困った、ひっじょーに困ったことになった。
僕は2人の姿を見て強く思う。
首輪だけでもやばいのに、尻尾がついてしまった。首輪も目立つといえば目立つが、尻尾は物凄い目立つ。
今でもふりふりと尻尾を振り回す姿は可愛い…じゃない、注目の的になりかねないくらい目立っている。
……あの尻尾、どうやって動かしているんだろう。
「そういえば今何時だっけ」
携帯で時間を確認する。もうまもなく、授業が終わる頃だった。
やばい、来ヶ谷さんの居場所もわかってないし、というか今の状態だと来ヶ谷さんに会って首輪だけ外してもらったところで尻尾が残っている。
今は隠れるのがいいかもしれない。でも、どこに?
考える、そもそも、隠れ場所として最適なところなんてあっただろうか。
「わふー!!」
「わわ、どうしたのクド」
突然クドが僕にほえながらしがみついてくる。何かを伝えようとしているかのように。
「あれ、そういえば鈴はどこ?」
見ると、さっきまでいたはずの鈴がいなくなっている。
慌てて周りを見渡すと、鈴は階段を上っていた。
『も〜っとにゃんとわんだふる』
「待って、鈴!」
急いで後を追いかける。他の人に見つかる前に捕まえないといけない。
とはいえ鈴は素早く、なかなか追いつけない。
「わ、わふ」
それにクドもちゃんと僕の後をついていってはくれているものの、はぐれてしまったりしたらこれはこれで大変なことになるためこっちも意識しないといけないから鈴だけに集中できない。
鈴はどんどんと階段を上っていく、一体どこに向かっているんだろうか。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り始める。やばい、皆が教室から出てきてしまう。
と、その時鈴が立ち止まった。僕は鈴の元へと向かう。
「ふう、やっと追いついた。どうしたんだよ鈴――」
と、鈴の立ち止まった先が屋上へ行くための階段だったことに気づく。
「そうか、屋上だよ!」
これは名案とばかりに大きな声をあげる。
屋上なら皆に見つかる事もない。唯一来る小毬さんもちゃんと理由を言えば納得してくれるだろうし。
もしかして鈴はこれを伝えたかったのかもしれない。
「ありがとう鈴」
鈴の頭を撫でる。どうやら気持ちいいらしく目を細めてそれを受けていた。
さて、と。階段を上り、バーを跨いで秘密の入り口である窓まで向かう。
そこで小毬さんからもらったドライバーを使い、ねじを外して窓を開ける。
「さ、2人ともここから入って」
「にゃー」
「わふ」
そこの窓から2人を屋上へと出す。ついてきてくれるとは思うけど、念のため僕が最後に入ることにした。
もちろん、パンツを見てしまわないようそっぽを向きながら。
2人が出たのを確認して、僕も窓から屋上へと出た。
「ふー」
屋上の壁を背に段差に腰掛ける。ようやく安らげる、色々あってなんか疲れたし。
ふと、空を見上げる。今日は快晴だ。こんな青い空を見ながらのお昼寝は気持ちいいだろうなあと思う。
だってほら、現に鈴とクドがお昼寝を……
「って、2人とも寝ちゃったのか」
気持ちよさそうに眠る2人。ふと、動物が自然体で眠っているのは気を許しているからっていうのを思い出した。丸まって寝ている方が身を守っているらしい。この2人は僕に気を許しているのだろうか。
「あー理樹君だ。こんにちは」
変な警戒もせず声のした方を向く。ここに来るのは僕たち以外では後一人しかいない。
「あ、小毬さん。こんにちは」
手にたくさんのお菓子を持ってやってきた小毬さん。
「あれ、りんちゃんたちも来てたの?」
「うん、まあね」
小毬さんが鈴とクドに気づく。と、同時に声を小さくしたのは寝ているのを配慮してだろう。
ふと、ここは小毬さんが秘密にしていた場所だったことを思い出す。
「あ、ごめん。勝手に連れてきちゃったりなんかして」
「ううん、気にしなくていいよ。それにりんちゃんはもう知っているし」
「え、そうなんだ」
「うん、私が教えたんだ」
だから鈴は僕をここに連れてきたのか。単なる気まぐれだけじゃなかったんだ。
僕が思っているよりもずっと鈴はちゃんと物事を考えているのかもしれない。
「そういえば3人で屋上なんてどうしたの?」
「ああ、そのことなんだけど」
どうだろう、はっきりと言うべきだろうか。
うん、小毬さんには言ってもいいだろう。さっきからそういう気持ちだったし。
「そういえば尻尾が2人ともついてるし、首輪までしているけど……ハッ! まさか」
突然小毬さんが震え出す。距離まで置き始めた。
「落ち着いて小毬さん、多分小毬さんが考えているのとは違うから」
「だだだだって理樹君が鞭とか危ないもの持ってつけたんじゃ」
どこまで過度な妄想をしたのだろうか。下手したら来ヶ谷さんや葉留佳さんより上かもしれない。
「違うって! 僕を信じてよ」
「あ…。うん、そうだよね。理樹君がそんなことするはずないよね」
落ち着きを取り戻した小毬さん。どうやら信じてくれたようだ。
「あ、でもということは私の変な想像を理樹君は知っちゃったわけで……はわわわわ!」
「あの、小毬さん?」
「う、うああああんっ! 穴に入って埋まるー!」
入るはわかるけど埋まってしまったら出てこれないと思う。
というか誰が埋めるんだろう、僕?
「そうだ! 聞かなかったことにしよう。おっけー?」
「え、うん、おっけー」
僕を指差しながらの小毬さんの提案に思わず頷く。
前も似たようなことあったなそういえば。
「聞かれなかったことにしよう」
今度は自分を指差しながら。
「これで解決だね」
「それでいいのかなあ」
「うん、それでいいの」
ま、小毬さんがいいと言っているならいいのだろう。
「それで、どうしてこんな格好しているの?」
「それはね」
僕は事のあらましを説明する。
バトルランキングのとき頭をぶつけたこと、その拍子におかしくなってしまったこと、来ヶ谷さんと葉留佳さんにつけられたこと、何故か外せないことなどを。
「えー本当なの」
「うん、僕も信じたくないけどね」
実際に居合わせたんだから信じるしかない。
「でも、本当に外れないのかな。試してみるね」
そういって小毬さんが尻尾を掴んだ時だった。
「ふに゛ゃっ!!」
突然鈴が飛び起きる。
「わわっ! ごめんなさい!」
小毬さんは突然の事に謝るものの鈴は走り去って僕たちから距離を置いた。
「あの尻尾、感覚通っているんだ……」
確かに猫とか尻尾握られるの嫌がったりするけど。
「ふかーっ!!」
こっちに対して威嚇する鈴。
「わふ…?」
そしてその騒動で目を覚ましたクド。
「はわわ、どうしよう理樹君」
「どうしようって言われても……」
僕にもわけがわからない。何で神経が通っているんだあれ。
「クド、ちょっとごめんね?」
「わふ?」
念のため、クドの尻尾を軽く掴んでみる。
「わふぅ〜…」
「あ、やっぱり嫌なんだ」
どうやら鈴だけでなく、クドの方の尻尾にも神経が通っているらしい。
これは作り物ってレベルじゃなくなってきた。
「ほらーお菓子ですよー」
小毬さんがワッフルをちらつかせながら鈴をこっちに誘導している。
最初は威嚇していた鈴も次第に落ち着いてきて、お菓子の方に興味を持ってきている。
「おいしいおいしいワッフルですよー」
うずうずとしだした鈴。近づくのも時間の問題か。
と、鈴が動き出した。ワッフルを持つ小毬の方へと寄ってくる。
「はい、どうぞー」
小毬が手に持つワッフルの方に口を持っていき、食べる鈴。
どうやらおいしかったようで、もぐもぐと食べ始める。
「りんちゃんかわいいよー」
「うん、確かに」
小毬さんがそういうのもなんか納得できる気がする。
小毬さんはなでなでまでし始めた。鈴も嫌がってないのを見るとまんざらでもないのだろう。
「そうだ、これつけたらもっと可愛いんじゃないかな」
鈴はネコミミを手に入れた!
反応が40UP!
魅力が30UP!
忠誠が10UP!
「ちょ、小毬さん!?」
「クーちゃんにもあげるね」
クドはイヌミミを手に入れた!
反応が20UP!
魅力が30UP!
忠誠はもうこれ以上あがらない!
「小毬さん! 一体何してるの!?」
まさか小毬さんまでそんなアイテムを持っているとは思わなかった。
「はっ! 気づいたらつい」
「気づいたらついって」
無意識のうちにやっちゃったんだろうか。
「ごめんね、今外すから」
小毬さんは鈴の耳を持ち、ひっぱる。
「!!!???」
「え、あ、あれ?」
鈴は突然走り出した。耳をひっぱられて痛かった? さっきつけたものなのに?
「な、なんか外れなかった。ごめんね理樹君」
「いや、気にしないでいいよ。僕もびっくりしてるし」
どうやら尻尾だけでなく、耳にまで神経が通っているらしい。
先ほどのことも考えるときっとクドも同じようになっているだろう。
「あっ! それよりりんちゃんが!」
「えっ? あっ!」
小毬さんの指差した方を見ると鈴が入り口である窓に入っていた。
どうやら屋上から出る気らしい。
「まずい! 追いかけないと!」
あの状態の鈴を放って置くわけにはいかない。
僕は無我夢中で鈴の後を追いかけ始めた。
つづく
あとがき
今までで一番続くっぽい続くだと思った。
行き当たりばったりで書いているとは何度も言ってますが、正直今回のは自分の首を絞めすぎたかもしれないとちょっと後悔。最後のオチは期待しないでください、かなり強引になるかと。
あとゲーム上では『2人』ではなく『ふたり』なんですね。そういう細かいミス多いかと思いますが、まあ大目に見てください。このSSでは一応最後まで『2人』で統一しようと思います。