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「やっほー理樹くん」
「あ、葉留佳さん」

 女子寮前、僕は女子寮から出てきた葉留佳さんに挨拶する。
 まあ、葉留佳さんに呼び出されたからここにいたんだけどね。

「ちゃんと来たねーエライエライ」
「いや、だって葉留佳さんがあの事ばらすって脅すから……」

 事の発端は来ヶ谷さんとの恋愛特訓だった、その場面を葉留佳さんに見られてしまったのだ。
 そのことで脅迫を受けた僕はこうして休日に女子寮前に呼び出されている。
 だってこないと周りにばらすって言うから、葉留佳さんなら普通にやりそうだし。
 あんなの周りに広められたらとてもじゃないが恥ずかしくて生きていけない。

「まーまー損はさせませんから。ささ、入って入って」
「わわ」

 葉留佳さんに手をがっちりと捕まれながら僕は女子寮内へと連れて行かれる。
 というか、どうして誰も男の僕が入れられているのに違和感を持たないのだろう。ちょっと泣きたくなってくる。
 やがて、ある部屋の前で葉留佳さんは止まった。ここが葉留佳さんの部屋なのだろう、多分。

「さーどうぞ入って」

 葉留佳さんは部屋の扉を開ける。その先には――

「あなたは――直枝理樹!」
「二木さん?」

 何故か二木佳奈多さんの姿があった。





『てリヴる・れっすん』





「何であなたがここにいるの」

 二木さんが僕を睨み付けてくる。
 何を怯えているんだ僕は、僕にはちゃんとここに来た理由があるんだ。
 それを言えば全く問題はない。

「いや、僕は葉留佳さんに連れてこられただけで」
「そうそう、あたしが連れてきたんだよ」

 葉留佳さんが僕の発言をフォローしてくれる。
 すると二木さんの視線が葉留佳さんへと切り替わった。

「葉留佳、どうして直枝理樹をここに――」
「あーはいはい」

 二木さんは葉留佳さんを叱っているが暖簾に腕押し、葉留佳さんは軽く受け流している。
 だけどそこは姉妹ならではの空気が感じられる。とても昔仲が悪かったとは思えない。

「ところでさ、どうして二木さんはここにいるの」
「え、そ、それは……」
「ふっふっふー、それはちゃんと理樹くんをここに呼んだことに関係しているのですよ」
「……え?」

 どう関係しているというのだろうか。
 僕と葉留佳さんと二木さんを繋ぐことなんて風紀委員会に関する事くらいだろう。
 ということはそれ関連?

「は、葉留佳!」
「やーだって言ってたじゃん」

 あせる佳奈多さんを無視して話を続ける。



「お姉ちゃん理樹くんのことが気になるって」



「そ、それは言葉通りの意味で――」
「言葉通りって?」
「葉留佳と一緒に活動しているから気になるって、ただそれだけの意味よ」
「えーそうかなあ。それだったら別に理樹くんじゃなくてもいいよね」
「う――」

 どうしたんだろう。普段なら二木さんが葉留佳さんを理論的に追い詰める立場のはずなのに、立場が逆転している。
 二木さんが言葉を出しあぐねていると葉留佳さんは先にこういった。

「大丈夫、わかってるって」



「お姉ちゃんも、理樹くんが好きってことに」



「なっ――!?」

 二木さんが顔を真っ赤に染める。二木さんのそんな顔、初めて見た。
 それよりも葉留佳さんはなんて言った。僕のことが好き? お姉ちゃんも?

「え、それって」
「そういうことなんです理樹くん。えへへ」

 葉留佳さんも恥らいながら笑う。こんな告白の受け方って他に例なんてないんじゃ。 

「なっ! そ、そんなわけないじゃない!」

 二木さんは必死になって否定するものの、表情が、そして言葉が嘘であることを証明している。

「お姉ちゃんそんな真っ赤な顔で言っても説得力がないよ」
「え、あ、う」
「それにね、お姉ちゃん。恋する乙女は敏感なのですよ」

 最後の理屈はよくわからなかったが、二木さんが黙ってしまったところを見ると観念したようだ。
 それははつまり、先ほどの発言を認めたってことになる。

「え、えええ!?」

 そう、二人とも僕のことが好きってことに。

「でもさ、理樹くんは気づいてなかったの?」
「えと、それは……」

 確かに皆のこと気にはなっていた。
 変に意識してしまうし、でも。
 でも、そこから自分も意識されていたという考えには行きつかなかった。

「そっか、気づいてなかったんだ……ちょっと残念かな」
「え、葉留佳さん今なんて?」
「ううん、こっちだけの話」

 何だろう、一瞬悲しそうな表情を見せたような。
 気のせいかな。
「ところで、さ。理樹くんはまだ男組とばっか遊んでいるんだよね」
「う、うん」

 突然話題を変えたことに戸惑ってしまうものの、質問にとりあえず答える。

「やーダメだね、姉御と特訓したんじゃなかったの?」
「いや、そうなんだけど……」

 言ってもいいのだろうか。あの特訓のせいでかえって皆を意識するようになってしまっただなんて。
 来ヶ谷さんを見た瞬間なんてあの事を思い出してすぐに顔が真っ赤になってしまうし。

「うーん、これはまだ特訓が必要なのかな」
「そう、なのかな」

 いまいち効果があるとは思えないんだけど。なんか悪化しそうな気もするし。

「じ、じゃあ今度は私が特訓してあげるね」
「……えっ?」

 葉留佳さんの提案に唖然とする。
 顔を赤くしながらも葉留佳さんの表情は意外と真剣だ。

「だ、だって約束したからね」
「それはそうだけど」
「そ、それに「ま、待ちなさい葉留佳!」

 僕たちの会話に二木さんが割り込んでくる。

「特訓って一体何するのよ」
「え、えっとね。ごにょごにょ」

 僕に聞こえないよう二木さんの耳元でひそひそと話す葉留佳さん。
 二木さんの表情がだんだんと驚愕したものへと変わっていく。

「このくらいなら大丈夫かなって、多分」
「な、そ、そんなこと!?」
「でもお姉ちゃんも理樹くんが男好きになるよりはずっといいでしょ?」
「そ、それは…世間の常識的にもそうだけど……」

 僕の方をちらちらと見ながら二木さんが考えている。
 多分まともな思考は出来ていないっぽい。

「それに一人なら恥ずかしくても二人なら……ね」
「う……わかったわ。今回は協力してあげる」

 どうやら二木さんは観念したようだ。
……一体、何を始めるつもりなのだろう。

「さて、理樹くん。準備はいい?」
「何の準備?」
「心の準備よ。私たちは覚悟を決めたわ」
「え、な、何を始めるつもりなの?」

 葉留佳さんが僕の前に、二木さんが僕の後ろに立つ。

「さっき言ったよ。特訓を始めるって」
「どんな特訓?」
「そ、それはね……えいっ!」

 しばらく躊躇していた葉留佳さんが僕の背に手を回してくる。

「は、葉留佳さん何を!?」
「女の子に慣れるためにはこうして直接触れ合うことが大事なんですよ」
「そ、そうなの!?」

 初耳だ。もっとも僕がそういうことに無関心だったからかもしれないけど。

「さ、お姉ちゃんも」
「これは特訓、これは特訓……」
「え、ま、まさか」

 背中にやわらかい感触。
 回される手。
 二木さんに、後ろから抱きつかれた。

「ふ、二木さん?」
「わ、私はあなたがまっとうな道を歩むためのお手伝いをしているだけ」
「そ、そうなの?」
「それは貴方が決めることでしょ!」
「えー!?」

 よくわからないが逆に怒られてしまった。
 この状況はなんだろう、前には葉留佳さん、後ろには二木さん。そして挟まれている僕。

「えーと、これが双子サンドイッチ、具は理樹くんみたいな」
「うまいようでうまくないよ!」
「で、どう。少しは慣れてきたのかしら」
「えっと……」

 最初よりは落ち着いてきているのかな。これを慣れというのかどうかはわからないけど。
 
「少しは慣れた……と思う」
「そう、ならこの行為も無駄ではなかったのね」

 少し優しい声で二木さんが言った。
 それを聞いて落ち着いてきていたはずの胸のどきどきが大きくなった気がする。

「あーなんかさ、ちょっと面白いこと考えちゃった」
「面白いこと?」
「あのね、三枝、二木、直枝、苗字が全員木に関連しているよね」
「あーそういえば」

 偶然といえば偶然かもしれないけど。

「枝は確かにいくつも分かれているけどさ、つながっている先は一つじゃないですか」
「何が言いたいのよ葉留佳は」
「だからこのまま三人一緒になる、っていうのはどうかなと思いまして」

 葉留佳さんの突然の発言に今まで以上の衝撃を受ける。

「な、何を言ってるの葉留佳さん!」
「は、葉留佳!」

 僕も二木さんも葉留佳さんにつっこみを入れる。

「えーでもさ、今までが今までだったんだから、ね」
「確かに三枝は今まで一人の女に二人の男をあてがってはいたけど」
「その逆もありじゃないかな、と思うのですよ。理樹くんはどうなの?」
「え、えっと……」

 どうすればいいんだろう。
 確かに僕は二人を普通以上に意識している。
 でも、そんなことをこの場で決めていいのかというわけで。
 頭の中をぐるんぐるん思考が駆け巡る、こんなときナルコレプシーが起きたらどんなに都合がいいんだろう、もう治っているけど。

「ぼ、僕は……」

 必死に考え、結論を探す。
 なんていえばいいんだろう、なんていったらいいんだろう。
 ここで結論を出すべきなんだろうか。

「僕は……」






「佳奈多さーん、ちょっと教えて欲しい事が……ってわふううう!?」

 開かれるドア、そこにはクドの姿があった。

「あ……」
「り、リキ’ズ さんどうぃっち とラヴる なのですーっ!?」
「ち、違うのクドリャフカ。こ、これはね」

 二木さんがあせっている。予想外の事態に戸惑っているのだろう。
 逆に僕はそんな二木さんを見て少し落ち着く。

「いやーびっくりした。いきなり黒い悪魔がシャーッ!って出てくるんだもの」

 葉留佳さんもそうだったのだろうか、慌てることなくうまい口実を出してきた。

「そ、そうよ葉留佳。だからこそきちんと掃除しないと。そのために直枝理樹も呼んだんでしょ」

 二木さんもうまく口実を合わせ、僕がここにいる理由もつけた。
 なんだか、双子の姉妹らしさが感じられた気がする。

「わふーそうだったのですか…はっ、でもどこにも見当たらないということは逃げられたんですか!?」
「あーうん、でもまあ大丈夫っしょ」
「ダメですよ! ゴキブリさんは1匹見たら3000匹いるって聞いた事があります」
「いや、多すぎだから」

 多分大げさに教えられたのだろう。実際にそんなにいたら地球は今頃ゴキブリで埋め尽くされている。

「んーまあ近いうちになんか対策考えとくから」
「ちゃんと考えなさいよ。それじゃあ掃除の続きをしましょうか」
「私も手伝うです。あいきゃんこんてにゅーざくりーん!」

 葉留佳さんの部屋の掃除が始まる。
 とはいえ入ったときからあらかた片付いてはいたのでほとんどやる必要はないみたいだけど。
 クドには感謝しないと、あのタイミングで入ってくれなかったら今頃僕の人生は決まっていたのかもしれないのだから。

「あーリキー」
「ん、どうしたのクド」
「えっとですね」

 恥ずかしそうにもじもじしているクド、何を言うつもりなんだろう。

「私も今度、抱き着いてもいいですか?」
「えっ?」
「その、えっと、ダメならいいです……」

 うなだれるクド。なんとなく悪い気分になってくる。

「いや、いいけど」
「ホントですか? 約束ですよ、イッツ ア プロミス!」
「う、うん」

 なんだろう、墓穴という言葉が頭に浮かんだ気がする。
 経験からなんとなく予想はつく、苦難はまだまだ続きそうだと。

「はあ」

 それを考えて僕は少し、誰にも聞こえないようため息をつくのだった。



おわり

あとがき
 前作の『とラヴる・れっすん』について続いてほしいって意見があったので、ちょっと思いついたのをこうして書いてみました。
 楽しんでいただけるとうれしいです。
 ちなみにいろんな意味で続編はないかと思います、これを越えられるのを書ける気がしねえ(汗



何か一言いただけるとありがたいです。