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「ねーえ、とーもや」

 昼休み、杏が思いっきり猫なで声で俺に話しかけてきた。
 こういうとき、杏は何かしら必ずお願い事をしてくる。

「何だよ」
「あのね、朋也はあたしのこと愛してる?」

 何を今更。好きじゃなかったらここまでこいつにつき合ったりしない。

「ああ、愛してるぞ」

 俺は素直に気持ちを伝えた。だが、杏は納得いかないらしくさらにしつこく聞いてくる。

「本当に?」
「本当に」
「本当に本当に本当?」
「本当に本当に本当だ」
「本当に天地がひっくり返ってもお日様が西から東へ沈んでも他の人が朋也に誘惑かけてきてもあたしのことを愛してる?」
「ああ、地球が破滅しようがお前のことを愛してるぞ」

 ここまで言わないと杏は機嫌を悪くするので、多少恥ずかしくても我慢して言葉を返す。
 なんか最後だけ妙にリアリティあふれている問い詰めだったが、多分大丈夫……だと思う。杏が傍にいる限り、他のヤツの誘惑には負けない。きっと。
 すると、ようやく満足したのか杏は笑顔になって抱きついてきた。

「んーだから朋也だぁーい好きー!」
「はは……」

 教室内にいるにもかかわらず杏は他の生徒の目などまーったく、これっぽっちも意識せずに俺に抱きつく。
 まあもう既に全校公認バカップルとなってしまっているから今更そんなの考える必要もないのだが。やはり俺には若干理性というものが残っているらしく苦笑してしまう。

「それじゃあお願いがあるんだけど――」

 やはり来たか。抱きついたまま杏は耳打ち際で俺に語りかける。

「今日はあたしの誕生日って知ってるでしょ?」
「ああ、もちろん」

 9月9日、杏の誕生日。
 そのためのプレゼントの準備ももちろんしてある。

「それじゃああたしの我侭も聞いてくれるわよね」
「……ああ」

 いつも聞いている気が、とは口に出して言えなかった。
 そして、杏は俺にこう囁いた。

「学校、今からさぼっちゃお?」





『THE ILOVEM@STER』





「あー早退するのって結構緊張するのねー」

 俺より先に学校を出た杏は、笑いながら校門の外で俺に背を向けながら言った。

「そら別に具合も悪くないしな……」

 俺はともかく、杏は受験も控えている。俺は不良生徒だが杏は一応学級委員長を務めるくらいの生徒だ。
 こんな時期、そんな立場なのに誕生日という理由だけで早退。普通の人に出来ることじゃない。

「皆あたしたちが早退したことどう思うかしら」
「んーそれはきっと多分」

 決まってる。あそこまで有名になったカップルだ。そうすると答えは一つ。

「「愛の逃避行ってとこか(かしらね)……あっ」」

 見事にハモった。少し恥ずかしくなると共に、心が通じ合ったような気がして嬉しくなる。
 きっと、杏も同じ気持ちだろう。

「そんで、これからどうするんだ?」
「んー?」

 杏にこれからの予定を尋ねる。
 きっと早退するくらいだから今後の予定も考えてあるのだろう。

「何も考えてないわよ」
「そうか、未定か……っておい!」

 出てきた答えは全く決めていないというものだった。
 杏は俺の方を振り向くと笑って、

「だって、今日はいつも以上に特別な日にしたいじゃない。だから、いつもならやらないことをやりたかったのよ」

 その笑顔は、いつも以上に輝いて見えた。
 もしかしたらうまい具合に太陽の後光がその魅力を引き立てたからかもしれない。
 でも、それでもそれは杏だから出せた魅力というわけで。

「そうか。ならこっから行き当たりばったりで色んなとこ行くか」
「さんせーい!」

 今後の予定、とにかく杏を楽しませる。



 まずは公園。
 俺たちはまだ昼飯を食ってないので、まずは腹ごしらえからということだ。
 幸い、公園にはサッカーをして遊ぶ子供たちしかいないので人目はそこまで気にならない。

「はいあーん」
「あーん」

 杏の作ってきた弁当を食べさせてもらう。

「……ってこれではいつもと変わらないわ!」
「んじゃ口移しとかか? 恥ずかしいが」
「それもたまにやるじゃない、うーん」

 むしろ口移しが普通になってきたのはすごい気がするが。
 長い間杏は考え込んでいたが、やがて何かひらめいたのか手のひらをぽんと叩いた。

「そうよ、これだわ!」

 すると突然杏は自分の左腕を固定し、その上に自分の作った弁当のおかずを載せていく。

「なっ何をやってるんだ?」
「んっふふ〜、よしこれでOK!」

 ある程度料理を載せた左腕を俺の前につき出す。

「じゃ〜ん、ミニ女体盛りの完成〜。さあ朋也、食・べ・て♪」

 あっけにとられた。こんな行為、今までテレビですら見たことすらない。

「手がお皿ね。ちょっとくすぐったいからすぐに食べてくれると嬉しいわ」

 杏は笑顔で俺が料理を腕から取ろうとするのを見ている。
 とりあえず俺は腕に乗っかっているウインナーを手にとって食べた。
 手にとったのはなんとなく箸では杏をつついてしまうかもしれないと思ったからだ。

「お、うまい」
「当然よ〜あたしの愛情と、あたし自身というスパイスがたっぷりなんだから」

 確かに杏の腕に載っていた以上、杏自身というスパイスが料理に含まれたのは事実だろう。
 俺は魔法にでもかかったのか、杏の腕に載っていた料理をすぐにたいらげてしまった。

「ふぅ、おいしかった」
「よかった、朋也が満足してくれて」
「ああ、でも――」

 ひっかかることが一つだけあった。確かに俺は幸せだった。だが、

「これだと俺が幸せなだけじゃないか?」
「違うわよ〜。あたしの幸せは朋也の幸せ。朋也の幸せはあたしの幸せだもの」

 嬉しいことを言ってくれる。男冥利につきるというものだ。
 こんな杏に何かしてやりたい。

「すっげぇ嬉しいんだが。俺にも何かやらせてくれよ」
「ん〜それじゃあ」

 また杏は何かを思いついたのかニヤリと笑みを浮かべる。

「それじゃあ朋也、両手をお椀型にして。そして何があっても決して動かさないで」
「あっああ……」

 俺は杏に命じられるがままに両手を合わせてお椀型にする。
 すると杏は持ってきた水筒を取り出し、蓋を開けた。

「それは、もしかして」
「大丈夫、中身はスポーツドリンクだから」

 なんとなくこの先が読めた。
 そして予想通り杏は水筒の中のスポーツドリンクを俺の作ったお椀に入れていく。

「あたし喉渇いてたのよ。だから朋也コップ、ね」

 ね、といわれても。とりあえず杏が口を開けたのでそこにお椀型にした手からスポーツドリンクをちょうど一口分注ぎ込む。

「おいしかった〜ねぇねぇ、もう一杯!」
「あっああ」

 杏に命じられるまま引き続き手をお椀型にする。
 そのまま、4杯ほど杏は俺の手によるコップでスポーツドリンクを飲んだ。



「ほら、買ってきてやったぞ」
「わーい、ありがとう朋也ー」

 昼飯を食べ終えた後、杏がケーキを食べたいと言い出したので近くのコンビニで買ってきた。
 王道なイチゴのショートケーキ。俺は食べる気がなかったからもちろん杏の分だけ。

「はい、朋也。あーん」

 それなのに杏はケーキを取り出すと、フォークで一口サイズにしてまず俺に食べさせようとしてくれる。
 多分杏はこういうのが好きなのだろう。俺も、嫌いじゃない。

「あーん……」

 俺も誘導されるがままに口が一口サイズに分けられたケーキに近づく。

『あーお姉ちゃんたちあぶなーい!』
「「えっ?」」

 子供たちの声がして、思わずそちらの方を向く。
 サッカーボールが俺たちの方に向かってきていた。
 あまりに突然だったので咄嗟に反応できず、ボールの軌道を見守ることしかできない。
 そして、ボールは杏のケーキを持っていた手に当たった。

「きゃっ!」

 杏の手から、ボールの衝撃によって破裂したケーキの破片が俺たちの顔の周りに飛び散る。
 つまり、ケーキまみれになったってこと。

「おっおい、大丈夫か?」
「うー朋也ぁ〜、ケーキが……」
「ごっごめんなさい!」

 子供たちが謝りに駆けつけてくる。
 こいつらは悪気があってやったわけじゃない。だから、あまり怒るわけにもいかない。

「次からは気をつけろよ」

 そういってこちらに来たボールを軽く投げて渡す。
 子供たちも「はーい」と返事をして、またサッカーをしに戻っていった。

「さて、このままでいても仕方ねえし。一旦戻るか」

 ケーキで汚れた杏と自分の服を交互に見ながら、杏に話しかける。
 しかし、杏は俺が顔を向けた瞬間、素早くとんでもないことをやってきた。

「えいっ!」

 ぺろんっ

 杏の舌が俺の頬に触れる。
 そう、杏は俺の顔についているケーキを舐め取ったのだ。

「ななっ……!」
「だってケーキ勿体無いんだもの」

 杏はそういってペロリと舌を出す。してやったりといった表情だ。
 俺はちょっとくやしくなったので仕返しをしたくなった。

「だったら俺も――」

 ペロンッ

 そういって杏の顔についているクリームを舐めとる。多分あちらはまた仕返ししてくるだろう。そしたらまた返すだけ。多分お互いの顔についたクリームがなくなるまで続くはず。

「きゃっ! やったわねー」

 ぺろんっ

「うっ! こっちももういっちょ」

 ペロンッ

「今度はそこねっ!」

 ぺろんっ

………

……



『ねぇ、あのお姉ちゃんたち……あっお母さん。あれ――』
『しっ! 子供は見ちゃいけません!!』



 舐めあい合戦を終えた俺たちは公園の水飲み場で顔を洗い、ある程度服などについたケーキを拭き取ったあと公園を後にする。

「さーて、これからどうしようかしら?」
「そうだなー」

 先のことなんてまったく考えない、行き当たりばったりで今後の予定を決める。
 勿論ずっとはよくないけど、たまにならそれでもいい。

「それじゃあこの先のゲーセン行って、そっから適当に店まわって、そんでどっかの喫茶店にでも入るか」
「さんせーい」

 ぶっちゃけ、別に誕生日でなくてもたまのデートのときにそういうところは寄る。

「あー朋也、あれとってあれ」
「はいはい、さーていくらで取れるかな」
「前みたいに何千円もかけて結局取れないなんてことないようにね」
「ばっ、一応取れたじゃねえか! ……店員に直接渡してもらったが」

 そう考えると、誕生日とはいえ普段と変わらない気がする。

「朋也〜これ似合ってる?」
「ああ、でもちょーっと大胆すぎないか」
「大丈夫、これで誘惑するのは朋也だけだから」

 いや、そうじゃない。
 普段が特別なのであって、誕生日だけが特別なんじゃない。
 杏といる時間、それが特別。

「ん〜やっぱり一つのコップに二つのストローって恋人って感じよね」
「他人の目が気になるけどな」
「いいの、皆が思っているとおり恋人なんだし恥ずかしがる必要ないわ」
「まあそうではあるが」

 それに俺たちはつき合って1年もたってない。
 まだこれからも特別な日は続く。別に今日を無理して思い出にする必要なんてないんだ。
 そして、幸せな時間というのはあっという間に過ぎていくもので、もうお別れの時間となってしまった。



「あー今日も楽しかったー」

 今日も、その言葉が俺が考えてたことの証明になっているのかもしれない。
 でも、やっぱり誕生日だからいつもより少しは特別な日にしたい。

「なぁ、杏。ちょっと手出して」
「んー何ー?」

 だから、いつもなら多分買わないと思うプレゼント。
 アメジストの指輪。ペンダントは前あげたことがあるから、だから今度は指輪。
 さっと薬指にはめる。入らなかったらどうしよう、大きすぎたらどうしようと不安もあったが、どうやらぴったりだったようだ。

「これ――」
「誕生日プレゼント。前送ったペンダント同様、大事にしてくれ」

 なんか恥ずかしさがこみ上げてきて、俺はそっぽを向き、頬をかきながら言った。
 すると、杏はしばらく何も言わないで黙り込む。

「朋也……」
「なっなんだよ」

 もしかして気に入らなかったのか? やはりペンダントがアメジストだったからといって指輪も同じものにしたのは問題だったか?

「だーい好き!!」

 そんな心配を杞憂にさせる杏の抱きつき。
 俺は多少よろめきながらもなんとかバランスを保つ。

「朋也のことが、世界で一番好き!」
「俺もお前のことが好きだって!」

 ああ、今なら古河のおっさんに似ていると言われたのもうなづける。
 俺も大馬鹿野郎ってことだ。

「あたしの方が何百倍何千倍も好き!」
「おっ俺だってそれに負けないぐらい好きだ!」
「世界に男がたくさんいて、女があたしだけになってもあたしは朋也を選ぶ!」
「俺もどんな美人の女が誘惑してきたって杏を選ぶ!」
「好き好き好き好き好き……好きを何回言っても足りないくらい大好き!!」
「俺だって……あーもう!」

 これ以上は埒が明かないと判断した俺は、杏の唇を奪う。
 こうでもしないと多分この比較は終わらないだろう。

「ん……」
「杏、大好きだ」
「あたしも――」

 こんな日々がどれだけ続くかわからない。でも、一生続けても飽きない自信がある。
 だから、一生続けたい。そしてそれは俺の願いであり、きっと杏の願い。

「朋也のことがだーい好き!」

 どうか、この俺たちに幸あれ。





終り

あとがき
 杏お誕生日おめでとう記念、杏甘えん坊シリーズ最新作にしておそらく最終作。無理、多分これ以上は無理ってぐらいアホやりまくった気がします。
 ちなみに椋はしまさんが祝ってますのでそちらをどうぞ。
 あとタイトルに反応した人、俺とこのゲームについて熱く語りましょう(何