足取りが重い。

 ただアパートに戻るだけなのにこの重さはなんなのだろうか。普段から結構足取りが重いのだが、今日は一段と重く感じる。
 こんな経験をしたのはいつ以来か、智代が来た次の日の帰り、さらに杏が一緒に住むことになった次の日の帰り、渚に爆弾発言された次の日の帰り。
……なんだ、結構経験しているじゃん。
 しかし、こんなのいつまでたっても慣れない。まあ、慣れたくないことだが。
 足取りが重い原因は分かっている。今俺の隣にいるこいつ。

「朋也くんのおうち……」

 このことみこそが今回の原因の塊だ。俺の欝な気分とはうらはらに、すごく嬉しそうな顔をしている。
 もしことみをアパートに連れて帰ったとしよう、その後の展開を予測してみる。
 確かことみは杏や藤林、渚とは仲良くなったはずだが、智代とは草野球以来だったよな。
 ああ、よく考えてみれば今俺の周囲でハプニングを巻き起こしているのはあのとき一緒にプレイした、もしくは応援に来ていたやつらばっかりだ。もしかしたらこの先藤林や宮沢、芽衣とも会うことになるかもしれない。
 もしそうなったら、俺は偶然の神様ってやつを信じる。きっと今の俺にとり憑いているに違いないから。
……考えが大分それた。元に戻そう。
 もし、ことみと一緒にアパートについて、もしあの2人がいたら……



杏  『あーら朋也、私たちと一緒に住んでいて、渚にも告白されたってのにまだ浮気するの?』
智代 『朋也……お前がここまで無節操だとは思わなかったぞ』
朋也 『いっいや、ただことみは俺の家に遊びに来ただけであって……』
杏  『言い訳なんていらないわ。こうなったら直接体に教えるしかなさそうね』
智代 『そうだな……今回ばかりは協力するぞ』
ことみ『おもしろそうだから参加するの』
朋也 『いや、なっなんですかお2人が持っているものは……ってなんでことみも協力している……うわっやっ……まくまくっ……やめっやめろー!!』



You are die!



「恐ろしすぎる……」

 ちょっと無茶苦茶な気もするが、否定しきれないのがこの想像の恐ろしいところだ。少なくとも、ほのぼのとした展開は期待できない。
 やがてアパートが見えてきた。もはや逃げる手段も思いつかない。
 部屋に2人がいないことを望んだものの、近づいていくと杏の声がした。どうやらいるっぽい。
 こうなったら覚悟を決めるしかない、俺は地獄の扉を開けるような気持ちでドアを開けた。



ガチャッ!



「おっ……お姉ちゃんはどうして岡崎くんのアパートに住んでいるんですか!」
「それはね……」



ガチャッ!



 そしてすぐ閉めた。
 どうやら展開は俺の予想のはるか斜め上をいったようだった。





『同棲(どうせい)っつーの』第6話





「……偶然の神様、これはさすがにやりすぎでは」

 思わず口に出してつぶやいてしまう。あきらかに藤林の姿があった。
 2人がいることは予想の内だったが、まさか藤林がいるなんて。渚がいるよりも予想だにしない事態だ。

「ここが朋也くんのおうち?」
「ああ、そうだが……」
「どうして入らないの?」

 入りたくても入れないって。しかもなんか姉妹で言い争っていたじゃないか。
 あんな場にさらに厄介事の種なんぞ持ち込んだら物凄い勢いで成長してしまうに違いない。
 しかし、後退しようにも後ろには入らないのを疑問に思っていることみがいる。
 前門の姉妹喧嘩、後門のことみ。
 逃げ場が無い。うん、どうしよう。とりあえずことみの方をごまかしてみよう。

「アッチャーイケネ、カギドッカデオトシタミタイダ」
「さっきドア開けてたの」

 さすがに無理でした。しかもごまかそうと考えるあまりカタコトになってたし。
 ええい、こうなったらやけだ。俺は扉を開けようと再びノブに手をかける。



ガチャッ! 



バンッ!



「さっき朋也の声がしたんだけど……ん? 何でことみが?」
「杏ちゃん?」

 2人の声を聞きながら意識が遠のいていく。
 杏がドアを開けたとき顔に直撃したからだ。でも、ちょっと逃げれてラッキーだとも思った。
 願わくば、このまま気絶しているうちに全てが終了していますように……。




















夢……










夢を見ている……










とっても幸せそうな夢……










でも、実はとってもつらそうな夢……










CLANNADハーレムEDの夢……





がばっ!

「…っておい!」

 自分の夢にツッコミを入れて思わず起きてしまう俺。と、同時に辺りを見渡してみる。

「あ……あの、大丈夫ですか岡崎くん」

 そこには藤林、

「ごめんごめん、まさかドアのすぐ前にいるとは思わなかったしさ」

 杏、

「大丈夫か、朋也。幸い怪我はなかったみたいだが」

 智代、

「朋也くん、大丈夫?」

 ことみの姿。
……これって、夢の続き?
 思わず頬をつねる。痛い。現実だということを認識した。
 イコール、俺は危険区域の真っ只中ということで……再び気絶したくなった。

「なあ、確認したいんだが……今どういう状況?」

 本当は聞いてはいけない質問かもしれない。しかし、聞かなければならない。
 俺は何故か来る胸の痛みに耐えながら聞いてみた。

「えっと……岡崎くんが気絶していたのでとりあえず中に運んで……」
「ついでに何故かことみがいたから一緒に中に入れて」
「私と一ノ瀬は面識がなかったからお互いに自己紹介したんだ」
「そしてどうして皆がここにいるのかっていう話をするところで朋也くんが目を覚ましたの」

 最悪なところで目を覚ましているじゃないか。意識が遠のきそうになる。しかしこういうときに限って完全に意識を手放さない自分が憎い。

「あーじゃあまずどうして藤林がここにいるのか聞こうじゃないか」

 とりあえず司会になってみる。そして俺が一番わからないことである藤林がどうしてここにいるかについて聞いてみることにした。

「えっと、久々に私が通っている看護学校の方で長い休みがあったんでこっちに戻ってきたんです。そしてお姉ちゃんの寮に遊びに行ったらお姉ちゃんの姿がなかったので……気になって家族に聞いてみたんです。そしたらお姉ちゃん岡崎くんのところいるって……」
「……杏、お前藤林には伝えてなかったのか」
「あたしは許可はもらったとは言ったけど、家族全員に話したとは言ってないわよ」

 確かに杏の話は正論だ。だが、その為にこのような状況にしてしまっていることに気付け。

「それで岡崎くんのアパートを尋ねてきたんです。その……どうしてお姉ちゃんが岡崎くんのところにいるのか聞きたくて……そしたら

『それはね……簡単よ、同棲してるのよ同棲。まあ、お邪魔虫が一匹ついちゃってるけどね』
『お邪魔虫なのはどっちだ。第一先に来たのは私だぞ』

と……」
「あ〜別に智代の部分まで真似なくてもいいからな」

 しかもなんかその情景が想像できるぐらいうまく真似ていた。もしかして藤林の隠れた才能?
 まあそんなことよりも問題は……

「やっぱり朋也くんが同棲していたの?」

 ことみの方だ。しかも嘘をついてごまかしていた分さらに気まずい。

「あーすまん、これ以上事を荒立てたくなかったんだ」
「朋也くんに騙されたの……」

 そう言ってことみが涙目になる。うっ、その表情をされると俺は非常につらいのだが。

「私もお姉ちゃんに先を越されました……」

 しかも藤林もとんでもない台詞を口にしている。しかも複雑な顔してるし。
 しかしその時、座っていた杏が突然立ち上がり、椋とことみがいる方を向いて叫んだ。

「あーもうイライラするわね! そんなに朋也のことが気になるんだったらあんたたちも積極的に行動すればいいのよ!!」
「まてー!!!!!」


 俺も同じくらい叫んでいた。ある意味『今日の杏の爆弾発言』って感じだ。いや、シャレを言ったつもりはないけど。
 しかし杏の爆弾発言を聞いて藤林とことみの目には光が宿っていた。



 やばい。



 そう直感した俺は先に発言しておく。

「あー先に言っておくがここのアパートせまいから定員はもう割れてるぞ。というか俺がこの部屋から脱出したい」

 正論と本音を交えた言葉。少なくともこれで「一緒に同棲します」なんてことはなくなるはず。

「わかりました……」
「わかったの……」
「おお、2人とも分かってくれたか」



















「これ私の携帯番号とアドレスです。お姉ちゃんたちからはわっ…私が守りますから、いつでもれっ連絡ください!!」
「私は大きな白いおうちに1人暮らしだから、いつでも一緒に住んで構わないの。耐えられなくなったらいつでもおうちに来ていいの」
「わかってなーい!!」


 むしろ悪化しました。
 しかも逃げ場所になっていない気がするし、宣戦布告みたいなものだし。

「ふむ……さらにライバルが増えるとは、いいだろう。やってやろうじゃないか」
「それでこそあたしの妹、そして友達よ。でも、負けないからね」

 しかも宣戦布告として受け取っちゃったし。
 さらにとんでもなくなったこの状況。俺から言えることはただ一つ。



 こんなの、どうせいっつーの。



続く?



あとがき
 今回人数多いから台詞部分がちゃんとわかるか不安なのですがどうでしょう。
 あと、こんな形での椋参戦。予測できていた人は神。俺ができてなかったんで(ぉ
 そして途中でこっそり入れておいた『まくまく』はDILMリスペクトです。気になる人はDILMのSS『してやられた記憶は残りやすい』をどうぞw