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「あ、あった――!」

 3年の春、始業式の日。私は声に出して叫んだ。
 もちろんただ自分――杉並睦美の名前を見つけただけというわけではない。
 私の名前が書いてあるクラスの張り紙に、私の好きな人の名前が書いてあったからだ。

 その人の名前は、直枝理樹君。

 前同じクラスだった謙吾くんや真人くんといった、クラスの中で変な人たちの部類に属する人たちの中心にいる一見普通の人。いや、傍目から見る限り性格とかもぶっとんでいたりはしない。
 私はそんな彼が何故あんな特殊な人たちと一緒にいるのか不思議でしょうがなかった。

 でも、気がつけばずっと見ていた。

 それが好きだという気持ちに気付くのにそう時間はかからなかった。
 けれど、臆病な私は見ているだけだった。
 それに、直枝君はいつもリトルバスターズという仲間たちの中心にいるのだ。ただの男友達の集まりというわけではなく、ちょっと変だけど、それでも可愛い女の子たちも一緒に。
 私はそれに気後れしてしまい、ただ見ていることしかできなかった。
 でも、今年は違う。
 何せ理樹君はリトルバスターズのみんなとは違うクラスなのだ。それを少しかわいそうだとは思ったけど、一方でチャンスだと思った。
 勇気を出して一歩を踏み出すチャンスだと――。

「よし、私がんばる!」

 声に出して気合を入れる。
 今日の目標、それは直枝君に話しかけること。
 私の一日はこうして始まった。





『杉並睦美、がんばる』





 始業式が終わって自分のクラスに入る。
 直枝君はちょうど一人で席に座っていた。
 まさしく話しかけるには最高のチャンス。むしろこれを逃したら次はないかもしれない。

「がんばれ、がんばれ、私」

 小声で自分にエールを送る。
 奮い立った私は直枝君の前へと立った。

「お、おはよ、直枝君」

 先ほどまでやる気まんまんだったのに、直枝君の前に立つと途端に緊張してしまい、挨拶も満足に言えなくなってしまう。

「あ、ええと――前、同じクラスだったよね?」

 私のこと、覚えててくれたんだ――!
 それだけでもう天にも昇る気持ちです。

「う、うん。直枝君、覚えてたんだ」
「うん、でも、名前が……」

 途端、心の中で落ち込む私。やっぱりその程度ですよね。
 それを直枝君にはばれないように、笑顔で取り繕う。

「あはは、まああんまり話さなかったし。私の名前は杉並睦美、一緒に頑張っていこうね」
「そうだね。一緒にがんばろう」

 そういって直枝君から向けられる笑顔。
 その笑顔はまぶしすぎた、思わず立ちくらみしてしまいそうなくらい。
 今日はもう、これだけで幸せを一日中感じていられそう。それくらいの力を持っていた。

「ほら、席につけ。HRやるぞ」

 もっと話していたかったのに先生がやってくる。

「それじゃ直枝君、これからもよろしくね」
「うん、よろしく」

 私は挨拶を済ませると自分の席へと戻った。

 

「ところで、いきなりだがこのクラスに転校生が入ることになった」

 担任の先生が自分の紹介をしたあと、突然そんなことを言った。
 もちろんクラス全体がざわめく。
 この時期に転校生……珍しい。

「さ、入ってきてくれ」

 担任に言われて教室に入ってくる女の子。
 長い、綺麗な髪をした可愛い子。全体的に普通な私にとって、それはとてもうらやましく映る。

「朱鷺戸あやです。これからよろしくお願いします」

 しっかりとした口調で自分の名前を告げる。
 朱鷺戸さんっていうのか、仲良くしたいな。ちょっと授業が終わった後にでも話し掛けてみよう。
 そう考えながら私は授業が終わるのを待った。



「――と、いうわけでこの高校最後の一年、よく頑張ってほしい。俺からは以上だ。じゃあ今日はこれで終わりとする」

 全員で起立、礼を行う。
 私はその後朱鷺戸さんのところへと向かう。
 しかし、3年という受験期とはいえやはり転校生というのは注目の的。
 既に朱鷺戸さんの周囲には人がたくさん集まっていた。

『ねぇねぇ、どこから来たの?』
『綺麗な髪してるよねー』
『彼氏とかいるの?』

 色々な質問が浴びせかけられる。
 朱鷺戸さんもそれに対してそつなく答えを返していく。
 私も話しかけようとするけど周りが次々に話しかけていくためなかなか会話に入り込めない。時間だけが過ぎていく。

「ごめんなさい、そろそろ私帰らないといけないから――」

 そしてある意味タイムアップ。本日の営業は終了しました。
 朱鷺戸さんのその一言にみんな不満そうな言葉を口にするけど、多分それほどたいしたこととは思っていない。
 そう思わせる魅力が彼女にはあった。

「それじゃあ、また明日ね」

 そう言って教室を出る朱鷺戸さん。
 うう、結局話せなかった……。

「あれ?」

 落ち込んでうつむいた拍子に、ピンクのかわいらしいシャープペンシルが床に落ちているのを見つけた。
 もしかしたら朱鷺戸さんが忘れていったのかも……。

「よし、届けてあげよう」

 私はそう決心するとそのシャープペンシルを拾う。まだそんなに遠くにはいっていないはずだ。
 私もみんなに挨拶すると急いで教室を出た。
 これをきっかけに話しかけてみるのもいいかもしれない。そんなことも考えながら。



 校舎を出て、周囲を見渡す。
 運よく、朱鷺戸さんの姿を発見した。
 しかし彼女が向かっているのは寮や学校の外ではなく、学校の裏の方。
 どうしてそっちへと向かっているのだろう。
 とりあえず追いかけていく。

「あーもう!!!」

 周りに人がいなくなったところで、突然朱鷺戸さんが叫んだ。
 私はついびっくりして校舎の影に隠れる。

「あたしの馬鹿馬鹿馬鹿! 待つって手紙渡したのにあたしが待たせてどーするのよ!」

 先ほどとのキャラのギャップに唖然とさせられる。
 朱鷺戸さんって、こういう人だったんだ……。

「ああ……でも理樹くん、すっかりおっきく、かっこよくなってたなあ。あたしが小さい頃夢で見た素敵な人とそっくり」

 今度はうっとりとしはじめる。
 それよりも直枝君の名前が出てきたことの方に驚きを感じていた。
 先ほどの発言から考えると……二人は幼馴染?

「どうしよう、いざ二人きりになったら抱き着いちゃうかもしれない……だめよ! とりあえず最初は冷静にして遅れたことを謝るとか……ああ、でも!」

 くねくねしたり急に冷静になったかと思えばすぐ頬を赤くしたり。
 よくこんなに感情をわかりやすく変化させることができるなあと思う。
 それに聞き捨てならないようなことを発言しているし。

「とりあえず落ち着くのよあたし――よしっ! それじゃあ行くわよ!」

 どうやら朱鷺戸さんの意思は固まったようだ。
 一体どこに行くのか気になった私はついていくことにした。もちろん気づかれないように。
と、いうのも私は何故かこういうことは得意だった。
 生まれつきの普通さによる影の薄さだろうか、私が尾行すると誰も気づいてくれないのだ。
 もちろん親の買い物に付き合って忘れ去られたり、友達とのかくれんぼで置き去りにされた経験もある。
 そんな私だから尾行には自信があった。
……自分で言ってて悲しくはあるけど。



 朱鷺戸さんはどうやら裏庭の焼却炉に向かっているようだ。
 気づかれないように後ろをつけていき、そして校舎の影に隠れる。
 そしてそこからそっと顔を出して焼却炉の方を見る。
 そこには直枝君の姿があった。
 何故? もしかして、さっき朱鷺戸さんが言ってた手紙で待つがうんぬんって直枝君へ宛てたもの?

「待たせたわね」

 朱鷺戸さんが直枝君にそう伝える。
 どうやら冷静にいくことにしたっぽい。

「ん、大丈夫だよこのくらい」

 待つって相手が書いておきながら、待たされることになったのに気にしない。
 それが彼の優しさ。きっとそれは私が好きになった理由のひとつ。

「で、何の用?」
「――直枝、理樹よね? 名前」
「うん、あってるけど」
「そう――」

 理樹君が肯定の言葉を返したあと、朱鷺戸さんが体をわなわなと震わせはじめる。
 まさか――


「会いたかった!」


 案の定、朱鷺戸さんは直枝君に抱き着いていた。
 どうやら我慢できなかったらしい。
 その朱鷺戸さんの行動に怒りを覚えた私は校舎の影から飛び出そうとする。

「な、何をしているのよ!」
「な、何をしていますのあなたたち!」

と、それよりも先に直枝君たちの近くの茂みから二人の女生徒がでてきた。
 あれはもしかして――笹瀬川さんに二木さん!?
 私は驚きを隠せなかった。
 かたやソフトボール部のエースで唯我独尊、女王のあだ名をほしいままにしている人。
 かたや女子寮の寮長で規則を守らない人には容赦ない、女子からも男子からも恐れられている人。
 しかしどちらも人気がある人。
 そんな二人がどうして茂みで隠れていて、しかもこのような場で出てきたのだろう。

「あ、あれ? どうして二木さん、笹瀬川さんがここに」
「べ、別にわたくしはほんの偶然通りがかっただけですわ! 直枝さんの後をつけたりなんてしてはおりませんでしたわよ」
「わ、私はただ、直枝理樹の後を笹瀬川さんがついていくのが見えたから気になってついてきただけで――そ、それよりもあなた! 一体何をしているのよ!」

 二人ともしどろもどろになりながら無理やりな答えを返す。
 それどころか話題を転換しようとしている。私はすぐに察した。
 この二人も、直枝君のことが好きだってことに。
 多分間違いないだろう、性格は違うけど、こういうときに考えることは私にはよくわかる。
 何せ私自身恋する女の子なのだから。
 そこからはカミングアウトの連続だった。
 朱鷺戸さんの幼馴染発言。
 直枝君の記憶にない発言。
 それに対する朱鷺戸さんの自虐笑い、それによる記憶の復活。
 ここまではまだいい。しかし、とんでもないのはここからだった。

「あたしは約束したんだもの。今度会うときは恋人同士にって」

 朱鷺戸さんの恋人(になる)宣言。
 それが出てきたかと思いきや、

「いいですの! 直枝さんはわたくしの恋女房なのですわ!」

 笹瀬川さんの恋女房発言。
 挙句の果てには、

「直枝理樹は私……いえ、葉留佳のものよ!」

 何故かそこで別の人の名前を出して宣戦布告する二木さん。
……葉留佳さんって確か2年の頃よくうちの教室に遊びに来ていた人だろうか。
 二木さん的には遠まわしに言っているのかもしれないけど、二木さん自身が直枝君のことを好きだというのはばればれだった。そのあとの言葉からも。
 そして始まる女の子三人の言い争い。
 それがある一言をきっかけに強烈なにらみ合いに変わる。

「理樹くんはあたしのもの! なんだから!」

 朱鷺戸さんの感情を素直に表に出した言葉。
 他の誰にも渡さない、そんな強い気持ちが現れている。
 私はそんな言葉を簡単に言える朱鷺戸さんをすごくうらやましいと思った。
 私がもしそんなことが言えたら……。



『な、直枝君!』
『ん、どうしたの?』
『え、えっとね……』
『?』
『な、直枝君は私のもの!』
『!!』
『だ、ダメかな。そうだよね、ダメだよね。私なんかが……』
『杉並さん!』
『きゃっ、な、直枝君』
『うれしいよ、杉並さんがそこまで言ってくれるなんて』
『直枝君――』
『杉並さん――』



「きゃー! そ、そんなキスまで……」

 思わず自分の妄想に入り込んでしまう。
 しかし、その妄想が私に勇気を与えてくれる。
 求めよ、さらば与えられん。イエス・キリストはすごくいいことを言ってくれた。
 そうだ、私も宣戦布告をするんだ。そして妄想を現実にするんだ――!
 私は意を決して校舎から出ると、大きな声で直枝君たちのいる方に向かって叫んだ。

「な、直枝君は私のも――」

 そこには、誰の姿もなかった。
 どうやら私が妄想に入り込んでいる隙にどこかへいってしまったらしい。

「ああ、もう! 私のばかばか!」

 声に出して自分を責める。
 せっかく入れた気合がどこかに飛んでいくのを感じる。

「ううん、私負けない! いつか直枝君の恋人に……いや、まずは女友達になってみせる!」

 しかしこんなことで挫折する私ではなかった。  最初から大きい目標だと挫折してしまうから、まずは手に届きそうな範囲の目標にする。
 3年生はまだ始まったばかりなのだ。

「えい、えい、おー!」

 私は小さく、自分を勇気付けるようにエールを送った。
 がんばれ、私。
 負けるな、私。



終わり



あとがき
 実はこの作品の構想は『理樹くんはあたしのもの』を書き終えた時点からありまして、それをしまさんと冗談交じりに話してみたら書く羽目になったのがこちらです。
 ついでに杉並さんはmarlholloさんの嫁だというのにこんな形で登場させてしまったので、まーさんに「杉並さんを嫁にください!」とわざわざ伝えてきました。ことわられたんですけどね(ぉ
 杉並さん良いキャラだと思うんですよ。鈴シナリオと唯湖シナリオのそれぞれで少しずつ出ましたけど私にはすごく印象に残っています。
 でも悲しいかな立ち絵がない!(涙
 誰か杉並さんを描いてくれるという奇特……いや、親切な方はいらっしゃいませんかー?
 SHINE SHRINEはかわいそうな杉並さんを全力で応援しています(ぉぉぉ


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