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 テレビがないと困ること。今まで俺は見たい番組が見られないことと、ちょっと時代に後れてしまうことぐらいだと思っていた。だから俺はこの家にテレビがない(琥珀さんの部屋にはあるが)のをなんとか我慢して来れた。
 しかし、6月ぐらいに入ってくると雨の日が増えてきて、それだけではないということがわかってきた。つまり、天気が分からないのだ。こともあろうにラジオもないこの家では天気を知る手段といったら琥珀さんに聞くぐらいしか方法がない。
 秋葉にもせめてラジオだけでもと言ったが全く相手にしてもらえなかった。ラジオなんて必要ありません、ラジオとはそもそも――後は、いつもと全く同じ説教である。
 そしてついにテレビやラジオがないことを最も後悔する日がやってきた。それは――台風の日である。




台風の日





 風が叩きつけるかのように吹きつける。ビュービューなんてものじゃない、ゴウッといった感じだ。
 今日は学校の日だったのだが、この天気のためお休みとなった。
……しかし、なんてこう台風のため学校がお休みというのはなんとなく嬉しいものなのだろうか。そういえば昨日ヤケに有彦が浮かれていたのもこれで納得がいく。普段からずる休みしているくせに、こういう休みで喜ぶなんて有彦もまだまだ子供だな……。

「……っと、いけない。勉強勉強っと」

 自宅待機でやることが全くないため、自分の部屋でたまっていた宿題を片付ける。と、いうのは勉強するべき時間、つまり夜は毎回ドタバタ劇に巻き込まれてしまうためやることができないのだ。せめてこういうときだけでもと、目の前に並べられた数字を必死で考えながら解いていく。

『……さん、兄さん!!』

 下の階から秋葉の声が聞こえてきた。おそらく俺にとって不利益な用事なのだろう。七夜の勘が告げている。無視したかったが、そうすると後が怖いので仕方なくシャーペンを置き、秋葉のもとへと向かった。




「兄さん、屋根の補修をお願いできますか?」

 案の定、俺にとって不利益な用事が下の階では待っていた。
 こんな日に屋根の補修とは、へたしたら死ぬかもしれないのに。

「すみません、本来なら私がしなければならない仕事なのでしょうが……」
「ああ、翡翠。気にしなくていいって」

 翡翠のすまなそうな声を聞いて、俺は自分の考えを咄嗟に改めた。
 そう、この家には俺しか男がいないのである。……いや、確かに秋葉とか琥珀さんの方が強いと思うけど。

「ところで、道具はどうすんだ? それに俺はこういうことやったことないぞ」
「はい、道具はこれです。頑張ってくださいね。あ、水にぬれても安心な『屋根の補修の説明書』もつけときましたから、初心者の志貴さんでも大丈夫ですよ〜」

……やっぱりとでもいうべきか。さすがは琥珀さん、こういうところは全く抜け目がない。これで100%俺は屋根の補修をしなければならないことになった。まあ、翡翠のすまなそうな顔を見た時点でやるって既に決めていたけどね。



 俺は先ほどやると決めたことを完全に後悔していた。
 理由はただ一つ、

「じっじぬ〜(しっ死ぬ〜)!!!」

かなりの強風なのだ。しかも足場が微妙に不安定で、しかも高いところなので精神的にその威力はあがっているように感じられる。
 おそらく、命綱をつけていなかったら俺は一瞬のうちにTHE ENDだっただろう。

「志貴さん〜頑張ってくださいね〜」

 琥珀さんと翡翠が命綱が外れないように見張っている。だから俺は安心して仕事が……

ビョオオオッ!!

……できない。途中で千切れてしまう可能性も十分ありえるのだ。
 そうして、俺は何時間も精神と体力をすり減らし、ようやく屋根の補修を終えたのだった……。



「あ〜何もやる気が起きない〜……」

 屋根の補修を終えた後、風呂に入って着替えてから俺は部屋に戻って死ぬように眠った。
 そして起きてさあ勉強を再開しようと思ったものの、一向にやる気が起きないのだ。おそらく、先ほどの疲れがまだ残っているのだろう。あとは寝起きのだるさといったところか。

「もうこんな時間か……」

 時計の針を見てそう思う。外も部屋の中が電気がついていないとよく見えないくらい暗くなっていた。
 未だに風雨は吹き止まない。それどころか先ほどよりも悪化している。こういうとき、ラジオでもあればより正確な情報が得られるのだが。

「今説得すればラジオぐらい許してもらえるんじゃないか?」

 ふと思い浮かんだ提案を口にする。しかし、体がだるいためそれを実行する気が一向に起きない。

「……あーあ、暇だなあ」

 やることはたくさんあるものの、気分的にやりたくないことは全て頭の中で却下したため、結果的にやることがなくなってしまった。俺は仕方なくベッドに倒れこむとじっと天井裏を見つめる。
 外では風雨の音が鳴り響く。落ち着こうにも落ち着けない音だ。

「志貴様、入ってもよろしいでしょうか?」

 ドアの向こうで翡翠の声がした。風雨の音で多少かき消されてはいるものの、間違えるほどではない。

「いいよ、どうぞ」

 俺はなんとなくベッドから下りて机に向かいなおし、翡翠の入室を許可する。

「志貴様、夕食の時間です」
「ああ、もうそんな時間なのか……て、翡翠は何で入ってきたの?」

 そう、夕食を伝えるだけなら入ってくる必要なんてないはずだ。すると翡翠は顔を赤くして、

「いっいえ……志貴様がお眠りになられているかどうかの確認もしたかったので……」

 翡翠の理由は確かに理にかなっていた。「夕食です」と言われて返事がなくてもそれは俺が勉強に集中しているだけかもしれない。でも、この質問なら返事がなかった後中に入って確認することによって真偽を知ることが出来る。でも、それ以外にも理由がある気が……ま、いっか。

「そう、なら行こうか……」


 そのときだった。けたたましい音とともに雷が落ちてきたのは。


「うわっ」
「きゃあああ!!」

 思わず驚いてしまう俺と翡翠。さらにそれと同時に部屋の電気が消え、辺りは真っ暗になってしまった。
 翡翠はよっぽど怖かったのか俺に抱きついてきた……これが役得ってやつだろうか?

「大丈夫か、翡翠……」
「え、あ、はい……でも……」
「でも?」
「あまりのショックで足腰が……」

 イコール、動けなくなったということだ。さすがに翡翠をほおっておくわけにもいかず、俺はそのまま翡翠を抱いた状態になる。

「しかし停電か……まいったな……」
「はい……」

 翡翠の答えはどことなく上の空だ。いや、理由は分かっている。俺の先ほどの言葉も、自分をごまかすだけの言葉に過ぎない。

「志貴様……」

 名前を呼ばれ、思わずドキリとしてしまう。意識してしまっているからだろう。いや、この状況で意識するなと言う方が無理だ。

「翡翠……」

 俺も相手の名前を呼び返す。この先に何が来るかはなんとなく分かる。何をすればいいかも。それは経験からではない、それこそ、無意識のうちにだ。
 お互いの顔が近づいていく。俺は目をつぶった。あとはもう無意識に流されるようにすればうまくいくのだろう。



 突如、部屋の明かりがついた。それと同時に扉の開く音。

「大丈夫でしたか二人とも〜? こんなこともあろうかと私が停電したら数分後に自動的に予備電力が作動するようにしていたのです! 役に立ってなによりです……ってあら?」

 その正体は琥珀さんだった。当然俺と翡翠はばっと顔を背けた。

「もしかして……お邪魔でした?」

 的を射た答えではあるが、それに同意するわけにもいかず、より一層顔を赤くし、しどろもどろになる俺と翡翠。
 結局、その日の出来事はそのままうやむやとなってしまった。
 でも、俺は後悔なんかしていない。なぜなら、その後翡翠が恥ずかしそうにこっそり耳打ちで、

「あの……今度こっそりと……しましょう」

と言ってくれたからだ。
 たまには台風の日も悪くない、そう感じた日だった。 

終わり