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 ある日僕は来ヶ谷さんに女子寮の前へと呼び出された。

「やあ、理樹君」
「どうしたの、突然」

 何の説明もなく、よくわからないまま呼び出された僕。

「うむ、まあ立ち話もなんだから中に入るといい」
「いや、入ってって…いいのかな」

 そりゃまあ僕も何回も女子寮に入ったことあるけど。

「うむ、何の問題もない。何なら、女装でもするかね。そしたら抵抗も少なくなると思うが」
「いや、それはちょっと」

 どうだろう。
 何の解決にもなっていない気がする。

「まあもし何か言われたときは私が言っておく」
「うん…それなら大丈夫かな」

 来ヶ谷さんって女子寮で顔がきくみたいだし。
 別に何もやましいことが目的で入るわけじゃない。

「うむ、ではいくぞ」

 こうして、僕は来ヶ谷さんの部屋へと行くことになった。
 それが来ヶ谷さんの狙いだとも知らずに――。





『とラヴる・れっすん』





「私の部屋へようこそ。まあ適当に座ってくれ」

 僕は来ヶ谷さんに言われるまま、ベッドに腰掛ける。
 来ヶ谷さんも傍にあった椅子に座り、僕の方を向いた。

「で、だ。私がここに呼んだ理由だが――」



「理樹君は最近、男友達とばかり遊んでないか?」
「へ?」

 それのどこに問題があるというのだろう。
 確かにここんとこ恭介や真人、謙吾たちとばっかり遊んでいたけど。

「リトルバスターズにはたくさん女の子がいる。葉留佳君や美魚君はともかく、可愛い小毬君やクドリャフカ君、鈴君の相手もなかなかしないなんてどういうことかと思ってね」
「あ、いやそれは――」

 言えない。あの修学旅行の事故のあと、何か妙に皆を意識してしまうだなんて。
 だから話しかけられても話をそらしてしまうだなんて。

「ふむ、どうやら皆を女として意識してしまうようだな」
「えっ!?」

 どうして僕の考えていることがわかるのだろう。
 来ヶ谷さんの勘の良さに改めて驚かされる。

「理樹君がそんなに顔を赤くしているのを見れば大体予想がつく」
「え、僕顔赤くなってた?」
「うむ。さあ、隠さずおねーさんに話してみなさい」

 そうは言われてもこの人に相談してもいいのだろうか。
 なんか、遊ばれてしまいそうな気がする。

「ええいうるさい早く白状しろこのイワンめが」

 僕が相談しようかどうか悩んでいることに痺れをきらしたのか来ヶ谷さんが脅してきた。

「逃げたら殺す。声を上げても殺す。助けを呼んでも殺す」
「ちょ……まあいいか」

 観念した僕は事情を来ヶ谷さんに話す。

「どうもあの修学旅行の事故からなんだ。皆で遊んでいるときはあまり感じないんだけど、二人きりになったときとか、妙に胸がどきどきしちゃって……」
「ふむ、つまり私とこうして話しているときも少しどきどきしている、と」
「実は…そうなんだ」

 来ヶ谷さんの部屋に連れてこられたときから妙にどきどきしていた。あと、多分初めて来たはずなのに何故かこの部屋に見覚えがある。デジャヴというやつだろうか。
 そんな僕を見て来ヶ谷さんは少し考える様子を見せてからこういった。

「これは、恋愛の特訓が必要だな」
「は?」

 何を言い出すのだろう。
 あっけにとられた僕をそのままにして話を続ける。

「というより、女の子に対する特訓だな。このまま理樹君が異性に対して妙に避けてしまい男とばかり付きあっていると、そのままずるずると楽な方に流されてしまい変な方向に目覚めてしまうかもしれない」

 変な方向って。つまり男と男がってことだろうか。

「いや、それは……」
「ない、とは言い切れまい。現に今キミはその第一段階を歩み始めている」

 そう、なのだろうか。
 来ヶ谷さんに言われると妙に説得力があるような。

「理樹君もそんな事態は避けたいだろう」
「うん…できれば普通でいたいかな」

 リトルバスターズにいる時点で普通じゃないのかもしれないけど。

「ならば今のうちに特訓するしかあるまい」
「そう、なのかな」

 なんだかそんな気がしてきた。
 それに特訓しとけば、前みたいに皆と付き合えるようになる。

「うん、僕、特訓してみるよ」
「理樹君ならそう言ってくれると思っていたよ」

 嬉しそうな表情をする来ヶ谷さん。
 はて、でも特訓ってどんなことをするんだろうか。

「ではまずキスをする特訓からだ」
「ぶっ!」

 思わずふいてしまう。

「何を驚いている」
「だ、だっていいいいきなりキスって」
「落ち着け理樹君、これは練習なんだ。本番というわけじゃない」
「そそそそうは言っても!」

 言葉がうまくでない。
 少なくとも、いきなりキスはレベルが高すぎる。それに本番じゃないからで済む問題ではないと思う。

「ふむ、いきなりハードルが高すぎたか」
「高すぎってもんじゃないよ!」

 来ヶ谷さんは腕を組み、考える。

「しかしこれは重症だな。キスは海外ではコミュニケーションの一種だぞ」
「確かにそうかもしれないけど。ここは日本だし」
「仕方ない、別の特訓にするとしよう」
「別の特訓があるならそっちにしてほしいな」

 少なくともキスよりはマシだろう。

「ならばそっちの方にしよう。理樹君」
「ん、なに?」
「女性に慣れなければならないというのはどういうことだかわかるかね」
「うーん、違いを理解するってことかな」

 よくわからないけど。男と違うから変に意識してしまうんだと思う。

「そう、違いを理解することが大事だ。だから――」



「まずは、胸を理解してみようか」
「――へ?」

 言っている意味がよく理解できない。

「胸を理解? どうやって?」
「簡単だ。触ってみるんだ」
「え、ええええええええええええええ!?」

 思わず大きな声をあげてしまう。

「そんな大きな声を出したら近くにいる女子に気づかれてしまうぞ」
「だ、だって胸って!」
「何、減るものでもないし私の方は問題ない。思う存分にむさぼるがよい」

 問題ないと言われても。来ヶ谷さんの胸をちらりと見る。
 大きい、確かに触ってみたいと思う。
 でも、僕の中の天使がやめろとささやく。だからといってやめようとすると悪魔が今度はやれと語りかける。
 やるべきかやめるべきか、頭の中をめぐる葛藤。
 それを打ち砕いたのは来ヶ谷さんの行動だった。

「何を遠慮しているんだ。ほら、こうして――」

 僕の手をひっぱり、自分の胸に押し付けた。
 ふに、そんな感触音が頭の中を駆け巡る。
 胸を触った感触は、僕の中の理性を麻痺させるのに十分だった。

「も、もっと触ってみていいんだぞ」

 来ヶ谷さんが顔を赤くしながら僕にそう提案する。
 自分でやったこととはいえ、来ヶ谷さんも恥ずかしかったようだ。

「う、うん」

 僕も来ヶ谷さんの意見に押し流されるようにさらに胸を手でわしづかみにする。

「うあっ! つ、強く掴みすぎだ!」
「ご、ごめんなさい」

 怒られた僕は今度は痛くしないよう、軽く胸をつかむ。

「その…くらい、だな」

 もっとふにふに感を味わいたい。理性が麻痺してしまった僕は胸を揉みはじめる。

「り、理樹君! そ、それは」
「だって、来ヶ谷さんがもっと触ってもいいっていったから」
「あ、ああ確かに言ったが…くぅん!」

 来ヶ谷さんがびくりと反応する。こんなに反応するなんて、来ヶ谷さんって意外と敏感なんだ。
 はぁはぁと少し、吐息がもれるようになってきた。

「そ…そのまま次の特訓に行くぞ」
「つ、次の特訓?」

 次の特訓は何だろう。でも、何がきても今の僕は簡単に受け入れてしまいそうな気がする。

「つ、次はキス…だ」

 言葉も絶え絶えに、来ヶ谷さんはそういった。

「き…キス、だね」

 僕はそれを受け入れ、唇を来ヶ谷さんへと近づける。
 来ヶ谷さんも、それを受け止めようと唇を前へと出す。
 もう少しで、触れ合う。あと5cm、4、3、2、1――。



「おーい姉御ー! 遊びにきたよーん!」



 突然の扉が開く音。それと同時にお互い距離をばっと開いた。

「あれ? 理樹くんも来てたんだ。やっほー」

 扉を開いたのは葉留佳さんだった。いつもどおりの底抜けに明るいテンションで僕たちに接してくる。

「や、やあこんにちは。葉留佳さん」
「……ドアを開けるときはノックぐらいしろ」
「や、やだなあ。姉御、何かものすごーく怖いですヨ? 人殺せそうな視線してますヨ?」

 確かに、来ヶ谷さんの葉留佳さんをにらみつける目は恐ろしかった。その目を僕はどこかで一度見たことあるような気がするが思い出せない。

「ところで、二人で一体何してたのかなー? 面白そうなことならはるちんも混ぜて混ぜて」

 そういわれてさっきまでの行為を思い出す……とても言えたものではない。

「何、ただ理樹君で遊んでいただけだよ」

 来ヶ谷さんがそう答える。まあ、確かに来ヶ谷さんから見ればそれで間違ってないのかもしれないけど。
 少し残念なような。

「ほほーう。でも姉御、何だか顔が赤いっすよ?」
「き、気のせいだ」

 来ヶ谷さんが葉留佳さんに指摘されてうろたえる。ちょっとは本気だったのかな?
 遊ぶだけだったらあんな風に顔を赤くしないだろうし。いや、それは僕の願望も混じっているけど。

「ぼ、僕もう帰るね?」

 なんとなく、ここにいるのが気恥ずかしくて、僕は二人にそう伝える。

「む、まあ仕方ない。それではな、理樹君」
「あれれ? 理樹くん帰っちゃうの? じゃあまたねー」

 二人に見送られ、来ヶ谷さんの部屋を出る。
 扉を閉めた瞬間、大きくため息をはいてしまった。

「僕、何てことしちゃったんだろう」

 胸を触るだけならまだしも、もんじゃうなんて。それどころか、もう少しでき、キスを――。
 いけない、思い出すとものすごく恥ずかしくなってきた。早く自分の部屋へ戻ろう。
 僕はそう考えると来ヶ谷さんの部屋から離れようとする。

「あ、そうそう理樹くん」

 突然、葉留佳さんが部屋から顔を出した。

「わわ、は、葉留佳さん。ど、どうしたの」
「えへへ、えっとね」

 葉留佳さんは僕に近づくと耳元でこう囁いた。

「今度は私の番、ね?」



「へ?」

 葉留佳さんはそういって来ヶ谷さんの部屋に戻っていった。
 今度は私の番、それはどう考えても先程の特訓に対してだろう。
 来ヶ谷さんから聞いたのだろうか、いや、まさか――。

「全て、聞かれていた?」

 推測でしかないから本当のことはわからない。でも、これだけは言える。
 どうやら、僕の特訓はまだまだ終わらないようだ。



おわり



あとがき
 修学旅行END後のお話です。理樹の既視感はそのときの唯湖ルートなどから来たもの。
 今回の作品はふと思いついた『とラヴる・れっすん』というタイトルで短いものを仕上げる予定だったのですが、思った以上にすらすらと文がでてきましてこの長さを2〜3時間程度で完成(普通はもっとかかる、つうか途中で飽きることも多々)しました。
 ちなみにラブではなくラヴなのはとラブるだとかなーり既に使われているからです。
 相変わらずの馬鹿な甘い(?)SSですが楽しんでいただけると嬉しいです。