※ギャグSSです。色々と設定をすっとばしてるのでただのアナザーストーリーとしてお楽しみください。



 「……なんでこんなことしてるんだろう」

 周りに誰も居ないとわかっていても、ついつい僕はひとりごちてしまった。
 でも仕方が無いと思う。
 何故ならば、僕は今野球部のロッカーに隠れているからだ。
 予め断っておくと、別に恭介たちとかくれんぼをしている訳ではない。
 こうなった理由は至極単純だった。



 「やぁ少年。いい所で会った」
 「あ、来ヶ谷さん」

 そう、つい5分ほど前、僕はたまたま中庭で来ヶ谷さんに会ったのだ。

 「時に理樹君、今は暇かねいや暇だろう暇に違いないな」
 「はい?」

 来ヶ谷さんの唐突な物言いに思わず聞き返してしまう。
 というか、なんだか凄く嫌な予感しかしない。

 「いや実はだな、これからある場所に出向いてもらいたいんだ」
 「ある場所?」
 「うむ、私たちもよく知っている場所だ」
 「ちなみに……どこなの?」
 「部室だ」

 なんだ部室か、と安堵する。

 「一応大丈夫だけど、一体何なの?」
 「それは行ってのお楽しみだ。なに、楽しいひと時になるのは間違いないぞ」



 「……で、いざ着てみたらテーブルの上に紙切れが置いてあって、『しばらくの間ロッカーに身を潜めていること』だもんなぁ」

 おまけにこれから部室で何が起こっても静かに見守っていること、という制限つき。
 律儀に書いてあることを守ってしまっている自分も自分なのだけど、来ヶ谷さんには来ヶ谷さんの考えがあるのだろう。
 というか、書いてあったことを守らなかった場合にどんなことになるかを想像しただけで怖かった。

 「……って、あれは……」

 部室に誰か入ってきた。
 腰まで届く青くて長い髪が誰であるかを雄弁に物語っている。

 「笹瀬川さん、今日は活動なしって連絡したのに」

 笹瀬川さんの登場に首を捻っていると、更に二木さんと朱鷺戸さんが入ってきた。
 何だか存在しちゃいけない人が居る気がするけど細かいことは気にしたら負けのような気がしたので考えないことにした。

 「あなた方も呼ばれたんですの?」
 「えぇ。それも棗妹に呼ばれてね」
 「いったい何の用なのかしら」

 鈴が……呼んだ?
 なんで、とかどうして、とかもやもやしていると、噂の張本人が部室に現れた。

 「よし、集まってるな」
 「一体全体何の用事なんですの?」
 「……私は貴方たちと違って忙しいのだけど」
 「あたしだって忙しいわよ!っていうかなんであたしたちが貴方に呼び出されなきゃいけないわけ?」

 女性たちは一斉に鈴に向かって言葉を放つ。
 ややもすれば気後れしそうなほど気の強い3人の女子生徒を前に、鈴はふてぶてしい態度を崩さなかった。
 こんなときに不謹慎だけど本当に成長したなぁ。

 「それは簡単な話だ」

 鈴は腕を組み、まるで三人を見下すかのような不遜な態度で答えた。

 「お前ら、あたしとキャラが被ってるんだ」








  リトルバスターズ!EX 2次創作SS
  彼女たちの見解 原案:しま/神主あんぱん/りきお/NELUO 作:神主あんぱん










 (えぇーーーーーーーーっ!?)

 思わず漏れそうになった声を慌てて両手でふさぐ。
 今の僕は隠れている身であるからして、居ることがバレるのはとてもよろしくない。

 「いきなり何を訳のわからないことを言ってるんですの貴方は!!」
 「そうよ、大体あたしとキャラが被るとかどこらへんが被ってるのか教えて欲しいわ!」

 笹瀬川さんと朱鷺戸さんが反論を試みる。
 というか、僕も気になるんだけど、笹瀬川さんたちと鈴ってどのあたりでキャラが被るんだろうか。

 「お前らはアレだ。全員ツンデレとかいうやつだ」
 「んなっ……」
 「べ、別にツンデレなんかじゃないわよ!!」
 「……ツン……デレ……」

 ツンデレ、という単語に3人は敏感に反応する。
 僕の(恭介による)知識によると、ツンデレっていうのは普段はつんけんした態度だけどいざとなるとすごくデレデレする人のことらしい。
 ……身に覚えが無い筈なのにすごく当て嵌まってる気がするのはなんでだろう。

 「で、あたしもツンデレらしい。ということはキャラが被るということだ。だからお前らはキャラを変えろ」

 (えぇーーーーーーーーーー!?)

 またも大声を出しそうになるのを必死でこらえる。
 それにしてもこの鈴、暴君である。
 というか、鈴ってツンデレなんだろうか。

 「な、何を言ってますの!?大体、私がツンデレだとか一体全体何処を見てそう仰るのかしら!?」
 「そうよ!あたしだってそのツンドr……ツンデレとかいうのとは違うわ!!」
 「あたしはよく解らん。が、くるがやがそーいってた。あとツンドラってなんだ」

 鈴……授業はちゃんと受けようね。
 ちなみにツンドラって言うのは永久凍土とかがある氷原地帯のことだよ。

 「あぁもううるさいわねそうよ言い間違えたわよ。おかしいでしょ。滑稽でしょ。笑いなさいよ。笑えばいいじゃない。あーっはっはっはっは!!!」
 「あーっはっはっはっは」
 「笑うなああああああああああ!!!」
 「な、なんだ!わがままだなお前!!」

 本人が望んだとおりに笑ったはずだったのに鈴は怒られてしまった。
 今回に関してはすごく同意するよ、鈴。
 というか朱鷺戸さんがすごく不憫で仕方ない。
 確か彼女はクラスではすごく大人びて人気がある人だったはずなのに。
 理想と現実すごく違うから夢から醒めなさいってところだろうか。

 「待ちなさい、棗鈴」
 「む」

 収拾がつかなくなるかと思い始めたタイミングで、今まで口を閉ざしていた二木さんが鈴に言葉を投げかける。

 「一つ非常に気になるのだけど」
 「ほう、それはなんだ」
 「私たちがキャラを変えたとして……唯一のツンデレとなった貴女はいったい何をするのかしら」
 「え」
 「あ」

 二木さんの言葉に、笹瀬川さんと朱鷺戸さんがはっとした表情になる。
 というか、考えてみればたしかにおかしい。
 今までだって別に問題があった訳じゃない。
 仮に本当に4人のキャラが被っていたとしても大きな問題は別に無いはずだ。

 「…………」
 「…………」
 「…………」
 「…………」

 無い、はず、なんだけど……。
 なんでこの4人の間にはこんなに緊張感が漂っているのだろうか。

 「そんなの、決まってる」

 緊迫した空気の中で、鈴が静かに口を開く。
 その時、僕は思わず耳を疑った。

 「キャラが一緒だったら理樹が困るだろ、誰選んでも一緒だって。だからあたしがなるべきなんだ」

 ええええええええええ!?
 心の中で大きく叫ぶ。ロッカーの中にいるのがばれたら大変なことになってしまいそうだったから。
 それにしてもそんなことを鈴が言うなんて。せめて"あたしもキャラを変える。これで皆平等だ"みたいなことを言ってごまかしてほしかった。

 「ち、ちょっと待ってよ。そもそも理樹くんがツンデレ好きだなんて誰が決めたのよ」
 「そ、そうですわ。た、確かにそういうタイプが好きだったら都合はよろしいですけど……」
 「そうね、まず前提が合っていないと理論は破綻するわ」

 その鈴の意見に対して3人がそれぞれ反論する。
 主に僕がツンデレ好きという点に対して。

「うーうっさいうっさい! あたしは知ってるんだぞ! おまえらが理樹とえっちしたってことを」

 ぶーっ!!!!!!
 心の中で大きく吹く。あ、危なかった。さっきのは本気で声が出てしまうところだった。
 まさか鈴がそのことを知っているなんて夢にも思わなかったから。

 「な、ど、どうしてそのことを知ってるのよ!」
 「やっぱりホントだったのか!」
 「ああ! しまった! ついうっかり肯定してしまったわ!」

 朱鷺戸さんが頭を抱えて叫ぶ。
 うん、もう朱鷺戸さんの自爆癖は治りそうにないよね。
 
 「だってたまたま理樹くんと誰もいない裏庭で会話してていい感じになっちゃって、『なんかちょっと恋人みたいだねこういうの』とかあの顔で言われちゃったらそりゃもう襲っちゃうしかないじゃない!」

 そのまま暴露街道まっしぐらな朱鷺戸さん。何が『襲っちゃうしかない』のだろう。
 僕は普通に会話していたつもりだったのに。
 
 「その気持ちはものすごくわかりますわ! わたくしも部室で二人きりになったとき、『なかなかみんなやってこないね』って合図があったからつい…その、いたしてしまいましたもの」

 一度火のついた導火線が止められるはずもなく、次は笹瀬川さんが自分の体験談を公開する。
 もちろん僕には合図のつもりなんてなかった。いろいろと手遅れだけど。
 
 「まったく……みんな直枝のことを考えていないのね。その点私は直枝と保健室で、しかも彼がベッドに入ってきたから行為に及んだのよ。あなたたちみたいに襲ったわけではないわ」

 続けて二木さんのお話。
 もちろんそういう目的があってベッドに入ったのではなく、普通に二木さんがいるなんて気づかなかったのだ。それに『間違えた』という暇もなくベッドの中に取り込まれちゃったし。
 
 「ふかーっ! お前ら理樹をなんだと思ってるんだ!」
 「「「……恋人?」」」

 ……え、そうだったの?
 いやまあ確かにヤっちゃっているわけだし、それ以外の答えって俗にいう、その、セックスフレンドっていうのしかないんだけど。

 「そういう棗鈴、あなたこそ直枝さんをどう思っているんですの?」
 「あ、あたしか?」
 「そうね、私たちに聞いてくるからにはちゃんと自身の答えも聞かせてちょうだい」

 今度は鈴に三人の視線が集まる。
 
 「あ、あたしが、あたしこそが理樹の彼女なんだ! 最近仲間になったやつらに理樹を獲られるのは嫌だ!」
 
 追い詰められた猫はところかまわず噛み付く。本音という牙をむき出しにして。
 
 「理樹がみんなとえっちしたのはきっとそのツンデレが好きだからだ!」
 
 いや、無理やり襲われちゃったからだけど。どうやら鈴はそうは受け取らなかったらしい。
 
 「だからこそあたしだけがツンデレになればいいんだ!」
 
 ようやく最初の問題に戻ってきた。そのかわりかなり捻じ曲がった感じにはなってしまったけど。
 
 「なっ! そんなの聞いたらなおさらキャラを変えろなんてできるわけないじゃない!」
 「棗さん……それを聞いてわたくしが引き下がると思いまして?」
 
 朱鷺戸さんと笹瀬川さんは鈴の発言に対して怒りを覚えたようだ。徹底抗戦の構えを見せている。
 
 「……棗さん、あなたに一つだけ聞きたいことがあるわ」
 
 しかし二木さんは怒るわけでもなく、冷静に聞き返す。
 
 「なんだ?」
 「あなたに……直枝のすべてを受け止めることができるのかしら?」
 
 二木さんの質問。一体どういうこと?
 鈴もどうやら同じ気持ちなようで、はてな顔をしている。
 
 「どういうことだ?」
 「いい、直枝はね……結構アブノーマルなのよ」
 
 何を言っちゃっているんだろうかこの風紀委員長は。
 風紀委員長らしからぬことをまじめに口にしている。
 
 「あぶのーまる?」
 「そう。直枝はね、最初はものすごく奥手なの。こちらから仕掛けるかわかりやすい合図をださないと絶対にしようとしてこない。けれどね、一度始まると……ものすごいのよ」
 
 そういって頬を赤らめる二木さん。
 え、あれ、僕その辺の記憶一切ないよ? 確かにやっちゃったという記憶はあるけど。
 
 「確かに……ものすごいですわね。わたくしもその…バットを……」
 
 それきり顔を真っ赤にして口をつぐむ笹瀬川さん。
 え、一体バットをどうしたの。ねえ、どうしたのさ僕は!?
 
 「あたしもね、その裏庭とはいえ……ね。赤ん坊っぽいことされちゃって……」
 
 赤ん坊っぽいことって、赤ん坊っぽいことって何!?
 そんな手で顔隠したくなるくらい恥ずかしいことだったの!?
 
 「……とまあ、直枝の恋人となるからにはこれくらい耐えられないといけないのよ」
 「うう……」
 
 あ、ちょっと鈴がひいてる。
 当然とはいえ、この鈴の態度にはショックを受ける。
 
 「そ、それでもいい! 他の誰かとえっちする方がずっと嫌だ!」
 
 それでも鈴は僕を選んでくれる。それはすごくうれしいことだった。
 
 「そう、あなたもちゃんと覚悟はあるのね……でも、私もゆずれないわ」
 
 しかし、ついに二木さんも敵対意識を露わにする。
 一触即発、睨み合う4人。
 正直、ここから逃げ出したい。けれど、ここから出てこようものならこちらに矛先が向いてしまうかもしれない。
 
 「おや? どうしたのかね。睨み合っているようだが」
 
 そこに現れたのは来ヶ谷さんだった。
 何故このタイミングに……いいのか悪いのかよくわからない。
 少なくとも、狙って入ってきたのは確かだろう。だって来ヶ谷さんはこうなることがわかっていたはずだから。
 
 「あ、くるがや!」
 「……なるほど、棗さんはあなたの差し金ですね」
 「さて、なんのことかな」
 
 二木さんはどうやら一瞬で見抜いたようだ。それでも、来ヶ谷さんは知らないふりをしている。
 
 「先ほど棗さん本人が来ヶ谷さんからツンデレと言う言葉を聞いたとおっしゃっていました」
 「それがどうかしたのかね、私はここに来たばかりだからここで何があったかは知らないのだが」
 「もしかして、私たちが直枝としてしまったことを棗さんに教えたのも……」
 「何度も言うが私はここに来たばかりでキミたちが何を話していたのかも知らないのだよ。ただ、それを聞いてより一層内容に興味は沸いてきたがね」
 
 言葉による探りあい。来ヶ谷さんもなかなか尻尾を出そうとしない。
 
 「棗さんがわたくしたちに喧嘩を売ってきたのですわ! わたくしたちがツンデレだからキャラを変えろということで」
 「ほう、確かにここにいるのはみんなツンデレだな」
 「しかもその理由に理樹くんが関わっているとか。なおさらキャラ変えられるわけないでしょ!」
 「ふむ、理樹君が関わっているのか」
 
 そのとき、来ヶ谷さんが確かに笑ったように見えた。その言葉を待っていた、そういわんばかりの表情。
 
 「なら、私がその喧嘩の芽を取り除いてあげよう」
 
 そういって来ヶ谷さんは僕のいるロッカーへと近づいてくる。
 そして、その扉を盛大に開いた。
 
 「……ど、どうも」
 「やあ、理樹くん。楽しめたかね?」
 
 驚きの表情を向けてくるみんな。
 
 「では、喧嘩の芽はもらっていくぞ」
 
 そのままお姫様抱っこで抱きかかえられる。
 あっけにとられたみんながいる場を、悠々と去っていく来ヶ谷さんはさながら王子様のようだった。

 「――って、ちょっと待ちなさい!」
 「ふむ、やはり無理だったか」

 僕らが出て行こうとしたのに気づいた二木さんが引き止める。

 「まだこっちの問題は何も解決していないわ!」
 「そうよ! それに理樹くんを一人占めする気!?」
 「そうはさせなくてよ!」
 「理樹は連れて行かせないぞ!」

 来ヶ谷さんの前に二木さんが、朱鷺戸さんが、笹瀬川さんが、そして鈴が立ちはだかる。
 キミらさっきまで喧嘩していたのにチームワークいいよね……。

 「……ならば、この場で決めようということか。いいだろう」

 そういうなり、部室の中へと踵を返し、前にあった机の上に僕を置く。

 「え、あれ。どういうこと?」

 なんとなく嫌な予感がしながらも聞かずにはいられない。

 「何、簡単なことだ。ここで今、誰が一番いいのか理樹君に決めてもらうだけだ」
 「え、それって……」
 「その方が話は早いわね」

 みんな意図を察したのか上着を脱ぎ始める。
 え、やっぱりそういうことなの? まな板の上の鯉ってことなの?

 「ね、ねえみんな。ちょっと落ち着こうよ。ね、そんなほら、服脱ぐのやめてさ。僕向こう向いているから。えっ? 見てほしいって……いやそんなこといわれても。え、だってそりゃ僕も男の子だからおっきな胸の方が……いたたたっ! 鈴噛み付かないで!……ってあれ、いつの間に二木さんに笹瀬川さん腕押さえてるの。あ、ちょっ、朱鷺戸さんズボン脱がすのやめて! パンツはもっと駄目だから! いや、ほらだって僕もちょっと興奮しちゃったから大きくはなってるけど、まだ、ね。まだやめてもぜんぜん問題ないから! え、ちょっ、そこ触るのはやめて! しかもみんなでとかはんそ――アーッ!!」





――その後、ふと我に返ると何故かみんな幸せそうな顔で気絶していたけど、僕には一切記憶がない。
 とりあえず……どうやって部室掃除しよう、何よりも先にそんなことを考える僕だった。
 
 
終わり


あとがき
 よーやく完成したーって感じです。企画たてた日からどのくらいたってるんだろう。まありきおさんもまだだからいいy(ぉ
 こういう系はある意味私の得意ジャンルなんですが、他の二人とどうやって違いを見せるかとか考えてたらこんなのに。
 まあ、ある意味俺らしいってことでひとつ。


何か一言いただけるとありがたいです