来ヶ谷さんが僕の部屋に忍び込んだ事件が発生してから数日がたった。
アレ以来、僕の部屋に誰かが忍び込むということはなくなった。
『暗黙の了解は既にやぶられた。もう、黙って見ている時代は終わったのだよ』
来ヶ谷さんがあの日口にした言葉。
僕はあれがチーム崩壊を招くのではないかという不安が少しあったのだが、どうやら杞憂に終わったようだ。
聞いたところによると、その日以降リトバス女性陣は夜に集まって会話を楽しんでいるらしい。仲が良さそうで何よりだった。
そして、みんなで僕たちのところへ遊びに来るという行為も何度かあった。
男子寮から女子寮へはUBラインが設置されているものの、その逆にはそんな敷居は存在しない。
来るもの拒まず、むしろ大歓迎。それが男子寮スタイルだ。
みんなが来るときはそりゃもう僕たちは大騒ぎで、よくわからない遊びで何度も楽しんでいた――二木さんを除いて。
二木さんはリトルバスターズに入っていない。
風紀委員としての役目がそれを邪魔しているのだろう。それでも、昔と比べるとだいぶ僕たちに理解は示してくれている。
それはきっと、春休みの出来事があったからだろう。
春休みの出来事、それは恭介がいるリトルバスターズ最後のミッション。
内容は二木佳奈多の救出――。
僕は葉留佳さんと一緒に二木さんを連れ出し、どこか遠くへ逃げ出す役目。
休校手続きを取ったりするほどの覚悟。
僕らは二木さんが無理やり結婚させられそうになっているところを、むちゃくちゃにして救い出した。
それから追っ手がこなくなるまでひたすら逃げるつもりだった。半年以上かかってもおかしくないと思っていた。
しかし、人生とは常に先が読めないものだ。
僕たちの行動で表沙汰になった二木家と三枝家の事情は、『世間』という最大かつ最強の勢力からバッシングを受け、その対応に追われることとなった。
そして一ヶ月もしないうちに、二木さんは自由の身となったのだ。
「――理樹、理樹!」
「……ん、あ、真人」
真人に呼びかけられる。
僕は食堂で朝食を取っていたことを思い出した。
「ぼんやりしちまってどうしたんだよ、まだ目が覚めていないのか?」
「うん、まあそんなとこ」
本当はほんの少し過去のことを思い出していただけなんだけど、言うほどのことでもないし、少なくとも間違ってはいないと思い真人の言葉をそのまま受け入れる。
寝起きだし、最近の騒ぎによる疲れもあってか本当は二度寝したいくらい眠いのだ。
「それならばよく噛んで食べるんだ。そしたら自然と意識も覚醒する」
謙吾のアドバイスにしたがって、箸でつまんだご飯をよく噛んで食べる。
次第に周りの様子を気にするほどに目が冴えてきた。
「それにしても、みんな遅いね」
あの唯湖さんの件以来、リトルバスターズ全員で食事を取ることが増えてきたのだが、今日は何故かまだみんな来ていなかった。
「ああ、しかも今日の食堂はなんだか人が普段より少ないぜ」
「この時間帯はもう少し人がいるはずなんだがな」
真人や謙吾のいうとおり、食堂にもいつもよりあまり人がいなかった。
今日が学校休みというわけでもないし、特に大きな行事もなかったはずだ。
「理樹くん、理樹くーん!!」
そういったことを話しているとこの場に葉留佳さんがやってきた。
いつもならみんな一緒のはずなのに今日は何故か一人で。
「あ、おはよう葉留佳さん」
「うんおはよう理樹くん……ってそんな悠長なこと言ってる場合じゃないよ! 大変なんだよー!」
「大変?」
「何があったのか言ってくれないと俺たちにはさっぱりだ」
何かあったというのだろうか。謙吾の言うとおり何がなんだかよくわからない。
「えっとね! 男が女に、女が男に入るの禁止になっちゃったんだよー!」
「……は?」
ますますわけがわからなくなった。
「いいから来て!」
「え、あ、ちょっと葉留佳さん!」
葉留佳さんは僕の静止も無視して僕の手を引っ張っていく。
「あ、おい待て!」
「俺たちもいくぞ!」
こうして食事を中途半端に残したまま、僕らは食堂を後にした。
葉留佳さんに引っ張られた場所、それは寮の掲示板の前だった。
ここには行事予定やら、奨学金についてやら、そういった寮生に伝えるための連絡事項が逐一張り出されている。
そこにはたくさんの寮生が集まっていた。おそらく食堂に人が少なかったのはこちらに人が集まっていたからだろう。
もちろん、リトルバスターズのみんなの姿もあった。
「姉御ーみんなー! 連れてきたよー!」
葉留佳さんがリトルバスターズのみんなに声を掛ける。
みんなも同じように驚きの表情をしていた。
「理樹、大変だ!」
「大変なことになってるんだよー」
「どうしたの一体?」
鈴と小毬さんの様子からして大変なことが起きているのはわかるけど、肝心の何があったのかはぜんぜんわからない。
「理樹君、いいから黙ってその掲示板を見るんだ」
「掲示板をって……」
来ヶ谷さんに言われて、人ごみの隙間から掲示板を覗き込む。
一番目立つよう真ん中に、大々的に張り出された紙。
そこには、こう書かれていた。
『寮生の人たちへ。今後一切、19時以降、各寮への異性踏み入りを禁ず』
「……え?」
異性踏み入り禁止。それはつまり、夜の集まりが禁止されたということ。
「ええー!?」
「マジかよ……」
「理樹、お前寮長なのに聞かされていなかったのか?」
「う、うん」
謙吾が素朴な疑問を口にするが、実際、僕も今この場で初めて知ったことだった。
「わふー! これでは夜みんなで騒ぐことができなくなってしまいます!」
「多分それが原因だと思うけど……」
確かにここの寮はその辺の規則がゆるかった。
むしろ今までがおかしくて、実際はこれが自然なのかもしれない。
「ふむ、これはどうやら先手を取られたようだな」
「……みたいですね。自身がその行為に抵抗があるため、全体にそれを強制させる。相手を前に進ませないための最良の手段です」
来ヶ谷さんと西園さんはどうやら何かを理解したらしい。冷静に状況判断を行っていた。
「く、いつか監視のつかないタイミングでの侵入を考えていたのに、不覚を取ったわ!」
一方であやちゃんは悔しそうに地団駄を踏んでいる。
……監視って? まさかみんなで集まっての会話って監視目的?
僕は気のせいだと思うことにした。まさかみんなにそんな黒い裏があるなんて思えない。思いたくない。
「理樹、どうするんだ?」
「どうするも何も……こうして貼り出された以上守らないとね」
「他の時間に会う分には問題ありませんしね」
鈴の質問に僕は正論を述べる。笹瀬川さんの言うとおり、ダメなのは夜7時以降だけだ。
それに、遊ぶときは外で遊べば全く問題はないのだから。
「――と、みんなそろそろ朝食とらないと。授業に間に合わなくなっちゃうよ」
周囲の人たちが少しずつ減っていくのを見て、そのことを思い出す。
僕らは食堂へ向かい、食事の続きをしながら今後のことについて話し合った。
……そういえば、二木さんはこのことを知っているのだろうか。
「直枝、監視を始めることにしたわ」
「へ?」
そんな朝のイベントがあった日の学校にて、二木さんと挨拶後最初に話した言葉がそれだった。
どうやら二木さんはこのことは知っていたようで、それよりも二木さんの突然の言葉に戸惑う。
「あの、二木さん。監視って……」
「もちろん寮のことよ。今回の規則はまだ全体に浸透していないわ。それに軽く考えている人もいるかもしれない。そこで最初のうちは人の監視も必要だと私は思ったのよ。さしあたって、それは寮長である私たちの仕事。まったく、余計な仕事が増えてしまったわ」
そうは言っているものの、二木さんの顔から嫌々といった雰囲気は感じない。
むしろ楽しそうにしているのは気のせいなんだろうか。もしかしたら、そういうのに喜びを感じる人なのかもしれない。
……二木さんって見た目どおりSな人なんだろうな。
「もちろん、寮母さんからは許可を得てきたわ」
「それじゃあ、日替わり交代ってことかな。あ、週替わりでもいいかもしれないね」
僕は見回りについて意見を述べる。
見回りは一人でもできる仕事だし、少しでも寮長としての負担を減らすためにもそれがいいと判断したからだ。
「何を言っているのよ。もちろん二人でよ」
でも、その意見はわずか1秒で却下された。
「え、でも……」
「いい? 例え私が夜這いしようとする輩を見つけたとしても女手ひとつでは止められないわ。そのための二人での行動なのよ」
「うん、でも僕たちでも来ヶ谷さんとかは止められないんじゃ……」
「そもそも! あなたが一番危険なのよ、襲われるという意味でね。それなら近場に置いておいた方が安全というものよ」
「は、はい。そうですね」
遠まわしに責められている気がして、思わず丁寧に答えてしまう。
「そういうわけで今日から始めるから、襲われることのないよう防犯グッズくらいは持っておいた方がいいわ」
「……え、今日から?」
「当然でしょ。規則の執行が今日からなのだから」
「うん、そうだね……」
こうして、本日の夜の予定はあっさりと寮長の仕事で埋まってしまったのだった。
規則で定められた時間である夜7時となる。
僕らは唯一の例外として外で見張りをしていた。
寮内からはまだ光は漏れているものの、声はそれほど漏れていない。
どちらかというと静かな夜だった。
いつもなら静かな夜というのは精神的に落ち着くのだが、今日はそれが逆効果に感じる。
隣に二木さんがいるからだ。
軽く挨拶を済ませた後はお互い無言の状態が続いている。
「そ、それにしても、今回のことって突然だったね」
なんとか話題を作ろうと、今回あった件について口にする。
「……そうかしら。これまでも寮の騒ぎについては色々と苦情が出ていたわ。だからこそ新入生が入ってきたタイミングで規則を改めなおすというのは間違っていないと思うけど」
「そ、それもそうだね」
しまった。二木さんの同意を得て話やすくするつもりだったのに、かえって一層気まずくしてしまった気がする。
何を話せばいいかわからない。話してもさっきのようになってしまうかもしれない。
一度の失敗は僕の発言を極端に制限させる。
そんなとき、二木さんから僕に話しかけてきた。
「ねえ、直枝」
「は、はい!」
「あなたは、今回の規則についてどう思うの?」
何故か不安そうな表情をして聞いてくる。
僕は正直にその質問に答えた。
「うーん、確かに夜騒いでいた僕らとしては残念な部分もあるけど、でも迷惑をかけてた部分もあるんだからしょうがないかなって」
「そう、怒ってはいないのね」
それを聞いて二木さんが安堵の表情を見せた。
でも、どうして二木さんが安心しているのだろう。
「うん、それにみんなとはいつでも会えるし」
永遠に会えなくなったわけじゃない。
僕らはいつでも集まって、そして楽しくやっていけるのだ。
「それを聞いて安心したわ……ところで直枝」
「ん?」
「好きな人はいるの?」
「ぶふっ!!」
突然の質問に噴出す。
「別に言ってもいいじゃない。今は誰もいないわ」
「そ、そうだけど」
僕の好きな人。そういわれても答えに困る。
「リトルバスターズのみんな……ってのはダメかな?」
「……あきれた。ハーレムでも作るつもりかしら。いえ、もう作っているわね。汚らわしい」
「うう」
二木さんの言葉が胸にささる。
「誰か一人ってことはないの? あのチームの女子はあなたに多かれ少なかれ好意を抱いているわ。それで変なことにもなっているし」
「うん、それで少し困っているんだよね。それでぎくしゃくしないかって」
「そう、それなら――あのチーム以外の子と付き合ってみるってのはどう?」
二木さんは少し考えて、そして意外な提案をしてきた。
「リトルバスターズ以外の子?」
「そ。それならチーム内での余計な亀裂も入らないわ」
「うーんでも、リトルバスターズ以外の女の子とはあまりしゃべらないからなあ」
杉並さんくらいだろうか、他に話す女子といったら。
でもいきなり付き合うというのも、なんだか恥ずかしい。
「……それなら、私と付き合ってみる?」
「へ?」
二木さんの一言に目が点になる。
二木さんは指で髪の毛をくるくると回していた。
「僕が? 二木さんと?」
「別に本気でってわけじゃないわ。でも、そうすることでチームもまとまるんじゃないかしら」
「で、でも。それって二木さんに迷惑じゃ」
「平気よ。あなたたちに散々つき合わされてきたのだから。むしろ相手が一人で済む分そちらの方が楽というものだわ。それに、春休みのお礼も兼ねてそうしてもいいと思ったのよ」
どうしてだろうか。
二木さんの提案が少し魅力的に思えてくる。
確かにそれだとリトルバスターズに余計な亀裂が入ることはなさそうだ。
「でも、それってなんか違うような……」
「みんなが好きってことは、付き合いたいと思う一人っていうのはいないわけよね。なら問題ないんじゃない、本気ではないのだし」
本気ではないを強調してくる二木さん。
その一言が少しだけ残念な気持ちと、それならという気持ちを同時に与えてくれる。
「それとも直枝は私と付き合うのが嫌?」
「そ、そんなことないよ! 二木さんは可愛いと思うし」
て、慌てて何を言っているんだ僕は。
思わず恥ずかしくなって顔が熱くなる。
一方でその言葉を聞いた二木さんも顔を赤くしている。
「……あなたって恥ずかしげもなくそんなこというのね」
「いやいや! 恥ずかしかったから!」
二木さんがじと目でこちらを見る。
しかしやがて目をつぶってため息をひとつつくと、話を本題に戻してきた。
「で、先ほどのはOKサインと見ていいのかしら」
「え、えーと」
OK、しちゃっていいんだろうか。
二木さんだって嫌いじゃない、むしろ好きな方だ。
それでいてリトルバスターズの余計なしこりを取り除けると考えたら悪くないのかもしれない。
僕は答えを口に出そうとした。
「うん、わか「ダメですー!」
僕の声をふさぐかのように大きな声が響き渡る。
その声の主はコンクリートの壁の死角から突然でてきたクドの姿だった。
そしてクドに続いて続々と鈴や小毬さんといったリトルバスターズのみんなが出てくる。
「何してるのあなたたち」
「はわわわわ!」
「午後7時から禁止されたのは寮間の異性移動のみで、外出は禁じられてはいないのだからなんら問題はないはずだが」
小毬さんがあわてているところを来ヶ谷さんがフォローする。
来ヶ谷さんの言うとおり、うちの寮の門限は午後9時までだ。
だからみんなが外にいるのは全く問題はないわけで。
「むしろ、どうして私たちがこうして隠れていることに気づいてないのでしょうか。どうやら見張りをしていたようですが」
西園さんが二木さんに追い討ちをかけるかのように失点を口にする。
確かに僕は二木さんのことを気にしすぎるがあまり周りが見えていなかった。
でも、二木さんも気づいてなかったということは、二木さんも周りが見えていなかったというわけで。
「それでこそこそと私たちの話を盗み聞きしていたわけね。いつからそんなこそ泥まがいのことを」
「こそ泥まがいって何よ! あなたこそ理樹くんをだまそうとしていたじゃな…もが」
「まあ落ち着け朱鷺戸君。今回の件は確かにしてやられたと思ったよ。しかし、私たちとて黙って見ているわけにもいかなくてね」
あやちゃんの口をふさぎ、話を始める来ヶ谷さん。
「規則改正の件はうまく立ち回ったものだ。同じ寮長である理樹君が全く気づかなかったわけだからね」
「え、もしかして今回の規則改正ってもしかして……」
「……そう、私がしたことよ。特に来ヶ谷さんの夜這い事件はこの規則改正を進めるのに大きな助けとなったわ」
認める二木さん。相手への皮肉を含めて。
「ふむ、そればかりは私のミスだな。やはり感情に任せて動くとなんらかのミスをまねくようだ。もっとも、そのくらいなら軽い方だが」
それを真っ向から受け止める来ヶ谷さん。
自分がしたことに後悔をしていないことの証明。そして、強い意志の表れ。
「その後、自分と直枝さんの立場である寮長を利用して二人きりになる状況をつくり、私たちの状況を利用して直枝さんと付き合おうとしました。どこまでが計画されたものかわかりませんが、ここまでうまく事を進めたことには感心すら覚えます。ですが、最後の詰めを誤りましたね。先程の来ヶ谷さんの言葉を借りれば、感情に任せて動いたがために私たちに付けいる隙を与えてしまった、といったところでしょうか」
「よくわからんが、そういうことらしい」
西園さんが来ヶ谷さんに続いて二木さんのしてきたことを口にする。鈴がおそらく状況を理解しないままうなずいていた。
「……」
「佳奈多さん、どうしてデスか?」
無言になる二木さんにクドが話しかける。
「お姉ちゃん……」
「……」
葉留佳さんも呼びかけるが応じない。
「ふむ、もう素直になっていいのではないか。佳奈多君」
「!」
「そうですわ。あなた、あのとき妹さんの名前でごまかしてらっしゃったけど、本当は――」
「あなたも、直枝さんのことが好きなのでしょう?」
あのときとは笹瀬川さんが初めて二木さん、そしてあやちゃんと対面したときだろう。
笹瀬川さんが口にするその言葉はどうやら図星だったようで。目を見開いてみんなのことをにらんでいる。
やがて、二木さんが口を開いた。
「ええ、そうよ。私も、直枝のことが好きよ! でも、葉留佳や、クドリャフカがいたからほんの一歩ひいておこうと思っていた……」
彼女にとって大切な人、その人たちと同じ人を好きになってしまったから、彼女は僕をあきらめようとしていた。
「けれど、朱鷺戸さんや笹瀬川さんが積極的に動くのを見ていて、私の中で『この人たちに取られるくらいなら』という気持ちが芽生えてしまった……」
でもそこに自分の感情とは全く逆に動く人たちの姿を見て、彼女はうらやましく、そして妬ましく思ってしまった。
「そして、来ヶ谷さんの言葉で私は決意したわ。自分の気持ちに素直になろうって。そのために前から進めておいた規則の改定を急遽執り行って、誰も夜に手が出せないようにした」
「そして、さらに二人になれる時間を作り出した。そういうことね」
いつの間にか来ヶ谷さんの口封じから解放されていたあやちゃんが言った。
「そうよ。せっかくもう少しで付き合えるはずだったのに。よりによって私が大切に想っている相手に邪魔されるなんてね」
そういって二木さんはクドをちらりと見た。そこにそれほど怒りの感情は感じられない。
「まあ、今回の件で私にもチャンスがあるということがわかったわ。これは大きな収穫ね」
「おねえちゃん、それって……」
「ええ、私もあなたたちみたいにわかりやすく答えてあげる」
「直枝は、私のものよ。もう、自分の気持ちに迷わない」
二木さんの宣戦布告。
「ふ、二木さんもだなんて……」
幸せなのだろうけど、どうすればいいのかわからない当の本人である僕。
「また厄介な敵ができちゃったわね……」
「誰がこようと、わたくしの敵ではありませんわ」
「ふむ、強敵は増えれば増えるほど熱いものだ」
既に同じような言葉を言った人たちは、少し不安そうで、そして少し楽しそうであった。
次の日、リトルバスターズの野球活動の時間。グラウンドにて。
僕らの仲間に新しいメンバーが加わった。
「え、えっと。それじゃあ新しい仲間を紹介……といってもみんな知っているけど」
「二木佳奈多です。今度は仲間としてよろしくお願いします」
半分驚き、半分納得といった表情のみんな。
「え? え? おねえちゃん風紀委員は?」
「やめてきたわ」
葉留佳さんの質問にあっさりと答える二木さん。
「いったじゃない。自分の気持ちに素直になるって」
「わふー、佳奈多さんもこれからは仲間です」
クドにとってはすごくうれしいことなのだろう、元気にはしゃいでいた。
「直枝」
二木さんが僕の方を向いて口にする。
「これからは、仲間としてよろしくお願いね」
「え、う、うん」
僕はこれからのことを考え、曖昧にうなずいた。
つづく
あとがき
大変遅くなりましたが佳奈多編です。
これで当初考えていたネタのストックは全て尽きてしまいました(ぇ
まあいつものことなんですが。続きはひらめいたらってとこですかね、多分。