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『杏、ツンデレに挑戦する』





「よし、じゃあ今日はツンデレに挑戦してみましょう」
「はぁ?」

 1時間目授業開始前の時間、突然の杏の一言に混乱する。
 ツンデレに挑戦? 一体どういうことだ?

「ほら、いっつもベタベタくっつくのも面白みがないじゃない。だから今流行っているツンデレっていうのに挑戦してみましょうよ」
「ほう、そうなのか」

 確かに杏と付き合ってから離れることなんて晩の間だけのような気がする。後は授業中以外ずっとくっついてまわっているしな。

「俺はお前がいいってんならいいぜ」
「わーい」
「ところで……」
「ん?」

 杏が喜んでいるところ水を差すようで悪い気もするが、気になってしょうがないので聞くことにする。

「ツンデレって何だ?」
「……朋也、もしかして知らないの?」
「ああ」

 信じられないといった顔で驚かれる。
 いや、そんな顔されても。うち親父が駄目人間になってからは新聞とかも呼んでいないし。

「インターネットとかではもはや知らないものはいないとまで言われてるのよ!」
「や、うちパソコンとか、そんなすごいものないからさ」

 あーなるほど、そんな感じの顔を杏がした。
 そう、どうせうちはそういう高価な電化製品とは無縁の世界の住人だからしょうがないのだ……言ってて悲しくなってきた。

「いい、ツンデレっていうのはね……! やっぱやーめた」

 杏は説明しようとしたところを途中でやめる。

「おっおい、教えてくれよ」
「百聞は一見に如かず、まあ聞くより実際やってみた方がわかりやすいわよ」
「まあ確かにそれはそうだが……」
「あっ、もうすぐ予鈴の時間ね。それじゃあ次からあたしツンデレになるから。決して心配したりしないでよね」
 
 杏はそういって教室から出て行った。
 ぽつんと1人残される俺。

「……結局なんなのだろうかツンデレって」

 予鈴のチャイムがなり、周りにいたクラスの生徒全員が着席する。
 なんかすごく気になって、授業時間は睡眠を取るつもりだったはずなのにまったく眠れなくなってしまった。



キーンコーンカーンコーン

 チャイムが鳴り響き、授業が終りを告げる。
 いよいよ杏の言っていたツンデレとやらが判る時だ。
……別にドキドキしてないぞ、うん。

「……の割りには杏遅いなあ」

 そう、いつもだったらチャイムが鳴ると同時に真っ先にこの教室に入ってくるはずなのだ。
 しかし、今回はそれがない。
 しかもいつまでたっても杏はこない。
 結局、杏はやってこないまま1時間目の休み時間は過ぎてしまった。



キーンコーンカーンコーン

 2時間目の終りを告げるチャイムが鳴る。しかし、それでも杏はこない。
 次第に色んな場所からひそひそ話すら聞こえてくる。ほとんどがどうしたんだろう、喧嘩したのかしらって内容だが。

「……ツンデレって放置されることか?」

 なんとなくそんな考えまで浮かんでくる。
 もしそうだとしたらこの教室にずっといるのは苦痛だ。春原もいねぇし。
 また受けたくもない授業を受けないといけない、眠るにしても次の先生はそういったことに厳しい。

「ふけるか……」

 俺は椅子から立ち上がると、教室を出る。もうすぐチャイムもなるし。
 そのときだった。

「こらー! 何やってんのよ!!」

 怒声が廊下に響き渡る。
 その声は間違いなく聞き覚えのある声。

「あれ? 杏」
「『あれ? 杏』じゃないでしょ! もうすぐ授業始まるじゃない!」

 おかしい、普段の杏なら「なら一緒にばっくれよっか?」とか言うはずだ。
 少なくとも怒るようなことはしないはず、こんな学校の廊下という公衆の面前で。

「いや、でも俺眠いから……」
「こういうのは学級委員長として見逃しちゃいけないのよ」
「や、うちの学級委員長は藤林でお前じゃな……」
「言い訳無用、ほら、教室にさっさと戻る」

 そういって杏に背中を押され、教室の方まで戻されそうになる。

「ちょっ、俺勉強する気ないししても意味ないだろ!」

 せめてもの抵抗にと俺は杏に口答えをする。
 すると、杏はひと深呼吸して一気にこう言った。

「どうせあんたは将来何するかも決めてない駄目人間なんでしょ! だったら授業で頭少しはよくしてそこんとこ考えなさいよ!」
 
 グサッグサグサグサッ!!(心の中で言葉というナイフが刺さりまくる擬音)

 杏にそこまで言われるなんて……。
 当たっているのと、杏という自分の好きな相手に言われてしまいショックに打ちひしがれてしまった。
 しょぼんとした状態でもはや抵抗する気力もなくした俺はそのまま杏に教室まで押されていく。
 しかし、押しながらも少しづつ俺に近づいていた杏は、俺が教室に入る前にこう耳打ちする。

「あとで、あっあたしが膝枕してあげるから。だっだから我慢してよね!(ぼそっ)」
「!」

 なっなんだこの胸にキュンと来る感覚は。
 ちょっとそっけない態度をされた後かわいくなる、この落差がこれほどいいものだとは!
 これがツンデレというやつなのか!?
 わけわからん感情に自分を取り乱しつつ、その授業時間はそのことばかり考えてしまった。
 そして、それから杏のツンデレ快進撃は始まった。



キーンコーンカーンコーン

 3時間目の休み時間。今回は俺から杏の元へ行こうと、席を立つ。

「ねぇねぇ、岡崎くん」

 と、そのときクラスメイトの女の子に突然話しかけられた。名前は……思い出せない、まああまりクラスのやつらに関心がないからしょうがないといえばないのだが。

「ん?」
「今日一緒にいる彼女はどうしたの?」

 彼女か……いざ他人の口からその言葉が出ると少し嬉恥ずかしく、自分でも少し顔が熱いのがわかる。

「いっいや、ちょっとな」

 まさかある種のプレイをしているとはいえない。

「ふーん、駄目だよ。喧嘩しちゃ」
「やっ、別に喧嘩したってわけじゃ……」
「本当にぃ〜?」
「ああ、そんなんじゃなくてだな……はっ!」

 ふと、強烈な殺気がこちらに向けられていることに気付いた。思わず殺気が出ている方向を向く。
 そこには杏の姿があった。
 手には辞書があり、「あんたそれ以上その子と話したら殺すわよ」と告げている。

「ちょ、ちょっとトイレ言ってくる。とりあえず喧嘩したわけじゃないから」
「あっ! ちょっと!」

 俺はごまかして話を切り上げると、教室の外に出る。
 そこにはすごくふてくされている杏の姿があった。

「おっおい」
「なによ」
「お前なんか怒ってないか?」
「怒ってないわ。別に朋也が女の子とおしゃべりしていたことなんて」

 怒っているじゃないか。しかも原因はそれかよ。
 杏はそっぽを向いて、目をあわそうとしない。

「いや、あれはただ質問されていただけでな」
「でも女の子としゃべってた」
「それに質問の内容もお前のことだし」
「あたし以外の女の子としゃべってた」

 あーなんだろ。
 こうしてやきもち妬いてる杏が物凄く可愛く見える。
 気付いたら思わず背中から抱きついてしまっていた。

「なっ! バッバカ!」
「やべーお前可愛いよ」
「……」

 杏は黙ったまま俺の手をそっと支える。
 さっきまで怒っていたのにこういうことされるのは嫌じゃないと、これもツンデレの一種なのかな?

キーンコーンカーンコーン

 チャイムが鳴り始めた。

「……! ちょっ、離しなさいよ! 授業遅れるじゃない!!」

 我に返った杏は俺の手を振り解くと、顔を赤くしながら急いで教室に戻る。
 これって全て演技なのかな、ふと頭にそんなことがよぎった。ツンデレがどういうものか体験させてあげるみたいなこと言ってたし。
 でも、演技でも俺の心は揺れ動いていることは事実なわけで……昼休みがどうなるのか楽しみでしょうがなかった。 



 そして昼休み。俺は屋上に来ていた。
 理由はいつの間にかポケットに入れられていた丸められた紙に

『昼休みは屋上に来ること! いいわね!』

と書かれていたから。
 いつもみたいにかわいく書かれていないで急いで書いたみたいな文字がまた新鮮だ。

「おーい杏」

 呼ぶと、杏が入り口から見えないところからひょこっとでてきた。

「ふん、ちゃんと来たのね。まあこっちへいらっしゃい」

 呼ばれたので杏の方へと行く。

「はい、これ。あまったからあげる」

 そういってそっぽ向かれたまま手渡されるお弁当箱。
 どんなあまり方だとつっこみたくなったが、とりあえずその場に座って開けてみることにした。

「うわあ……」

 お弁当箱の中身は明らかに手が込んでいた。もう余ったとか言う問題じゃない。

『確か朋也ってこのおかず好きだったわよね』
『こうしたら喜んでくれるかな』

 しかも弁当が語りかけてきてるよ。これは愛がこもってないと出来ない。

「いいから早く食べなさいよね」

 杏にうながされ、俺も腹が減ってきてたので食べようと……そのときに箸がないことに気付いた。

「なあ、杏。箸がないんだが」
「え、箸あたしの分しかないわよ」

 なんじゃそりゃ。それでは食べれないではないか。

「んじゃどうやって食えばいいんだよ」
「んもう、しょうがないわね」

 杏は俺から弁当を奪い取る。

「ほら、あーん」

 そして、自分の箸でおかずを取り、俺の口元へと近づけた。

「えっ?」
「はっ恥ずかしいんだからねこういうの。さっさと食べなさいよ」

 相変わらず顔を赤くしつつ、そっぽを向きながら言う。手もプルプルと震えている。
 思わずずっと見ていたくなったが、いじめるのもかわいそうなので食べることにした。

「うまいよ、すごく」
「そっそう? よかったわ」

 そのまま全て食べ終わるまで杏は俺に食べさせ続けてくれた。
……ずっとそっぽ向いていたけどな。



 食べ終わったあとは、ゆっくりする……のもつまらないな。
 こういう杏は滅多にないんだから、こっちもこの杏でしか見れないリアクションが見たい。

「ん、どうしたのよこっちをジロジロ見て」
「あ、いや」

 そう言いながらも杏を見続ける。
 そういや今の杏はお嬢様座りしているな。そうだ、これを使って。

「よいしょっと」

 俺は寝転ぶと杏の膝の上に頭を乗せた。

「! ちょっと! あんた何してんのよ」
「いやー膝枕。嫌か?」
「いっ嫌じゃないけど……こっこんなの恥ずかしすぎるわよ!」

 やべーいい、普段だったらこんな杏絶対見れないからな。

「……どうだった、今日のあたし?」
「ん?」

 これはもう普通に戻ったってことかな。よくわからないけど。

「いいんじゃないか、結構これはこれでよかったと思うぞ」
「そう?……実はね、女の子と話してた後の態度、あれだけはツンデレとかそういうのナシで話しちゃってた」
「そうなのか」

 つまり普通の杏でもああいうのは嫌なんだな。

「ああいうやきもち妬くような子、嫌い?」
「いや、そんなことはないぞ」
「良かった……あと、朋也にそっけない態度するのもう耐えられない。だからこれで終り」
「それで構わないさ。俺はどんなお前でも大好きだからな」
「それじゃあ……朋也ぁー」

 そういうや否や、杏は寝ている俺にキスをしてきた。

「なっ……!」
「えへへー、朋也分補充量足りないから、いっぱいいっぱいもらうね」

 ということは今からの時間はこれまで以上に密度の濃い時間が続くのですか?

「あのー俺授業に……」
「だーめ! あたしの相手してもらうんだから」

 杏は顔をすりすりしながら俺の意見をあっさり却下しちゃってくれた。
 ツンデレ続けてもらえばよかったかな……ちょっと後悔。
 そんな俺の気も知らず、杏は笑顔を向けてこう言った。

「あたしは、朋也が大大だーい好き!」



終り


あとがき
 あまりにも『あのキャラにこんな台詞を言わせたい』への応募者が少ないため、DILMにお題を出してもらい書き上げた作品。
 ちなみにお題は『杏に「こっこんなの恥ずかしすぎるわよ!」と言わせたい』でした。
 別にだだ甘杏シリーズの杏に言わせなければもっとあっさり出せたのでしょうが、俺の中の杏はこれで出来上がっちゃってるので、どうにかしてこの杏に言わせたいと思って書いたらこんな感じに。まあこんなのもありっちゃーありなのかなーと。
 ただ、ひでさんに聞いたところ「これはツンデレじゃないね」と。まーあくまでネタの中でのってことでツンデレを期待してた皆様は許してくださいw