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 お風呂場、それは俺に残された唯一の不可侵場所。
 お風呂場、それは俺に残された部屋の中で唯一のやすらげる場所。

「ふぃ〜」

 智代どころか杏も一緒に住むことになったという件であやうく気絶しかけた俺は、なによりも先に風呂に入ることにした。
 どうやら俺が帰って来る前に智代が風呂を沸かしてくれておいたらしく、すぐにたっぷりの湯に漬かることができた。入った途端、それまで頭にたまっていたごちゃごちゃが一気に洗い流され真っ白になる。

「しかし、とんでもないことになったなあ……」

 冷静に事を考えられるようになった俺は、早速この先のことについて考える。
 智代と杏の共同生活。まさかそんなことになるなんて誰が想像できるだろうか、いや、できるわけない。そんな春原が聞いたら卒倒してしまいそうな生活が今、現実のものになろうとしている。

「うう、甘んじて受け入れるしかないのだろうか」

 しばらく案を考えてはみたものの、全く出てこない。とりあえず事故が起こっても責任は取らんとは言っておいたから、お風呂場から出てきた半裸姿を見ても、勿論軽く文句は言われるだろうがそれ以外は大丈夫だろう。そう、半裸姿を見ても……半裸……



『朋也、一緒に入ってもいいか』

 俺の返事も聞かないうちに風呂場の扉が開かれる。智代はタオル一枚にその身を包んでいた。
 服を着ていても素晴らしいと感じられるプロポーションは、その格好からさらにその美しさを際立たせている。

『……ああ』

 その姿に見惚れた俺は感情に身を任せて素直にうなずいてしまった。それを聞いた智代は笑顔になり、俺の元へと近づいてくる。

『あたしも一緒に入るわ』

 次に扉の向こうから現れたのは杏だった。同じく、タオル一枚にその身を包んでいる。
 こちらも胸以外は智代に負けず劣らずといった感じで、十分すぎるほどの魅力を持っていた。
 
『こうなったら2人とも一緒に入ろうぜ』

 普段の俺なら絶対いえない台詞、それが出てしまうほどどちらかを選ぶというのは困難なことだった。
 しかし、2人はそれに黙ってうなずく。どうやら許可が出たらしい。
 そのまま、俺は2人の美女と共に風呂へ……



「うっ! いかん鼻血が」

 とてつもなくありえないことを思い浮かべてしまい、Hな妄想をした男の証が出てしまう。とりあえずこれ以上考えても邪まな妄想しかできなさそうなので鼻血が止まってから風呂からあがることにした。
 夕食をとれば頭に栄養が回って少しはまともな考えができるだろう。そういった希望を抱きながら。



 そして夕食の時間。俺はすごい光景を目にしていた。

「……これは一体何なんでしょうか」
「見てわからない? 夕食よ」
「いや、それはわかるんだが。それ以前に……」

 目の前には、あきらかに3人で食べるには多すぎる量の料理が陳列していた。





『同棲(どうせい)っつーの』第3話





 料理と2人の顔を交互に見る。確かに料理はおいしそうだ。2人も自信ありと言った顔をしている。
 しかしこの量はなんだ。お相撲さんか? しかし2人には悪びれた様子はない。
 しかもテーブルの真ん中を割って対照的な料理が並んでいる。かぶっているものは一つとしてない。しかもお互い相手の方を見ようとはしない。
 このことから推測するに、どうやら2人は張り合っているうちにとんでもない量の料理を作ってしまったらしい。しかもお互い料理には自信があるらしい分、なおさら勢いに火がついてしまったのだろう。食べる立場にとってははた迷惑なことこの上ない。

「さあ、朋也食べてくれ」
「遠慮せずにどんどん食べてね」
「いや、そう言われても……」

 言いながら、ちらりと横を見やる。そこには「ぷひ……」と、目の前に置かれた餌(2人が作ったものだろう)のあまりの量に食べきる途中で力尽きたボタンの姿があった。どうやらボタンで前哨戦が行われたらしい。
 おそらく俺の未来の姿であろう状態になっているボタンを見て、同情を感じえずにはいられなかった。

「隣の料理よりはるかにおいしいわよ」
「ああ、朋也。こっちにある料理など気にするな」

 しかも2人は闘争心丸出しであった。間違いなく2人の背景には炎が浮かび上がり、さらにその上に竜虎の絵が描かれている。

「いっいただきます」

 とりあえず箸を取り、多少どもりつつも食事の挨拶をする。そして、智代の料理の方へ箸を近づけてみる。

「よし!」
「……くっ!」

 あきらかに2人の表情が変わった。智代は嬉しそうな、杏はくやしそうな表情になる。
 試しに箸をそのまま杏の料理の方に寄せてみた。

「何っ?」
「きたっ!」

 今度は智代がくやしそうな、杏が嬉しそうな表情になる。
 箸の行動だけで一喜一憂する2人。その2人に見られながら食事を取ろうとする俺。
 正直、ものすごく食べづらいんですが。
 しかし、食べないという選択をしたらそれはそれで地獄が待っている気がする。
 どうやら顔色をうかがいながら食べない方がよさそうだ。俺は意を決してまずは智代の方の料理を口に運んだ。

「おっうまい」

 やはり智代の料理はうまい。先ほど口に入れたこの肉じゃがも、じゃがいもにちゃんと味がしみ込んでいる。味付けも濃くも薄くもなく、ちょうどよい。思わず「おっかさ〜ん」と母親もいないのに言いたくなった。

「そうか、得意料理の一つなんだ。気に入ってもらえてよかった」
「よーし、じゃあ今度はこっちの豚カツを……」

 あえて2人の表情を見ないまま杏の方の料理に手を出す。

「不思議な味だが……すっげーうまい!」
「隠し味にしょう油をきかせてるのよ。あたしの自信作」

 なるほど、2人とも料理はうまいと。ただ……俺は改めてテーブルの上を見る。
 料理はまだまだあった。さり気にテーブルの下にも料理が置いてある。

「これを全部食べるとなると……」
「どうかしたか?」
「いや……」

 しかし、食べないのは作ってくれた人に申し訳がないというか。なんとかして逃げ道が作れないだろか。
……そうだ、カレーのように明日も続けて食べるようにすれば。バリエーションもこんだけあるから飽きることはないだろう。早速そのことを口にしてみる。

「なあ、明日の……」
「明日の朝食分は確保してあるわよ。勿論ココにある分は全部食べてくれるわよね?」

 逃げ道は簡単に塞がれてしまった。それどころか作った人に念押しまでされる始末。

「はは、俺は小食なんだがな……」

 とりあえず食べ切れなかったときのための言い訳はしておく。しかし、杏は自信ありげに、

「大丈夫よ、絶対朋也は食べきれるわ。少なくともあたしの分はね」
「その根拠は何だ?」

 すると杏は自分の方の料理を箸で取り、俺の方にそれを持ってきて、

「はい、あーん」
「「なっ!!?」」

 俺と智代が同時に驚く。
 料理を口のところまで持ってこられた俺は、冷静さを取り戻す間もなくそのままそれを口にしてしまう。

「どう? これなら食べれるでしょ」
「あっああ……」

 驚きのあまり味はよくわからなかったが。しかしまさか杏がこんなことをしてくるとは思わなかった。「はい、あーん」なんて恋人同士でもない限りできんぞ。
 一方、隣では智代がやられたといったような表情をしていた。けれど気を取り直したかと思うとすぐに智代も自分の方の料理を箸で取り、俺のところに持ってくる。

「とっ朋也……」

 智代は緊張しているのだろうか。顔が赤くなり、箸もガタガタ震えている。
 しかし、意を決したのか一度深呼吸をした後照れた表情をしたまま、

「はい…あーん」

 智代の照れた表情とその言葉が智代のイメージをいい感じでぶち壊し、俺の胸にグッとくる。
 なんというか、可愛かった。普段の智代には絶対合わない言葉だが、今の智代を表現するとしたらそれしか言葉が見つからない。
 
「あーん……」

 俺も思わず言葉にして口を開けていた。そのまま口の中に智代の料理が入り、味が広がってゆく。
 幸せな気分になれるような味だった。料理は愛情とはこんなところから来ているのだろう。

「むー!」

 そんな様子を杏は面白くなさそうに見ている。するとまたもや杏は自分の場の料理を箸にとって、

「朋也、はいあーん!」
「えっ! おっおい、ちょっと待てって!」
「ならば私も! はい、あーん!」

 智代も負けじと料理をつまんだ箸を持ってくる。

「あっあーん!」

 俺もやけになって両方口にする。しかし、その料理が食べきる前に次の料理が口元へやってくる。

「朋也、次よ!」
「こっちだって!」
「お前ら目的が変わってるよ!!」

 俺も必死になって食べるものの、あきらかに供給のスピードが速すぎる。2人ともただ自分の料理を食べさせることだけに夢中になり、俺が苦しそうにしているのに気付いていない。

「うっ!?」

 そのエンドレスともいえる料理地獄に先に俺のほうが限界が来てしまった。
 喉元まで料理がたまってしまったかのように息ができない。俺は後ろに大の字になって倒れる。

「「朋也!?」」

 2人が慌てて駆け寄ってきたが俺はもう意識が遠のく寸前だった。
 最後の最後、俺は気を振り絞って一言残す。

「あ……さとばん……のたん…とうをつぎ…か…ら…きめっ……」

 そこで俺の意識は途切れた。やはりボタンの姿は俺の未来を暗示していた。



「……はっ」

 気付いたとき、既に辺りは真っ暗になっていた。2人がしいてくれたのだろうか、上に布団がのっかかっている。
 そのまま寝ようと思ったが、目をつむっても既に冴えてしまったのかなかなか寝付けない。
 正面を向いた体勢に疲れたので横側を向いてみる。自分とは違う寝息の音がした。

「……えっ?」

 思わず目を開けて見る。そこには杏の寝顔があった。

「!!??」

 驚いてしまったものの、起こしてしまうといけないので必死で声をこらえる。どうして杏が俺の隣で寝ているのだろう。確かに寝るスペースは小さいものの、それぞれ別の位置で寝ることはできる。

「まさか……」

 そう思い、今度は逆の方を向いてみる。俺の予想が確かならそこには……
 案の定、智代の寝顔があった。

「おいおい……」

 正面を向きなおした後そうつぶやく。女性2人にはさまれている。男にとっては嬉しいことなのだろうが、いざ実際に事が起こるとどうしていいものか悩んでしまう。
 ふと、杏のつぶやきが聞こえた。

「朋也……ごめんね」

 それは寝言なのだろうか、それとも起きていて言った言葉なのだろうか。
 よくわからなかったが、聞いてなんだかすがすがしい気分になった。杏の方を向き、反省した子を慰めるようにその頭を撫でる。

「……まない、すまない朋也」

 後ろからもそんな声がした。どうやら、智代も今日の事を気にしていたらしい。
 偶然にしてはできすぎているかもしれない。でも、起きていてやったことにしても全く悪い気はしない。俺は正面を向きなおし、両手でできるだけ優しく2人の頭を撫でた。
 これからもこんな大変な日々が続いていくのだろう。だが、このことでなんとなくだがそれもやっていけるような気がした。
 ただ、その後の2人の言葉さえなければ。

「でも……智代。あんたには負けないからね」
「あなたには、負けない」

 俺の頭を撫でる手がピタリと止まる。
 それと同時に血の気がサーっと引いていった。その一言を聞いてこれからもこの2人の戦いに巻き込まれていくことを嫌がおうでも認識させられたからだ。
 戦いに巻き込まれながらやっていく生活……そんなの、一体どうせいっつーの!!



つづく?



あとがき
 連載希望の声が異常に多くなったので続けてみたこの作品。皆さんの期待どおりの作品になっていれば幸いです。なってなかったら……ごめんね(ぉ
 感想とか書いていただけると今後の参考になりますので是非よろしくお願いします。
 次の話ではクラナドヒロインの誰かを登場させる予定です。