『あるPの受難な日々』
「今日もようやく一日が終わったか……」
帰路の途中、自然と口に出す。
一日の最後にこうやって口にして一日の反省をするという、プロデューサーという職業についた俺に染み付いた癖。
そう俺はプロデューサー、アイドルを自らの手で育て世に送り出す――きついが、やりがいのある仕事だ。とはいえ、まだまだ俺はランク的には普通、ようやく新米から抜け出せたところというレベル。
だけど俺は頑張っている、プロデューサーの頂点、アイドルマスターを目指して。
「しっかし千早、本当に大丈夫かな」
今日は2人組のデュオである『CAT&DOG』のプロデュースをしていたのだが、そのうちのメンバーの1人、千早から衝撃的な話を聞かされた。
両親が離婚した。Cクラスにランクアップした次の日のことだった。
確かに以前から家族の仲がガタガタであることは聞かされていたが、まさかこのタイミングで離婚するとは。
かなり落ち込んでいて普段見せない涙まで見せた千早、しかし俺の慰めの効果もあってか立ち直ってくれた。
落ち込んだままではデュオのもう片方にも影響が出かねない、それに千早はこんなところで終わるようなヤツじゃないことはプロデュースしてきた俺が一番わかっているつもりだ。
しかし……それでもまだ不安材料はぬぐえない。今日のレッスンに至っては千早は説得する前だからともかくとして、伊織まで調子が悪かった。心ここに在らずといった感じだったし。
「2人とも帰るときまでなんか固まっていたしな……ドタキャンしないといいが」
俺は残業で、『CAT&DOG』の2人が帰った後も事務所に残らなければならなかったが、変える間際の2人の顔は明らかに考え事をしていた。
まあ、明日ちゃんと来たら聞いてみよう。少しでも力になりたい。
そんなことを考えているうちに、今住んでいるアパートが見えてきた。
今住んでいるのは一人暮らし用の少しぼろいアパート。ランクが低いのでこんなところに住んでいるが、ランクがあがればもっとすごい豪邸とかにも住めるとか……本当かどうかは知らないが。
「……おや?」
何故か俺のアパートの部屋の前に人影があった。
もしや泥棒? 警戒しながら出来るだけ音をたてないようアパートに近づく。
だんだん人影がはっきりしてきた。
どこかで見たようなシルエット、あれは……。
「あれは、千早?」
警戒を解き、自分のアパートの部屋の前へ急ぐ。
千早もどうやら俺に気付いたようだ。俺の方を向きながら来るのを待っている。
そのとき、近くで何かが動いたような気がしたが、猫かなんかだろうと思い気にしなかった。思えば、このとき気付くべきだったのかもしれない。
猛ダッシュの上、ようやく千早の元までたどり着いた。
日頃あまり運動していないせいか、ちょっとの距離を走っただけなのに息があがっている。
「こっこんばんは、プロデューサー」
「ああ、こんばんは……」
何から言おうか迷った挙句、とりあえず挨拶をしようと千早は考えたのだろう。声がどもっている。
「きょ、今日はいい天気ですね」
「いや、もう夜なんだが」
それどころか混乱してしまっているらしい。いつもの千早じゃ考えられないような発言までしてきた。
それほど口に出しづらいことなのだろうか。
「で、どうしたんだい? 俺に用があるんだろ?」
「あ、はい。そうです」
切り出しやすいように俺からうながす。
それでも千早はしばらく考え込んでいたが、やがて意を決したのか勢いをつけて話し出す。
「あの……プロデューサー」
「ここに、住ませてください!」
「……はぁ?」
さっき、なんて言った? 聞き違いでなければ住ませてくださいと。
「えっと、その……」
「お願いします! もうここしか頼れる場所がないんです!」
どうやら聞き違いでないようだ。
しかも千早は真剣そのもの、ここが深夜のアパートであることも忘れている。
「えっと、まずは落ち着いてくれ」
「……はっ! すみません、気が動転してしまって」
「いやいや」
動転しているのは俺もだしな。
「一応、理由を聞かせてもらおうか」
「……プロデューサー、両親が離婚したって話、しましたよね」
「ああ」
今日一番心に残るような話だ、忘れるわけない。
「それで、どちらの親についていくかって話になって、でも私、どっちにもついていきたくなくて……」
「ふむ」
「1人暮らしも考えたんですけど、未成年だから自分で借りることとかできないし、親御さんの許可もいるって……!」
「それで残ったのが、俺の元ってわけだな」
「……はい」
なるほど、千早の言い分もわかる。
しかし、しかしだ。
「残念だが、それは無理だ」
「どうしてですか!」
「それは千早がアイドルだからだよ」
プロデューサーと一緒に暮らしている、そんなことがばれたらアイドル生命はおしまいである。
ましてやCランク、人気も大分出てきたところにスキャンダルは大きな痛手だ。
「くっ……どうしても、駄目ですか?」
「ああ、悪いが……」
「……なら、仕方ありません」
どうやら納得してくれたらしい。ほっと胸をなでおろす。
しかし、それが俺の大きな油断だった。
「……えい!」
「わわ、千早。一体何を!」
千早は俺に抱きついてきた。慌ててはがそうとするがそこは歌のためにトレーニングを欠かさない千早、簡単にははがれない。
パシャッ!
そしてシャッター音が鳴り響く。
しまった!?
フラッシュで一瞬視界を奪われたときにそう考える。
次第にはっきりとしていく視界の向こう。
そこで見たのは信じられない光景。
「にひひ、バッチリ取っちゃったわよ」
「伊織!」
なんとそこには伊織がいたのだ。
手にはちょっと高級感あふれるカメラがある。先ほどのシャッター音は間違いなくそれからでたものだろう。
「その写真は……」
「普通の人が見ちゃったら間違いなく勘違いしちゃうんじゃない?」
しばらくして、写真がカメラから出てくる。そこには俺と、俺に抱きついた千早が写ったもの。
それを手にとり、伊織は顔には笑みを浮かべながらひらひらさせる。
それでいてその光景を見ていて全く動じたりしない千早。
「この写真が雑誌にでも載ったらどうなるかわかりますか?」
それどころか千早からその写真について口にしてくる。
そこで俺は大体のことを悟った。
「アイドル活動の一環の終りってとこか?」
「ええ、でも、プロデューサーとしての生命も終わるでしょうね。むしろ、今ならプロデューサーだけがクビになる可能性もあるかと思いますが」
そう、これは最初から仕組まれていたこと。
千早は、俺が住ませたくない理由を逆に脅迫材料に使ってきたのだ。
そこまでやるとは俺も予想すらしなかった。
「どうしますか、プロデューサー。私は本気です」
「……」
自分のプロデューサー生命が断たれるのは勿論だが、千早もそこまでして親についていきたくないのか。
とにかく、俺が断ることによるリスクより俺が許可するリスクの方がこれで小さくなってしまった。つまり、断れない。
「……仕方ない。だけど、ゴシップ記者には気をつけてくれよ」
「え、それは……」
「ああ、そのかわりこれは内緒だからな」
「やったぁ!」
そのとき、俺は千早と伊織のいい笑顔を歌っているとき以外で初めて見た。
「あっありがとうございます!」
「いや、まあ。ははは」
「ホント、色々と頼むわよ。3人で暮らすんだから」
「ああ、わかってるよ」
俺も今日から一緒に暮らす以上自制の力を見につけようと思った。
育てているアイドルは自分の娘みたいなものだからな。変な意識をしないようにしないと、2人ともその、なんだ、可愛いからな。
「……ん? 3人?」
「何よう、おかしなことある?」
「俺と、千早と……伊織?」
「あーうさちゃんも入るから4人ね。ごめんね、忘れちゃってて」
いや、問題はそこではなくて。
「伊織も一緒に……か?」
「当然でしょー! じゃないとこんなの協力したりしないわよ」
「水瀬さんは「そこそこの成功を収めて、もうアイドルやめろ」と父親に言われたらしくて、それに反発して家出してきたそうです」
家出かよ……確かに伊織だと頼れるところってそうはないが。
「そーゆうわけなの、しばらく頼むわよ」
「……まあ1人より2人と暮らしていた方が色々と自制が聞くかな(ぼそ)」
「どうかしましたか?」
「いや! なんでもない」
慌てて自分の口を塞ぐ。
まあ突然のハプニングに色々と混乱してしまったが、なんとかなるだろう。いや、なってほしい。というかなってくれ。俺は天の神様に祈った。
そんな俺の横に千早が来て一言。
「……ふつつか者ですが、よろしくお願いしますね」
「えっ?」
「いえ、なんでもありません。さあ、中に入りましょう」
「うわーまって! まずは片付けてから」
「きったないわねー、はやく片付けてよ!」
「待てといったろーが!」
とにかく、そんなこんなで俺と『CAT&DOG』の2人との同棲は始まりを告げたのだった。
ここからとんでもないことになっていくとはつゆ知らずに。
あとがき
とある友人に触発されはまったゲームアイマス、それで感じたものをそのままSSにぶつけてみました。あのゲーム、アイドル同士のトークとかがないんですよね。そこが不満点だったのでもしSS書くときはアイドル同士の会話が入るようにしようって。
あとはCLANNADSSも読んでいる人がこれを読んで感じることは俺の某作品とそっくりじゃん!ってことだと思いますが仕様です、こっちはこっちでおもしろそうだなって。
ある意味で反応が怖いやつです、まあまったく反応ないって可能性が一番高いと思いますけど。
一言感想とかよろしくお願いします。むしろこれを読む人がいるのかが知りたいw