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『忘奈(ワスレナ)』って知ってる?





えっ、知らない? まあ当然か。





忘奈ってのは人間が忘れやすい生き物だから生まれた妖怪なんだって。





だから彼女自身もいつの間にか忘れ去られてしまった。






ほら、「わすれるな〜」って今もどこかで言っているよ。










『忘奈』 第1話







「あっれ〜おっかしいな……」

 散らかった自分の部屋の中で、俺――帽槻 孝雄(ぼうき たかお)はあるものを必死で探していた。

「確かにこの辺にやったはずなんだけどなあ」

 雑にしまってある引き出しの中からマンガ、CDケース、果ては何故か入っていたまりものキーホルダーを取り去るが目的のブツはない。

「ああ、『KIMON』マジでどこやったんだっけ」

 『KIMON』とはPCでやるいわゆる美少女ゲームで、人の姿をした鬼が雪の街でさまざまな美少女と出会い、過去のしがらみから抜け出すために戦うというものである。
 確か半年ぐらい前にやって相当はまったんだけど、ちょっとあきたから引き出しの中にしまったんだよな。そんでまたやりたくなったから探しているのだが……

「ああ! くそっ! 見つからねえ!」

 力を込めて引き出しを押す。幸いひっかかるようなものはなく、バタンと景気のいい音がして引き出しはしまった。
 そのまま俺は近くにしいてある布団の上に倒れる。

「ああ、もう! なんでやりたいときに限って見つからねえんだよ!」

 最近、こういうことがよくある。前は音楽CDだった、その前はマンガの本……どちらも、一度あきたがまた聞きたい、もとい読みたくなったものである。
 散々探しても見つからなかったのに、もうどうでもよくなったときに限って見つかる。

「いけねえなあ……最近物忘れ激しすぎるぞ俺」

 もう俺は歳なのだろうか? 確かに好きな飲み物はお茶だし、最近演歌も悪くないと思ってきている。だが、いまだにカレーが大好きだし、チョコレートのような甘いお菓子も好きだ。総合すると大体この年齢ぐらいで間違いない……はず。

「いいや、水でも飲んでこよ」

 布団から起き上がると、俺は自分の部屋から出る。
 そして扉を閉め、3,4歩歩いたところでふとゲームソフトがありそうなところを思い当たった。

『もしかしたら机の隅の方にあるかもしれない』

 俺はそれを考えると、くるっと方向を変えて自分の部屋の方を向く。
と、同時に、何故か部屋の方からとても小さな声で、

『クスクス……よぉーし、こんどはここらへんにしようかな』

という女の子の声が聞こえた。あまりにも小さくて、俺が向きを変えなければ全然気づかなかっただろう。気配と足音を消してそっと扉に近付く、なぜこんなことが出来るかというと友人に教わったのだ。 ちなみにこの友人、武術やら何やらを極めていたり、性格がかなりおかしかったりする。……正直何者か良くわからない男だ、自分でも友人付き合いをしているのが不思議だったりする
絶対に使うことはないだろうなとは思っていたが、まさかこんな機会があるとは、人生何事も覚えておいて損はないとはこのことか。……というか俺の友人って何者なんだろう? そっちの方が気になったが今はそれを考えるのはやめておいた。

『うん、これでバッチシ! これならしばらくはきづかないかな』

 謎の女の子はどうやら俺に気づいていないらしく、一人嬉しそうに笑っている。
一体何者なのだろうか? 俺はじっと隙をうかがう。しかし、

『だけどこの『KIMON』っていうの、そんなにたいせつなのかなあ?』

 それを聞いた途端、俺は隠れていることも忘れ、バッと扉を開いた。

「隠していたのはお前かー!!」
「ひゃぁあああ!?」

 突然のことに女の子はその場に立ちすくんだらしい。俺は扉を開けた先に全く見覚えのない、かわいらしい女の子の姿を目にする。その子は、決して普通の人はしないであろう格好をしていた。

「びっびっくりしたー!」

 女の子はようやく立ち直ったのか、ほっと一息つく。そして俺のほうを見て、

「あれ? もしかして……みつかっちゃった?」

と言った。顔にはほんの少し冷や汗らしきものがでている。

「見つかったも何も……君誰?」

 俺は真っ先に気になることを尋ねた。

「わたし? わたしはわすれなっていうのー」
「忘奈(わすれな)……ねえ」

 変な名前とか思いつつ、口には出さないでおく。

「ちなみにようかいなんだよ♪」

 あとからのつけたしによって、ようやくへんてこな格好をしていることに納得がいく。ああ、なるほどね、妖怪か。それなら……

「……って待てい!」
「?」

 俺は納得しそうになった自分から正気にかえると、明らかに忘奈という女の子が言っていることがおかしいことに気づく。

「妖怪っておい、マンガの世界じゃねえか」
「あーしんじてないんだね!」

 忘奈はぷーっとほおをふくらませ怒る。正直、普通の女の子と比べても全く遜色ない。

「ああ、そんなもん信じるわけねーじゃねーか。ほら、お子様はとっとと家に帰った帰った」

 俺は部屋から忘奈を追い出そうとするが、忘奈は納得いかないといった様子でなかなか出て行こうとはしない。

「むー……じゃあ、なにかとってきてほしいものある?」
「とって来てほしいもの?」

 忘奈は何か思いついたのか俺に尋ねてくる。そのとき自分は喉が渇いてたことを思い出す。

「あー……じゃあ水持ってきてくれ、水」
「わかった……はい」

 それは一瞬だった。確かに俺は忘奈と話していた。彼女は手に何も持っていなかった。なのに、だ。
もう既に手には水がコップに汲まれていた。

「あれ?」
「どう、しんじてくれた?」

 俺は目の前に起こった不可解な出来事にあっけにとられる。確かに、こんなことをできるのは妖怪とかそういう人ではないものの業だろう。だが、俺はどうしても認めたくなかった。

「ふん、そんなもの。どうせこっそりと隠していたんだろ」
「むー! ごーじょう!」
「それならな、あれとってこいあれ。そーだな……ほら、こっから5km先にある『千貨店』にだけしかないって言われる『ホワイトジュース』ってのだ」
「ホワイト……ジュース?」

 ちなみにホワイトジュースとは、一見牛乳のようでもあるし、ヨーグルトドリンクのようであるが、その正体は飲んでからでないと分からない(しかもとんでもない味もある)というおもしろドリンクである。前一度試しに飲んでみたが、何故かコーヒーの味がしたときは驚いたものだ。

「ああ、名前もついているしすぐにわかるぞ」
「ここからまっすぐいけばあるの?」
「ああ、特になんの道も説明はいらんと思う」
「じゃあいってくる……おまたせ」
「……え?」

 あれ……確かホワイトジュースはあそこにしか売ってなくて、しかも忘奈はさっきまで水しかもっていなくて……そんで一瞬のうちだけど俺の目の前にはたくさんのホワイトジュースが……

「いくつもってくればいいかわからないからぜんぶもってきちゃった♪」
「かっかえしてこーい!!」
「はーい……かえしてきたよ」
「はやっ!?」

 確かに、目の前にあったホワイトジュースの山はなくなっている。それはもう一瞬のうちに。

「どう、しんじてくれた?」
「あっああ……」

 ここまで見て、さすがに忘奈が妖怪であることを信じるしかなくなった。






「なるほど、忘奈は『忘れ去られかけたものを隠す』妖怪なのか」

 なんとか全てを受容できた俺は、忘奈になんでこんなことをしていたのかを聞いていた。

「うん、あのね。ものがわたしにこういうの。『ふくしゅーしたいからてをかせ』って」
「復讐ね……」

 どうせ忘れ去られた身、だから物はいざ自分が大切になったときだけ使いたくなるという傲慢な人間に対してささやかな反抗を行いたかったのだろう。

「おにーちゃんはわすれっぽいみたいだからいろんなものがいってくるのー♪」
「あ、そう」

 まさかこんなところでたくさんの恨みを買っていたとは。そう思うとちょっと落胆する。

「あとねーわたしたちにんげんにみつかったらいけないの」
「へぇ、そうなんだ……俺は?」
「だからね、みられたばあいはそのひとをころさなきゃいけないの」
「はっはっは、つまり俺殺されるってことか……えっ?」

 ちょっと待て。


 殺される?


 俺が?

「なんてことだ……(汗」

 逃げようと思ってもあまりのショックに足が動かない。目の前にいる忘奈という8歳ぐらいの女の子がとても恐ろしく感じられる。

「んーでもーそういうことはしたくないの」
「そっそれなら助けてくれよ!」
「でもー『おきて』だし……そうだ!」

 どうやら女の子は何かひらめいたようだ。

「なっなにか助かる方法があるのか!?」

 俺もその反応に思わず嬉しそうな声をしながら女の子に詰め寄る。
 女の子は「んっふっふー」と笑って、


「わたしの『こんやくしゃ』になればいいの♪」


とおっしゃりやがった。

「……は?」
「『こんやくしゃ』になればいいの、それならいちぞくのいちいんになるからべつにゆるされるのー」
「婚約者って……お前いくつだよ?」

 何度もいうが、見た目は8歳にしか見えない。これで結婚などしようものなら間違いなく俺は犯罪者扱いされるだろう。

「わたし? うーんよくわかんない」
「わかんないっておい……」

 わかんないという答えは数の認識ができていないのか、それともわからなくなるくらい長く生きているかだ。相手は妖怪だし、もしかしたら後者なのかもしれない。そう考えると心底まで納得はしていないものの、なんとか受け入れられる。

「でも、わたしもいっしょになるだんせいはみきわめたいから、しばらくいっしょにくらすことにするの。それまではころさないでおいてやるのー」
「ああ、まあ今はそれでいいか……」

 突然結婚なんていわれてもどうしようもない、それよりは妖怪が住み着いても一緒に暮らすぐらいの感覚でいたほうがずっと気が楽である。

「これからよろしくー♪」
「ああ、よろしくな」

 こうして俺と忘奈との奇妙な生活が始まった。思えば、これが俺と妖怪たちとのハチャめちゃ劇の幕開けだったのである……。


おわり