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Q.この世で一番かったるいものは何ですか。
A.学校

 思わずそういうクエスチョンがあったらそう答えたくなる。
 つまり今日は登校日であった。てか、普通の学年は休みなのに高校3年だけは授業があるってどういうことだ。
 つうわけで休み時間、俺はいつものように、いやいつも以上に暑さのためばてていた。

「なー学校だるいよーどうして学校なんかあるんだよー」
「受験生だからな」

 健介にあっさりと返される。

「おーい、そこはボケろよ。実は俺たちは凄腕のエージェントで、世間の目をごまかすために登校という一般人の義務をこなしているとか」
「わりぃ、俺にもそんなボケる気力がない」

 確かに健介もばてていた。相変わらず口に飴を含んではいるが。

「だるいな……」
「ああ……」

 気温は何度なんだろうか。教室だというのに熱気が出ている気がする。
 この学校にはクーラーというそんなリッチな機械はないので俺たちはバインダーやノートなどをウチワがわりにして涼しさを得るしかない。実際、健介はそうしている。
 だが、俺はそんなことする気になれなかった。こんな熱気だらけの場所じゃあおいだところで涼しさなんぞたかがしれてるし、あおぐ体力分無駄だと考えてしまうからだ。

「孝雄! 秋原! 何だらけてんのよ!」

 そんなだれきってる俺たちに話しかけてくる1人の女子生徒。
 学校である意味異端児となりつつ俺たちに話しかけてくる珍しい女。
 そんなやつはこのクラスに数えるほどしかいない。

「なんだよールナ〜」
「その名前で呼ばないでよ! あたしにはちゃんとした陽那って名前があるんだから!」

 月影陽那(つきかげ はるな)。俺の幼馴染である。ルナというのは昔呼んでたあだ名であり、こうやってからかうのが面白いので今でも使っている。

「まあまあ、どうせ止めたって無駄だし。いつもやってんだから」
「うっうるさいわね! 一応言っておかないとあたしの気が済まないのよ!」

 健介がたしなめようとするがそれは逆効果で、なおさらルナの機嫌が悪くなっていく。

「いやー今の俺たちはたれねこの真似してるだけだからさ」
「たれねこって一昔前のキャラじゃない! 第一言い訳になってない!」

 いやあ、やっぱルナをからかうのは面白い。全部つっこみどころを拾ってくれる。
 ちなみにたれねこって猫なのにスライム状になってて、やる気のないような手書き口調が好評だったキャラである。

「まあ俺たちは今全くやる気がないんだ。てこを使ったって動きやしないぜ」
「おお、台詞的にはいいがやってることは情けないぞ」

 だってこんな暑い日に勉強するのはなあ。涼しい部屋でやるんならともかく。

「ぱっ……」
「ぱかーーーーーーー!!!」

 ルナの怒声が響き渡る。
 皆一瞬その怒声に反応したものの、すぐ各自の行動に戻るのはこれがいつものことだというのを証明していた。未だに困惑しているのはおそらく他所のクラスの生徒だろう。
 まあ確かに困惑するわな。でっかい怒声と『ぱか』っていう間の抜けた台詞がでれば。

「お前相変わらずその癖治ってないんだな……」
「うっうるさいわね! 誰のせいだと思ってんのよ!」

 ルナの顔が真っ赤に染まっている。きっと恥ずかしかったのだろう。
 ちなみにルナの『ぱか』は俺が小さい頃仕込んだやつである。「馬鹿って言ったやつが馬鹿だから、他人に馬鹿って言っちゃいけない」と親から教わったらしいルナからそれを聞いたとき、俺が「じゃあ『ぱか』って言えばいいんじゃないか?」と言った時のアイツの尊敬するようなまなざしは今でも覚えている。
 それ以来ルナは馬鹿の代わりにぱかを多用するようになった。おかげで今でもルナは『ばか』の代わりに『ぱか』を使う。わかってはいるのだが、幼年の頃染み付いた癖はなかなか治らないらしい。

「お前のそーいう素直なとこ可愛いよなあ。うん」
「ぱっぱか! 何言いだすのよ突然」
「あーはいはい、夫婦喧嘩はそれくらいにしときな」
『何が夫婦喧嘩だ(よ)!』

 俺と陽那の声がハモる。しかし健介はさほど意にも介さず話を続ける。

「先生、もう来てるからさ」
『えっ?』

 周りを見れば全員ちゃんと席についていた。そして、教卓にはちゃんと先生の姿。

「あーお前ら、いちゃつくのもいいがせめて授業が終わってからにしてくれ」

 からかってるのかマジなのかわからない先生の言葉。しかし、俺はつっこんだ。

『いちゃついてなんかいない(いません)!』

 またもやハモる。
 その後教室で爆笑が起こったのは言うまでもない。



「くっそールナのやつめ……」

 俺は誰にも聞こえないよう小さな声で、座っている机に向かって愚痴る。
 周りでは「またあの夫婦が……」とかいったひそひそ話が聞こえてくる。
 こういうのは小学校から高校まで全く変わらずネタにされるものだ。

「……ん?」

 その中で全く周囲の会話とかに参加せず、一人だけもくもくと勉強しているやつがいた。

「あれは……確か」

 なんとなく顔に見覚えがあると思い、記憶を辿っていく。
 たどり着いた先は昨日の夜助けた女子だった。
 なんとなく昨日のことをどう思っているのか聞いてみたくなり、俺は立ち上がってその女子の近くまで寄り、声をかける。

「よっ」
「……」

 反応なし。彼女は黙々と勉強を続けている。
 無視されたのでちょっと悲しい気分になった。

「おーい」
「……」
「もしもーし?」
「……」

 むう、これは意図的に無視しているのではないだろうか。

「ちょいちょい」

 念のため肩を軽くさわって反応を見てみる。

「ひっ! あっ……帽槻くん」
「お、反応あった。無視してたわけじゃあなかったんだな」
「ごっごめんなさい……私集中していると周りのこととか全くわからなくなっちゃって……」

 ああ、俺がゲームしているとき親にも気づかないで必死でやり続けるのと同じようなものか。

「そんなに集中しているのに邪魔しちゃってすまんね」
「べっ別にそんなに気にしなくたって……」

 逆に申し訳なさそうにする彼女を見てこの子は自分で悩みとか抱え込むタイプだよなあとか思う。
 まあそんなの考えたところでどうにもなるわけではないが。
 しかし、今更になって昨日のことを聞こうというのがはばかられてきた。
 あんな化け物に襲われたことは彼女にとってトラウマに違いない。それをわざわざ思い出させるようなこと聞いてしまうのはどうなのだろうか。

「それで……どんな用事?」
「えーっと、なあ……」

 さて、どうしたものか。どうやってこの場を切り抜けるか。
 考える時間ほんの数秒。そして出た結論。

「勉強疲れてそうな君のためにこれをやろう」

 俺はポケットの中から飴玉を取り出し、彼女に手渡す。

「えっと……これは……」
「何、知り合いのよしみだ。遠慮はいらない。ぐぐーっと行きなさい。それじゃあ」

 そのまま逃げるように自分の席へと戻っていった。
 間違いなく変な人と思われてしまっただろう。今後は全く話しかけてもらえないかもしれない。
 でも、俺はそれで構わなかった。どうせ彼女との関係ってのは昨日のあの時だけだったのだ。それに今までも全く話さなかったのだし。
 俺は自分のしたことに対して心の中で弁護を終えると次の授業に向けて睡眠を取り始めた。



「あーもう、今日はさんざんだった」

 学校が終わったあと、思わず愚痴ってしまう。もちろん休み時間のことについてである。

「いやいや、お前はまだマシな方だよ。遠くでささやかれてるだけだったからな。月影の方なんかこれをいい機会にとばかりに質問責めだったぞ」

 確かに陽那の周りには男女問わずたくさんの生徒が集まっていた。まあ人気投票アンケートで1位だというのは伊達ではないということだろう。

「あいつはあいつ、俺は俺。比べることなんてないって。俺が今日さんざんだったってのは事実だし」
「まあそうだけどな。で、今日は勉強するのか?」
「ん〜いや、今日は帰ってゆっくりするわ」

 一瞬だけ、唯一クーラーのある図書室で勉強するという考えも浮かんだが、多分人がたくさんいるだろうし、図書室だと本に夢中になってしまう可能性も考えると家でした方がいいような気がした。

「そうか、それじゃあな」
「ああ、また今度」

 健介と別れ、ファルコン号(改)を止めてある駐車場まで移動する。
 と、その時たまたまルナの姿が目に入った。知らない男とセット、しかも行く先は校舎裏。
 これはもしかすると告白ターイムというやつだろうか。興味がそそられた俺はこっそりと後をつけていく。健介よ、お前の教えてくれた気配消しは大幅に役に立っているぞ。



 後をつけた先ではルナと知らない男が対峙していた。俺は壁に隠れ、様子を見る。

「ここまで来ればいいだろう……」

 知らない男がここからなんとか聞こえる程度の声でつぶやく。
 それと同時に男がポケットから手紙を取り出す。
 どうやら手紙での告白っぽそうだ。男なら直接言えよと思いながらも黙って事の成り行きを見守る。

「これが今回の任務だ」

……へ? 任務?
 聞きなれない言葉に困惑を覚えた。しかし、驚きはそれにとどまらなかった。

「ありがと、もういいわ」

 ルナがそう言った途端、さっきまでいた男子生徒が紙切れに変わったのだ。

「全く、こんな手の込んだ渡し方しなくても直接渡せばいいじゃない。ま、あいつっぽいとも言えるけど」

 すごくおかしな状況に混乱してしまう。
 とにかく、ここでルナと会うのは何かまずい気がしたのでファルコン号(改)のところまで気配を消しながら逃げ出した。



「あれは一体なんだったんだ?」

 心臓がドキドキしている。見てはいけないものを見てしまったような感じだ。
 いくら不思議現象に慣れてきたとはいえ、自分の幼馴染があんなおかしなことになっていれば誰だって困惑する。

「しかも任務って一体……」

 もう何が何だかわからない。ここにいることすら恐ろしくなってきたのでとりあえず急いで家に帰ろうとする。

「あら、孝雄。まだ帰ってなかったの?」

 その声にビクリと反応する。ルナだったからだ。

「おっおう、今から帰るところだ」

 ちゃんと話せない、普段とは違う感覚に手惑う。これがプレッシャーというやつか。

「ふーん、今日は勉強しないのね」
「あっああ」
「……帰り道は気をつけなさいよ」

 どうして陽那はそう言ったのだろう。すごく含みがあるような気がして恐ろしかった。

「わっわかった。お前も気をつけて帰れよ。それじゃあな」

 それだけ言うと俺はファルコン号(改)に乗って急いで家へと帰った。
 なんだろう、忘奈にあってから俺の普通だった周囲さえ普通じゃなくなっていく気がする。
 いや、そうではない。普通だと思わされていた?
 さまざまな疑問を抱えながら俺は早く家に帰るためスクーターのスピードを速めた。



つづく




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