保健室の扉から顔だけ出す。

「よし、誰もいないな」
 
 周囲を見て誰もいないことを確認してからクドと鈴を連れて出る。

「よし、行くよ」
「わふ!」
「にゃあ!」

 動物の鳴き声で返事をする2人。
 バトルランキングのとき、頭をぶつけあったクドと鈴はおかしくなって、クドは犬みたいに、鈴は猫みたいになってしまった。
 それだけならまだよかった……いや、良くはないんだけど、そこを来ヶ谷さんに見つかり、あろうことか来ヶ谷さんはクドと鈴に首輪をつけてしまった。しかも外れない。
 正直、今の光景を誰かが見たら間違いなく僕は誤解されてしまい、最低の鬼畜野郎みたいな称号が手に入ってしまうだろう。それだけは避けたい。

「わふー♪」
「いや、散歩するわけじゃないからそんな喜ばないで…」

 そんな僕の悩みとは裏腹に2人は結構うれしそうにしている。
 勝手にどっかいったりしないのがせめてもの救いだろうか。

「来ヶ谷さんは一体どこにいったんだろう」

 首輪を外す一番の近道はつけた張本人を探すこと。
 確かに2人を元に戻すのも大事だが、首輪をつけている状態で2人が元に戻ったらこれまたとんでもないことになってしまうと思う。というか、絶対なる。
 だからこそ来ヶ谷さんを探すのを優先したいんだけど、来ヶ谷さんがどこにいったのか皆目検討がつかない。

「わふ!」
「ん、任せろって?」

 途方に暮れているとクドが元気よくほえる。誰かに聞こえなかっただろうかとちょっと不安になりつつも、クドの自身満々な表情に少しくらいなら頼ってもいいかなと思えてきた。

「じゃあお願いするよ」
「わふー!」

 でも一体、どんな方法で探すんだろうか。このとき僕はしっかりとそのことを考えるべきだったんだ。





『もっとにゃんとわんだふる!』





 僕が気になっていると、クドはいきなり四つん這いになった。

「くっクド!?」

 いきなり何を、そう言いたくなる様な行動に僕は慌ててしまう。
 クドそのまま廊下の匂いを嗅ぎ始めた。
 も、もしや来ヶ谷さんの匂いを探しているのか?
 確かに犬ってそんな感じで人探しとかしているけど、まさかそれをやるとは。クドの犬化を甘く見ていたのかもしれない。

「わふっ!」

 来ヶ谷さんの匂いを発見したのか僕に行き先を首で示してくれる。

「そ、そっちの方にいるんだね。教えてくれてありがとう、でも……」

 僕はクドから目をそらす。

「わふ?」
「ちゃ、ちゃんと立って歩いてくれないかな」

 そう、もちろん四つん這いになって探し回ったりするからこちらにはクドの短いスカートの下、つまりパンツが丸見えなわけで。
 僕は鼻を押さえる。多分顔は真っ赤だろう。

「ふにゃ!」
「うわっ! ご、ごめん!」

 鈴が僕のやましさに気づいたのか顔を引っかいてくる。
 鈴は物凄く怒っていた。さらに攻撃してきそうな勢いだ。

「鈴、機嫌をなおしてよ」
「ふーっ!」

 ダメだ、こっちを威嚇している。
 すると、何故かクドが間に入り込んできた。

「わふっ!!」

 両手を広げ、僕の前に立つ。かばってくれているのだろうか。

「ふかーっ!」

 あれ、鈴がなんかますます怒ったような。
 怒る理由がよくわからない。

「にゃー!」
「わふー!」
「おー! にらみ合う女と女の視線。これが修羅場ってやつですねィ!」

 威嚇しあうクドと鈴。そして間にいる葉留佳さん。

「…って何でここに!?」

 いつの間にいたんだこの人は。

「やーなんか授業サボって歩き回っていたら面白い光景を見かけたもんで、つい間に入っちゃいましたよー」
「ついって…」
「で、何してたの?」
「えっと……」

 どう説明したものか。悩んでいると葉留佳さんが2人の首輪に気づく。

「ははーん、なるほどね」
「えっと、葉留佳さんなんか勘違いしてそうな気がするんだけど」
「いやいや、皆まで言わなくてもわかっていますよ。理樹くんも男の子ってことでしょ」
「絶対にわかってない!」

 ちょっと顔を赤くしているところなんか特に理解していない感ばりばり。

「やはは、やー話とかでは聞いたことあるけど実際に見るとは思いませんでしたよ。人は見かけによらないって本当だねー」
「いやだから僕の話を聞いてって」
「いやいや、私はそんな理樹くんを知ってもちゃんと友達だよ。ちょっと距離は置いちゃうけど」
「だーかーらー!」

 全く聞く耳を持たない葉留佳さん。というよりは一人で暴走しているようだ。
 正直、少し泣きたくなってきた。

「わふっ!」
「にゃーっ!」
「わわっ! な、何事ですか!」

 突然クドと鈴が葉留佳に襲い掛かる。
 どうやら僕がいじめられていると勘違いしたようだ。

「落ち着いてよ2人とも! 僕は大丈夫だから!」
「わふぅ」
「にゃあ」

 僕が声をかけると2人は葉留佳さんに襲い掛かるのをやめる。

「え、わふうににゃあ? それって新しい遊び? それとも理樹くんがそーいう趣味?」

 襲われた葉留佳さんは2人の様子に混乱している。

「えっとね、葉留佳さん」

 今ならちゃんと話を聞いてもらえると思った僕は、こうなった経緯を話す。

「なるほどー頭をぶつけあっておかしくなっちゃったと」
「そういうこと」
「でも、どうして首輪がついてるの?」
「それは来ヶ谷さんが……」
「なるほど、姉御が関与してんのか。それならありえるねー」

 来ヶ谷さんの名前を出しただけで納得する葉留佳さん。
 やっぱそういう人なんだと改めて思い知らされる。

「それじゃ、なんで2人が理樹くんに懐いているのかなー」
「うーん」

 確かに。それは僕自身気になっていたことだ。
 一応ひとつ考えはあるのだけど、それが当たっているかどうかはわからない。

「僕としては刷り込みみたいなものかなと」
「スリコギ? 理樹くんゴマでもするの?」
「違うよ! す・り・こ・み! 鳥とかが生まれたとき一番最初に見たものを親と判断するっていうの」
「あーあれね。なるほどー」

 本当にわかってるんだろうか?

「んーでもね、なんか違うと思うヨ?」
「え? なんで」
「んーほら、女の勘ってヤツですよ」

 女の勘、ねえ。
 それは当てになるんだろうか。

「わふ」
「にゃん」
「おおっ! ほらほら、2人も私の意見に同意してくれてますヨ!」
「いや、わからないから」

 確かになんか葉留佳さんの意見に同意はしているっぽいように見えるけど。
 でもちゃんとしゃべっているわけじゃないから確信して言えるわけじゃないし。

「まー理樹くんがこの2人の世話をしないといけないってのはよくわかったよ。こーのケダモノ! それも二重の意味で!」
「いや、そんなんじゃないから。それより、来ヶ谷さんの居場所知らない?」
「姉御? いつものとこにいるんじゃないかな」

 いつものところっていうと中庭の自販機の辺りのことかな。
 確かに、あそこにいそうな気はする。クドの指した先も中庭だし。

「うん、わかった。それじゃあそこを探してみるよ。ありがとう」
「ういういーどういたしましてー」

 葉留佳さんにお礼を言って、2人を連れて中庭に向かおうとする。

「よし、じゃあ行こうか。クド、鈴」
「わふ!」
「にゃー!」
「あーちょっと待って」

 すると葉留佳さんに呼び止められた。一体なんだろうか。

「せっかくそんなものつけてるんだもの。こーいうのつけてたっていいよね」

 鈴は猫のしっぽを手に入れた!
 反射が30UP!
 魅力が30UP!
 機嫌が30UP!

 クドは犬のしっぽを手に入れた!
 忠誠が50UP!
 機嫌が30UP!
 元気が30UP!

「は、葉留佳さん!!」
「やーじゃあ頑張ってねー! ばいびー」

 その場を走り去る葉留佳さん。どうやってこんなものくっつけたのだろうか。
 しかも外せないし。かなり強力な瞬間接着剤でも使ったのかもしれない。
……というかこんなものどこに持っていたんだろう。

「うわ、もう見当たらなくなったし」
「わふ」
「ふかー」

 2人は尻尾をふりふりと振り回す。確かに前よりは2人の気持ちを察しやすくなったのかもしれないけど。
 けど、それでも前よりなんか露骨になってしまった気がする。いやもうやばいってレベルじゃない。

「頑張れ、頑張るんだ理樹。強くならないと…」

 必死に自分で自分を勇気づける。そうでもしないとくじけそうだから。

「わふわふ」
「にゃあにゃあ」
「はは、元気づけてくれるのかい。ありがとう…」

 なぐさめてくれる2人に感謝しながらも、厄介事がまたひとつ増えてしまったことに大きく頭を抱えるのだった。



つづく



あとがき
 続けました。せっかく続けたんでこんなノリで最後まで書いていこうと思います。
 正直葉留佳のしゃべり方がこんな感じでよかったのかという不安はあるのですが、まあ友人に見せたところ問題なさげだったので大丈夫でしょう。


何か一言いただけるとありがたいです。