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「あーもう、ついてないなあ」

 私はため息をつきながら学校から寮へととぼとぼと歩いていく。
 時計の針を確認する、もうすぐ午後10時になりそうだった。
 こんなことになってしまったのも、学校に筆箱と携帯を置き忘れてしまったからだ。忘れたと言うのに気づくのが遅れてしまったため、取りにいって戻るのがこんな時間になってしまった。
 別に筆箱だけだったら、友達から借りたりすれば今日の夜だけなので全く問題はない。けれど、携帯もとなると話は別だった。

「学校に置きっぱなしにしていたら誰かに見られちゃうかもしれないから」

 私はそうつぶやいて携帯を開く。
 そこには私の好きな人――直枝君の写真が画面いっぱいに映し出されていた。
 それは携帯電話のおまじない…
『好きな人の写真を待ち受けにして3週間、誰にもバレなかったら恋が成就する』
 これは女子の間で流行っているおまじない、といっても今日友達に教えてもらったばかりだけど。
 もちろんおまじないを心の底から信じているわけではない。けれど、1%でも可能性があるのならそれにすがりたいというのが私の気持ちだった。だからこそ、手元に置いておかないと不安になる。
 まあ、そんなものを忘れていて、あまつさえこんな時間まで放置していたということに自分自身にあきれてしまう。

「あーもう、私の馬鹿馬鹿」

 自分をぽかぽかと殴る。ほんの少し、気が張れた。

ぬおーん

 そのとき、よくわからない鳴き声が辺りに響き渡る。
 この学校に多い猫なのだろうか、でも、猫にしては鳴き声が変だし。
 そう考えていると、同時に夜の中を歩いているという恐怖を思い出す。これまでは自身を責める気持ちと取りに行かないとということばかり考えていたから全く気にしていなかったのだけど。

「は、はやく帰ろう」

 急に恐ろしくなってきた私は足早に寮へと向かっていく。
 その帰り道の途中のことだった。私が、変な物体を道端に発見したのは。

「な、なにあれ」

 暗くて良く見えないがそれは動物より遥かに大きなものだった。それでいてもぞもぞと芋虫のように動いている。
 私の恐怖心を煽るのには十分なものだった。
 おそるおそる近づいてみる。帰り道の途中にある以上、どっちにしろ近づかないといけなかったから。
 心臓の鼓動がはやくなってくる、目をつぶって通り過ぎたいところだけど、ちょっとだけ好奇心もある。
 緊張感がピークに達した頃、その姿が明らかになった。

 それは、昔友達から無理やり読まされたHな本に載っていた、亀の甲羅のような縛り方をされた男の人の姿だった。

「き…」
「むがっむがっ……ぷはっ! お、おい! そこの誰か、た、助けてくれ!」
「き……」
「この縄を解いてほしいんだ! 頼む!」

「きゃーーーーーーーーーーーー!!」

 緊張感は悲鳴に変換された。
 変態さんに出会ってしまったからだ。
 私は少しでも変態さんから逃げ出そうと猛ダッシュでその場を後にする。

「あ、おい待ってくれー!」

 変態さんが何か言っていたようだったが私はただひたすらに逃げた。



 走って、走って、走って。
 気が着いたら、後少しで寮というところまで来ていた。

「はぁっ……はぁっ……」

 ここまでくれば大丈夫だと思い、息を落ち着ける。
 自分の目が今になってうるんでいることに気づいた。こんなことは友達と一緒に入ったお化け屋敷以来だ。
 まさか本当にああいうのがいるなんて。自分は大丈夫だと心のどこかでは思っていたのかもしれない。
 しばらく夜の外出は控えよう、外出するにしてもしっかりと防犯対策を行おう。
 そう決心して、私は寮の中へ入った。



 午後10時ごろだというのに、寮内のほとんどの部屋の明かりがついていた。
 驚いたのは廊下を歩く音も結構したことだ。この時間帯になると少しは自重し始めて部屋の中にみんな戻るからだ。
 その足音のひとつが私の方へと近づいてくる。

「あ、むっちゃんだー」

 私に声をかけた主は神北小毬さんだった。
 むっちゃんとは、小毬さんが私につけた呼び名である。最初は恥ずかしかったけれど、何度も呼ばれているうちに慣れてきた。

「小毬さんこんばんわ」
「こんばんわー」

 相変わらず笑顔で接してくる。私も自然と笑顔になった。

「どうしたの? こんな時間に部屋の外で」
「う、うん。ちょっとね」

 なんだろう。いつもなら素直に答えそうな小毬さんが今日は口をにごした。

「そ、それよりむっちゃんこそどうしたの? お外に出かけていたみたいだけど」
「あ、う、うん。ちょっと学校に忘れ物しちゃってね」

 何をかは決して答えなかった。
 深くつっこまれてしまうのが怖かったのだ、下手したら占いをしていることまでばれてしまいそうで。

「ふーん、そうなんだ。でも、こんな時間にお外に出ちゃ危ないよ?」
「あ、そうそう、危ないといえばね」

 小毬さんの言葉で先ほどのことを思い出す。
 自分の身に起こった危ない出来事は、危機を過ぎればいい話題になる。

「さっき、外で変態さんがでてきたんだよ!」
「わわ、へ、変態さん?」
「そう、なんかね、亀の甲羅みたいな縛られ方していたの!」
「……その話、詳しく聞かせてもらえるかしら?」
「へ? わ、わわ! 二木さん!」

 私が小毬さんの方に集中している間に、いつの間にか二木さんが私たちの傍まで来ていた。
 それどころか、直枝君の入っているグループ――確か、リトルバスターズって名前だったと思う――のメンバーもこちらに集まってくる。
 先ほどのたくさんの足音はこの人たちのものだったのだろう。

「頼む、聞かせてくれ」
「う、うん」

 去年の夏ごろから私たちと話すようになってきた棗さんもお願いしてくる。
 どうしてそんなに聞きたがるのか気になりながら、私は続きを話し始めた。

「えとね、その人なんだけど学校の帰り道に亀の甲羅みたいな縛られ方していてね、道端に倒れていたの。そんで突然助けてくれっていったんだけど、私怖くなっちゃって……」

 良く考えたら、本当に助けを求めていたのかもしれない。もしそうだとしたら悪いことしてしまった。今度その人に会う機会があったらちゃんと謝ろうと思う。

「あ、そうそう、やけに筋肉質な男の人だったと思う」

 その一言を言った瞬間、みんなの表情が変わった。

「……どうやら、間違いなさそうですね」

 同じく前一緒のクラスだった西園さんが険しい表情をしている。
 何かまずいことを言ってしまったのだろうか。

「あ、あの……」
「よし、はるちんが猛ダッシュでちょっと確認してくる!」

 真っ先に寮を飛び出したのは前の学年のときよくうちのクラスに遊びに来ていた人だった。

「あ、こら待ちなさい葉留佳!……ご協力、感謝するわ」
「あ、はぁ……」

 その後を二木さんが追いかけていく。

「ありがとう」
「うん、また今度ねー」
「わふーまたなのですー」
「それでは、ごきげんよう」
「…失礼します」
「ありがとね、今度時間あるときにお話しましょう」

 棗さんが、小毬さんが、能美さんが、笹瀬川さんが、西園さんが、朱鷺戸さんが。
 私にお礼と別れの言葉を述べて次々と寮の外へと出て行く。
……一体、どうしたというのだろう。
 ぽつんと一人残されて、ほんの少しさびしく感じてしまった。




 することもなくなったので部屋へと戻る。
 昔は先輩とルームシェアしていたのだが、卒業していったため一人で部屋を今は使っている。
 二人での暮らしになれていると非常に一人がさびしく感じた。
 私は机へと向かい、椅子に座る。そして、鍵をかけた引き出しから一冊の本を取り出した。
 これは私が愛用している日記帳、その日あったこと、思ったことを書きとめておくもの。
 学校へ取りに戻った筆箱


から一本のシャープペンを取り出す。
 実はこのシャープペン、直枝君からもらったものだった。
 私が筆箱を忘れてしまったとき、たまたま隣の席だった直枝君がこれを貸してくれたのだ。返そうとしたのだけど、「あげるよ」と言ってくれたのでそのままもらってしまった。以来、私の宝物のひとつである。
 これを使って日記を書くのが私の日課だった。

「今日は色々あったからなあ」

 直枝君と同じクラスになれたこと。
 その直枝君に告白するシーンを目撃してしまったこと。
 学校に忘れ物をして、帰り道変な人に出会ってしまったこと。
 その出来事と、そのときに思ったことを一緒に書いていく。
 いつの日かこれを読んで、あんなことあったなあと過去の思い出にふけることがあるのだろう。
 できれば、それは好きな人と一緒にがいい。例えば――



『ねえねえ、睦美さん。掃除していたらなんかこんな本が出てきたんだけど』
『あ、それ私の昔書いてた日記帳!』
『へー…ねえ、読んでもいい?』
『うーは、恥ずかしいよう』
『まあまあ……あ、ほら、見て見て。僕らが三年のとき一緒のクラスになったときのことが書かれているよ』
『あ、そうそう。この日の夜外歩いてたら変な人にあっちゃったんだっけ』
『それよりもほら、僕のことが書かれてる…うわー恥ずかしいなあ』
『よ、読まれている私の方が恥ずかしいんだから!』
『あはは、ま、まあいいじゃない。こうやって昔を思い返すのも。こうやって昔の睦美さんの良さをしるのもね』
『私にとっては恥ずかしいだけだよっ』
『まあまあ……でもね』
『?』
『僕にとっては今の睦美さんが一番素敵だよ、僕と一緒にいる睦美さんが』
『もう……理樹君ったら』



「……うん、そんな未来を迎えるためにも頑張ろう!」

 そうだ、そんな素晴らしい未来を迎えるためにも私は頑張らないといけない。
 明日また機会があったら……ううん、なくても話しかけてみよう。
 まずは友達になれるようがんばろう。

「えい、えい、おー!」

 私は外に聞こえないくらいの声で自分にエールを送った。
 がんばれ、私。
 負けるな、私。



おわり



あとがき
 杉並さんビジュアル化計画を始めたはいいものの、ほとんど意見がこないので急遽呼び込むために書いた作品。
 以前から構想自体は練っていたので意外と楽にできました。
 SHINE SHRINEはかわいそうな杉並さんを全力で応援しています(ぉぉぉ


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