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『大嫌い』 written by 神主あんぱん


「朋也〜」

 授業が終わったかと思うとすぐに教室にお姉ちゃんが入ってきた。
 私の前を通ったというのに、私には目もくれず席を通り過ぎ、向かうはかつて私の恋人だった朋也くんの席。

「会いたかったー」
「おっおい、何度も言うけどいちいち抱きつくなよ」

 前の席に座っているから声だけしか聞こえない。他の人たちはその2人をニヤニヤしながら眺めているみたいだけど、私はけして後ろを振り向こうとせず、次の授業の準備をする。

『おい、あれ隣のクラスの生徒だよな……』
『なんか休み時間になるといつもこの部屋来てないか?』
『ばっか、あれが話題のカップルだぞ』
『ねえねえ、知ってる?』

 1人の女子生徒の言葉を聞いて、私は手を動かすのを止めた。
 ああ、またか。また聞くことになるのか。

『あれさー話によると、あの男って元々妹さんと付き合ってたんだって』

 そう、確かに私は朋也くんと付き合っていた。付き合っているつもりだった。
 でも、朋也くんが好きなのは私ではなくお姉ちゃんだった。
 私という存在はお互いが自分の気持ちに気付くまでの代用品にすぎなかった。

『でもさーそう考えると今その姉と付き合っているあの男って最低じゃない?』

 違う、朋也くんは最低なんかじゃない。
 確かに結果として朋也くんは私をふった。でも私がもっとしっかりしていれば、そう、お姉ちゃんに付け入る隙さえ与えなければ朋也くんもそのまま私を好きでいてくれたかもしれないのだ。
 でも、そんなお姉ちゃんでも私は嫌いになれなかった。
 今までずっと一緒にいて、ずっと助けられてたお姉ちゃんだから、嫌いに、なれなかった。
 でも、これ以上お姉ちゃんを好きになれなくなったのもまた事実だった。

『ところでさーその妹さんって……』
『しっ! 声がでかいじゃない。あそこにいるのよ』

 わざわざ注意しなくても聞こえている。きっと私の方を指さしているのだろう。
 あの日以来、私は誰とも話さなくなった。好きな占いさえしなくなった。
 そしたら皆自然と私から離れていった。今や構うものさえいない。
 お姉ちゃんに大好きな朋也くんを取られてから、他人を信じたくないという気持ちが芽生えていたが、そのまま開花した形になった。
 皆結局うわべだけの付き合い、心配してくるのも最初だけ。
 なのに今だに嘲笑する材料には使ってくるのだからたまらない。
 それなら別に学校を休めば済む話じゃないか。私の心の中の朋也くんはそうアドバイスしてくれた。
 でも、そしたら本物に会えないから。私はそういってアドバイスを聞き入れなかった。

「……やっぱり、今でも朋也くんが好き」

 誰にも聞こえないよう、小さな、小さな声でつぶやいた。
 なんか心が軽くなった気がした。



 お昼休み、自分で作ってきたお弁当を1人で食べる。
 味と見た目は前に比べてずっとよくなったけど、おいしくない。
 何のために料理を頑張ったのだろう。目的はちゃんとあった、朋也くんの為においしいものを作る。
 でも、その目的は今や達成することができない。朋也くんを取られたから。
 お姉ちゃんは今頃朋也くんと一緒においしいお弁当を食べているのだろう。握っている箸に力が入った。
 何故私はこんなみじめな思いをしているのだろう。
 朋也くんと一緒にいた幸せは日々はあっという間に去っていった。よく考えてみれば、あの日々にすら常にお姉ちゃんがいた。
 もしかしたらお姉ちゃんは私が幸せの絶頂にある中、こっそりと朋也くんを狙っていたのかもしれない。ううん、お姉ちゃんがそんなことをするわけが。でも……。
 気付いてみると、いつの間にか箸は完全に止まっていた。食欲ももうない。
 私は半分以上残っているお弁当の蓋を閉じ、眠ることにした。
 考えないことのなんと楽なことか。なんと苦しまずに済むことか。



 それはようやくなのかあっという間なのかよくわからない、下校時刻になった。
 苦しみから解放される反面、朋也くんとまたお別れ。
 ゆっくりと、でも早々に私は教室から出て行く。部活にも入ってないから私を止める要素は何一つない――

「あ、椋――」

と思っていたのに例外があった。
 私のお姉ちゃんだ、たまたまタイミングよく、いや、タイミング悪く廊下でばったりと会ってしまった。
 緊張が走る、胸に痛みがくる。相手はお姉ちゃんなのに、悪いことをしたわけでもないのに。

「お姉ちゃん」
「どうしたの、元気ないじゃない」

 元気のない原因である相手に心配される。
 そのことがさらに胸をきつく縛り付ける。ああ、お姉ちゃんは何もわかっていないんだと思い知らされる。

「ううん、お姉ちゃんの気のせい」

 なのに私はごまかすという形でそれを片付ける。
 それは問題を先延ばしにしているだけで、なんの解決にもなっていない。
 何故だろう、何でそう言ったんだろう、自分でもよくわからない。

「そう、ならいいけど」
「うん、じゃあ私帰るね」

 とにかく一刻も早くこの場から去りたい。
 私は早足でお姉ちゃんの横を通り過ぎる。

「あ、そうそう。あたし今日帰り遅くなるから」

 足が止まった。
 それはどうしてなのだろう、遅くなる理由はほぼ予想はついていたが、続きを聞かずにはいられなかった。
 わずかな希望にでもすがったのだろうか。無残に打ち砕かれるのに。

「え?」
「朋也の家にちょっと、ね」

 ああ、やっぱりか。嬉しそうな、でもどこか緊張しているようなお姉ちゃんの顔を見て悟った。
 朋也くんとお姉ちゃんはもうそんな関係までいってるんだ。

「……うん、わかった。お母さんには言っておく」
「それじゃあね、バイバイ」

 お姉ちゃんの方が先に私の横を通り過ぎていった。向かった先は教室だろう。
 私は少しの間立ち止まっていたが、やがてこの場から逃げ出したい一心で走って下駄箱に向かい、靴に履き替えるとただがむしゃらに走った。



 家に帰り着くと、私は部屋のベッドの上でうつぶせになった。
 行き場のない怒りをぶつけるように布団と力の限りにぎった。
 顔の辺りが冷たく感じた。気付けば布団がぬれていた。押さえ切れなかった悲しみが形として出たのだろう。
 どうして私はこんなに苦しんでいるのだろう。すっぱり朋也くんのことを忘れられれば楽になるのに。多分この気持ちをお姉ちゃんに言うだけでも楽になるかもしれない。
 なのにどうしてできないのだろう。どうして、できないのだろう……。



 気付けば辺りは完全に暗くなっていた。顔の周りはびっしょりと濡れていた。
 目はきっと赤くなっているに違いない。

「お腹……すいたな」

 こんなときでもお腹はすくんだ。そんな人の当たり前の行為に少し感動しつつ、私は部屋のドアを開けようとした。

『……ごめんな』

 その手が止まる。さっきの声は間違いなく朋也くんの声だった。
 どうして、なんでここに。思考が駆け巡る。

『いいのよ、気にしないで。だけど……本当に親御さんと仲良くなかったのね』

 続けてお姉ちゃんの声。
 朋也くんの家でなんかあったのだろう。そしてうちに来ることになった。
 そこまでは大体つかめた。

『あんなやつ……親でもなんでもねえ』

 怒気をはらんだ朋也くんの声。こんな声、私は聞いたことがない。
 私が聞いたことない声をお姉ちゃんは聞いている、胸がうずく。

『落ち着いて! あたしがなぐさめてあげるから……ね』

 朋也くんのために何かする、それは私がやりたかったこと。
 その役割は今、お姉ちゃんが担っている。私にできることは何もないんだ。
 そう気付いた瞬間、私は膝を床に落とした。



『とも……やぁ!』

 隣では朋也くんとお姉ちゃんの繋がっている声が聞こえる。
 きっと私はもう寝たものだと思っているのだろう。私はぎゅっとまくらをにぎり、聞き耳をたてる。
 ふと、タロットカードが目に入った。朋也くんに買ってもらったタロットカード。
 私は藁にでもすがるかのようにふらふらと歩み寄り、それを手に取った。

「タロットカード……私を導いテ」

 カードをきって、並べて、念じるように開いていく。

「私ハ……どうすレばいいのカな……」

 朋也をいまだに愛している、でも朋也くんはお姉ちゃんを愛している。お姉ちゃんは朋也くんを愛している、私にとっては邪魔。
 このまま押さえていたほうがいいのか、それとも……それとも……。
 タロットは結論を出してくれた。

「ふふ……そう、そうスればいいんだよね」

 カードの絵柄はぼやけてよくわからない。でも、何を伝えているかはわかる。
 それは私の中にたまっていた悲しみや憎しみ、苦しみを一気に片付けてくれる方法。

「ラッキーアイテムは……そウ、家に確かアったよね……」

 これを使うことに私はひどく興奮を覚えた。きっと綺麗なお姉ちゃんが見れるだろう。

「ラッキーディは明後日……朝がベスト……」

 さすがはタロットカードだ、私の行動すべきことを全て示してくれる。
 あとはこの通りに動けばいい、そう考えると自然と笑みが漏れた。

「ふふふ、あはは、あハははハ」

 声に出して。そのくらいおかしかった。





「お姉ちゃんおはよう」

 明後日、私は笑顔でお姉ちゃんに挨拶した。
 昨日の朝、家で朋也くんと一緒にいたときを見られたときのお姉ちゃんの顔はおかしかったが、今日も不思議そうな顔をしているのがまたおかしく感じられる。

「おはよう椋、なんかやけに元気になったわねー」
「うん、もう悩みがなくなったから」
「そう……」

 そう、もう悩みなんてないのだ。私はあの日行ったタロットの結果どおりに行動するだけ。
 そしたら色んなことから開放される。あの苦しみから逃れられる。

「ねえお姉ちゃん、久々に一緒に登校しない?」
「ん、別に構わないけど……スクーターもパンクしちゃってるし」
「そう、よかった」

 本当によかった、念のため、スクーターをパンクさせておいてよかった。
 ラッキーアイテムを探すときにたまたま気付いたのもタロットの導きに違いない。



「こうやってあんたと歩くのも久しぶりよねー」
「うん、そうだね」

 私とお姉ちゃんは学校への、人通りの少ない道を歩く。
 途切れ途切れの会話をしながら、昔はそんなことなかったのに。
 きっと今と昔では心のうちが違う、ただそれだけなんだけど。

「……ごめんね」
「何が?」

 突然お姉ちゃんが謝ってきたので不思議に思う。

「あんた、朋也のこと本当に大好きだったんでしょ。それなのに横から取るようなことしちゃって……」
「お姉ちゃん……」

 そっか、お姉ちゃんもこのことで悩んでいたんだ。
 2人で歩いたからこそ知らされた真実。
 何を今頃と思わされる事実。

「ずっと、ずっと悩んでた。でも、ようやく言えてすっきりしたわ」
「そう、よかったね」

 1人だけすっきりするなんてずるいよね。それじゃあ、今度は私がすっきりする番。

「あ、お姉ちゃんゴメン。ちょっと靴紐がほどけちゃった」

 私はかがんで靴紐を直すようなそぶりをしつつ、お姉ちゃんが私の方を見ていないうちにバッグの中に入れておいたラッキーアイテムをにぎる。
 前の方を歩いているお姉ちゃん。待ってて、今日、私はようなくお姉ちゃんに追いつくんだから。
 私は小走りでお姉ちゃんの傍による。

「私もお姉ちゃんにずっと伝えたいことがあったんだ」
「え、何?」

 私はお姉ちゃんがこっちを向いた瞬間。
 お姉ちゃんが笑顔を向けた瞬間。
 私は、お姉ちゃんの首筋にラッキーアイテム――鋸を当てた。

「えっ……」

 目の前の状況が理解できなくて唖然とするお姉ちゃんの顔。
 とっても、とってもおかしく感じられる。
 このまま見ていたい気もするけれど、それじゃあ逃げられちゃう。

「お姉ちゃん……」

 最後にそれが私にとってどのような存在だったかを口にして確認する。
 最後だと思うと、どんなものでもいとおしく感じる。
 あと一歩、あと一歩で全てが終わる。
 私は自分を後押しするため今までの気持ちを全て込めて、一言、言い放った。

「死んじゃえ」

 すっと、なんの重みもなくひけた。
 切った先から、じわっと赤い線が見えた。

「嘘……」

 その一言とともに吹き出す血、血、血。
 真っ赤な鮮血とともにその物体が綺麗に彩られていく。

「綺麗に死ねて幸せだよね、杏は」

 噴水のように血を流すものの名前を呼んだ。
 でも、もう名前も呼ぶ必要もないか、どうせ聞こえていない。 
 その血は私にも降りかかる、それがお前のしたことだといわんばかりに。
 ゆっくりと倒れていく肉塊を見て、私には達成感と後悔が沸き起こった。

「あはハハハハははは」

 笑っているのは達成感、泣いているのは後悔。
 この先のことなんて考えていられない、私はただただ、笑い続けるだけだった。



終り

あとがき
 見てもらえばわかると思いますが(わからなかったらごめんなさい)、School Daysって作品のリスペクトにございます。この作品が話題になったとき、俺が最初に思いついたのがこのダークSSでした。さらに、普段ギャグを書いてると私の場合ダークが書きたくて仕方がなくなるんですよ。そのダーク分補充も含めてやることにしました。でも、ただやるだけじゃ面白くない。そこで最近よくお話するようになったひでさんにこれの杏ルートを執筆してもらいました。
 ついでに、この作品の最初の会話、実は俺の作品のあるものと繋がってたりします。でもこの作品はパラレル的なものとしてお考えください。てかそう言っておかないと批判が怖いので(マテ
 ダーク成分も補充し終わったので、次回の作品はまたギャグ傾向に戻ると思います、そちらのファンの方々はどうかご安心をw
一言感想とかどうぞ。