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※このSSは、神主あんぱん作のオリジナル作品、忘奈の第1話をDILMが好き勝手に加筆修正したものです。少々設定も追加されていたりしますが、あくまで正しいのはあんぱんの方です。このSSが生まれた経緯などはあとがきで書きますので、まずはあんぱんの第1話を読んだ上でこのSSを読んでください。














『忘奈(ワスレナ)』って知ってる?





えっ、知らない? まあ当然か。





忘奈ってのは人間が忘れやすい生き物だから生まれた妖怪なんだって。





だから彼女自身もいつの間にか忘れ去られてしまった。






ほら、「わすれるな〜」って今もどこかで言っているよ。










『忘奈』 第1話







「あっれ〜おっかしいな……」

 散らかった自分の部屋の中で、俺――帽槻 孝雄(ぼうき たかお)はあるものを必死で探していた。

「確かにこの辺にやったはずなんだけどなあ」

 雑にしまってある引き出しの中からマンガ、CDケース、果ては何故か入っていたまりものキーホルダーを取り去るが目的のブツはない。というか、こんなおみやげなんて冷静に考えれば絶対いらないと分かると言うのに、何故買ってきてしまうのか。げに恐ろしきは旅行の魔力、あるいは旅行会社や観光地の陰謀、はたまたそういったものにあっさり流される自分の一般市民っぷりか。

「っかしーな、記憶違いか?」

 色んな場所をがさごそやっている所為で、ただでさえきれいとはいえない部屋が更に散らかっている。というか、ホコリも舞っている。どうせいろいろ弄くるならば掃除しながらやればいいというものだが、それが出来るのならばきっと汚れないんだろう。
 ちなみに探しているのは、『KIMON』というPCゲームである。これはいわゆる美少女ゲームで、人の姿をした鬼が雪の街でさまざまな美少女と出会い、過去のしがらみから抜け出すために戦うという感動路線のADVだ。
 確か半年ぐらい前に購入し、徹夜をやらかすほどにはまったゲームだ。全ルートクリアし、めでたくお蔵入りしたゲームだったのだが、先日の友人との雑談に久しぶりに登場したのを切っ掛けに、もう一度やってみたくなったのだ。
 しかし、探し始めてかれこれ3日目、部屋中あらかた探し回ったというのに、目的のものはさっぱり見つからない。

「ああ! くそっ! 見つからねえ!」

 苛立ちを込めて引き出しを押す。特にひっかかるようなものはなく、バタンと景気のいい音がして引き出しはしまった。引っかかるものがないとちゃんと分かってからやるあたり、我ながらよくイライラした状態で冷静に考えられるとは思う。
 しかし、そんな冷静な部分があったとして目的のものが見つかるわけではなく、当然の事ながらイライラの原因がなくなるわけではない。そのまま俺は近くに敷いてある布団の上に倒れこんだ。
 最近、こういうことがよくある。この間は音楽CDで、その前はマンガの本……どちらも、一度あきてしまったあとにまた聞きたい、もとい読みたくなったものである。
 散々探しても見つからなかったのに、もうどうでもよくなったときに限って見つかる。というか、この3日間の探索で、以前探した時にはさっぱり見つからなかったそれらは発見されていた。逆に、以前の探索で見かけた『KIMON』が今度は見当たらない。
 もしかして以前の探索の後、どこかに移動させたのか、といくら頭をこねくり回しても、解答はさっぱり導き出されない。うがー、と頭を掻いても、何一つ改善しない。

「はあ、なんかもういいや」

 部屋を荒らしまわって時間を無駄にするのにも疲れ、俺は溜め息をついた。そのまま、ボーっと天上を見上げる。
 そこでふと、視界に何か黒い点が写った。
 何かと思って目を凝らしてみると、窓近くの天上に、一匹の蜘蛛が罠をはって来そうもない獲物を待ち構えていた。

(うへぇ)

 自分の部屋は蜘蛛の巣が張るほどのレベルだったのか、という現実を目の当たりにして、毎日部屋で過ごす住人としてげんなりとした気分になった。とはいえ、3日前にはいなかったはずだ、絶対。

「……水でも飲んでくるか」

 なるべくわざとらしくならないように言って、立ちあがる。いや、別に相手は蜘蛛なんだから、演技なんてする必要はないんだけど。
 とにかく、俺は一端部屋を出た。そして3,4歩歩き、自分の気配を殺す。
 振り向いて音もなく扉を開けると、やはり足音を立てずに窓際へと歩く。散らかった部屋にもかかわらず、俺の足音はまったく鳴らない。
 ちなみに、俺がこんなスキルを身につけていることには、同じクラスの悪友が関係している。
 何しろそいつは、かなりの変わり者と言うか、とにかく変人なのだ。家が代々なんとか流暗殺拳と言った物騒な響きの武術を伝えているらしく、そいつも後継者として幼いころからその武術を学んできたそうなのである。
 もちろん、初めにその話を聞いたときは冗談だと思った。何しろそいつはノリの良い軽い性格で、そういった面白話をするのにふさわしい性格だったからだ。
 しかし、そいつと一緒に遊んでいた時にちょっかいをかけられた不良が即日病院送りになったという話を聞いたり、その復讐なのか物凄い大人数に包囲されながら生還してきたという話を聞いたり、とばっちりなのか俺まで目をつけられていたのに、その不良グループが夜襲を受けて壊滅させられたとか言う噂話が聞こえてきた後ぱったり狙われなくなったり、と言ったことが重なった所為で、あながち笑えなかったりする。
 まあとにかく、この技術は不良に狙われていた期間に、生還率を上げる方法としてその悪友から伝授された技術である。不良相手以外でも度々役立つ場面はあり感謝もするべきなのかもしれないが、その技術を習っている間は、何故こんなやつと友人になってしまったのか、とひどく悩んだものだった。
 閑話休題。
 実践経験によって更に磨かれたこの気配を消すスキルを活用し、獲物が引っかかるのをひたすら待っていた蜘蛛を、巣ごと取り上げる。
 そして窓を開けようとした所で、押入れからその物音は聞こえた。
 とても小さな音で、一瞬気の所為かと思った。しかし、気配を殺して耳を澄ませていたため、その物音は間違いなく発生したのだ、と言うことが現実として認識された。
 押入れの中に何かがいる。

(なんだ……もしかして、ねずみとか?)

 そこまでいけば、この部屋の汚れっぷりも大した物だと、もはや泣けてきそうな感じだ。しかし気になるのは、つい先ほど探し回った時にはそんなものは見かけなかったということだ。
 まあ、悩んでいても仕方がない。俺は音を出さないようにして蜘蛛を外へと出した後、気配を殺したまま押入れの前に立つ。そして、思いっきり襖を開いた。

「うおらぁぁっ!」
「ひゃぁあああああ!?」
「って、ええぇぇぇ?!」

 気合のために雄たけびを上げながら襖を空ける俺に、ビックリして叫び声を上げる何か、そしてそれに驚いて叫び声を上げる俺。

「わっ、あっ、ひゃあっ、あ……ああっ、とうっ!」

 押入れの中にいた20cmくらいのちっちゃい何か――よく見るとそれは見覚えのない女の子の人形のようなのだが、明らかに動いている――は、俺が混乱している間に混乱から脱出したのか、何か筒のようなものを構えた。
そしてそれを俺に狙いを定め――って、

「うわぁっ!」

 何か光るものが飛んできたのを咄嗟に認識し、それをかわす。落ちついてよく見れば、それは吹き矢のようだった。

「なっ、何すんだよ、あぶねーなっ!」

 一見すると単なる女の子の人形に怒鳴っている俺のほうが傍から見れば危ないのかもしれないが、そんなことはこの際置いておく。

「む、むむむ、こうなったらっ」

 そいつが何か小さくぶつぶつと呟くと、驚くべきことに、そいつは突然大きくなり始めた。

「わるくおもわないでほしいの、これもぜんぶおにーちゃんのため、かくごっ」
「ええっ……って、おい、あぶ――」

 ないぞ、と、あっけに取られたままの俺が全ての言葉を言い終える前に。

ガンッ

 という鈍い音が、目の前から響いてきた。

「はう……」

 断末魔(?)の声を残して、そいつ――もうすでに、普通の人間の女の子の大きさになっている――は大きくなる過程で押入れの棚にぶつけてしまった頭を抱え込んで、倒れた。

「えと……おーい、だいじょぶかー?」

 呼びかけて、ペちペち叩いてみるも応答なし。

「……どうしろと?」

 見なれた部屋で、よく分からない女の子を前にしたまま、俺は呆然と呟いた。




 事態はさっぱり把握出来ないが、とにかく倒れた女の子を放っておくわけにも行かず、俺は自分の布団の上にその子を寝かせる。
 落ちついて冷静に見てみると、その子は可愛らしい子だ。年齢としては、せいぜい8歳程度だろう。ただし、ひどく珍しい格好をしている。ファッションには詳しくないのでうまく表現することは出来ないが、なんだか妙な形の和服、とでも言うべきか。
 頭を打ったので大事だったらどうしようと思ったのだが、どうも寝顔は幸せそうなので大丈夫なのだろう、と解釈しておく。というか、救急車とかを呼ぶわけにもいくまい。うまく説明できる自信はないし、そうなったら犯罪者の目で見られるかもしれない、それだけは勘弁して欲しい。
 ちなみに、『KIMON』はこの子が入っていた押入れの中から出てきた。昨日探した時はなかったと思ったが、不思議なものだ。とはいえ、目の前の不思議に比べれば大したことはないのだが。
 すぅすぅという寝息、幸せそうな寝顔につられて、ついつい頭に手を当ててしまう。そしてそのままなでると、心なしか笑みを浮かべたように見えた。どうやら、もう痛みはないらしい。
 なんとなく面白くなってそのままなでながら観察していると、女の子が目を覚ます。

「……むにゃ?」
「おはよう」

 挨拶してみた。

「……おはよぅ」

 きちんと返してくれる。なんだか面白かった。

「って、あれれ?」

 混乱している。状況が飲みこめないらしい。

「君は、いきなり押入れから現れて、いきなり吹き矢を吹いたかと思うと突然大きくなり、頭をぶつけて気絶した。ちなみに、君が気絶してから30分経った。何か質問は?」
「えーと……うーん、とくにないや。うん、わかりやすいせつめいありがと」

 素直だった。お辞儀までしてくれる。どうやら、悪い子ではないらしい。

「じゃ、今度はこっちの質問に答えてもらいたい。まず、君は誰?」
「わたし? わたしはわすれなっていうのー」
「わすれな……ねえ」

 当然のこととも言えるが、見たことのない女の子は思い当たる節のない名前だった。そして、漢字では忘奈と書くと教わる。

「それじゃ、次だ。忘奈、君は俺の部屋で何をしていたんだ?」
「おしごとだよっ」

 ままごとかなんか、だろうか。いや、探偵ごっことか。なんにしても、無断で人の家に入ることはよくないと忠告しておかねばならないだろう。

「あ、それと、俺に見つかった時吹き矢を吹いたよな?」
「あ、うん……それがおきてなの……しっぱいしちゃったけど」

 おきて、というと、忍者ごっこだろうか。だとしたら、道具も本格的だな。

「ふむ、それで、これが一番聞きたいんだが……君、なんだか突然大きくなったり……するわけないよな?」

 これに関しては見間違いだろう。人形サイズの女の子が、突然大きくなるなんてこと、現実にはありえない。
 おそらくは疲れていたんだろう、ちゃんと寝ないとな、俺。

「うん、ようかいだからね」
「ふーん、ようかい……って」

 妖怪?

「あ、ちょ、ちょっと待ってくれ」
「うん、いいよ。こうなったら、もうおんなじだから」

 良く分からないが、とりあえず許可は下りた。そこで頭の中を整理する。
 彼女は忘奈、何かの仕事で俺の部屋の押入れの中に小さくなって入っており、掟にしたがって見つけた俺に対し吹き矢を放った、そして俺がそれをかわしたので人間サイズに戻って何かをしようとして頭をぶつけて気絶した妖怪、と。

「……んなバカな」

 荒唐無稽だ。
 別に俺は科学の信望者じゃないし、この世の中に自分の知らない世界が存在しない、と断言するつもりもない。しかし、それにしたって無茶苦茶だ。いつもの俺の日常の空間で、あまりにも非日常が過ぎる。
 いや、だが、だとしたらさっきのはどう説明すれば良いのだろう。何かのマジックだとでも言うのだろうか。それならそれでいいが、だとしても何でこんな事をするのかが分からない。
 とにかく、もう少し詳しく話を聞こう。とにかく、思考停止してしまうことだけは避けなければならないのだから。

「なるほど、それで、忘奈の仕事って言うのはどんなことなんだ?」
「うん、わたしはね、『わすれさられかけたものをかくす』ようかいなの」

 忘れ去られたものを隠す、だって?

「なんでそんなことを?」
「うん、あのね。ものがわたしにこういうの。『ふくしゅーしたいからてをかせ』って」
「復讐ね……」

 人間というものは自分の都合の良い時にだけ物を使う。自分の気が済めば、飽きられてどこか適当な場所へと押しこめる。そのうち見向きもさらずに物は忘れ去られた身となってしまうわけだが、人間はまたふとした拍子に気が向いて、物を使おうとする。
 物からすれば、人間はひどく傲慢な存在で、自分が必要とされている時に敢えて身を隠すというささやかな反抗を行なっているのだ、という。それを助けるのが、妖怪忘奈、つまり目の前の女の子だというのだ。

「おにーちゃんはわすれっぽいみたいだからいろんなものがいってくるのー♪」
「あ、そう」

 音楽CDも漫画本も『KIMON』も、この子が言うには皆自分が手助けして隠したらしい。で、誤って音を立ててしまい、俺に見つかってしまった、と言うことだ。

「それでね、せまいばしょにかくすこともあるから、わたしはちっちゃくなれるんだよ」

 言うが早いが、忘奈は何かを唱えて先ほどのような、人形サイズへと縮んだ。

「あ……」

 見間違いじゃない、絶対に見間違いじゃなかった。

「ちっちゃいってことはべんりなの♪」
「そ、そうなのか」

 そうして、忘奈は元の大きさへと戻る。
 無邪気な笑顔で俺の常識をぶち壊すインベーダーに、しかし弱みを見せまいと俺は笑顔を崩さぬように余裕を見せながら対応を続ける。虚勢だけど。

「あとねーわたしたちにんげんにみつかったらいけないの」
「へぇ、そうなんだ……って、そうなるとまずいんじゃないのか?」
「だからね、みられたばあいは、そのひとのきおくをけさないといけないの」

 そういうと、忘奈は筒を取り出した。先ほどの吹き矢だ。

「これがささると、そのぜんご10ふんくらいのきおくがなくなるんだよ」
「はぁ、なるほど」

 その所為で、俺は狙われたのか……。

「あ、そういえば、さっきは俺のためとかなんとか言ってなかったか?」
「うん。じつはね、みられて、しかもきおくをけせなかったばあいは、そのひとをころさなくちゃいけないの」
「そうなんだ……えっ?」

 今、非常に物騒な単語が飛び出した。

「え、ちょっ、ちょっと待ってくれ」

 しかし、今度は待ってくれなかった。何やら、印を結ぶような構えを取る。

「おにーちゃん、わたしのことをみつけてから、もうずいぶんじかんがたってるの。もう、このふきやじゃきおくをけせないから、おにーちゃんをころさないといけないの」

 いやもう、頭がついていかなかった。
 殺される?
 俺が?

「ははっ……まさか、そんな、冗談だよな……」
「ううん、ほんとう。おきてはぜったいなの」
「う……いや、でも、いくらなんでも、なぁ……」

 やはり、8歳くらいの女の子にいわれても、実感を持つのは難しい。妖怪かも、というのは納得しかけているが、まだ半信半疑だ。というか、認めたら殺されるし。

「本当に、そんな事が出来るのか?」
「うん、できるよ。ええとね……」

 忘奈はきょろきょろと部屋の中を見まわすと、ティシューを取りだし、十字に印を切った。
 すると、まるで手品みたいに、ぱっと紙が千切れて、まるで雪のように降り注ぐ。
 その光景を、俺は唖然と見つめていた。

「……今のは?」
「えっとね、じゅつだよ」

 術……攻撃用、というか、処刑用、なのだろうか……。
 たらりと、冷や汗が流れた。
 もはや、認めるしかないのだろうか。この目の前の8歳くらいの女の子、忘奈の言葉に、俺は動揺しているらしい。何しろ相手は妖怪だそうで、どうも俺の常識が通用しないのは確かだ。もし本気で命を狙われたらどうなるか、あまり想像したくない。

「あの、なんとかならないのか? 俺は殺されたくはないんだが……」

 恐る恐るたずねる。ええい、うるさい冷静な俺、そんな方法あったら殺すなんて掟ねーよとかいうなっ。

「うん、わたしもころしたくなんてないの」
「へっ?」

 しかし、思わず気の抜けた声が出るほどあっけらかんと、忘奈は言った。敵意のない証なのか、構えもとく。

「助けて……くれるのか?」
「うんとね、『おきて』ではひとつだけ、みつかってきおくをけせなくても、あいてをころさなくてすむほうほうがあるの」
「そ、そうか、良かった。じゃあ、それを頼むよ」

 俺はほっと胸をなでおろす。どうやら、これで俺は今まで通りの日常へと帰れそうだ。
 しかし、それはまだ甘かった。

「おにーちゃんが、わたしの『こんやくしゃ』になればいいの♪」

 などと、目の前の8歳くらいにしか見えない女の子はおっしゃりやがった。

「……は?」
「『こんやくしゃ』になればいいの、それならいちぞくのいちいんになるからべつにゆるされるの。おにーちゃんは、ねているわたしをかんびょうしてくれたし、いいひと。こんやくしてもいいの」
「婚約者って……お前いくつだよ?」

 何度もいうが、見た目は8歳にしか見えない。こいつを他人に見せて婚約者だの結婚相手だの紹介しようものなら、間違いなく俺は犯罪者扱いされるだろう。

「わたし? うーんよくわかんない」
「わかんないっておい……」

 わかんないという答えは数の認識ができていないのか、それともわからなくなるくらい長く生きているかだ。相手は妖怪だし、もしかしたら後者なのかもしれない。そう考えると心底まで納得はしていないものの、なんとか受け入れられる。

「でも、わたしもはんりょになるだんせいはみきわめたいから、しばらくいっしょにくらすことにするの。せいしきにけっこんするまで、おにーちゃんのみのあんぜんはほしょーされないの」
「いや、なんというか……」

 仮に、仮に結婚したとして、身の安全が保証されたというのだろうか。
 だが、殺されるのはごめんだ。しかも相手は未知数の存在なんだし、どうしようもない。

(いや、待てよ……)

 一緒に暮らすというのは、良いアイデアかもしれない。そうやって相手の弱点を探り出せば、結婚などすることもなく、殺されることもない、ごく平凡な日常が帰ってくるのではなかろうか。
 よし、と頷く。とりあえずこの条件、飲んでおくべきだろう。

「ああ、わかった。それじゃあ、婚約するよ」
「うんっ、えへへー」

 忘奈が嬉しそうに笑う。……な、なんか罪悪感があるな。

「ところでおにーちゃん、おなまえは?」
「ん、ああ、そういえばまだ言ってなかったな。帽槻 孝雄だ」
「うん、わかった。たかおおにーちゃん、よろしくね♪」
「ああ、よろしくな」

 まあ、誓いの証というのであろうか、俺達は握手を交わす。







 こうして俺と忘奈との奇妙な生活が始まった。これ以降の俺の人生は、罠を張っている蜘蛛の巣に引っかかって身動き取れなくなった虫のように、平凡な生活へと引き返したがる俺の意思を無視して劇的な変化を続けることとなる。
 そう、これは俺と妖怪たちとのハチャめちゃ劇の幕開けでしかなかったのだ……。





おわり











 あとがき

 えー、このSSができた切っ掛けはあんぱんとのチャットの最中にありました。
 その時忘奈の話題になりまして、私はついというべきか、とうとうというべきか……忘奈という作品が、自分には合わなかった、といったのです。
 ここで勘違いして欲しくないのは、私は忘奈という作品も、そしてそれを好きな人達も、否定するつもりはまったくないということです。ただ、自分にはいくつかの点で合わなかった、というだけのことです。
 ですが、やはりあんぱんとしては気になりますよね。私だって自分のSSがそう言われたら気になりますし、それが相方からであれば尚更です。
 そうして、どこの部分が合わなかった部分か質問を受けたのですが、ただ指摘するだけでは、芸がないと思いました。そこで「自分に合わなかった部分を気に入るように勝手に改変して第一話を書いてみるから、それで判断してくれ」といったのです。
 というわけで、このSSは生まれました。
 オリジナルと比較していただければ、私がどう言った部分を合わないと感じたのかお分かりいただけると思います。
 そして、当然というか自分の好きに改変させたこの忘奈SSは好きなので、忘奈のキャラ自体は好きなのですよ。設定が嫌なわけでもなく、はて、何が合わなかったのだろうといえば――

 まあとにかく、このSSが、忘奈ファンの皆様にも受け入れてもらえたら、非常に嬉しいです。経緯が経緯ですから、仮に今後忘奈のSSを書く機会があっても、この続きを書くことはおそらくないと思いますが……。



一言感想とかどうぞ。感想はすごく励みになりますので執筆する気が出てきます