直枝理樹はどうすべきか迷っていた。
 それは今、これまでの人生において一度足りとも経験したことのない状況に置かれているからである。
「ほら、何してるのよ」
 そんな理樹に対して声をかける少女――朱鷺戸あや。
 普通の人が見れば間違いなく美人といえるような容姿をしており、さらに学校内での評判も上々。こんな子を彼女にしたいと思う男子生徒はたくさんいるだろう。
――裏の姿を知らなければ、だが。
「い、いや、だって」
「だってもクソもないわ。やりなさいって言ってるの!」
 命令するあや、それに抵抗する理樹。
 もちろん、簡単なお願いごとだったら理樹もすぐにやるだろう。反対に、大した事無いお願いごとだったらあやもすぐにあきらめただろう。
 それが難しいから理樹は抵抗する。それがあやがどうしてもしてほしいことだからあやもあきらめない。
 会話は平行線を辿ろうとしていたが、やがて、先に限界がきたあやが叫んだ。
「いいから早くお尻を叩きなさい! レッツスパンキング!!」
 あやが望んでいたこと、それはとってもマゾなことだった。
【弱気サド×強気マゾ】
「な、なんで僕があやちゃんのお尻を叩かないといけないんだよ!」
 壁に手をつけ、お尻を突き出す女の子を見て多少の興奮も覚えながらも、必死に理性を残しながら理樹は叫んだ。
 確かにスカートの下にほんの少し見える白いパンツとかすっごくくるものがあるけど、ちょっとだけ顔を赤くしているところに多少の恥じらいがあるんだなということにもぐっとくるものがあるけど、それでも頑張っていた。
「簡単よ、叩いてほしいからに決まってるわ」
 本当に簡単な理由だった。
 誰かに脅されているわけでも、そういう病気にかかったからというわけでもなさそうだ。そんな病気があったら嫌だけど。
 理樹はそう思いながらあやの話を聞き続ける。
「あたしは、理樹くんに叩いてほしいの」
「いやいや、突然叩けって言われても」
「何よ! 仕方ないじゃない! 理樹くんのしなやかな手を見てたらその手に叩いてほしくてたまらなくなったんだから! 頑張って我慢しようとはしたのよ! でも、我慢すれば我慢するほど叩かれてしまう光景を想像しちゃって……ああん」
 あやが軽く震える。
 変態だ、モノホンの変態がここにいる。
 理樹は強くそう感じた。考えるだけで感じるなんて並大抵の変態レベルではない。正直、逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
「逃げられると思わないことね、もし、逃げたら……わかってるわよね?」
 本気で逃げようと、少し足を扉に向けた瞬間釘を刺された。
 きっとひどいことをされるのだろう。よくわからないけど、されてしまうのだろう。
 理樹は自分の境遇に涙した。
 理不尽なことを迫られているこの状態に。
 その理不尽を行わなければもっと理不尽な目にあうこの状態に。
 だが、そんな理樹もついにふっきれた。
「……わかった」
 ひどいことされるなら、してしまえと。ヤられる前にヤれと。
 これまでの人生の中で一度も選んだことのなかった選択肢を、ついに理樹は選んだ。
「わかったよ! そこまで言うなら存分に叩いてあげるよ!」
 ふっきれた理樹は足音を大きく響かせあやの元へ近づく。
(き、キタキタ! わざわざ足音を響かせて恐怖を煽らせるなんて……やるわね! 理樹くん)
 心では震えながら、体の方ではお尻をふって誘うあや。
 彼女にとって、いよいよ待ち望んでいたことがこれから行われるのだから仕方のないことであった。
「ほら、叩きなさいよ。まだ感じ得ない衝撃の快感を想像してはうち震えるまだ子供なお尻を!」
 挑発しつつも、言葉の通りあやはうち震えている。これからやってくるものに対して。
 理樹はあやの腰を左手でつかみ、そして利き手である右手を振り上げる。
「ワガママ言っちゃう悪い子には、お仕置きだよ!」
 その言葉を言い終える頃に、理樹は手を振り下ろす。
パチィン
「ひうっ!!」
 布越しとはいえ、大きな音が教室に鳴り響く。その分の痛みが、あやへも十分届いていた。
(すごい……流石は理樹くん。初めてだろうにここまでの音を響かせるだなんて……!)
 痛みを感じながら、別の意味でも感じてしまっているあや。
 さらに叩いてほしい衝動からかお尻を先程よりも高く突き上げる。
「そ、その程度なの!? その程度じゃマダマダね! ハチに刺されたくらいだわ!」
 もちろん心では満足していたものの、挑発したらきっとそれ以上のものを味わえるに違いないと思ったあやは理樹に対して苦言を呈する。
「ハチなら十分、痛い…ってことじゃ、ないっ、か!!」
 いつもなら笑って受け流す理樹だが、既にふっきれてしまっているため挑発も効果的に作用する。
 先程よりさらに手を高く振り上げ、そして振り下ろす。
パチィィン
「ひゃあんっ!!」
 先程よりさらに音が鳴り響いた。
「は、ハチはハチでもクマンバチ、アシナガバチ、オオスズメバチィィいい!!」
「痛いんだね! とっても痛いんだね!」
「はぃいいい、と、とっても気持ちいいイタイぃぃ」
(す、すごい。お尻叩きってこんなに感じちゃうものなんだ!)
 既にもうお尻は赤くなっているに違いない。ジンジンとした痛みが叩かれたあともしっかり残っている。
 その痛みすら彼女にとっては快楽の一つだった。
「まだぁ、まだぁあ」
 もっと、もっとよくなるかもしれない。
 口では必死に不満足なことを伝える。口元が緩み、ちょっとだけ涎が出てきていたが、それでも頑張って言う。
 あや自身は自分の表情がどうなっているかなんて最早わからなくなっていたが、誰の目から見ても気持ちよさそうな顔をしていた。
「痛いのに気持よさそうにしているなんて……そう、ならもっと痛くなるようにしてあげるよ」
 突然、あやは下半身が涼しくなった気がした。
 それと太ももに感じるかすかな締め付ける感覚。
 そう、理樹はあやの下着を半分だけずり下ろしていた。
(嘘!? そ、そん、そんなの、アンビリーバボォォォ!!)
 突然の理樹の予想外の行動により思考が錯乱してしまうあや。
 でも、それでもそれを静止させようとはしない。
 期待しているのだ、今を超える痛みを、快楽を。
 それはもうホントにアンビリーバブルな世界、胸が高まるのも仕方ないことだった。
「それじゃあいくよ」
 理樹はもう一度手を振り上げ、そして手を振り下ろす。
パン、パン、パァン!
「ひぃ、ひぎぃ、ヒィィィン!」
 肌と肌の触れ合いならではのより良い響き、そこにさらに三発連続で打ち込まれる。
(すごい、しゅごい! 理樹くんってもしかしてお尻叩きの天才!? 王様!? そうよ、理樹くんはお尻叩きの王様! スパン『キング』よ!)
 既に思考がわけわからない方にいっちゃっているが問題ない。だって相手はスパン『キング』なのだから。
(そうよ『スパイ』と『スパン』はたったの一字違い、ノイズレベル! それの王様である理樹くんに対して、スパイであるあたしは為されるがまま!)
 自分の中でなんとか合理性を見出したあやは痛みという名の気持ちよさを甘んじて受ける。
「ああん! キングぅ! もっと、もっとぶってくださぁい!」
「キングってなに!?」
「理樹くん、いや理樹様はぁ、スパイの王様ぁ、だからスパンキングぅ……!」
 既に思考がまともじゃない。
 理樹はあやに対して強くそう思った。それと同時に自分に理性が戻ってくる。
 なんで僕はあやのお尻を叩いているんだろう、と。それと同時にお尻を叩いていた手が止まった。
 既にあやのお尻は赤く染まっていて、叩く方の理樹の手もジンジンと痛みがきている。
「キングぅ、止めちゃやだぁ。お願い、お願いしますぅっ!!」
 しかし手を止めたことが結果的にあやをじらすということになってしまい、あやは撫でるような声で、腰を振るという行為で続きを強く求めていた。
 正直、エロい。このままだと本番にいっちゃうんじゃないかと思ってしまうくらいにエロい。
「ああ、もう! 次で最後だからね!」
 ものすごく恥ずかしくなってきた理樹はせめてこの一撃で終わらせようと今まで以上に手に力を込め、振り上げる。
 この一撃の後、あやも正気に戻りますように。そんな願いを込めて、手を思いっきり振り下ろした。
「ヒィィィィィン! ヒャッホゥ、スパンキングさいっこー!!!」
 最高に頭悪い発言を残して、あやは昇天した。
「ん……」
「あ、起きた?」
 あやが目を覚ましたとき、あやは理樹におぶられていた。
 自分が寝ていたということに気づいたとき、もしかして先程の天国にも昇る気持ちも夢だったのだろうかと一瞬考えたものの、お尻に未だ軽く響いているジンとした痛みが夢じゃなかったことを証明していた。
 それよりも理樹が背負ってくれているということは、理樹があやのお尻を抱えていることになるわけで。
 そのことにあやが気づいたとき、さらにお尻がむず痒くなった気がした。
「ごめんね、さっきあんなことしちゃって」
 さっきのこととはスパンキングのことだろう。
 あやとしてはむしろ望みまくっていたことなので、こちらが感謝することはあれども謝られる筋合いは全くないわけで。
「そうね、ほんと思いっきりやってくれたわよね」
 それでも、あやはこれはチャンスだと思った。疼くお尻が先を求めていたから、これを利用しない手はないと感じていた。
「う……」
「だからね、理樹くん。お詫びに約束してよね」
 そういっておぶられながら理樹をぎゅっと抱きしめ、顔を近づける。
 その状態で、耳元であやはこういった。
「また、やりなさい。絶対やりなさい。あたしが満足するまでやり遂げなさい。約束だからね」
「えっ」
 とんでもない約束に理樹はショックを受ける理樹。
 え、あれ、嫌じゃなかったの。またやって欲しいの。
 理樹はそう考える。それは決して理樹には理解できない部分。しかし、
「う、うん。わかった、約束、だから仕方ないよね。うん」
 それでもあやの笑顔と、自分の手に残っている叩く感触、そして自分の胸の高鳴る鼓動から素直にうなずいてしまうのだった。
 理樹のSの性癖は、まだ、目覚め始めたばかりである。
終わり
あとがき
 如何に18禁にいかないでエロい雰囲気を出せるか。なおかつ笑えるかってのをテーマに作成。まあ全年齢版『ツン○ゾ』(最高に面白いエロ小説)を目指したわけですが。そんなわけで実験作となっております。
 これがうまく行くようだったら性的な感じで首輪つけたり、体に文字書いたり、床を舐めて掃除させたりとか、そんな18禁にはいかないけどやりようによっちゃエロくなるなんつーのを模索していきたいなあとかそんな。あと今の力量でふつーに馬鹿エロとか挑戦してみたい。ダメかなリミッター解除Verとかそんな。
 まあそんな感じです。Rewrite出るまではリトバスでがんばってこう。そうしよう。