『女子談義』



 女三人寄れば姦しい(かしましい)という言葉がある。
 女性は1人でもお喋りなので、3人も集まればやかましいほどによく喋る、ということだ。
 今、能美クドリャフカの部屋には6人の女性が集まっていた。
 それはきっと、大騒ぎも致し方ないと証明しているようなものだった。
 あらゆる話が飛び交う、今日はどんな日だったとか、どんなお菓子がおいしいとか、怪我していたときのすご し方とかとにかく取りとめのないものばかり。
 その会話が一瞬でも止まることになろうとは、誰が予想できただろうか。

「そういえば、みんなキスしたことってある?」

 葉留佳の発言に皆押し黙った。
 鈴は何事かと周囲を見渡すが、皆苦笑いを浮かべていた。

「私はあるぞ」

 真っ先に発言したのは唯湖だった。

「おお、さっすが姉御ー。で、どんな感じでしたか?」
「ふむ、とはいえ私がしたことあるのは挨拶程度のものだがな」

 と、自分が外国に住んでいたことを明かし、そこでのキスは挨拶代わりなのだということを語る。

「あーえっとですねー私が聞きたいのはそうではなくて……」
「ふむ、キスしたことあるかという話だったが」
「いや、それはそーなんですけどー」

 葉留佳は顔を赤くして言いづらそうにしている。小毬やクドも心なしか顔が赤い。
 美魚も平静を繕っているものの、顔は少し赤くなっていた。

「なんだ、どーしたんだみんな」
「ふむ、そういうことか」

 鈴は何で皆がそうなっているのかわからなかったが、唯湖はどうやら察したようだ。

「つまり、愛のキス、ということだな」
「あーうん、あれか」
「……わかっていませんね」

 美魚がつっこみを入れる。
 理樹がいない環境でつっこみ役に回るのは美魚か葉留佳の役目だった。しかしその二人もボケに回ることがあ るため収容がつかなくなることも多々あるが。

「で、その愛のキスをしたことあるヤツはおるかーってことで」
「こういうのは、言いだしっぺが最初に言うべきでは」
「う……いやーほら、何か恥ずかしいからさー」
「でも、言いだしっぺが言わないと、みなさん言わないと思いますよ?」

 理屈的なつっこみで美魚が葉留佳を追い詰めていく。
 白旗をあげたのは葉留佳のほうだった。

「うーわかったよー。それじゃあ一番! 葉留佳さんの愛のキス話いきまーす」

 あきらめた途端、ノリノリで発言する葉留佳。実はしゃべりたかったのかもしれない。

「私が初めて愛のキスしたのは、家の中でなんだ」

 皆からおーっと喚声があがる。多分、どこでやったとしてもあがったのだろうが。

「私から誘ったんだヨ。そしたら相手物凄く慌てたんだけど、キス、してくれたんだ」

 葉留佳の顔が赤く染まる。そのときのことを思い出しているのだろう。

「ふむ、それはどういう感じだったんだ」

 唯湖が尋ねる。他のものも興味津々といった感じで葉留佳を見ている。

「えっとね、マーマレード味だった」
「マーマレード? キスって甘いものなんだ」

 小毬が顔を輝かせる。甘いもの好きなためここで反応したのだ。

「あーうん、キスの前に私の作ったスコーンにマーマレードつけて食べてたからさ。相手が」
「はるちゃんスコーン作れるんだ。今度一緒に作ろう」
「おーバッチシ任せとけってんですよ」
「話が…変わっています」

 すぐに寄り道にそれるのも女の子同士の会話だからだろうか。
 美魚のフォローによってなんとか話は本筋に戻る。

「あーゴメンゴメン、んじゃ次は小毬ちゃんいってみよーか」
「ふえええええ!? 私キスしたことないよー」
「えーでもほら、あるんじゃないのーそういった愛の話」

 キスでなくてもいいらしい。
 小毬はうーんうーんとうなっていたが、やがてぽつぽつと語り始めた。

「…キスじゃないけど、抱きつかれたことならあるよ」
「おーじゃあそれでいってみよーか」
「すごく興味があるですー」

 葉留佳やクドの後押しもあって、小毬は恥ずかしそうにしながらもそのことを口にしていく。

「ものすごーく悲しいことがあって落ち込んでいたときにね、思いっきり抱きしめてくれたんだ」
「あー私もそうだったよ。なんか一緒だねー」
「すっごくあったかくて、悲しかったこともどこかにふっとんでいっちゃいそうな感じだったよ」

 葉留佳が小毬の言うことにうんうんと頷く。

「ふむ、私は抱きしめたことはあるがな」
「おー姉御は逆なんですね!」
「うむ、ただ、物凄く悲しかった」

 少し会話が静まる。唯湖が悲しげな目をしたからだ。
 普段あまり感情を出さない唯湖がこういう表情を見せるのはよほどのことなのだろう、そう皆は考えた。

「ああ、すまない。この雰囲気をぶち壊しにしてしまったな。そうだ、クドリャフカ君はどうなのだね」

 それに気づいた唯湖が雰囲気を元に戻そうとクドリャフカに問いかける。

「えー! 私ですかー」
「うむ、先程からしゃべりたいオーラを出していたからな」
「わふーっ! しっくすせぶんです!」
「SIXSENSE(シックスセンス)…第六感のことかな」

 英語が得意な小毬がクドのフォローをする。雰囲気も元のおおらかなものに戻ってきた。
 クドはわかりましたーと返事すると、自分の話をし始めた。

「私のふぁーすときすはー靴ひもが解けてますって言ってかがみこんだところにでした」
「不意打ちとは意外と策士! 孔明か!」
「えへへ」

 照れくさそうに笑うクド。

「いやーこのわんこですらキスしているとは、うりゃっ! うりゃっ!」
「うわーん! やめてなのですー!」

 葉留佳はそんなクドの頭をつかみ、ぐりぐりとこぶしを当てる。

「美魚ちんはどーなのさー」
「私、ですか。私は…浜辺でキスしました」
「うわーロマンチックだねー」

 小毬がうらやましそうな表情で美魚の方を見る。

「男の人とのキスは、ぼうっとして、熱くなってしまいます」
「あーあと、男の人のつばって何か違うよね」
「なんか、欲しくなってしまうのです」

 キスの経験がある3人が語り合う。

「ふむ、キスの味はつばの味か。なんとなくわかるな」
「相手を求めたくなる、ってことかなあ」

 ないが、男と付き合った経験のある二人も何かを感じているようだ。
 ただ一人、鈴だけはその様子をじっと見ている。
 皆の話についていけないのだ。だからその疑問を素直に口にする。

「おい、みんな何を言っているんだ」

 皆が一斉に鈴の方を向く。恋愛話に夢中になりすぎて、今になってその存在を思い出したからだ。

「あー鈴ちゃんには難しすぎてわかんないかー。大丈夫、きっとわかるときが来るからさ。おーよしよし」

 葉留佳に慰められ、むっとする鈴。
 みんなわかっているのに私だけわからない。葉留佳にすら馬鹿にされた、くやしい。
 そんな気持ちでいっぱいだった。

「なあ」

 だからせめて参考にしようと、皆が口にしないので疑問に思っていたことを聞いた。

「ん、どうした」
「みんなの相手って誰なんだ」

 途端、皆押し黙ってしまった。
 そう、自分たちの経験はもうひとつの世界での出来事。
 あの世界はリトルバスターズの3人を軸にして皆で作った世界。
 男の子と女の子を成長させるための世界。
 皆の記憶はうろ覚えである。だが、大事な部分だけは記憶に残っていた。
 だけど、男の子と女の子が夢の中の記憶をどのくらい覚えているかは疑問。
 でも、それでも。

「んーとね、一見弱そうだけど、でもとっても強い人」
「守ってあげたいと思うタイプだな」
「とっても優しいのです」
「誰かのために一生懸命になれる人です」
「とっても、あたたかい人なんだ」

 皆、口々に彼についてのことを言う。
 彼は覚えていないかもしれない。自分たちとの記憶を。
 でも、それでも。
 大切な、大好きな人という記憶は残っている。それが大事だとわかっているから。
 皆相手の名前は口にしなかった。言わなくても、同じ人だとわかってしまったから。
 顔を見合いながら笑いあう。

「ふむ、よくわからないがいいヤツなんだな」

 女の子は夢の中をよく覚えていない。成長したということだけは確かだが。
 ただ、女の子は考える。
 男のつばはなんか違う、理樹のなら何かわかるかなと。
 何故理樹なのか、実の兄でも他にも男はいるはずだ。
 だけど、真っ先に思い浮かんだのは理樹の顔だった。
 いつも一緒にいるからだろうか、それとも――。

「あー鈴ちゃん顔が赤くなってるー」
「え?」

 鈴は小毬に言われて顔が赤くなっていることに気づいた。
 それを皆が見ている。ますます赤くなった。

「誰のことを考えてるのかなー」
「男の人であることは間違いないですね」
「鈴さんも気になるのですかー」
「そんな鈴君も可愛いぞ」

「うっうっさいバカー!!」

 鈴は大きな声で叫んだ。
 そんなこんなで、女6人の姦しいではなく姦姦しい夜は鈴の叫び声とともにふけていった。





「クシュン!」
「どうした、風邪でもひいたか理樹」
「うーん、どうなんだろ」
「筋肉つけろ筋肉。つけとけば大きな怪我もしないで済むぜ」
「そのせいで連れ出すとき大変だったんだけどね……はあ、早くみんな帰ってこないかなあ」

 たくさんの女性に思われているとは露知らず、男友達たちの帰りを待つ男の子であった。



おわり



あとがき
 今回もネタバレ満載でお送りしています。
 このSSを書くきっかけは終わり際の鈴の「みんなが男のつばはなんか違うとか言ってたから」というやつで。
 鈴の言うみんなってきっとリトルバスターズの面子だよな、あれでもみんな記憶残ってたのかな。いや、他の男ととか考えたくないからきっと残っているに違いない、でもキスしたやつって3人だけだよな。あれれれ。と、そういうことを考えているうちに書いてみたのがこれ。
 ハーレムにしましたがいかがだったでしょうか。というか俺はこういう形しか認めません。同士募集中(ぇ 


何か一言いただけるとありがたいです。