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チチチ、チュンチュンチュン

 朝が、来てしまった。
 結局昨日は一睡も出来なかった。意識が不安と恐怖で覚醒しっ放しの状態になり、眠ることができなかったのだ。
 さらに早朝になって起きてきた智代と杏が料理を作り始めたのも目が冴える原因となった。
 俺は寝たふりをしていたのだが、話し声からどうやら二人が協力しているらしいのだ。

『いい、相手が強いとも弱いとかは私たちにはまだよくわからない。でも……』
『ああ、分かっている。獅子はうさぎを狩るのにも全力を尽くす……そういうことだな』
『ええ、今回ばかりは協力しましょう』
『敵が同じである以上、まずはそれをつぶすのがベストだからな』

 内容は聞いてて怖いものがあるのだが、この二人が協力しているというのは悪い気はしないと思う。漫画でもライバル同士が協力する展開になったら燃えるのと一緒だろうか、微妙に違うか。
 でもまあ、今日が怖いことに全く代わりはないのだが。

「おはよう、朋也。今日はいい天気だぞ」
「ええ、本当に。デート日和ね」

 しかもこんな起こされ方をされたもんだから眠気がどうのこうのといった問題ではなく、その裏にある威圧感にすっかり目覚めさせられてしまった。

「あっああ、おはよう」

 多少どもってしまったことをしまったと思った。

「今日はとってもいい日になりそうだな」
「ええ、とってもね……」

 しかし、二人は気にならなかったらしく、2人は「とっても」を強調して嬉しそうに話した。一瞬何を企んでるんだとか思ったが、考えない方が幸せだろうと俺の脳内で判断、処理された。



 あの後伝えられた約束の時間に待ち合わせ場所である公園に向かう。
 芽衣ちゃんのことだから予定より早めに待っているのだろうと思い多少早く向かったのだが、どうやら正解だったらしく既に芽衣ちゃんの姿があった。

「あ、岡崎さん……と杏さんと智代さんおはようございます」

 芽衣ちゃんもこちらに気付き、先に挨拶してくる。
 ちなみに芽衣ちゃんには一応2人が来ることはメールで伝えてある。あっさりとOKを出したのが不気味だが。

「やあ、おはよう。随分早く来てたみたいだね」
「えへへ、ちょっと嬉しさのあまり早く来過ぎちゃいました」

 それを笑顔で答える彼女はとても可愛く、待たせたことを少し申し訳なく思ってしまう。

「おはよう、すまないな。強引についてきてしまって」
「おはよう、まああたしたちが服選びとかは手伝ってあげるから安心しなさい」
「あはっ、いえいえ。それに服選びはとっても心強いです」

 思ったより和気あいあいとして話している彼女たちを見て俺の悩みは取り越し苦労に終わったかと安心……

「……それに、予想はしてましたしね(ボソッ」

できない、油断したら負けだと確信させる。

「ん? 何か言ったか?」
「何も、気のせいじゃないですか?」

 いつもと変わらない表情を見せる芽衣ちゃん、しかしそれは自分の心のうちを見せない表情。つまり、ポーカーフェイス。
 この先どんな名、いや芽衣トラップが仕掛けられてるのか。

「よし、じゃあ行こうか」

 俺は気合を入れる意味を含めつつ、大きな声で言った。

「はい、朋也おにいちゃん!」

 すっげー迷トラップが発動しました。





『同棲(どうせい)っつーの』第11話(そのU)





「なななな……」

 朋也おにいちゃんおにいちゃんおにいちゃん……。
 甘美な響きが脳内で響きまわる。
 俺には妹属性があったのかとちょっとショックを受けつつも、ダメージ以上の快楽がそこにはあった。

「めっ芽衣ちゃん……」
「え、どうかしましたか朋也おにいちゃん」
「ぐっ!」

 芽衣ちゃんは笑顔で言って来る。きっとわかってやっているに違いない。
 しかし違いないとはいえ、その破壊力は強烈無比。わかっていてもさけられない。

「朋也おにいちゃん、大丈夫ですか?」
「ぐぐぐ」

 やばい、胸のときめきが限界点を超えそうだ。
 このままだと抱きしめるとかそういった行動に出てしまうかもしれん。それだけは避けねば――。
 俺がそう思いながら心とは裏腹に手を少しづつのばしていたときだった。

「朋也、よく考えて! 芽衣ちゃんの兄はあの陽平よ!」
「はっ!」

 杏のその一言で俺の脳内でおにいちゃん→春原→へたれという変換が為されていく。
 するとのばしていた手がピタリと止まった。

「あっあぶなかった……」

 そうつぶやくと共に、何やってんだ俺はという自責にとらわれる。
 こんなアホらしいことで危うく色んなものを失ってしまうところだった。

「チッ……邪魔されましたか」

 舌打ちする芽衣ちゃんを見てやはりわかってやっているんだというのと、ちょっと残念という気持ちがあった。
……大丈夫か、俺。

「なるほど、朋也はおにいちゃんに弱いのか。覚えておこう」

 智代、多分お前が言っても効果は薄いと思うぞ。ただ、その健気さはすごく好きだが。

「さて、どうして突然そんなこと言ったのか理由を聞かせてもらいましょうか」

 杏の方はというと問い詰めに出るようだ。
 別に聞かなくても大体理由はわかっているような気もする。

「えっとですねーおにいちゃんが『大抵の男はこう言われると喜ぶ』と言っていたので、岡崎さんにも喜んでもらおーと思いまして。あ、深い意味はないですよ」
「……ふーん」

 芽衣ちゃんの理由はちゃんとはしている。しかしどことなく嘘っぽいような気もする。それを証明する術はどこにもないが。

「まあいいわ、ただし、そんなことで朋也が動くと思わないでね」
「はい、私も甘く見すぎてました……貴方たちをね」

 最初の和気あいあいとしたムードはどこへやら、すごく嫌なムードが漂い始めている。

「ほっほら! いくぞとっとと!」

 まずはここから移動しないと、そう考えた俺は皆を誘導する。

「わかったぞ、朋也おにいちゃん」

……智代、それは俺に対する嫌がらせなのか、それとも単に空気が読めていないだけなのか。
 おそらく後者なのだろうが、その発言には涙せざるを得なかった。



 結局、この悪い空気のまま目的地であるショッピング周りをする羽目になった。
 それでもショッピングとなると皆結構楽しそうにやる。
 男だからなのか俺にはこの楽しさはよくわからないのだが。

「あ、ここ新作出てますよ! かっわいー」
「でも値段的にはこっちの方がいいんじゃないかしら」
「ふむ、私としてはここのがお気に入りなのだが。しっかりとしているからな」

 芽衣ちゃんは見た目、杏は値段、智代は品質を見ているのだろうか。いや、会話から判断しているだけに過ぎないが。

「んで、俺は荷物持ちか」
「男なんだからこーいう時は黙って持っとくものよ」
「岡崎さん、持ってくださってありがとうございます」
「朋也、代わってやろうか?」

 俺の一言に対する各自の対応がなんか面白い。
 性格ってこんなところでにじみ出るよなと思う。

「いや、いいよ。どうせ服選びとかわからないしな」
「そうか、ならお言葉に甘えさせてもらう」

 しかし、さっきはどうなるかと思ったが案外うまくやっているなと思う。
 特にさっきの険悪なムードが少しづつ消えていっているのはものすごくありがたい。
 皆があーだこーだいいながら楽しくショッピングをやってるのを見ると、集まって正解だったかなとも思う。

「この服はど……あ、ごめん。胸の大きさ考えてなかったわね」
「あーそうですね。ちょっと胸の辺りが大きくて私には合いません」
「本当に可愛いやつなのに……ゴメンね」
「いえいえ、胸に関しては杏さんも妹さんに負けていて、コンプレックスを持っているでしょうから、このつらさはよくわかっていると思います」
「……誰から聞いたの?」
「もちろんおにいちゃんです」
「そう……陽平、今度会った時殺すわ」



〜その頃の春原〜
「ヒィ!! な、なんかものすごい悪寒が……」



「一応おにいちゃんではあるので妹として少しは加減してあげてくださいと言っておきます」
「善処しとくわ」
「おーい2人とも、この服なんかどう……なんだ、2人して胸を見て」
「……なんでもないわ」
「……ええ、なんでもありません」

……楽しくショッピングをやっているに違いない。そうだ、きっとそうなんだ(自己暗示)。



「ふう、お前ら結構買い込んだなあ」

 俺の両手は皆の服の入った紙バッグで塞がっている。

「当ったり前よ、こーいう時でないと服なんて買わないからね」
「それに今日はいいのがたくさんありました」
「私はほんの数着しか買っていないんだがな」

 智代のが数着……とすると残りは杏と芽衣ちゃんのか。
 俺は服なんて一回に3着以上買えば多い方かなと思っているのだが。女にとっては違うのだろうか。

「ふう、ちょっと休まないか」

 少し疲れてきたので皆に提案する。

「んーまあ確かに、お昼過ぎたのにまだ昼食も取ってないわね」
「どこかに公園とかはないものか。せっかくお弁当を作ってきたのだからな」

 とはいえ、この辺はショッピング街なのでそういったものは見当たらない。

「……あーそれならいい方法がありますよ」

 貼り紙を見ながら芽衣ちゃんが提案をしてきた。
 俺たちもその貼り紙を見てみる。

「カラオケ『メグメル』……?」
「ほら、ここなら持込もOKですし」
「確かに、それはいい提案ね」

 カラオケか、そういや社会人になってから全く行ってなかったな。

「カラオケ……か」
「ん? どうした智代」

 少し智代が沈んだ表情をしていたので話しかける。

「いや、なんでもない。他に場所はないかなと考えていただけだ」
「ここが一番いいと思いますよ。それに昼なら値段も安いですし」
「そうか……それなら仕方ないな」

 なんか智代の表情が先ほどよりなおさら落胆した気がする。

「よし、それじゃあ決定ね。あたしの美料理と美声をたっぷり楽しみなさい」
「あはは、杏さん自信家ですね」
「カラオケか、久々だなあ」
「……」

 俺たちはカラオケショップに入る。その頃には芽衣トラップがあるかもしれないなんてことをすっかり忘れていた。
 そしてそのトラップはここで発揮されることになる……。



続く



あとがき
 んー前中後編のつもりだったんだけど、なんか前、中、中2、後編ってなりそうな気がする(汗 へたするともっとのびるかも。
 あと会話についてですが、ちゃんと誰が何を言ってるかわかります? 一応分からないようであればそこだけ誰が言っているかみたいな注釈もつけたほうがいいかなーとか思っているんですが。まあなくてもわからせるってのがちゃんとしたSS書きなんでしょうけどね。