拝啓、岡崎朋也です。
先日の宮沢誘拐喜劇(?)から早いもので三日が経ちました。
現在俺はあの時の集団リンチが元で病院に検査入院しています。どうやら全身打撲程度で済んだらしく、もう少ししたら退院できそうらしいので安心しました。
むしろ俺としてはあのとき杏と智代に殲滅させられた不良軍団がどうなったのか気になって仕方ありません。一部の方々(彼らも傷を負っていた)は謝罪に来てくださったのですが、残りの方はと聞くと皆口をにごされました。どうやらどこからか強力な圧力がかかっているようです。
おっと、話がそれてしまいました。
そういえば、宮沢の件についてはあれ以降宮沢の御友人のご協力(←強調)もあってどうやらもう危害が及ぶ事はなくなったらしいです。これには俺も体を張った甲斐があったというものです。
……けど、その代償なのでしょうか。
俺は今、大変な事になってます。
「朋也ー、りんご切ったわよー。はい、あーん♪」
「朋也、こっちのは気にするな。私のうさぎさんの方がよっぽどいいぞ…はい、あーん……」
「朋也さん、私が責任持って看病してあげますね。とりあえずこちらのりんごなんかいかがでしょうか?」
このとおり、養生できない入院生活が続いているからです(涙
『同棲(どうせい)っつーの』第8話
「……って何を書いてるんだ俺は」
はっとして思わずメモ帳をぐしゃぐしゃに破り捨てる。
てゆーか俺は今この内容を誰に宛てるつもりだったんだ?
春原か? いろんな意味で嫌過ぎるぞ……。
「はは、朋也クンも大変だね」
隣のやけに女の子っぽい顔をした患者が話しかけてくる。
声も見分けがつきにくいから本当に女の子に見えるが……実は男だ。
「ああ、大変過ぎるよ……勝平」
その相手の名前を呼びながら、俺は弱音を吐いた。
つい二日前に同じ部屋になったということで知り合った勝平は、同じ部屋ということで話す回数も多くなり、いつの間にか仲良くなった。
しかも彼の入院理由を聞いてみると、どうやら足に大きな病気を抱えていたらしい。
陸上選手だった彼は足を切られるぐらいならと手術をこばんでいたのだが、ある日自分が心の支えとしていたアーティストにこの病院でたまたま出会い、勇気づけられてやることにしたのだとか。
結果、手術は成功――別に普通の部屋でも構わなくなったのでこちらに部屋を移ってきたと。しかし、5年再発しなくて初めて治ったといえるらしく、しばらく入院の日々は続くらしい。
見た目からは想像もつかないような困難をくぐり抜けている勝平に、俺は少し遠くの人のように感じられてしまったのだが、話しているとそういうことは全く感じられない。
「だけどうらやましいねえ、朋也クンのところに来た女の子って5人ぐらいいない? しかも今のところ毎日。男の夢を地で行ってるよね」
「……でも変わる気はないだろ?」
「当然、ボクには愛する人が1人いれば十分だよ。というかたくさんを一気に愛するなんて傲慢だと思わない?」
さり気なくきついこと言ってくる。
こいつの場合人よりも黒い部分が見え隠れしやすいんだよな。
「まあ……否定はしない」
とりあえずあやふやに答えてお茶を濁しておく。
「そうそう、愛する人っていえば、ここの担当の看護婦変わるって知ってた?」
「いや、知らなかったが。それと愛する人ってのがどう関係してるんだ?」
変な話題の転換に困惑しつつも、まあ勝平だしということで気にしないでおく。
「その看護婦見てきたけどね、もうすっごく可愛かったんだ! 研修の子らしいんだけど、この子なら医療ミスで薬の適量を間違えて致死量にしても気にしないよって言うぐらい」
「いや、それは気にするべきだと思うが」
「本当にね、一目見た途端に胸がキュウンって締め付けられたんだ。コレが恋ってやつなのかも」
勝平がここまで心ときめかせる相手って誰なのだろう。正直見てみたい気もする。
「ああ……枯れ木に残る葉は何故残ろうとするのだろう」
「えっ……?」
「冬の冷たく、身の裂けるような風に耐え何の意味があるのだろう。残っていても新たな芽吹きによって散らされると分かっていながら残ろうとする。それはまるで人のよう、意味もなく愛や生にすがって生きようとする……って朋也クン、どうして離れてるの?」
「いや、お前が別の意味で遠くの人に感じられたからさ」
突然変なことを言い始めた勝平に対し、わざわざベッドのはじまで移動して遠さをアピールする。
なんか俺にはこいつがよくわからない。
トントン
「検温の時間です」
話していたとき丁度そのうわさの看護婦らしき声がする。
「うわさをすれば来たみたいだよ」
「ああ、そうみたいだな」
なんか聞き覚えあるなあと思いつつ、ドアの先をじっと見つめる。
カチャ
「どうも、今日からここの担当になります。研修の藤林椋です。よろしくお願いしま……岡崎くん?」
……ああ、わかってたさ。俺の今の境遇上こうなるってことは。
「あれ? 朋也クンのしりあ「ど、どうして入院なんかしてるんですかっ!?あぁっ、しかも全身に湿布までして……大丈夫ですか?」
勝平の発言は途中でさえぎられ、藤林が涙目で俺のもとまで寄ってくる。
「え……あれ? ど、どういうこt「一体なんでこんなことになったんですか? 原因はお姉ちゃんですか? わかりました、ここにいる間は私が全力でお姉ちゃんたちから岡崎くんを守ってあげます!」
「いや、そんなに興奮しなくていいからさ」
「あ、え、えっと……すみません。でも、こんな形で会えるとは思っていなかったのでびっくりしました」
藤林がちょっと涙目のまま嬉しそうな笑顔で俺に話しかけてくる。
本当に偶然なのだろうか、確かに病院とかの研修は偶然かもしれないが、この部屋を担当することになったのはなんか作為的な気もする。
……まあ最近偶然ばっかり続いていてそれを信じたくないというのもある気はするが。
「ああ、俺もびっくりだ」
とりあえず無難な答えを返しておく。
「じとー」
後ろの嫉妬に満ちた視線に耐えながら。
「ボク、ここまで人に殺意を覚えたの初めてだよ」
「そんなこと言われてもなあ……」
まさか勝平の好みのタイプが藤林だとは。
「は、はい……あ、そうだ、検温の時間でしたよね?」
「そういえばそう言ってたな。体温計くれるか?」
「……岡崎くん……失礼します」
こつん
何故か藤林はおでことおでこをあわせてきた。
「ああ!?!?!?!?」
隣の勝平がびっくりする。もちろん俺もびっくりだ。
「ふっ、藤林!?」
「……えっと、多分大丈夫……です……えへへ」
そういってにっこりと微笑んだ。
多分微熱ぐらいは出たなと思った。
「……朋也クン、キミって最低な奴だね」
そして顔が熱くなってるのとは正反対に背中には冷たい視線が突き刺さる。
「ボクの運命の人が既にキミの毒牙にかかってるなんて!」
「いや、運命の人って決まってたわけじゃないしな」
もちろん毒牙にかけたつもりもない。いや、確かに気にはなっているけど。
「朋也クンなんか、朋也クンなんか……多重恋愛の果てに嫉妬のあまり刺されちゃえばいいんだ!」
「あっおい!」
そう捨て台詞を残して自分の車椅子に乗り、部屋の外に出て行く勝平。やっぱり酷い台詞を残して。
しかもなんかありえそうな分性質が悪い。
……というか部屋の外に出て大丈夫なのだろうか?
「あー藤林、すまないがちょっとアイツが心配なんで見てくるわ」
「そうですか……残念です。せっかく2人きりになれたと思ったのに」
最後の部分は小声だったのだが確かに俺には聞こえた。藤林、お前もちょっと黒い部分あるよな。そういう意味ではお似合いの気もするが。
全く好きな人に相手にされていない勝平に同情の念を覚えつつ、俺はその勝平を探しに部屋を出た。
「あいつ一体どこに行ったんだ?」
病院内を見回るが、全く勝平の姿はない。多分陸上でなくともそっちで選手になれるんじゃないかっていうぐらい速かったし。
あいつの行きそうなところってどこだろうと思いながら、食堂、トイレ、ナースステーションなどを調べてみるがなかなか見つからない。
……やっぱ調べたところがちょっと失礼だったかな。
とにかく、まだ探してないところは結構大きな病院な分まだまだある。もう少し探して見つからなかったら一旦帰ろうと思い、下の階に下りる。
そのとき、丁度小さな女の子とすれ違う。手にはヒトデ型の模型を持っていた。
「……ヒトデ型?」
俺の足がピタリと止まる。それとほぼ変わらないくらいのタイミングで階段から鳴る足音が止んだ。
俺はおそるおそる上を見上げる。その女の子も俺のほうを向いていた。
そして、
「……風子か?」
「……岡崎さん?」
何でこんなところで風子と会うのだろうか。偶然とは、一体何なのだろうか。
俺の頭の中で混沌が巻き起こる。
そんな中、風子が俺のほうへ近づいてきた。
「あの……」
そして、ヒトデ型の模型を俺に向けて一言。
「風子と付き合ってくださいっ」
混乱は、さらに加速した。
病院って安息の場ではなかったのだろうか。というかこんな状況下での告白なんて、マジでどうせいっつーの。
続く
あとがき
久々です。今回病院の事情ってのをよく知らないで書いたため色々おかしな点もあるかと思いますが、その点はご了承ください。つか癌のやつって手術成功してもそう簡単に部屋変わんないだろと自分で書いてて思ったよorz