WINNER 真人

「へっ、お前はよくやったぜ、理樹」
「うう……」

 バトルランキングが開始してはや10日。
 参加人数も10人に膨れ上がり、戦いは激化していた。
 ランキング3位だった僕は、2位の真人に挑んだんだけど、結果は敗北。
 今回は双方比較的使いやすい武器だったため、真人の筋肉がものをいう結果になった。

「ま、心配すんな。お前には特別格好良いのを考えてやるから。えーと、そうだな……」


 理樹は”真人の手下A”の称号を手に入れた。


「よし。じゃあ、またあとでな」

 僕に称号を与えた真人は、次の戦場へと去っていく。

 さて、ここまでは今までとなんら変わりない日常だったはずなんだ。
 けど、あとから思えば、全てのきっかけはこのときだったのかもしれない。



 次の日。

「おーい、理樹。ノート交換してくれ」

 休み時間中のことだ。
 いつかと同じように真人が無茶な要求をしてきた。

「またあ? 前にもそういうこといってたよね。けどそれはだめだってば」
「頼むぜ。この授業は午後だから時間もあるし。それに理樹は俺の手下だろ?」
「う……それはそうだけど」

 ざわ……

「え、手下……?」
「どちらかというと、直枝が井ノ原の上だったんじゃないのか……?」
「そうだよな……井ノ原の手綱を直枝が握っている感じだし……」
「いや、でも直枝自身が認めてるんだぞ。手下だって……」

 うう、クラスメイトのひそひそ声が聞こえる。
 仕方ないから、あまり騒ぎにならないようにさっさと終わらせよう。

「で、なにをすればいいの?」
「昨日は筋肉が暴徒と化した所為でな……宿題が出来てねえんだ」
「ああ、そういえば昨日はやってなかったね。けど、そこは自分でやってよ……ノートは貸すからさ」
「すまねえ。しかし今日は筆箱忘れちまってな……プロテインならあるんだが」

 どう考えても、優先順位が違うと思う。

「はあ、わかったよ。たいした量じゃないし、僕のやつを写しておくよ。まだ時間もあるしね。書くものは、シャーペン1本しかないから貸せないけど」
「おお、さすがさすが俺の手下Aだ。頼りになるぜっ。ちなみに、Aは汗のAだからな」
「汗ってなにっ!?」
「ほら、Aceで汗だ」
「それはエースだよ……」

 なんでそんな間違え方をするんだろう。
 ちなみに、ランキングバトルでつけられた称号は、どんなに呼ばれたくなくても拒否することは出来ない。その称号が付いている限り返事はYESであり、呼ぶなとはいえないのだ。

「ありがとよ。こいつは礼だ」


 理樹はプロテインを手に入れた。


「それじゃ、僕が写してる間に筆記用具どうにかしなよ。誰かに借りるなり、購買で買ってくるなりしなよ」
「おうっ」

 真人の元気な返事を聞くなり、僕はノートを写す作業に移る。


 かきかきかきかき


「……ん?」

 クラス中から視線を向けられていたので顔を伏せていたんだけれど、ふと力のこもった視線を感じたような気がして、少し顔を上げる。
 すると、鈴、小毬さん、クド、西園さんといったバスターズの面々が、慌てたように、あるいはゆっくりと視線をそらした。
 来ヶ谷さんだけは何かをたくらんでいるような笑顔で、こちらを見ている。
 なんだか、妙なことになりそう気がするなあ……。





『理(樹)獲るバスターズ!』





 昼休みになる。
 今日は学食で恭介たちとの昼食をとった。
 色々あったけど、昼食も無事終了。
 さて、それじゃあ今日もさすらおう。



 ランキング4位の鈴と遭遇。

「しょーぶだっ」
「うん、受けてたつよ」

 野次馬から次々と武器が投げられてくる。

 キャッチ。

「って、うなぎパイ!?」
「よーし、よく集まったなお前たち」

 鈴のほうを見ると、ねこが12匹集合していた。

(か、勝てっこないなあ……)

 少しあせる。
 けど、今までのことを考えてみれば鈴の付ける称号は、そんなに変なものでもなかった。
 それを考えれば、むしろ負けるのもありかも知れない。
 とりあえず、真人の手下Aの称号は返上できる。




 FIGHT!!




 ……バトル中。




 ……で、結果。
 5回で僕のうなぎパイは折れ、あっさりと鈴に敗北した。

「理樹にはこれをやろう」


 理樹は”レノンの世話係”の称号を得た。


「ってあれ? レノンは今鈴が世話しているんじゃなかったっけ?」
「そうだ。授業中以外はほとんど付きっきりだ」
「じゃあ、僕が世話係ってどういうこと?」
「そ、それはだな……あたしが世話をしてても、レノンの世話係は理樹だから、理樹はレノンの傍にいなくちゃいけなくて、でもレノンはあたしから離れないから……その」
「?」
「うぅ……言えるかっ!! 恥ずいだろがっ!!」
「え、え? なんで?」

 なんで怒られたのかは分からないけど、鈴が言葉足らずになるのはいつものことだ。
 幼馴染ともなれば、大体の意味は汲み取れる。

「えーと、つまり、レノンの世話係だと、レノンと鈴といつも一緒にいなくちゃいけないってことだよね」

 ちりんっ

 鈴が頷く。
 なんだろう、こころなしか顔が赤くなっている気がする。
 鈴は照れたり恥ずかしがったりするとよく赤くなるけど、今はそんな状況じゃないし……。

「というわけだ。ほら、いくぞ」
「あ、うん」

 頭にレノンを乗せた鈴が、僕の手を握って歩き出す。
 どこに連れて行かれるのかは分からないけど、いつものねこの溜まり場だろうか。

「えくすきゅーずみーっ!」
「あれ、クド」

 後方の、散り始めた野次馬の中から声をかけてきたのは、クドだった。
 クドのランクは確か……6位だったはず。

「リキ、勝負を申し込みます」
「え、あ、今はちょっと……いや、そっか。下からの挑戦は断れないんだっけ」

 僕自身の試合は立った今終わったばっかりだったが、同じカードでない限りは続けて試合が出来る。
 ルール的にはクドの挑戦を優先せざるを得ない。

「ごめん、鈴。レノンの世話はちょっと待ってて」
「う、わかった……」
「?」

 なんていうか、鈴の表情がちょっと変だ。
 なんというべきか……しまったとでもいうような感じ。
 よくわからないけど、僕がレノンの世話係の称号じゃなくなるかも知れないから、嫌なのだろうか?



 さて、再びバトルだ。
 野次馬から次々と武器が投げられてくる。

 キャッチ。

「あちゃ、ダイスか」
「ヴェルカ、ストレルカ。来てくれましたかっ」

 クドのほうは犬2匹がきている。これは強敵だ。
 僕もダイスでぞろ目が出れば、なんだけれど、今までのところ一度も出たことがない。
 けど、やるしかない。




 FIGHT!!




 ……バトル中。




 結果はまたしても僕の負け。
 ……ダイスじゃなあ。

「やりましたっ」

 クドが満面の笑顔を浮かべる。

「おめでとう、クド」

 負けた僕が言うのもなんだけど、真剣勝負で負けたんだから、祝ってもいいことだと思う。

「ありがとうです、リキ。では、しょーごーふぉーゆーとぅーゆー、なのです」


 理樹は”クドずてぃーちゃー”の称号を手に入れた。


「ええと、これはクドの家庭教師ってことだよね」
「そうなのですっ。分からないところがあったら全てリキに教えて欲しいです」

 クドはやっぱり勉強熱心だなあ。

「でも、わざわざ僕じゃなくても、来ヶ谷さんや小毬さんの方が色々教え方もうまいと思うけど」
「いえ、リキに教えてもらいたいです。二人っきりで……その、英語とかのほかにも、色々と……」

 そういうと、クドの顔が赤くなっていく。
 やっぱり、英語がうまく話せないのが恥ずかしいのだろうか。いつも気にしてるし。
 他の色々っていうのも、色々苦手教科があることが恥ずかしいのかもしれない。

「リキ、さっそくなのですけど教えて欲しいことがあるのです」
「え、今はちょっと……」

 ちらり、と鈴のほうを見る。
 すると、クドに手を引かれていく僕に対して、慌てたように鈴が声をかけてくた。

「あ、理樹。もっかいあたしと勝負をしろっ。あたしに勝負を挑め」
「? そんなこといっても、鈴とは今3ランク離れてるし、勝負できないよ」
「あぅ……」
「そうですよ、鈴さん。今回は諦めてください」

 心なしかクドの表情は勝ち誇っていて、鈴の表情は悔しげだ。
 ……そんなにレノンの世話係ってつけたかったんだろうか?

「とにかくクド、ごめん。鈴とレノンの世話をするって先約があるんだ」
「いや……それはやっぱいい」

 鈴はかぶりを振った。

「え、そうなの?」
「理樹はもう、レノンの世話係じゃないからな……」
「まあ、確かにそうなるけど……だからって、鈴の頼みを無視したりしないよ?」
「いや、良いんだ。そういう決まりだ」
「? まあ、鈴がそういうならいいけど」

 いまいちよく分からない。
 いいっていう割に、鈴の表情は晴れないし。

「それじゃあリキ、家庭科部の部室まで、れっつご〜、なのです」
「あ、うん」

 対照的に、クドはやっぱり晴々とした顔をしている。
 僕の手をぎゅっと握って、ぶんぶん振り回しながら歩いているあたり、非常にご機嫌だ。

「あれ、そういえば勉強道具は?」
「大丈夫です。抜かりありませんっ」

 もしかして、何かテキストがおいてあるんだろうか?
 不思議に思いつつ、僕はクドに手を引かれるまま歩き続けた。



続く?



 あとがき

 なんとなくねこを眺めていたときに思いつきました。なんでだ?
 称号で自分のものって主張するお話です。通常のバトルランキングのルールに加え、裏ルールあり。
 今のところはまだ大人しめの称号、後半はきっとヒートアップ。
 おぼろげに後の展開は考えていますが、色々未定です。
 というか、本当に続きが書けるのかが疑問だったり。
 タイトルはあんぱんが考えてくれました。私だったらこれは思いつかない。すごくいいです。感謝。ついでに添削もしてもらったので感謝。


何か一言いただけるとありがたいです。