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『理樹くんはあたしのもの』





 色々あった2年の頃。
 僕は不思議な体験を二度も味わった。
 ひとつは修学旅行、ひとつは秋。
 どちらもおぼろげだけど、ものすごくかけがえのない記憶。
 僕はそれによってみんなとさらに仲良くなり、笹瀬川さんや二木さんとも仲良くなれたのだから。
 そして、僕らは3年生になった。
 恭介も無事就職して、僕らも無事進級できた。まあ、高校生だしよほどのことがない限り進級できるんだけど。
 そんな3年になった4月、始まりの日。
 そう、全ての始まりの日。


 僕は女の子三人がにらみ合っている場にいた。


 一人は、二木佳奈多さん。
 葉留佳さんの姉で、昔は色々あったらしいけど今は仲良くしている。
 一人は、笹瀬川佐々美さん。
 僕が思うに鈴のライバルで、友達。秋にあったことで仲良くなった。
 そしてもう一人は、間違いなく今回の元凶。
 僕の目の前に突然現れた女の子。

 その名は、朱鷺戸あや。

 僕が知る限り、ほぼ接点はないといっていい三人。
 その三人がどうしてにらみ合っているのか。
 それは今日という日を最初から振り返らないといけない。



「おはよう」
「よお、おはよう」

 食堂で僕は真人と一緒に、先に来ていた謙吾に挨拶する。

「あぁ、おはよう……ふむ、ちゃんと今日が登校日だというのは理解していたようだな」

 謙吾が僕らが制服を着ているのを見ていった。
 しかし、当の謙吾は相変わらず剣道着だ。
 せめて始業式の日くらい制服でもいいのにと思う。

「おうよ、俺様の筋肉にしっかりと書きこんでおいたからな」

 真人はそういって腕まくりをする。
 そこには確かに汚い字で『4月7日始業式』と書かれていた。

「ほう、メモとはお前も成長したじゃないか」
「ふ、よせやい。照れるじゃないか」
「しかし、別に紙に書いても良かったんじゃないか?」
「うおー!! そうだったーーー!!!」

 真人が頭を抱える。
 まあ、多分筋肉に書いてたから真人もそのことを覚えていたんだろうけど。
 きっと紙に書いたらすぐに忘れちゃっていたと思う。

「おはよう、お前ら」

 そこに鈴が遅れてやってきた。

「おはよう、鈴もしっかり起きてこれたね」
「みんなにメールしてもらった」

 そういって鈴が携帯を見せてくれる。
 そこには他のみんなからのモーニングメールがあった。
 昔の鈴じゃこういう風にメールのやりとりをするってことはとても考えられないことで、成長してきているんだなと感じさせてくれる。

「そんじゃ、とっとと飯食って学校へ行くか」
「うん、クラス表も確認したいしね」

 うちの学校では、進級するたびにクラスが変わる。
 去年は葉留佳さんと笹瀬川さん以外ほとんどみんなと一緒だったから楽しかったけど、今年は一体どうなるのか。
 考えるだけでもどきどきする。

「理樹」
「ん? なに、鈴?」
「……また、一緒のクラスだといいな」
「そうだね」

 そう、またリトルバスターズのみんなと一緒のクラスになりたい。そして、去年を越える楽しい日々を作りたい。
 それはある意味、2年の頃僕たちに楽しい思い出をたくさん残してこの学校を去っていった恭介に対する挑戦の意識もこめられていた。



 朝食を終え、学校の校門前まで歩いていくとそこには小毬さん、クド、葉留佳さん、来ヶ谷さん、西園さんの姿があった。

「おはよう少年」
「あれ? みんなどうしてここに」
「それはね、みんなでクラス発表見ようと思ってー」
「しょうたーいむ、なのです!」
「今、これからここで! この場で1年間生死を共に分かち合う仲間たちが決まるー決まっちゃうー!!」
「い、いや、そこまでのものじゃないと思うけど」

 葉留佳さんのテンションに押されながらも僕はみんなでクラス発表の紙が貼り付けてある掲示板へと向かう。
 そこには他の生徒もたくさん集まっていた。
 みんながみんなその紙を見て一喜一憂している。
 多分僕らが受ける今年の受験のときもこんな感じなんだろうなと思いながら、僕は自分の名前を探し始めた。

「お、あったぜ」

 どうやら真人が自分の名前を見つけたらしい。
 50音順で並べると井ノ原という苗字は一番上の方のため、すぐに見つけられたみたいだ。
 すぐみんなでそのクラスの名簿を確認する。

「またこの馬鹿と一緒のクラスか」

 謙吾も真人と一緒のクラスのようだ。
 その言葉にはあきれが半分と、安心が半分感じられる。

「わふー私の名前もありましたー」
「あ、あったよー」
「あたしのもあった」

 クド、小毬さん、鈴も見つけていく。

「私のも…ありました」
「ふむ、どうやらまた君たちと楽しくやっていくことになったようだ」
「うおー姉御、一緒のクラスですぜい!」

 西園さん、来ヶ谷さん、そして葉留佳さんも同じところで見つけたようだ。
 でも、僕はそれを素直に喜べなかった。

「……」
「ん、どうした理樹」
「何かあったのか」

 真人と謙吾があきらかに様子がおかしくなっていたらしい僕に話しかけてくる。

「う、うん。あのね、僕の名前……ないんだ」

 みんなが僕の方を振り向く。そして最初の名前から順に僕の名前を探し始める。
 でも、ないことはわかりきっていた。僕だって何度も確かめたのだから。

「嘘だろ……」
「わふー離れ離れになってしまいました……」

 みんなが残念そうにしている。
 僕も、まさか自分だけはぐれるとは思いもよらなかった。
 さっきまでの浮かれモードが一気に暗くなる。

「理樹と違うクラスになってしまった……」
「鈴……」
「だーいじょーぶ! 問題なっすぃんですよ!」
「……葉留佳さん?」

 突然葉留佳さんがその場に活を入れるかのように大きな声で語りだす。

「はるちんだって去年は別のクラスだったけど、まーったく問題なかったデスよ? だから理樹くんもうちのクラスに遊びに来ちゃえばいーんだよ!」
「……そっか、そうだよね」

 そうだ、別にクラスが分かれたからって一生離れるわけじゃないんだ。
 これからも普通に休み時間や放課後集まる分には全く問題ない。

「ふむ、葉留佳くんの言うとおりだ。たまにはよいことを言うな」
「やはー姉御に褒められちゃった」
「うん、ホントに珍しい。雨が降るな」
「ひどっ! 鈴ちゃんその一言は胸にグッサーですよ」

 みんなに褒められて照れている葉留佳さん。すごくうれしそうだ。
 その様子を眺めていた僕にクドが話しかけてくる。

「ところで、リキのクラスはどこだったんですか?」
「あ、そういえばどこなんだろう」

 僕が改めてクラス発表の紙を見ようとした瞬間だった。

「あら、ごきげんようみなさま」

 この丁寧なお嬢様言葉。僕の知り合いの中でこんな風に話すのは一人しかいない。
 そう、彼女の名前は……

「ざじずぜぞぞみ!」
「さ・さ・せ・が・わ・さ・さ・みよ! あなたまだ間違えるのね!」
「まあまあ、で、笹瀬川さんどうしたの」

 笹瀬川さんが僕らの元へやってくるというのは、リトルバスターズのメンバーってこともあるから普通だとは思うんだけど。それでも笹瀬川さんのあの笑みは何か話題を持っているということだ。

「ふん、まあいいですわ。それより……直枝さん、これからよろしくお願いいたしますわね」
「へ? なんのこと」
「なんのことって……あなた、クラス表見てないんですの?」

 笹瀬川さんの話から考えられること、それはたったひとつ。
 でも、それはまず確認する必要がある。

「ごめん、ちょっといろいろあってまだひとつしか見てないんだ」
「しょうがないですわね、ほら、わたくしたちのクラスはここですわ」

 そういってみんながいるクラスとは別のクラス表を指す。
 確かにそこには僕の名前があった。

「あ、ほんとだ。僕の名前がある……」
「こらー! 何でお前が理樹と一緒のクラスなんだー!」

 鈴が笹瀬川さんを威嚇する。

「そんなのわたくしにいわれても困りますわ! まあ、日ごろの行いってやつかしらね」

 そういってお嬢様笑いを始める笹瀬川さん。
 それを尻目に、僕は自分のクラス表を眺めていた。
 その中に、さらにもう一人、見知った名前を見つける。

「直枝」

 ちょうどタイミングよく、僕はその見知った名前の子に呼ばれた。

「あ、二木さん」
「どうやら同じクラスのようね。前のクラスのように暴れて、あまりこちらに迷惑をかけないでちょうだい」
「はは、気をつけるよ」
「……相変わらず、厳しい言葉もちゃんと受け止めるのね。まあ、仲良くやっていきましょう」

 二木さんはそういって笑みを浮かべる。
 若干その笑顔にはまだ何かが含まれている気がするけど、それでも最初に会った頃と比べたらだいぶよくなった。あの頃は明らかな敵意があったし。
 まあ、二木さんとは寮長の仕事の手伝いを何度もやってきたしね。そして二人して新たな寮長にもなっちゃったし。

「えー! おねえちゃん理樹君と一緒のクラスなのー!? ずーるーいー!」

 そこに葉留佳さんが入り込んでくる。二木さんと葉留佳さんは苗字は違えども姉妹なのだ。
 そこにはさまざまな事情があったけれど、少なくともこの二人の間にそのことが原因であったわだかまりは解決している。

「ずるいと言われても、さすがにどうしようもないわよ」
「そこはですね、ほら、変わり身の術ーって感じで変装を……」
「葉留佳に私をそっくりそのまま真似ることができるのかしら?」
「あいた! そこはおねーちゃんつっこんじゃダメっすよ」

 傍目から見て仲のいい姉妹だなと思う。
 見ていると、去年まで仲が悪かっただなんてとても信じられなくなるくらいに。

「ところで、そろそろ始業式が始まる時間よ。それが終わったら各自の教室に集合ですって」

 二木さんからこの後の日程を聞かされる。

「あ、うん。わかった。ありがとう二木さん」
「それは口よりも行動で示してちょうだい」
「いえーす、れっつごーたいいくかん、なのです」

 この学校では、始業式は体育館でいつも行われるのだ。
 僕らはそのまま先を行く二木さんとクドの後についていきながら、体育館へと向かった。



 始業式が終わったあと、僕は真人たちと別れて、二木さん、笹瀬川さんと一緒に新しい教室へと向かう。
 そして一番最初にあてがわれている席に移動する。僕の席は一番後ろにあった。
 他の同じクラスになるみんなもぽつぽつとやってき始めて、席についていく。
 中には、あまり話すことはなかったけど去年同じクラスだった子とかもいて、そういう子たちとは軽く挨拶を交わしていく。しかし、何故か僕の隣の席に座る生徒は現れなかった。
 まもなく、先生がやってきた。さっき始業式の時紹介されたこのクラスの担任だ。

「みんな、このクラスの担当になった高橋だ。みんなのことはこれから覚えていこうと思うのでよろしく頼む」

 どちらかというと体育会系の男の担任だった。
 真人辺りだったらどんな先生なのか知っているかもしれない。今度聞いてみよう。

「ところで、いきなりだがこのクラスに転校生が入ることになった」

 突然の担任の一言にクラス全体がざわめく。
 転校生という言葉はそれだけ何かの力があるのだ。

「さ、入ってきてくれ」

 担任に言われて教室に入ってくる女の子。
 僕はその女の子に、どこか見覚えがあった。
 それは昔の記憶なのか、それとも……。

「朱鷺戸 あやです。これからよろしくお願いします」

 丁寧に礼をする女の子。
 クラスのみんなはというと、かわいい女の子が入ってきたということでテンションがあがっているようだ。

「この受験を控えている3年という忙しい時期だが、みんな仲良くして、そしてこれからの困難に立ち向かってほしい。さ、あや君、きみの席はあそこだ」

 そういって僕の隣の空席を指す。
 なるほど、今まで誰も入らなかったのはそのためだったのか。
 担任に言われたとおり、その子が空席へとやってくる。
 そして彼女は座るとき邪魔にならないよう、髪をかきあげながら席に着く。
 ふわっと、いいにおいがした。この子の髪の毛からだろうか。

「これからよろしくね」

 最初だからということで挨拶する。今後色々と接する機会もあるだろうし。
 しかし、彼女は僕を一瞥するや否やそっぽを向いた。
 どうしてだろう、僕何か悪いことしたかな。

「えーそれでは、明日からのことについて説明する」

 担任が明日からの日程や、3年になった自覚についてやら、色々と話し始める。
 けれど僕には、隣に座った転校生がいつまでもそっぽを向いていることが気になってしょうがなかった。

「こら、直枝……だったか。今は人が話しているところだぞ」
「あ、すみません」
「転校生が気になるのはわかるが、先生の話はしっかり聞いてほしい」

 どっと周りから笑いがもれる。うう、恥ずかしい……。
 再び、先生の話が始まった。僕も今度はちゃんと先生の話を聞き始める。
 突然、目の前に何か飛んできた。それは机の上に落ちる。
 何度も折られた紙だった。僕は先生に見つからないよう、机の下でこっそりと開ける。

『授業が終わったあと、裏庭の焼却炉にて待つ』

 紙に書かれた内容、それは呼び出しだった。
 一体何だろう、というか誰から?
 気になることはたくさんあるけど、とりあえず行くことに決めた僕は紙をポケットの中にしまう。
 担任の話も、まもなく終盤となっていた。

「――と、いうわけでこの高校最後の一年、よく頑張ってほしい。俺からは以上だ。じゃあ今日はこれで終わりとする」

 全員で起立、礼を行う。
 まもなく、新たに同じクラスとなった人たちと話し始めるか、すぐ帰るかの二択に分かれた。

「直枝さん、一緒に帰りませんこと?」

 笹瀬川さんが僕に話しかけてくる。
 そのこと自体はうれしいんだけど、先ほどの手紙の件もある以上断らなくてはいけない。

「ごめん、ちょっと用事があるから」
「あら、そうですの……わかりましたわ。それでは、ごきげんよう」
「うん、またね」

 僕は笹瀬川さんに挨拶を済ませると急いで裏庭にある焼却炉へと向かう。
 そこには誰もいなかった。ちょっと早すぎたのかもしれない。
 まあ、まだクラスの中にもたくさん残ってたし。もう少し待っておこう。
 一人でいると、風による木の葉のすれる音とかが聞こえてくる。
 他にも、猫か何かががさがさと音をたてたりする音だろうか。その存在がどこにあるのかは残念ながら見渡してもわからなかったけど。
 しかし、まだだろうか。まだそれほどたってはいないと思うけど。それでもずっとこうして一人で待っていると不安になる。
 単なるいたずらだったんだろうか、そんな考えすら頭をよぎってきたときだった。

「待たせたわね」

 いつの間にだろう。今日来た転校生が僕の傍まで来ていた。
 気配なんて全く感じなかった、周囲にはちゃんと気を配っていたはずなのに。
 ともかく、朱鷺戸あやさんだったか、この人が僕を呼んだ張本人と見て間違いないようだ。

「ん、大丈夫だよこのくらい」

 もう少しでいたずらと判断しただろうことは黙っておく。
 しかし、転校生である朱鷺戸さんが僕にどんな用だろうか。さっきまで無視していたのに。

「で、何の用?」
「――直枝、理樹よね? 名前」

 朱鷺戸さんが確認するかのように聞いてくる。
 どうして僕のフルネームを知っているのかはおいといて、確かにあっているので僕は素直にうなずく。

「うん、あってるけど」
「そう――」

 やがて体をわなわなと震わせはじめた。
 僕、この子になんか悪いことしたかな。そんなことを考えていると――


「会いたかった!」


 いきなり抱きつかれた。
 それはもう、僕もびっくりで、きっと誰か見ていたりしたらその人も驚くっていうくらい突然のことだった。

「な、何をしているのよ!」
「な、何をしていますのあなたたち!」

 そう、ちょうどこんな感じで、思わずつっこんでしまうような――って、え?

「あ、あれ? どうして二木さん、笹瀬川さんがここに」

 そう、突然近くの茂みから二人が出てきたのだ。
 僕はむしろそっちの方につっこみを入れてしまう。

「べ、別にわたくしはほんの偶然通りがかっただけですわ! 直枝さんの後をつけたりなんてしてはおりませんでしたわよ」
「わ、私はただ、直枝理樹の後を笹瀬川さんがついていくのが見えたから気になってついてきただけで――そ、それよりもあなた! 一体何をしているのよ!」

 二木さんが朱鷺戸さんに対して声を荒げる。
 なんとなく、話題をすり変えただけのような気もするけど。

「あたしはただ理樹くんに挨拶をしただけよ」

 僕に抱きついたまま、返答をする。
 と、朱鷺戸さんってこんな人だったのか。

「理樹くんって……あなたたち今日あったばかりじゃないの」
「違うわよ、既に昔会ってます。ね、理樹くん」
「えっと……」

 僕は必死に記憶を手繰り寄せる。が、全く思い出せない。

「ゴメン、記憶にないんだけど……」
「え……」

 朱鷺戸さんは僕を離し、2、3歩後ずさる。

「……そうよね。もう10年以上前のことよね。そりゃ忘れたってしょうがないってものだわ。むしろ覚えている方がまれというか、むしろ覚えているのってそれなんてギャルゲみたいな感じよね。今あたしはそんな非現実的な立場にいるっていうことね。まさに悲劇のヒロインだわ。いや、ある意味喜劇よね。ええ、笑うべきよ。笑っちゃえばいいと思うわ」
「あ、あの。朱鷺戸さん?」
「あーっはっはっは」

 ふと、その特徴的なしゃべり方と笑い方にどこか聞き覚えがあったことを思い出す。
 そしてそれは次々と記憶のピースにつながっていく。
 やがて、ひとつの答えが生み出された。

「……もしかして、あやちゃん?」
「思い出したの!?」

 ひとしきり笑ったあとものすごく落ち込んでいたあやちゃんが、途端に反応して思わず顔を近づけてくる。ものすごく近い。

「う、うん。そういや昔よく遊んだなーって。まだちょっと曖昧だけど」
「ううん、思い出してくれただけでもうれしいわ!」

 そういって再び抱き着いてきた。
 く、苦しい。

「こら! やめなさい。苦しがっているじゃない」
「それに、たとえ幼馴染であったとしてもその行動は理解し難いものですわ!」

 二人が僕を助けようと必死に止めようとしてくる。
 しかし、そんな二人に対してあやちゃんは堂々と言い放つ。

「いいえ、おかしくはないわ。だって――」


「あたしは約束したんだもの。今度会うときは恋人同士にって」


「「「えええ!?」」」

 思わず声がハモる。
 僕の記憶にはないけど、多分約束しちゃったんだろう。
 小さい頃ならそういうことしているかもしれない。

「そういうわけなの。むしろ邪魔者はそっち」

 しっしっと、二木さんと笹瀬川さんに手をふってあしらう。

「冗談じゃありませんわ……」

 それに反撃をしたのは笹瀬川さんだった。

「いいですの! 直枝さんはわたくしの恋女房なのですわ!」

 自信満々にあやちゃんに対してそう言い放つ。
 いや、恋女房って野球におけるピッチャーとキャッチャーの関係なだけだけど。

「「な、なんですって!」」

 それに対して驚くあやちゃんと二木さん。
 て、どうして二木さんまで驚いているのだろう。

「いやいや、恋女房ってただ単にピッチャーとキャッチャーの関係……」
「そういうわけですから、あなたの入る隙はございませんわ」

 僕が説明する前に笹瀬川さんに口を挟まれた。

「逆じゃないの? 勝手に入り込んでいると思っているだけで、実は外にいるとか」
「んまっ! 口の減らない方ですわね!」

 笹瀬川さんはともかく、あやちゃんも結構強気な性格だからついけんか腰に言葉を返す。
 とにかく、ここはどうにかして場を収めないと。

「まあまあ、二人とも……」
「二人とも……いい加減にしなさい」

 僕よりも先に、二木さんが二人の間に割って入る。
 風紀委員長としてだろうか、言葉には怒気がこもっていた。

「さっきから話を聞いていれば……いいわ、しっかりと教えてあげる」

 何を教えるのだろうか。若干嫌な予感がする。
 そしてその嫌な予感というものは大抵当たるのだ。

「直枝理樹は私……いえ、葉留佳のものよ!」
「えええー!!?」

 今度は僕だけが驚いていた。何がって突然葉留佳さんの名前が出てきたことに。
 というかその前になんかとんでもないことを口走っていたような。

「それに、直枝は寮長なのよ。恋愛なんかに現を抜かしている暇はないの。仕事は山ほどあるのだから。いわば、仕事が恋人ね……最も、仕事中は、ずっと私と一緒にいるんだけど。ねえ、そうでしょう?」
「あはは、ま、まあそうだね」

 どうしてこの場に火を注ぐような言い方をするのだろう二木さんは。
 しかもそのしゃべり方だと葉留佳さんというよりもむしろ……という感じがする。

「なるほど……あなたたち二人ともライバルってことね」
「わたくしは既に一人おりますもの。これ以上増えたってどうってことありませんわ」
「私……じゃないわ、葉留佳よ。でも、葉留佳のためなら私も負けないわ」

 女の子三人がにらみあう。
 その光景は春の陽気と真っ向から向かい合うような嫌な空気をまとっていた。
 今日は3年の始まりの日だというのに、最初っからこんなことになってしまって。
 一体、僕はこれからどんな目にまきこまれていくのだろう。
 それはきっと、今まで以上にハードなものなのかもしれない。
 そう確信させる何かが、あやちゃんがその場で言い放った一言には確かにあった。

「いい……?」



「理樹くんはあたしのもの! なんだから!」



つづく?


あとがき
 リトバスでわかりやすく、修羅場のある楽しいハーレムラブコメを書いてみたかった。
 そしたらこうなりました。
 ちなみに朱鷺戸沙耶の『あや』になった後の苗字についてですが、わかりやすさを考えて朱鷺戸のままにしました。

 これからリトバス界のハーレムラブコメSSがもっと増えればいいなと思います。


押していただけると物凄くうれしいです