「はふぅ……」
学校の机の上で突っ伏す俺。
杏とつき合い始めてどれくらいだろうか、未だつき合い始めた頃の熱さを保っている。むしろあっちが一方的に加熱していっている気もするが。
おかげで、俺は毎日のように疲れていた。
一緒にいる分には楽しくて、疲れも少し和らいでいる気がするのだが、杏がいなくなった途端一気に疲れが押し寄せてくる。
それが無理しているのかなんなのかはわからないが、確かなことは今俺が非常に疲れているということだ。
「岡崎、やっぱり疲れきっているねえ」
春原が話しかけてくる。こいつは俺たちの事情を知っている。
まあこいつに限らず、多分学校のほとんどの生徒が知っているような気がするが。
「ああ、あっちはいつも元気なんだがな。不思議と」
「はは、確かにね」
というかアイツの場合俺とつき合い始めてからどんどん元気さが止まらなくなって暴走しているふしすらある。
……もしかして俺からエナジーを奪い取ってるんじゃなかろーか。
確かにエナジーは夜奪われたりするけど。
「ほら、リクエストのジュース。これでも飲んで体力回復すれば」
そういって春原は俺の机にリアルゴールドのビンを置く。
本当は栄養ドリンクの方がいいのだがそんなの学校の売店に置いてあるわけがない。
「お、サンキュー」
「いいって、それにさすがにちょっとだけ同情を覚えかねないしね。こんぐらいのことなら」
「……春原に同情を覚えられた、死のう」
「そこまで僕に同情覚えられることは屈辱ですかねえ!」
まあ確かにこの疲れっぷりははたから見れば同情を覚えられるのかもしれない。
春原の場合、杏の表面を知っているからなおさら覚えたくなるのだろう。
「とりあえず、今日も杏の暴走はひどいに違いない、これを飲んで体力回復せねば」
「それがいいと思うよ」
俺はリアルゴールドの蓋を開け、その中身を口に含む。
と、同時に扉の向こうから足音が聞こえる。杏だろうか。
俺は念入りに心構えをして、なんと言われても驚かないようにする。てか、驚いたら口に含んだものが飛び出してきたないから。
そして、扉は開いた。
「ダーリン! 来たわよー!」
「ぶふぅー!!」
耐えられませんでした。
『K・Y・Oが止まらない』
「げほっげほっ!」
思わずむせる。目の前にいた春原がどうなったかなんて気にしている暇はない。
『うわー目がー目がー!!』
そう、気にしている暇なんてないのだ。床でごろごろして目を手で覆っていそうな男のことなんか。
問題はついにそこまで行ったかという杏の一言だ。
ダーリンって。今時そんなもん見たら額縁に無理やり押し込めて飾ってやりたいぐらいの一言だぞ。
「えへへー驚いた?」
杏は満足したかのような顔で俺に近づいてくる。
『ぎゃふっ』
春原の悲鳴が聞こえた。おそらく踏まれたのだろう。
「ああ、すっごく驚いた」
つか、驚かない方が無理だっての。
見ろ、周囲の人たちを。うらやましい目で眺めるような、もしくは珍しいものを見るような。果ては愛玩動物を見るような目で見る人もいるぞ。
「そう、よかった!」
俺の内心に全く気付かず、ただ驚かせられたことを嬉しそうにしている杏。
『おい、杏いい加減にしろよ』
そんな声が下から聞こえてきた。
……下?
「あら? 陽平、下にいたの」
俺たちが向いた杏の足下に春原の姿があった。
「下にいたのじゃありません!」
杏が足をどけてやると急に立ち上がる。
「お前なあ、いくらなんでもベタベタしすぎだぞ」
どうやら春原が俺の言いたいことを代弁してくれるようだ。
「もうちょっと鮮度ってのをわきまえてくれよ」
「愛ってのは熟していた方がいいと思ってるけど?」
「そうじゃなくて……あれ? 鮮度じゃなかったっけ」
「……もしかして『節度』って言いたかったんじゃないだろうな」
「そうそう、それそれ」
やっぱり春原は馬鹿だった。
しかし、春原の意見には大半の人が同意のようで周囲でもうなずいている人が何人かいる。俺も納得ではある。
「え? あたし結構節度はわきまえてるつもりよ。これでも」
『あれでか!!』
誰も口にはしなかったものの、おそらくこのとき皆の心は一致したに違いない。少なくとも、表情は一致していた。
「何? もしかしてあんた、あたしと朋也の関係を邪魔しようとしてるの?」
しかも話がとんでもないところに向かった。
「いっいや、そんなことはないっす」
春原が全力で否定する。
しかし、既に手遅れだった。
「あたしと朋也の関係を邪魔する理由は何? あたしが目当て? 違うわね。あんたあたしのこと嫌いだから。だとすると残る可能性は……朋也? そう、朋也なのね! あんたそっちの気があったのね。確かにあんた常に朋也の傍にいるけど、友情とかそんなんじゃなくてそっちが目的だったんでしょ!」
「いや、その……」
暴走する危ない妄想。加速する勝手な憶測。
杏は今、誰にも止められない。
「あんた朋也とはいい付き合いよね、あたし以上に傍にいるし。だからもしかしたらそっちの気ができてもおかしくないとは思うわ。あたしも止めはしない。でも……」
「朋也だけは渡さない」
暴走、ここに極まれり。
これ以上のことは俺は到底口には出せない。
ただ、これだけは言っておく。
俺たちは間違いなく『鬼』を見た、と……。
「いやあ、すごかったなあ……」
俺の口からそんな言葉が漏れる。
俺が「杏、頼むから止まってくれ」と言ってようやく止まった、もし後少し遅れていたら春原はこの世に存在しなかっただろう。
「ちょっとやりすぎちゃった」
てへっと、舌を出して片目をつぶる杏。
「ちょっと……?」
「うん、ちょっと」
「そうか……」
改めて俺はすごい子と付き合ってるんだなと痛感させられる。
あれはどう考えてもちょっとじゃない気がするが。
「んふふ、あのさ……」
「ん?」
杏が思わせぶりに話してくるので気になって顔を横に向ける。
「んー♪」
「むぐっ!」
と、同時に思いっきり唇に突然キスしてきた。
「ぷはっ! なっなんだよ突然」
俺があまりのことにびっくりして聞く。
「大好き♪」
杏は答えになってるのかなっていないのかよくわからないことを言った。
「……はいはい、俺もだよ」
「やった!」
そのまま抱きついて一言。
「一生、離さないからね」
一生離してくれそうににない彼女に苦笑しながらも、俺はそれでいいかなと思うのであった。
「ずっと、ずーっと一緒♪」
終わり
あとがき
えっと、これ杏じゃないよな(汗
最近なんかSS書けなくなってるんでリハビリに書いてみました。だからいつもよりちょっと短いかな?
見ての通り甘えん坊の続きのようなものです、矛盾点とかあるかもしれんけど、まあそこは気にしたら負けということで(マテ
見つけたりしたらメールとかで教えてください。こっそり修正しますから。
※春原の名前間違ってたのを修正。洋平って誰だよorz
なんとなくおまけ(24日午後1時37分追加)
そして、扉は開いた。
「ダーリン! 来ただっちゃー!」(髪の毛緑に染めて)
「ぶふぅー!!」
耐えられませんでした。てか反則。
いや、ダーリンっていったらこれかなって思ってのおまけ。ごめん。