「「「来ヶ谷に誘われたー!?」」」

 恭介、謙吾、真人が驚いた声を上げる。
 秋の季節、僕たちは付き合うことになった。それは来ヶ谷さんに告白されてだ。

「うん。手料理を馳走してやろうって」
「はーあの来ヶ谷がねえ」

 真人が考える。



『断罪してやろう』

真人の首に膝をかける! 地獄の断頭台!!

ぱぐしゃあああああああっ!!

『ぐ…ああ…』



「想像がつかねえな…」

 真人が冷や汗をたらしながら素直な感想を口にする。

「まあ確かにあんなことされたんじゃ、そんなことをするタイプとは到底思えないかもね…」
「来ヶ谷がか…」

 今度は謙吾が考えている。

 

『ふははははは怖かろうッ!』

どがががががががっ!!

『ぎゃあああああああっ!!』



「想像つかんわ!」

 謙吾も無理なようだ。

「うん、僕もものすごく気持ちはわかるよ」
「来ヶ谷がねえ……」

 最後に恭介が考えている。



『来ヶ谷……』

 料理をしているところを後ろから抱きしめようとする。
 手に凶器は持っていない、問題はないだろう。
 来ヶ谷に手をかけた、その瞬間だった。

 ぐさっ!

『だ、大根が刺さってるー!?』
『こんなときに手を出すとは……死にたいらしいな』
『ぎゃああああああああああ!!!』

You are Die!



「お前……死ぬぞ」
「色々とおかしいよね! ねえ!?」

 やっぱり恭介の思考はどこかぶっとんでいる。でも、どこかで見たような……。

「で、だ。それで?」
「あ、うん。やっぱこういうときって手土産を用意した方がいいのかなって」
「ふむ、それで俺たちに手土産がどういうのがいいか考えてほしい、というわけだな」

 謙吾の言葉に僕はうなずく。一人で考えるのにはやはり不安が残るから。

「うん、前のこともあるからちょっと不安だけどね」
「前のこと?」
「あ、いや、こっちの話」

 そうか、皆が手伝ってくれたというのを覚えているのは僕と来ヶ谷さんだけなんだ。
 ちょっと悲しく思えたが、僕たちが覚えていただけでも奇跡なんだから我慢しないと。

「よーしそういうことなら任せておけ。俺たちが最高の手土産を考え出してやる」

 恭介がどんと胸を叩く。もちろん不安が残るからある程度自分でも考えていかないと。
 と、そのとき世界が揺れる。

「あれ……?」
「おいおい、大丈夫か」

 強烈に襲ってくる睡魔。どうしたんだろう。来ヶ谷さんに誘われた喜びからずっと興奮していて、それが相談 することによって張っていた気が緩んだからかな。
 
「ん……ごめんだけどすごく眠くなってきた」
「そうか、わかった。後は俺たちに任せておけ」
「うん…わかった」

 恭介たちに後を任せると僕は布団に入って横になる。
 まともな手土産を考えてくれることを信じて。
……多分、無理だと思うけど。





『来ヶ谷さんと僕』






 目が覚める。
 外から日差しが差し込んでいるのを見るとどうやら朝のようだ。
 真人は既に出かけているようで、段ボール箱の上に包装された箱が置いてあった。
 かなり大きいが、これが手土産なのだろう。

「…そういや時間!?」

 あわてて時計を確認する。約束の時間まであと少し。

「急がないと!」

 僕はその手土産を抱えると急いで約束の場所へと向かった。





 待ち合わせの場所――女子寮の前には既に来ヶ谷さんは来ていた。

「遅くなってごめん!」
「いや、私が早く待っていただけだ。気に病むことはない」

 こういうとこ、男と女の立場が逆じゃないかなあと思う。
 まあ、いつも思うことなんだけど。それでも凹んでしまう。

「ほら、いくぞ」
「う、うん」

 来ヶ谷さんに引っ張られて僕は女子寮の中へと入る。
 女子寮か。何回も入っているとはいえ、やっぱり男の僕には入ることに少し抵抗がある。

「何に抵抗がある。別に女子寮に入るのは初めてではあるまい」
「そ、そうなんだけど。やっぱり恋人同士になったって考えるとさ」
「なっ、は、恥ずかしくなるようなことを言うんじゃない!」

 顔を赤くする来ヶ谷さんを見て可愛いと思う。
 昔はかっこいいという憧れだけだったけど、付き合っていくうちに可愛いと思うようになった。

「ほら、さっさといくぞ!」
「あ、うん」

 手を引っ張り、急ぐようにずんずんと歩き始める。
 きっと来ヶ谷さんなりの照れ隠しなのだろう。
 そんなところもものすごく可愛いと思った。



「じゃあ、そこに座っていてくれ」
「うん、わかった」

 来ヶ谷さんの部屋に着く。
 前見たときと部屋の様子はあまり変わっていない。

「そんなに部屋をじろじろと眺めて、やはり私の目があっては下着を取るのに抵抗があるか」
「そんなことしないよ!」
「冗談だ。ふむ、やはりこうでないとな」

 先ほどの仕返しのつもりなのだろう。
 来ヶ谷さんはしてやったりといった笑みを浮かべている。
  
「ところで先程から持っているそのでかい箱はなんだ?」
「あ、うん。手土産にと思って」

 僕は持ってきた大きな箱を来ヶ谷さんに渡す。

「ふむ、大層なもののようだが、本当にいいのか?」
「うん、いい…と思う」

 何せ僕にも中身がわからないからなんともいいようがない。

「ふむ、まあいいだろう。開けてみても良いか」
「うん、いいよ」

 僕も中身が気になるし。
 来ヶ谷さんはその場でリボンをほどき、包装紙をはがす。
 そして、箱を開けた。

「何だこれは」
「え、えっと……」

 思わず僕も来ヶ谷さんも呆れ顔になる。
 無理もない、箱の中に入っていたもの。その正体は。

「メイド服、だな」
「メイド服、だね」

 一体何がどうなってこれを手土産にしたのだろう。夜中徹夜したときのテンションでも手土産にメイド服なん て考えは思い浮かぶまい。
 これがリトルバスターズの恐ろしさか。

「ふむ、理樹君は私にこれを着て料理してほしいのか」
「え」

 そうか、一応僕の手土産なんだ。

「えっえっと、これは、その……」
「理樹君も男の子だからな、こういうのをつけた女性に奉仕してほしいという気持ちがあると」

 慌てて理由を説明しようとするがうまく口に出てこない。
 それとも心の中ではそれを望んでいるのだろうか。

「ふむ、いいだろう。せっかく理樹君が勇気を出してくれたんだ。着替えてやろう」

 そういってその場で服を脱ぎだす。
 僕は急いで目を手でふさぐ。

「わわっ! こんなところで着替えないでよ!」
「別に見られても構わないからな。理樹君もうへへ女学生の着替え最高と言いながらじっくり眺めてもいいぞ」
「そ、そんなこと出来るわけないよ!」
「ふふ、冗談だ。やはり理樹君は可愛いな」

 物凄く手玉に取られている気がする。
 スルスルと服を脱ぐ音に耳をひかれながら、それでも心の中で必死に理性を働かせ目を手で覆う。

「もういいぞ」

 もう着替え終わったのかと思いながら目を開ける。
 そこには下着姿の来ヶ谷さんの姿があった。

「うっ嘘つき! まだ終わってないじゃないか!」
「ふふふ、真っ赤に顔を赤くする理樹君も可愛いぞ」

 僕は急いで目を閉じ、手で覆う。
 それでも、先程の下着姿が脳裏に焼きついて離れない。
 なんというか綺麗で。そして、大きな胸。
 顔が熱くなっているのがわかる。きっと来ヶ谷さんの言うとおり真っ赤に違いない。
 再び衣類のすれる音がし始めた。今度はちゃんと着ているのだろう。
 やがて、音が止まった。

「今度こそ本当にいいぞ」
「本当…?」
「ああ、大丈夫だ」

 それでも若干疑いながら、少しずつ目を開けていく。
 そして来ヶ谷さんの姿を見た瞬間、一気に大きく見開いた。
 そこにはメイドの姿があったから。

「どうだ。似合ってるか」
「う、うん。すっごく似合ってるよ」
「そ、そうか。な、なんだか恥ずかしいな」

 来ヶ谷さんもまんざらではないようで、顔を赤くしている。

「今だったらリズベスって言う名前もものすごく合っている気がする」
「な、そ、その名前は止めてくれ」

 リズベスというのは来ヶ谷さんの家庭での愛称だ。でも来ヶ谷さんはその名前で呼ばれるのを嫌がる。

「でも、そのくらい可愛いよ」
「…キミは本当に私の調子を狂わせるな、全く」

 顔を真っ赤にしながら目を背ける来ヶ谷さん。
 僕は思ったことを口にしているだけなんだけど。

「と、とりあえず料理を作ってくる」
「うん、わかった」

 来ヶ谷さんはこの場から逃げ出すようにキッチンへと向かった。
 僕はというと、メイド姿の来ヶ谷さんを見れたことに喜びを覚えながら、料理が出来上がるのを待つことにし た。



「…暇だ」

 料理が完成するまでもう少しかかりそうだ。
 時間をつぶそうにもやることがない。
……そうだ、せっかくだし来ヶ谷さんの手伝いをしよう。
 そう決心した僕は来ヶ谷さんの元へ向かう。



「ねえ、来ヶ谷さん。僕にも手伝わせてよ」

 メイド服姿で料理している来ヶ谷さんにお願いする。

「ありがたいが、遠慮しておく」
「なんでさ」
「私だけの力で完成させたいんだ。理樹君にも、それを食べてもらいたい」

 そんなことを言われてしまっては、手伝おうにも手伝えない。

「暇なのか? それならタンスの中に入ってる物でも使うがいい」

 僕が暇そうなのを察したのか、来ヶ谷さんは何か提案をしてきた。
 タンスの中に暇つぶしの道具でもあるのだろうか、多分、本とかが入っているのかもしれない。

「うん、わかった。ありがとう」

 僕は言われるがままタンスへと向かった。



「タンスってこれかな」

 ベッドの横にあるタンス。来ヶ谷さんが言っていたのはこれだろう。
 ただ、前も何かタンスについて聞いたような。
 うーん、思い出せない。まあいいや、開ければわかるだろう。
 思いっきりタンスの引き出しを開く。

 でてきたのは、下着だった。

「!!!!?!??!?」

 いやもう、パニックってレベルじゃなかった。
 そのとき下着類が入っているということを言っていたのを思い出したが後の祭り。
 僕はまんまと来ヶ谷さんにはめられたのだ。

「おや、理樹君は下着類が欲しいのかい?」

 来ヶ谷さんがしてやったりといった笑みを浮かべながらこちらへやってくる。

「ち、ちがっ! それにこれは来ヶ谷さんが……」
「ふむ、私は理樹君になら下着を取られても構わないぞ。なんなら下着も理樹君の好みに合わせるがどうする? 」
「えええー!?!?」

 混乱している僕に来ヶ谷さんがゆっくりと近づいてくる。

「私はキミのことが好きだからな。だからキミが何をしようが、私は喜んで受け入れるぞ」
「あうあうあう……」

 何かを伝えたいが言葉がでない。
 うれしさと恥ずかしさとがごっちゃになって、わけがわからない感情。

「なあ、理樹君。キスでもしようか」
「えっ?」
「私たち、まだ一度もしたことがなかっただろう、だから……」

 来ヶ谷さんが目をつぶる。
 これは、していいってことだろうか。
 僕の中で起こる葛藤。ただ、落ち着いて来ヶ谷さんの姿を見たとき、僕は目をつぶって唇を来ヶ谷さんのほう へと持っていく。

 甘い、味がした。

「……へ? 甘い?」
「どうだ、リクエストの甘い玉子焼だ」

 いつの間にか僕の口元には甘い玉子焼が来ていた。
 どうやら、これも罠だったらしい。

「ふふ、調子を狂わせたお返しだ」
「ひ、ひどいよ」

 またしても来ヶ谷さんに振り回されたことに、怒りよりもショックの方が大きい。
 多分、いつまでたってもこんな調子なのだろうか。そう思うと残念にすら思えてくる。

「まあそう落ち込むな」
「落ち込むなって言われても……」
「仕方ないな……ほら、こっち向いて」
「こっち向いてって…むぐ」

 唇と唇が重なる。そのまま、僕の口の中に何かが送り込まれる。
……玉子焼だ。

「これでいいかな」
「う、うん……」

 また顔が赤くなる。初めてのキスは口移し。

「す、少し恥ずかしいぞ」

 来ヶ谷さんも恥ずかしかったようで赤くなっている。

「で、でも……また、やってほしい……」

 僕は気持ちを素直に伝えた。こんなにおいしい玉子焼は食べたことないから。

「…ふふ、全く、理樹君は甘えん坊さんだな」

 来ヶ谷さんはそういって、玉子焼を口に含んだ。
 そして、もう一度口移し。

「……」
「……」

 お互い無言になる。でも、すごく暖かな気持ち。

「なあ、理樹君。これが、キスなんだな」
「うん、ちょっと発展系だと思うけどね」
「すごく……いいものだな」
「そうだね」

 僕だって本とかでの知識しかなかった。でも、実際に体験してみて、こんなに良いものだとは思わなかった。

「なあ、理樹君」
「なに?」
「これからも、もっと色々していこう」
「……うん」

 何かを知ることは不幸になることかもしれない。
 でも、それは幸せにつながることでもある。
 幸せな気分にひたりながら、僕たちは今度は普通のキスをした。
 


おわり




あとがき
 リトバスをやって、真っ先に書いたのがこの唯湖SSです。だってお気に入りのキャラなんだもの。
 ただ、シナリオがわかりづらく、俺自身理解しきれてない場所があるため読者には色々と疑問に思う場所があるかと思います。そこは素直に力量不足です。すみません。
 ただまあ、こうして一応形にはなったかなと思い世に送り出してみました。色々意見感想とかいただけるとう れしいです。

追記(8/3付)
おかしいと指摘された部分や、こちらのミスであった部分を修正しました。
話の都合上カットするつもりだった部分がそのまま残ってしまい、話がおかしくなっていたためそのミスに対するお詫びと、あと読んでくださった皆様へのお礼を兼ねて、その部分を話が成り立つよう加筆しておまけとしました。
もう少し甘い時間をお楽しみください。



おまけ〜その後〜

「できたぞ」

 調理場に戻った来ヶ谷さんが他の料理を持ってやってくる。
 流石来ヶ谷さんといった感じで、それは初めて作ったとは思えない見栄えの良さだった。

「うわあ、おいしそうだ」
「ふふ、たくさん食べてくれ。ご主人様」
「うん……って、えっ?」

 さっき来ヶ谷さんは何て言った?
 ご主人様? 何かの聞き間違いじゃないか?
 呆然としている僕に来ヶ谷さんはもう一度その単語を言ってくる。

「どうしたんだご主人様」
「えっえっ? えええ!」

 間違いない、来ヶ谷さんは僕にご主人様と言っている。

「な、な、なんでそんな呼び方っ!」
「やはりこの格好になったからには、その呼び方で呼ばなければならないと思ってな。気にさわったか」
「い、いや……」

 来ヶ谷さんにご主人様と言われるなんて、きっと恭介たちが知ったら伝説の勇者どころか神扱いされそうだ。
 なんかものすごくにやけている気がする。
 僕の中にもそういうのに憧れる願望があったようだ。

「むしろ、すごくうれしい」
「そ、そうか」

 来ヶ谷さんがまた赤くなった。僕たちは今日、何回赤くなっているのだろうか。

「う、うむ。それじゃあご主人様。ほら」

 来ヶ谷さんが箸で自分の作った一口サイズの唐揚げをつまむと、僕の口の前まで持ってくる。
 これは、あーんというやつだろうか。

「遠慮するな。ほら」
「う、うん。あーん」
 
 来ヶ谷さんに後押しされ、僕は大きく口を開け、唐揚げを食べる。

「あ、おいしい」
「そうか。うむ、初めてでもなんとかなるものだな」

 来ヶ谷さんはうれしそうにしている。
 初めてでこれって、来ヶ谷さんは本当何でもできるんだな。
 そんな来ヶ谷さんに少しいたずらしたくなる。

「それじゃあ今度は僕の番だね」
「は?」

 何が?と疑問の表情を浮かべている来ヶ谷さん。
 僕は同じように一口サイズの唐揚げを箸でつまむと来ヶ谷さんの方へと持っていく。

「ま、まさか…」
「はい、あーん」

 あ、また顔が赤くなってきた。

「う、わ、私は」
「僕もやったんだから、ね」
「う、あ、あーん」

 観念したのか来ヶ谷さんは大きく口を開けて唐揚げを取る。

「くそ、理樹君に一本取られた」
「あ、元に戻ってるよ」
「う、うるさい!」

 真っ赤になって反論する来ヶ谷さん、だけど僕には可愛いとしか思えない。

「このままだとしばらくしたら理樹君にずっと手玉に取られてしまいそうだ……」
「ん、どうかした?」
「な、なんでもない!」

 来ヶ谷さんがぼそりとつぶやくがよく聞こえなかった。

「ええい、次は私の番だ」
「え、まだやるの」
「このまま引き下がるわけにはいかないからな! ほら、あーん」

 こうして、作ったものが全部なくなるまであーん合戦は続いたのだった。


おまけ終わり


何か一言いただけるとありがたいです。