俺は椋とつき合うことになった。
 椋の気持ちを知り、その上で自分の心の中と相談した結果だった。
 そして数回のデートを重ね、ついに俺は椋を家の中に入れた。
 もちろん幾分か抵抗もあった。家には親父もいるし、それに自分の部屋に入れるということは変な意味もあるらしいことを少しは自覚していたからだ。
 でも、真っ赤な顔で椋が『朋也くんの家に遊びに行きたいです』と一生懸命に言ったのを断れるだろうか。いや、はっきりいって無理だ。
 そんなわけで俺は椋を部屋に連れて行った。そして少しでも緊張をほぐすためジュースを取りに行き、少しどんなことを話すか考えてから部屋に入る。

 時が、止まった。

 俺がドアを開いた途端、考えてなかった光景がその先にあったからだ。
 
「あ……」

 椋がしまったと言う顔でこちらを見る。
 俺もしまったという顔で椋を見る。

「それ……」

 椋が持っているものはH本、金がなくて買えないからと春原から借りたものだった。

「そっその……ごっごめんなさい!」

 椋はそういうと立ち上がりダッシュで俺の部屋から逃げていく。
 止めようかと手を出そうとしたが、ジュースの乗っているお盆を持っていたためできなかった。
 急いで家を出て行く椋を見ながら、俺は後でどう言い訳をするべきか必死で考えていた。





『椋ってば結構大胆?』





「困ったなあ」

 俺は机にもたれながら必死で思い悩んでいた。
 先ほど一瞬だけ椋と目があったものの、真っ赤な顔で目をそらされてしまった。

「しっかりと隠しておいたつもりなんだが」

 椋がへたに詮索するなんて考えられないから、きっと何かのはずみで出てしまって、それを興味本位で見てしまったのだろう。
 もう少し隠し場所をひねるべきだったか。
 いや、むしろあの本が俺の部屋に存在していたのがよくなかった。
 つまり、貸した春原が悪いんだ。よし、責任転嫁完了。

「どうした岡崎、困ったような顔をして」
「悩みの原因を作った諸悪の根源め」

 あまりにもタイミングよく春原が話しかけてきたので一発殴っておく。

「突然何するんですかあんたは!」
「うるさい、今非常に機嫌が悪いんだ俺は」
「何? もしかして椋ちゃん関連? 目ぇ合わそうとしないし」
「だから黙ってろって」

 ちなみに俺と椋の関係ってのは結構知られてたりする。

「はは、喧嘩したの? じゃあ今傷心状態の椋ちゃんを落とすチャーンsぐはっ!」

 さっきよりも強めに殴っておく。

「……ま、さっきのは冗談だけどさ。早めに仲直りした方がいいと思うよ」
「……わかってるよ」

 若干顔の形が変わった春原を見て、少しやりすぎたかと思いつつ、素直に春原の忠告を聞いた。



 どう言い訳しようか考えているうちに4時限目のチャイムがなり、昼休みとなる。
 この状況じゃいつもの椋のお弁当はあるまい。
 最初はひどかったものの、最近じゃ普通においしい弁当が食べられなくなるのは残念だが、仕方がないと思いながら常に机の上に出しっぱなしにしておいたカムフラージュ用のノートと筆箱を机の中にしまう。
 しかし、なんかの物質に当たってしまい中に入れることができない。
 どうしてかと思い、机の中をのぞいてみるとそこには椋のお弁当箱が入っていた。
 きっと体育の授業の時かなんかを使って入れておいてくれたのだろう。
 どうやら嫌われていないことにほっとしながらお弁当箱を包んでいる袋を開ける。
 そこには一枚の紙がお弁当箱と一緒に入っていた。

「なんだこりゃ……?」

 開いて中を見る。

『食べ終わったら屋上に来て下さい 椋』

 そこには椋の書く文字でこう書かれていた。

「屋上で何があるんだ?」

 そう思いながら俺は弁当を袋でまた包みなおした。
 椋と一緒に食べない弁当は魅力が半減してしまうとわかっていたから。



 屋上に行くための扉を開ける。
 ここの学校の屋上は生徒に人気が全くなく、もちろんそこには椋しかいなかった。
 椋はどうやら俺が来たことに気付いていないようで、何故か胸に手を当てて深呼吸をしている。

「おーい、椋」

 俺が名前を呼んでやると、ビクリと反応し、真っ赤な顔でこちらを見た。

「あっ、とっ朋也くん」

 どうしたんだろうか。なんか椋はいつも以上にビクビクしている気がする。

「きっ昨日は勝手に帰っちゃってごめんなさい!」
「あ、いや。気にしてないからさ。こっちにも非があったし」

 必死にぺこぺこ謝る椋を見ながら、なんとか仲が元通りになったっぽいことに安堵感を覚える。

「えっと……それでお詫びといってはなんなのですが……」
「へ? お詫び?」

 そう言って椋はこくりとうなずくと、恥ずかしそうにスカートをめくる。
 そこには、あのH本に載ってたHな下着がつけてあった。

「どうしたら朋也くんが許してくれるかなって、どうしたら朋也くんが気にいってくれるかなって、どうしたら朋也くんがもっと私のことを好きになってくれるかなって……そう考えたら、いつの間にか買っちゃってました」

 うつむきながら、必死に話す椋。
 いや、なんというか、そこまで愛されてると男冥利に尽きるというか。

「馬鹿だなあ」
「えっ?」

 俺の答えに不安そうな表情を見せる椋。
 そんな椋を抱き寄せて耳元で言った。

「俺が椋を嫌いになるわけないって」
「朋也くん……」

 椋の顔に安堵感が灯る。

「さ、飯でも食おうぜ。正直一人じゃ食べる気がしなかったんで食ってないんだ」
「あっ……」

 そうやって手を離した途端、椋の口からふと声が漏れた。

「ん? どうかしたか」
「いっいえ、なんでも……」

 少し残念そうな表情をしている椋に少し疑問を覚えつつ、俺は持ってきた椋の弁当を開ける。
 中は綺麗な色合いで、ちゃんと食欲を注いでくれるものだった。
 俺は早速地べたに座り、唐揚げを口に入れようとする。

「ちょっと待ってください!」

 口に入れる寸前で椋に止められる。

「そっその……私が食べさせてあげます!」
「へっ? あっああ……」

 よもや椋の口から出るとは思わなかった台詞に唖然としながらもうなずく。
 そのまま弁当を椋に渡すと、椋は震える手で箸を持ちながら唐揚げを取り、そのまま俺の口の近くまで持ってくる。

「どっどうぞ……」

 あーんとか使わないところが椋らしいというか、それでも椋にしてはすごく積極的なことなのだが。
 椋に出された唐揚げを口で取り、食べる。
 いつもと違う味がした。

「ん、なんか昨日までの唐揚げとは違うな」
「味の方はどうですか?」
「いや、うまいよ。でもなんで?」
「今までのはお姉ちゃんから教わったものなんです。でも、私オリジナルのものを食べてほしかったので……おいしいって、言ってもらえてよかったです」

 椋ってこんなにかわいかったのか。
 なんか今日は自分の知らなかった椋のかわいいところをたくさん見ている気がする。
 


「ふう、うまかった」
「よかったです、満足してもらえて」

 弁当箱が空になり、満足する俺。
 その頃にはもう完璧に気まずさなんてなくなっていた。

「さて、昼休み終わるまで何するか」
「あの、お願いがあるんですが」
「ん、なんだ? 今なら何でも聞いてやるぞ」
「それじゃあ……」
 


「キス、してもいいですか?」

 確かにキスすることは結構あったが、椋が自分から、しかも言葉で求めてくることはなかったので少し驚く。

「それでいいのか? 俺は構わないが」
「それじゃあ……」

 俺と椋はそのまま口付けを交わす。
 3秒…5秒……10秒………。
 長い、長いキス。ずっと相手を求めていたいというキス。
 ようやく終わったとき、お互い見つめあう。

「あっあの……」

 椋は恥ずかしそうにしながら俺の方を見て、さらに意外なことを言った。

「もう1回……いいですか?」
「もう1回? わかった」

 しかしそれに素直に応じる俺。
 そのまま唇を合わせる。しかし、椋はなんと舌を俺の唇に当ててきた。
 ノックされた唇という扉は開き、もう一つの舌と絡み合う。

「ん、はぁああ、はぅ」

 椋の唾液が俺の口に、俺の唾液が椋の口に。
 お互いのを求め合うかのように何度も何度も交差する。
 2人の息が続くまで、求め合いは続いた。
 
 

「……これってディープキスってやつ?」

 行為を終えたあと、俺も顔を赤くして何故か尋ねる。
 もはや耳まで真っ赤にしながら椋はうなずく。

「椋は結構大胆なんだな……」

 その意外さに思わずつぶやく。すると椋は、

「そ、その……朋也くんによろこんでほしかったから」

 その答えは俺をぞっこん状態にさせるのに十分だった。

「椋、一生愛してるからな」
「はっはい!」

 そして飽きもせずキスをする。
 椋を選んで良かった、そう思いながら俺はこの意外と大胆な彼女を求めるのだった。


終わり


あとがき
 椋の甘いSSです。杏とのセットが多い彼女ですが、単体のものはなかなか見ないので。
 杏の場合は極端でしたが、椋は多少抵抗があるぐらいが丁度いいのかなと思ったのでこんな感じに。それでも十分大胆な気もしますがw
 あとこれ18禁にできそうじゃないとか思った人。正直そうするつもりでした(ぇ