど。
 退院の日、病院からでるとそこにはやけにたくさんの人の姿が。

「理樹、無事で何よりだ」
「恭介!」

 そう、リトルバスターズのみんなが僕の退院祝いに集まってくれたのだ。

「たまに俺と一緒に体鍛えていて良かったな、理樹」
「それだけではどうしようもないと思うが……まあ、良かったな」
「真人に謙吾も」

 確かに謙吾の言うとおり、トラック事故なんて体鍛えていただけで防げるものじゃないけど、真人だったら防げてしまうかもとかちょっと思ってしまう。

「理樹、退院おめでとう」
「退院おめでとー」
「わふーすぐに治ってよかったです」
「無事で…何よりです」
「うん、ありがとう」

 鈴が、小毬さんが、クドが、そして西園さんがお祝いしてくれる。

「良かったですわね、トラックに撥ねられたのに怪我がなくて」
「あれ? う、うん。そうだね」

 まさか笹瀬川さんまでお祝いにきてくれるなんて。ちょっと意外。

「いやーこりゃめでたい、今日は帰ったらパーティだー!」
「ダメよ葉留佳。まだ退院したばかりなんだから、やるとしても少し大人しめにね。その方がいいわよね、直枝理樹」
「う、うん」

 あ、あれ? 葉留佳さんはともかく二木さん?
 二木さんがどうしてここに、確か仲悪かったと思うんだけど……。

「理樹くんが生きててほんっとーに良かった」
「え、う、うん。ありがとう」

 だ、誰だっけ、この長い金髪の子は。
 なんか記憶にあるんだけど思い出せない……。

「うむ、退院おめでとう。理樹君」
「あ」

 そして最後に僕を祝ってくれた人。
 僕はその人に感謝をこめてこういった。



「ありがとう、来ヶ谷さん!」



「「「「「「「「「「「「……え?」」」」」」」」」」」」

 皆の声がはもり、驚きの表情でこちらを見る。
 え、ぼ、僕何か悪いことやった?

「り、理樹君。もう一度私のことを呼んでくれないか?」
「え、ど、どうして……」
「いいから!」

 来ヶ谷さんに脅された僕は震えながらもう一度名前を呼ぶ。

「えと、く、来ヶ谷さん……」
「やはり間違いではなかったのか……」

 その一言に来ヶ谷さんはショックを受けていた。え、ど、どうして?

「なあ、理樹。お前、リトルバスターズに新しく入ったメンバー覚えているか?」
「え、小毬さん、クド、葉留佳さん、来ヶ谷さん、西園さん……で全員だっけ」
「な、わたくしも入っておりますわよ!」
「直枝……あなたまさか」
「こらーあたしを忘れるなー!!」

 笹瀬川さんと二木さん、あと金髪の女の子が僕に対してそういってくる。
 え、いつの間にこの人たちリトルバスターズに入ったんだっけ。

「お前……朱鷺戸あやのこと覚えているか?」
「え……あっ! あやちゃんだったんだ!?」

 そうか、どっかで見たことがあると思ったらあやちゃんだったのか。
 どうりで記憶にないわけだ。あったのって小さい頃だったし。

「ちょっと! あたしは何も変わってないわよ! そりゃ服装は私服だけど……」
「いや、朱鷺戸。そうじゃない。理樹、昨日何が遭ったか覚えているか?」
「え、うん」

 恭介の唐突な質問に戸惑いながらも、昨日の出来事――街を走っていて、事故にあったことを答える。どうして走ってたかは忘れたけど。

「なるほど・・・・・ということは、問題は昨日までの間ってことになるか」
「なに言ってんだ。説明しろ、きょーすけ」
「ああ。どうやら理樹は……」



「記憶喪失のようだ」



「ええっ! 僕が記憶喪失!?」

 恭介の言ったことに驚きを隠せない。
 だけどどうやら皆は恭介の言ったことに納得しているようだ。

「ああ、しかも丁度修学旅行あたりからの記憶がなくなっているようだ」

 まさか外傷はなかったけど、記憶のごく一部に欠陥ができていたなんて。
 でもどうしてごく一部だけが……別に右手になんでも打ち消す能力とかあったりするわけでもないのに。

「なるほど、つまりふりだしに戻ったわけね……色々と」

 何か含みを持たせて二木さんが言う。その言葉に皆がうなずいた。
……何故だろうか、少し背筋が寒くなった。

「ところで直枝、日常生活の方は大丈夫なの?」
「うん、多分大丈夫だと思う」

 ごく一部だから生活にはそこまで問題ないだろう。こういう経験一度もないから、絶対にそうだとは言い切れないけど。

「……学業の方は大丈夫なんでしょうか」
「あ、そうか。そこは自信ないな」

 そのことについてすっかり失念していた。確かに途中からの記憶がないってことはその間にやった勉強もすっかり忘れてしまっているわけで。

「ふむ……いいだろう」

 再び来ヶ谷さんが口を開いた。

「なら、私が記憶が勉強を教えてやる。なに、授業なんてすぐに追いつく」
「え、ホントに?」

 来ヶ谷さんが教えてくれるなら大丈夫だろう。数学もものすごく教え方うまかったし。

「まるで先生みたいだな」

 鈴が来ヶ谷さんにつっこみを入れる。

「先生……それはいいな。いいか理樹君、私は今日から君の先生だ!」
「え、う、うん」

 なんでそんなに気合が入っているのだろう。ただ勉強を教えるだけなのに。
 その理由は、次の一言で明らかになった。



「そしてそのついでに理樹君に教えてあげよう。私を好きだった理樹君のことを!」



「えええ!?」

 来ヶ谷さんの突然の提案に驚く。なんで、どうしてそーなるの!?

「そうすればきっと理樹君は思い出すはずだ。皆との日々、そして私との日々を」
「そ、そうかなあ?」

 来ヶ谷さんの目に炎が灯っているように見えた。
 おかしい、僕が知っている来ヶ谷さんってこういうことをする人だっただろうか。
 きっと記憶にない部分の僕が来ヶ谷さんをそうさせたのだろう。
……少し、頭と胸がずきりとした。

「手取り足取り……それこそ色々教えてやるぞ。フフフ」
「お、お手柔らかにお願いします」

 どうやら拒否権はないらしい。
 僕はこれからのことを不安に思いつつ、来ヶ谷さんの言葉にうなずくのであった。



続く



あとがき
 来ヶ谷唯湖SS登録100本おめでとう記念に急いで作ってみました。
 作ってしまった以上、責任もってあと1話か2話は書きます(ぉぉぉ
 ちなみにタイトルの元ネタは某エロゲです。内容もちょっとだけインスパイアしてますw



押してくださると次の作品を書く気力になります、いやマジで。