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case 1



 智代が朋也の家に遊びに来て、二人で食後の散歩を始めてから暫くのことだ。
 晴れていた空は急に泣き出し、大粒の涙が二人を叩いた。
 適当な雨宿りの場所を見つけることも出来ず、二人はずぶ濡れになりながら帰ってきた。


「ったく、急に降り出して来るんだもんなー」
「ああ、困ったものだ。しかも、今日に限って折り畳み傘もない」

 朋也が取ってきたタオルをうけとり、智代が髪を丁寧にぬぐう。
 一方の朋也は、わしわしと適当に水分を取るだけだ。

「うー、寒い。このままじゃ風引いちまうし、シャワー浴びねえと」
「そうだな。では、朋也からはいってくれ。終わったら、声をかけてくれればいい」
「馬鹿言うなよ。こういう場合は、女の方から入るもんなんだよ」
「む、朋也……それは」

 智代が反論しかけて、途中で口を噤む。
 その理由の一つは、言い争いをするよりも自分が先に入ってさっさと上がった方が、結局朋也も早くはいれそうだと言うこと。
 もう一つは、なんだかんだでそうやって気を使ってくれる朋也の心遣いが、智代にとって嬉しいからだ。

「わかった。先に入らせてもらう……が」
「ん、なんだ?」
「……覗くなよ」

 上目使いで、智代がじいっと朋也を見つめる。

「ばっ、覗かないって」

 慌てふためきながら朋也は答えた。



 そして、智代がシャワーを浴びている間、朋也はずーっと落ちつかなく部屋の中を歩きつづける。
 何度か足が風呂場へと向かいかけることもあったが、そのたびになんとか思いとどまる、というのを繰り返す内に、湯上りの智代――来ている服は、朋也のものである――がやってきた。

「あがったぞ。風邪を引かないうちに、早くはいれ」
「あ、ああ」

 内心にとても複雑な思いを宿して、朋也は風呂場へと向かう。
 そして、今度は智代が朋也の部屋で待つこととなった。
 そういえば、と智代はふと気付く。
 自分一人で朋也の部屋にいるのは、これが初めてだと。
 そして、朋也の服に身を包み、シャワーを浴びている朋也を待っている。

(い、いかん……何を考えているんだ、私は)

 先ほどまでは、熱いシャワーにうたれて体が回復していく気持ちよさばかり感じていた。
 しかし、一度その方面の考えに火がつくと、もうとまらない。年頃なのだ。
 ふと、ベッドを見る。いつも朋也が寝ている場所で、智代も何度かそれを起こしている。

(気持ち、良さそうだな……)

 とりあえず、ベッドに入ってみる。布団で体をくるみ、枕に顔をうずめる。

「……朋也のにおいがする」

 少し、うっとりとした声が漏れた。
 そのまま、暫く包まれる。
 時折、自分の着ている服にも鼻をこすりつける。
 そんな智代の視界の端に写るものがあった。
 箪笥だ。

「……あ」

 なんとなく、恐る恐ると言った足取りで近づく智代。
 上のほうの段を開く。と、そこは下着のコーナーであった。

「あ、う……」

 服は朋也のものを借りているとはいえ、下着は当然自分のものだ。だがそれも濡れており、生乾きの状態で気持ち悪い。
 乾かす間、そう、せめて乾かす間だけ、あくまで一時的に、借りると言うこともありなのではないだろうか。第一、もう服も借りているのだし。
 そのような意見――むしろ言い訳が、智代の頭の中を駆け巡る。
 そして、智代は朋也のトランクスを手に取った。
 と、そこで、頭の中では先ほどまでの行動が蘇ってしまう。

「う……流石に、それはまずい。落ちつけ……冷静になれ……」

 だが、手は徐々に上がってくる。ある一点を目指して。

「……それは変態のすることだぞ」

 冷静な自分が、なんとか止めようと言い聞かせる。
 いくらなんでも、この行動はあんまりだと。常識的なものではないと。しかし、そう言い聞かせれば言い聞かせるほどに、背徳感がまし、目の前にぶら下がる果実はよりいっそう甘味を増すように見える。
 少しだけ……そう、少しだけ。それくらいならいいのではないか、そう智代が思ったとき――

ガチャ

「ふー、あがったぜ。待たせ………………」

 ドアを空けた朋也が見たのは、朋也のトランクスを顔に当て、驚いた顔をしながらもどうしようもなく顔が真っ赤に染まっている恋人の姿だった。




 一応、あれは熱に浮かされていたという事で、後日決着がついたという。



case 2



 その日は、朋也だけが仕事で出かける日で、智代も杏もアパートで留守番だった。
 朋也は二人に喧嘩はするなという旨を伝えて(といっても、同棲生活が始まってそれなりに時間もたっているので、定型句のようなものだ)出かけていった。
 残された二人は、いつものようにじゃれ合い互いに反発し合いながらも効率的に炊事洗濯掃除などをこなし、午前中に家事は終えてしまっていた。
 そんなわけで、さて休日となるわけだが、いかんせんやることがない。
 外にでも出かければ良いのかもしれないが、あいにくと厚い雲のカーテンがかかっており、先ほどから降ったり止んだりの落ちつかない天気になっている。

「暇ね〜」
「ああ」

 結果、広いとはいいがたいアパートの中で、暇を持て余すことになる。

「なんかこう、面白いものはないかしらねぇ」
「そんなに退屈なら、テレビでも見ていたらどうだ?」
「こんな時間に、面白い番組なんてないわよ」

 だらーっと、座布団に頭を乗せて四肢を延ばす杏。
 それを見て、智代があきれたように嘆息する。

「まったく……いくらやることがないからといって、はしたないな」
「む〜、だらけるのも基本的人権のひとつよ〜」
「まあ、深くは追求しない」

 そして、そのまま暫く無言で時が過ぎる。
 と、突然杏が何かを思いついたかのように立ちあがった。
 怪訝そうに見守る智代を尻目に、杏は朋也の衣類の入っている箪笥の棚を開ける。

「……何をやっているんだ?」
「いや、わかったのよ。大発見」

 ガサゴソと衣類を引っ張り出し、広げてみる。

「そもそも、なんで今日はこんなに張りがないかって言うと、朋也がいない所為よね」
「ああ……だが、仕事なんだ、仕方があるまい」
「ええ、そのことについては同意見だわ。けど、ならせめて朋也がいない間をどうにかして、埋めなきゃいけないわけよね」
「それはそうだが……それと朋也の服と、何か関係があるのか?」
「へへ〜、ちょっと待ってなさいよ」

 杏が、自分が今着ている上着を脱ぎ、朋也のシャツを着こむ。
 すると、杏の心に巣食っていた朋也がいない寂しさが、いくらか和らぐような感覚がした。

「む……それは、いいな」
「えへへ〜、いいアイディアでしょ」
「それに、思えば男物を着るというファッションもあることだしナ。うん、私も着てみよう」

 そうして、智代も朋也の服を着る。
 すると、智代の心に、言い知れぬときめきが生まれてきた。

「なんというか、満たされるな……朋也の服につつまれているというのは」
「そうよね。あ、こっちなんかいいかも」

 そうしてしばらく、二人はあれこれと服を着替える。
 そして、上着もズボンも全て箪笥から出し終えた頃だ。
 二人の視線は、ひとつの棚に集中した。
 同棲を始めてからそれなりの時間がたっている二人だ。それぞれが、その視線の先に何が入っているのかを理解している。

「い、いくらなんでも……それは、変態のやることよねえ」
「そ、そうだな……さすがにそれは、恥ずかしすぎる」

 そう、互いに言葉で戒めながらも、視線ははずせない。
 そのまま、暫しの時が流れる。
 どちらともなく、ごくりと喉が鳴った。
 そして、両者はほぼ同時に動き出す。

 朋也の下着類がはいっているその棚へ向けて……。











 その夜。

「じゃあ、風呂にはいってくる」

 そういう朋也に対して、顔の赤くなっている智代と杏が、いってらっしゃ〜いと手を振る。
 その顔を見て、先に入った二人は湯あたりでもしたのだろうか、と朋也は不思議に思いながら風呂場へと向かう。
 その途中。

「上は、私の方ね」
「ああ、だが下は私のほう、だったな」

 という、杏と智代の声が聞こえてきたが。
 朋也がその言葉の真意を知ることはなかった。





 えー、これは……というか、これ「も」暴走してみたかった作品。
 まず「企画」が立てられ、あんぱんからの指令が来まして、智代ソロバージョンの方を書きました。
 それでまあ、これは「同棲(どうせい)っつーの」の場合でやったらどうかなーと思い、書いたものです。
 一応、まったく同じにはならないようにちょこちょこいじったのですが、大して変わりませんね。
 これにも、あんぱんの指令の台詞と、こちらからあんぱんに要望した台詞が入ってます。といっても、言っているキャラは違いますが。
 あと、別にシリーズ化はしませんので。悪しからず。