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 時は1月1日、お正月。
 とはいえかったるくて初詣にもいかなかった俺には単なる普通の冬休みの日と変わらない。
 ぼんやりと今日は正月かという意識はあるものの、どうでもいいと思った俺は外の寒さに耐える為布団にくるまり、もうひと眠りしようとする。

「やっぱり正月は寝て過ごすに限るよな……春原の馬鹿なんて、せめて夢の中では良い思いをしようと、枕の下にエロ本いれて寝まくってたしな……」

 ごろごろと、目をあけることすら怠りながらそんな事を呟いてしまうのは、ちょっぴりセンチな気分だからだ。
 正月だって言うのにごろごろするしかやることがないのだから、どうしても虚しくなる。でも、そんなときには春原を思い出せば大丈夫。
 ……我ながら悲しすぎるな。さっさと寝るか。

「そんな事をしているのか、あいつは……まったく、しょうがないやつだな」
「んー、本当だなぁ……」

 半分眠りながら、相槌を打つ。
 って、あれ?

「それはともかくだ。朋也、朝だぞ起きてくれ」

 聞こえて来る声は、紛れも無く智代のものだ。冬休みなのにどうして。
 てか、それ以前に俺は智代と別れたはずだ、智代が起こしに来るわけがない。
 たくさんの困惑を抱えたままは嫌なので、とりあえず俺はくるまっていた布団から顔だけ出して確認を取ろうとする。

「朋也、おはよう。いや、明けましておめでとう」

 確かにそこにいたのは智代だった。しかも別れる前のあの笑顔で。

「今日はお正月だ。おせちを食べてから初詣に行こう」
「あっああ……」

 智代の顔を見た後でも正直困惑を消すことはできなかった。
 むしろ悪化したぐらいだ。
 どうして智代がここに? 何故? WHY?

「しかも私だけではない。皆が待っているから。これ以上待たせても迷惑がかかる」

 しかも2人きりじゃないとは。
 いや、別に2人きりが嬉しいってわけではなく、智代ならそうするだろうと判断したから。

「智代……」
「ん? どうした? おせち料理は皆で力を合わせた力作だぞ。味は保障する」
「いや、そういうことじゃなくて……」

 本当はつっこむのは野暮なところなのかもしれない。相手がネタのつもりでやっているのかもしれない。そしたらスルーするのも十分ありだと思う。
 しかし、これはつっこまずにはいられなかった。

「お前……どうしてここに?」
「え、おかしいか?」
「おかしいも何も……俺たちは別れたはずだ」
「ああ、それはだな……」



「今日はお正月だからだ」

 かえってきた答えは全く意味不明なものだった。





『CLANNAD流お正月』





「お正月……だから?」
「そう、お正月だからだ」
「そっかーお正月だもんな、お正月だったら仕方ないよな……っておい! 全く意味がわかんねーよ!」
「意味が分からないも何も、そのままのことだ。お正月だから会いに来た。それではダメなのか?」
「いや、ダメではないが……」

 もしかして俺はまだ夢の中なのだろうか。
 それならば実際に確かめてみるのが一番よい。つまり、頬をつねる。

「あのさ智代。思いっきりつねってみてくれないか?」

 しかし、自分でつねってもあまり痛くないので、ここは智代に任せることにする。

「構わないが……本当に思いっきりやっていいのか?」
「……軽くでお願いします」

 思いっきりやられたら頬が引き千切られそうな予感がした。 
 智代は俺に依頼されたとおりに軽くつねる。それでも、確かに痛みを感じた。

「……おいおい、夢じゃないのかよ」

 俺はてっきり夢オチってのを期待していたのに。というか、こんなので夢オチじゃなかったらどんなオチが待っているのか想像がつかない。
 あるにしても中途半端なものに決まっている。

「しかも皆も来ているっていったよな。皆って……」
「もちろん古河や藤林姉妹とかのことだ。私を除いて8人は来てたかと思うぞ」

 なるほど、お正月だからオールスターと。
 これで夢じゃないのだからひどく変な気分になる。

「とりあえず早く着替えてこい。皆待ちくたびれていると思うから」
「ああ、わかった……」

 智代が部屋から出る。
 それと同時にため息がもれた。

「はあ、この先何が起こるのか全くわかんね」

 せめて異常事態だけは起こりませんようにと新年そうそう祈る俺だった。



 居間に行ってみると、確かに智代の言ったとおり全員集合していた。

「あ、遅かったわね朋也。明けましておめでとう」
「あっ明けましておめでとうございます」

 杏と椋。

「明けましておめでとうございます、朋也くん」

 渚。

「明けましておめでとうございます岡崎さん」

 風子。

「明けましておめでとうなの」

 ことみ。

「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね」

 宮沢。

「明けましておめでとうございます!」

 芽衣ちゃん。

「よう、岡崎。明けましておめでとう」

 そしてその他……じゃない、春原。
 確かにオールスターだ。

「あっああ、明けましておめでとう」

 まだこの状況に慣れてない俺は曖昧な返事を返す。

「ほら、さっさとこっちに座っておせち料理食べなさいよ。全員で作ったのよ」

 そういって杏が指した先にあるおせち料理は確か豪華でおいしそうだった。
 このメンバーは料理上手が揃っているため、おそらく味も格別なものだろう。
 それを見ると急にお腹がすいてきたのでとりあえず空いてるところに座る。
 さて、おせち料理といえば黒豆、数の子、田作り(ごまめ)、昆布、鯛、橙、錦たまご、金平ごぼう、里芋、紅白なます、紅白かまぼこ、栗金団、伊達巻きなどからなるものだが、それぞれに意味が含まれている。
 つうわけでとりあえず金運に関係ありそうな栗金団から食べることにする。

「お、甘くてうまいぞ」

 甘さも決してしつこすぎるわけではなく、丁度よいくらい。しかも栗の味がちゃんと生かされている。

「お気に召したようで良かったです」

 どうやらこれを作ったのは宮沢だったようだ。俺の評価に手を合わせて嬉しそうな表情をする。

「さて、次はと……こいつだ」

 そうやって俺が取ったのは昆布巻き。喜ぶの言葉にかけているというが、果てさて味の方も俺が喜ぶものになっているかどうか。

「をを、こいつもちゃんといけるぞ」
「それは私が作ったやつだ。朋也の口に合ってよかった」

 なるほど、昆布巻きは智代作か。まさに家庭の味といったものがでていた。
 家庭の味というので里芋が思い浮かんだのでそのまま里芋に向けて箸を動かす。
 里芋は箸で持てるギリギリの柔らかさで、口に入れた途端しみ込んでいた味がじわりと広がっていく。

「おお! これもいける!」
「里芋はわたしが、その、お母さんに一生懸命教わって」

 里芋を作ったのは渚か。いやあ、しかし本当に料理がうまいメンバーばかりだ。
 そう思いながら金平ごぼうに手を出す。
 お、これはちょっと変わった味がするな。でもいけるぞ。

「これは杏が作ったのか?」
「あったりー、でもあたしだけじゃなく椋と共同で作ったんだけどね」
「その、お姉ちゃんに一生懸命教わって作りました」

 なるほど、椋は確かに料理がへただったな。けど杏がフォローしてくれたおかげでちゃんとしたものになっている。

「やっぱり、朋也くんにはおいしいものを食べてほしかったので」

 椋の健気な言葉に心打たれる。これが男冥利に尽きるってやつか。

「ん? なんか不思議なのがあるぞ」

 次に食べるものをと探しているとうずらの玉子が目玉のようになっている巻き物状の変なものを見つける。
 食べてみるとどうやら巻いてあるものは鳥のササミのようだ。

「それは私が作ったの。竜眼揚げといってその名のとおり竜の目玉のようになっているの」

 なるほど、肉好きな人にはたまらない食べ物だな。
 そしてお正月の定番お雑煮を食べる。

「あ、それ私が作ったんですよ」

 そう口にしたのは芽衣ちゃんだった。なるほど、パーフェクト人間は料理もOKと。まさに春原とは対極の位置に存在している。ドラえもんとドラミちゃんの関係のようなものだろうか。

「いやあ、本当に皆料理うまいんだなあ」
「まだ風子のを食べてません!」

 俺が場をしめようとしたら突然風子が口をはさむ。
 もちろん、風子がいるのをわかってて言ったことだ。

「いや、だってお前が作ったのって黒豆だろ?」
「どうしてわかるんですか! 岡崎さんはもしかして超能力者ですか?」
「だってなあ……」

 そういって黒豆を見る。
 確かに黒い。黒いのだが……。
 これは炭ではないだろうか? しかも豆というほど豆の形が残っていない。
 てか黒豆って煮るものだろ? なんで焼いてるんだよ。

「これを食えというのか?」
「最悪です! 食べてもいないのにまずいと言ってるようなものです!」
「じゃあお前食べてみろよ」
「遠慮します!」
「おい」

 お前も十分わかってるじゃないか。

「まずいって自覚あるじゃねえか」
「違います。風子は食欲がないだけです」
「いや、説得力ないからさ」
「いいから食べてください」
「そうはいってもなあ」
「ふぅちゃんも一生懸命作ったんです。少しでいいから食べてくれませんか?」

 俺がなかなか食べるのを渋っていると横から渚が風子の援護射撃をしてきた。

「それじゃあ渚。風子の作った黒豆をちょっと褒めてみろ」
「えっ?」

 突然出された変な質問に戸惑う渚。

「えっと……」
「とても黒いです」

 しばらく悩んで出た答えがそれだった。

「それに箸でさわるとサクサクしてます」
「いや、それ黒豆として間違ってるから」
「えっと……ごめんなさい。これ以上出てきません」

 渚GIVE UP。しかも最後まで味をみて褒めようとはしなかった。

「わかっただろ? これは食べるレベルのものじゃないと」
「岡崎さんの最悪レベルがウルトラになりました!」

 いくら最悪レベルが上がろうが関係ない。俺はお前の好感度より自分の命の方が大事だ。

「というか風子、お前誰かに作り方聞けばよかったじゃないか。料理うまいやつ周りにたくさんいるんだし」
「それは……」

 風子は一瞬押し黙ったものの、やがて口を開いてこう言葉を続けた。

「自分の力だけで作ってみたかったし……何より、聞けるような状況じゃなかったんです!」
「へ?」

 聞けるような状況じゃなかった? どうして?
 いや、だって今こんなにアットホームな雰囲気じゃないか。

「皆でおせち料理作るときにいつの間にか一番おいしい料理作った人が岡崎さんと初詣に行……むぐっ!」

 それは一瞬のことだった。
 渚が風子の口を封じ、智代がその首に手刀を当てたところまではわかったのだが、後はことみが俺の視界を本で遮り何が起こっているのかわからなくなる。

「芽衣さんは足の方を持ってください」
「わかりましたー」

 有紀寧と芽衣ちゃんの声が本で遮られた向こう側から声がする。

「おっおい、何が起こってるんだ」
「ついでだ、春原もあっちに連れて行くぞ」
「OK、邪魔だったしね」
「ちょっと待て。僕は何もしていな……」
「なんか、あんたの視線は新年早々いやらしいのよ」
「まったくだ、妙な本を枕の下にいれるようなやつの傍では、安心していられん」
「って、なんで智代ちゃんがそんなこと知って……ウボァアー!」

 智代と杏の声、そして春原の悲鳴。
 向こうでは惨劇が起こっているようだ。
 ことみの本が視界から外されたとき、そこに風子と春原の姿はなかった。
 そして最後に椋がタロットカードを見て一言。

「他人の秘密をばらしたりすると新年そうそう良くない事が起こるでしょう。また、金色の髪をした男の人には災いが降りかかると出ました」
「そうですか……」

 俺は何が起こったのか問い詰めることができなかった。
 ただ、この笑顔が全て偽りのものの様に思えてきたことが残念でならなかった。
 そして、運ばれていった二人を除く全員が戻ってきたところで、皆が期待に目を輝かせてこっちを見る。

「それで、朋也は誰の料理が一番気にいった?」

 皆を代表するかのように、智代が尋ねた。
 どの料理、じゃなくて誰の料理、なんだな……細かいことだけど。
 しかし、どうも選びにくい。味だけで言えば、かなりのものばかり(どうも、俺の周りには料理上手が多いな)だし、皆の様子を見ると何か裏がありそうで、迂闊な選択は出来ない。
 ここはあれこれ無闇に考えたりせず、素直に自分の好みで答えるべきなんだろうか。

「そうだな、俺はと――」

 ガンッ

 え? と思う暇もない。
 その音が聞こえるか否か、その瞬間にもう、俺の意識はなかった。






「……うう」

 目を覚ましてみれば、そこは自分の部屋だった。

(あれ……ええと、たしか……)

 朝起きると智代がいて、降りてみると皆がいて、それでおせち料理を食べて、誰の料理が一番おいしかったか答えようとして――

(ああ、なんだ……)

 そこまで思い出して、急に納得する。
 やはり夢だったのだ。
 大体、どう考えてもおかしい。智代がいるはずもなければ、他の皆がいるはずもない。皆の作ったおせちが食えるなんて、やはり夢以外の何物でもなかったのだろう。
 こうして、現実世界で冷静に考えると、それが良くわかる。まあ、夢の中でも冷静に考えて、夢じゃないかと疑っていた気もするが、そういう夢だった、と納得するしかない。
 しかし、やはり少々残念な気持ちになる。騒がしくはあったが、それでも幸せな夢だった。今の俺には、絶対に手に入らない夢だ。
 と、正月早々ブルーになっても仕方がない。そろそろ起きるとしよう。
 決心して体を起こそうとするのだが、掛け布団に妙な抵抗がかかっていた。
 その原因はと言えば、何やら掛け布団の上に置かれている手であり、その手の主はと言えば、どう見てもベッド脇の床に座ってうたた寝している智代だった。

「あー、えーと、智代?」

 疑問形で起こすのもどうかと思うが、正直に言ってこれが俺の心境だった。

「う……うん……」

 可愛らしい声を上げて、智代が目を覚ます。

「あっ、朋也、気がついたのか。よかった」

 俺の顔を見て、心底安心したとでも言うように微笑んだ。

「あ、ああ、心配かけてすまなかった」

 やはり状況は良く分からないが、智代が俺のためにここにいたのだけは、よく分かる。

「それにしても、一体なんで俺は部屋にいるんだ?」

 智代がここにいる以上、先ほどまでの出来事は夢ではなかったのだろう。そうなると智代以外の皆の姿が見えないことも気になるが、それは後で聞けばいい。

「ああ、それが良くわからないんだが、朋也が話している途中、いきなり朋也の頭の上にやかんが降って来たんだ」
「……何故にやかん?」
「たぶん、誰かが料理の時にどかして棚の上においておいたのが、たまたま朋也の上に降って来たんだと思うが……私にも良く分からない」

 なんで新年早々、そんなコントみたいなことになっているんだろうか。
 そんな不運なこと……ん、不運?

『やっぱり正月は寝て過ごすに限るよな……春原の馬鹿なんて、せめて夢の中では良い思いをしようと、枕の下にエロ本いれて寝まくってたしな……』

『他人の秘密をばらしたりすると新年そうそう良くない事が起こるでしょう。また、金色の髪をした男の人には災いが降りかかると出ました』

「いや、まさかな……」
「ん、どうした?」
「ああいや、なんでもない。それより、気を失った俺を看病してくれていたんだな。その、ありがとう」

 色々な意味を込めた感謝の言葉。
 照れくさい気持ちはあったけど、自分にしては珍しく素直にいえたと思う。

「ああ、どういたしまして」

 そうして、極上の笑みを見せてくる。

「なあ、智代」
「うん?」
「さっきさ、気を失う前、智代の料理が一番気に入った、って言おうとしたんだ」
「あ……うん。凄く、嬉しい」
「それと、だな」
「ん、どうした?」
「今のお前を見てたら、キス、したくなった」

 どうも、やかんの衝撃で脳の一部がどこかおかしくなったのか、そんな事を言ってしまう。
 智代は一瞬驚いた表情になると、赤面して恥ずかしそうに答えた。

「ああ、私も、キスしたいと思っていた」

 それ以上、言葉は要らなかった。
 智代が顔を上げ、互いの息がかかるような距離まで近づき、目を閉じて――

「智代ー、そろそろ交代よー」

 扉が開くと共に、杏が入ってきた。

「なっ……」
「えっ……」
「あ……」

 驚愕の言葉を口にする杏と俺に対し、残念そうに呟く智代。

「なっ、なっ、なっ、なっ、なっ、なにしてんのよーーーーーーっ」

 大声で叫ぶ杏。それを聞きつけてどたどたと複数の足音が響いてくる。
 どうやらまた騒がしくなりそうで、先ほどの甘い雰囲気はどこかに吹き飛ばされていく。
 まあでも、正月、しかも元旦くらいはにぎやかなほうが良いだろう。おかげで、去年あれほどうじうじ悩んでいた気持ちも、なんだかあっさりとどこかに吹っ飛んでいったことだし。
 一年の計は元旦にあり。
 なら今年は、どうやら最高の一年になりそうだった。



あとがき
 途中で話の雰囲気変わっているのは許してくださいませ
 このSSは巫女SSにしようとして失敗したものを、そのまま破棄するのがもったいないからリサイクルしたものです。リサイクル万歳。
 ちなみにひそかにDILMとの合作だったりする。ただ、大体の内容は俺なんで俺名義にしてあります。

一言感想とかどうぞ。感想はすごく励みになりますので執筆する気が出てきます