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「ふぅ」

 久々にソファーにゆったりと座ってリラックスをする。
 とてもいいにおいのする、ゆっくりと出来る部屋。
 こんなに落ち着いているのはいつ以来だろう。病院内でも休まる暇がほとんどなかったし。
 そう思いながら目の前に出されているお茶を一口飲む。お酒ではないけれど五臓六腑に染み渡った。
 ここなら皆に見つかることもないだろう。俺はそう確信していた。
 何せ俺でさえなかなか思いつかなかった場所だ。普通ここにいるとは到底考えるまい。
 こちらとしては休日にちゃんと休めるいい場所を見つけたってわけだ。

「ニャー」

 猫が近くに擦り寄ってくる。
 おそらく撫でてほしいのだろうと判断し、頭を撫でる。
 猫は気持ちよさそうに目を細めつつも、もっととねだるように自分から頭を手に擦り付けてきた。

「はは、かわいいなお前」

 そのしぐさに思わず胸がときめいてしまったので、俺もその要求に答えるようにもっともっと撫でる。
 しかし、足音がこちらに近づいてきた途端、猫はそちらの方へと走っていってしまった。

「……ま、飼い主の方がいいわな」

 ちょっと寂しさを覚えつつ、足音の方を向く。
 そこには手にお茶菓子を持った飼い主の姿。
 そのお茶菓子を俺の目の前に置き、そして飼い主は言った。

「……で、何か用? 岡崎」
「やだなぁ美佐枝さん、如何にも厄介事がきた、っていうような目で見ないでくださいよ」
「いや、そういう目で見ているんだけどね」

 そう、俺は春原のいた寮の美佐枝さんのところに来ていた。





『同棲(どうせい)っつーの』第10話





 話は前日にさかのぼる。
 なんとか無事退院できた俺は再び電気工の仕事を再開していた。
 社長も社員も皆いい人で、休んでいたにも関わらずまた仕事に快く迎えてくれた。
 そしてまた芳野さんと共に仕事をする日々が始まった。

「なあ、岡崎」

 仕事先に向かっている途中、芳野さんがトラックの運転をしながら話しかけてくる。

「はい? どうしました」
「同棲の方はどうなっているんだ?」

 実は仕事を再開してから芳野さんに事情を説明し、相談をするようになった。
 芳野さんは呆れ返るかと最初は思っていたが、実際は俺の相談に親身になって答えてくれた。
 実は芳野さんにも似たような経験があったのだろうかとも思ったが、それを聞くなんて野暮なことはしなかった。と、いうよりもへたな質問をして良き相談相手をなくしたくなかった。

「相変わらずですよ。家に帰ったほうが疲れる毎日が続いています」
「そうか……となると明日の休日も大変そうだな」
「よくわかりましたね」

 仕事での休みと、皆の休日ってのは重なることが多く、休日は普通の日よりも精神的に疲れる日が続いていた。
 明日もそうなるのだろうかと思うと今から気が滅入る。

「休める場所とかはないのか?」
「ありませんね、図書館ならと思ったんですがダメでした」
「ふむ……」

 芳野さんは何やら考え込んでいるようだ。
 しかし俺も休める場所を見つけねばおそらく結論を出す前に倒れてしまうであろう。そして病院の見舞いで悪化のコンボが発生可能性大。なんとかしなければ。
 ああ、もし春原がこっちで働いていればあいつの部屋でいじり倒しながらゆっくりできたのになあ。



『ぶるぶる!』
『どうしたのお兄ちゃん?』
『いや、芽衣。ちょっと寒気が……』
『大丈夫? 私がいなくなった後すぐ風邪引いたりしないでね。ただでさえ事故って大変だったんだから』
『ああ、大丈夫だから。だからしっかりと用意しておくんだぞ』



「ブルブル!」
「ん、どうした岡崎」
「いえ、なんか突然寒気がしたもので」

 なんだろう、また厄介事がこちらにやってくるような。
 と、とりあえず春原がいない以上新たな場所を見つけるしかない。しかしあの部屋がない以上そんなもの一体どこにあるというのだろう。
 と、そこまで考えたところであることを思いついた。

「そうか……別に春原の部屋でなくてもいいんだ」
「ん? どうかしたか岡崎」
「いえ、芳野さんのおかげでいい休める場所を思いつきましたよ。ありがとうございます」
「? まあいいが」

 どうやら久々にちゃんとした休日を過ごせそうだ。
 俺は明日に期待しつつ到着した先で仕事を開始した。





「と、いうわけです」

 美佐枝さんにここに来た事情を話す。

「なるほどねえ、あんたがそこまで女たらしだったとは」

 美佐枝さんはどうやら呆れているらしい。まあ無理もないか。

「ま、ちゃんと決める気はあるみたいだからいいけどさ。それで決めなかったらあんた単なるへたれよ」
「おっしゃるとおりで」

 美佐枝さんは結構きついことを言ってくるが事実なんで言い返せない。

「ま、わざわざ逃げてきた以上しっかり考えな。もしものときは相談にも乗ってあげるから」
「ありがとうございます」

 けど、追っ払ったりせずちゃんと相談にも乗ってくれるところが美佐枝さんらしい。1年前の美佐枝さんと変わってないことに安心する。

「ま、ゆっくり考えなさい。何せこの先のことに関わる問題だからね」

 この先のことか、確かに決めるということはそういうことなのだ。
 逆に言えばこのドタバタにある意味終わりを告げるということ。

「そういえば美佐枝さんは恋人とかいないんですか?」
「ん、あたし?」

 ふと、気になったので聞いてみる。興味本位+なんらかの参考にといった感じだ。

「んーいるよ」
「いるんですか? それってどんな?」

 思わず身を乗り出す。興味がさらにかきたてられたからだ。
 美佐枝さんの彼氏とは一体どんな奴なのだろうか。

「ほら、そこにいるじゃない」
「そこって? この部屋には俺しかいませんけど」

 もしや俺? まさか、そんな馬鹿なことがあるわけない。

「違う違う、ほら」

 そういって美佐枝さんは猫を抱いた。

「ほら、こいつが彼氏さ」

……美佐枝さんらしい。呆れるよりも先にそう思ってしまった。
 しかし猫は嫌そうな顔をせず、言葉が通じているのかむしろ幸せそうな顔をしている。

「ま、そんなとこだろうとは思ってましたけどね」
「……ただ、これだけは言えるよ」

 美佐枝さんの表情が突然深刻になる。

「ちゃんと相手がいる内に自分の気持ちに気付きなさい、いなくなってからでは遅いんだから」

 その言葉は、すごく意味深で、すごく気持ちがこもっていた。
 俺はそれ以上、美佐枝さんに何も質問できなかった。





「それじゃおじゃましました」

 大分くつろいだので美佐枝さんの部屋から出る。すると今まで自分の周りを包んでいたいい匂いが、男どもの汗臭い匂いに瞬時に変わってしまった。

「あんたもさっさと決めなさいよ。あの子たちだってやきもきしているんだろうから」
「はい、わかってます」

 最後に念押しをされてから俺は寮を出た。

「さあて、うちに帰るか。休める部屋から、休めないアパートへと」

 少し精神に余裕が出来たからだろうか、うちに帰るのが少し楽しみだった。
 少し早足で家へと向かう。
 突然、胸騒ぎがした。

「ん、なんか嫌な予感が……」

 なんだろう、嫌な予感が後ろからぞわぞわと。
 なんとなく、後ろを振り向いてみた。すると、





「こんなところにいたのか朋也」

 智代さんがいらっしゃいました。

「え、ちょっちょっとマテ! 何でお前がここに!?」
「お前がいそうなところで最後に思いついたのがここだった」

 そういや智代って美佐枝さんと知り合いだったっけ。それにしてもここがわかるってのは俺に何かを引き寄せる力があるのか智代に何かしらの能力があるかとしか思えん。

「ちなみに杏はどうした?」
「他のところを探しているはず、手分けしたからな。さ、帰るぞ」
「うへーい」

 なんか突然帰る気なくしたような。
 お母さんに連れられた子供のように腕を引っ張られ、家へと連れて行かれる。

「……心配したんだからな。朝からいなくなって」

 でも、智代がそうぼそっとつぶやいたのを聞いて俺にも落ち度があったと思った。

「ごめん、悪かったよ」
「……本当に悪かったと思ってるのか!?」

 すると、突然智代がこちらの方を向いてきて怒鳴ってきた。
 普段ではありえないことに思わず困惑する。

「あっああ……」
「…だったら……態度で示してくれ」
「……へ?」

 突然、目を瞑って上を向く智代。これはつまり……キスしてほしいということだろうか。
 あまりにも突然過ぎて唖然としてしまう。
 というか前後のつながりすら不可解だ。どうしてそこにいってしまうのか。

「そしたら……許す」

 しかし、普段の強さを知っているとそのギャップに思わず惹かれてしまう。
 だから、肩をつかんでいた。

「あっ……」

 そのまま唇を智代のもとへと近づける。
 智代もそのまま目をつぶり俺の唇が届くのを待つ。そして……






「岡崎さんお久しぶりです!」

 そういって女の子が抱きついてきた。

「!?!?!?」

 思わず智代から離れ、そちらの方を見る。
 当然その女の子には見覚えがあった。

「めっ芽衣ちゃん!」

 どうやら神様は俺にさらに試練を与えてくれたらしい。
 芽衣ちゃんという名の台風を。
 何故だかそんな予感がした。つか、そうに決まってる。
 はっきり言いたい、これからどうせいっつーの。



あとがき
 ちょっとシリアス混ぜて、後はまたドタバタになりそうな予感を入れてとしたらこんな感じに。つか、これで一通りキャラ出したかな。