『理樹と佳奈多がコンビニで夜食を買うだけのおはなし』
「いらっしゃいませー」
夜だからか心なし元気少なめに店員が声を出す。
狭いながらも生活に必要な品がほぼ揃っている二十四時間営業の便利なお店、コンビニに僕らは来ていた。
理由は簡単、小腹が空いてきたので食料を調達するためだ。スーパーとかと比べると少々割高だけど、便利さゆえの諸経費だと考えるとさほど気にならない。ついでにコンビニにしか売ってない飲み物も欲しかったし。H・M・C(ホットマンゴーサイダー)というの。
「さ、直枝。さっさと買い物済ませるわよ」
「え、あ、うん」
僕が立ち止まって考え事をしているうちに佳奈多さんはさっさと先に進んでいく。
うーん、僕って結構コンビニ好きだからゆっくりと色々見ていきたいんだけどなあ。それに、ここのコンビニって本が立ち読みできる場所だし。まあ、それは次の機会にしよう。
そのまま佳奈多さんへついていくと、食料品売場を無視して別の場所で立ち止まる。
そしておもむろに箱を手にとった。
一体何をとったのだろう、気になって仕方なかったので、佳奈多さんに近づいて何の箱かを確認する。
【安全戦士コン○ム】
「何買ってんの佳奈多さん!?」
佳奈多さんが手にとっていたものは恋人同士の必需品だった。間違いなく性的な意味で。
「え、『私を食べて』って意味で――」
「僕らが買いに来たのはちゃんと口から食べるものだから!」
「なるほど、直枝はフェ――」
「ああ、うん! 僕も途中でしまったと思ったさ! 余計なこと言っちゃったと思ったさ! 違うから! お腹が空いてるの僕は!」
「私は直枝のものをゴックンできればそれで」
「それじゃ僕が余計にお腹空くじゃないか!」
――って、いけないいけない。これじゃ佳奈多さんのペースじゃないか。
何気に僕も毒された気がしたし。
「と、とにかく、まずは食料を買おうよ」
僕はそういってそこから一番近いインスタント食品類が置いてある場所へと歩き出す。
佳奈多さんも後ろからついてきているので、ひとまずは安心といったとこだろうか。
「しっかし、色んな種類があるよね」
麺類は当然として、スープ類、ご飯類などがある。さらにそこから色々なバリエーションが存在するため、どういうものがあるか探すだけでも楽しい。
「……」
佳奈多さんも唇に手をあて、どれを買おうか思案しているようだ。
とりあえず僕は王道のカップヌードルカレーBIGでも買おうかな。
ついでにレンジでチンして作るご飯も一緒に買った方がいいかも。カレーだからって安直なんだけど、ご飯と一緒に食べるとすごくおいしいんだよね。
あ、でも後でオニギリ買うからそっちでもいいかな――。
「……カップヌードルオ○ニー(ボソッ」
「って何考えてたの佳奈多さん!?」
いきなり佳奈多さんの口から出てきた発言につっこまざるを得なかった。
だってあんだけ真剣に考えてた女の子が出す発言じゃない、どう考えても。
「あ、直枝はカレーでやるの? 刺激が好きなタイプなのね」
「やらないから! これは食べるためのもの!」
「いいわよ。直枝のならシた後でも食べてあげるわ」
「僕にそんな変態的な趣味はないから!」
「私にはあるわ」
「言い切った!?」
なんか白いものが入ったカップヌードルを食べる佳奈多さん。
……ぼ、僕にはないんだ、そんなのを見て興奮する変な趣味なんてないんだ。
「つ、次はオニギリとか見に行こう!」
思考が変な方向にいってしまう前に別のものを見に移動する。
オニギリを売ってある場所にはそれ以外にも、パスタとか唐揚げとか色々あるんだけど、既にカップラーメンを買っている僕らにとってはその辺は今回対象外だ。あくまで小腹を埋めるためだしね。
「僕は梅にシーチキンっと……佳奈多さんはどうする?」
「私は鮪にしようかしら。私はマグロじゃないけど」
「誰も聞いてないから……」
選んだオニギリをさらにカゴに追加する。
さて、最後は飲み物だ。僕はペットボトルのH・M・Cを買うからいいとして。
「佳奈多さんは何飲む?」
「私は……そうね」
そういって眺めているのはオニギリを売ってある場所のすぐ横にあったドリンクコーナー。
紙パックとかはここに置いてあるんだけど、その中から選ぶんだろうか。
「じゃあ……この【濃くておいしいミルク】を」
「そんなんあるの!?」
僕は思わず佳奈多さんの指の先を見る。確かにそんな名前の製品があった。
「あら直枝? どうしたの? エッチなことでも考えた?」
「い、いやそんなことは……」
「私は考えたわ」
「清々しすぎるよ!」
まあ、うん。絶対考えてしまうよね一度は。
「直枝はこれにしなさい。そして直枝の【濃くておいしいミルク】飲ませなさい」
「絶対狙って言ってるよね、それ……」
「別にこの【飲むヨーグルト】でもいいわよ。直枝の【飲むヨーグルト】飲ませなさい」
「どっちにしろなんかやだ!」
「白いものだったらある程度応用が聞くわ。人間の想像力って偉大ね」
「佳奈多さんの想像力は卑猥だけどね……」
「うまくないわよ、直枝。『偉大』と『卑猥』、母音は合ってるけどちょっと反応しづらいわ」
佳奈多さんにダメ出しまでされてしまった。
何このいじめひどい。
「ところで直枝は何にするの?」
「僕はもう買う飲み物決めているからさ。ペットボトル売り場にあるH・M・Cっていうの」
途端、佳奈多さんが何故か驚いた表情をする。
「えっ! そ、そんな。直枝にそんな趣味があったなんて……」
「か、佳奈多さん? 何を勘違いしているの?」
勘違いしていることは間違いない。飲み物の名前を言っただけなのに顔を赤くしてるし。
「え、だって『H(エッチ)でM(マゾ)なC(佳奈多)』ってことよね」
「違うよ! どんな勘違いだよ! 第一飲み物っていったじゃないか」
「だから飲にょ……」
「そんな趣味はないから! 佳奈多さんの勘違い! 正式名称は『ホットマンゴーサイダー』だから!」
「……それはそれで直枝も変な趣味ねって思うわ」
「えっ」
おいしいのに、H・M・C。
どうやら佳奈多さんには理解できなかったようだ。
変態的な考え持っている相手に『変な趣味』といわれたのが、こう、ものすごくショックだった。多分僕は今、泣いてもいいのかもしれなかった。
「じゃあ、私が買ってくるわ」
「いや、いいよ。結構重いから僕が買ってくる」
もちろん、余計なものを買わせないようにって意図もある。
「そう? なら私は雑誌でも読んでくるわ」
「お金は後で割り勘で」
「ええ」
こうして僕はレジへ、佳奈多さんは雑誌コーナーへと向かう。
レジの近くにある商品って妙に値段安めだったり、おいしそうだったりして買いたくなるけどそこをぐっとこらえる。
だってもう目的は達成されているのだ、余計なもの買って下手な出費をしてしまうのはやめておきたい。
「合計で994円になります」
お、1000円超えなかったとか思いながらとりあえず1000円札を出し、この後小銭を探す。
後ろに人がいたら小銭とか探さないんだけど、夜も遅いからか人も少ないので気にせず1円玉を4枚取り出して渡すことにした。
お釣りの10円を受け取り本のコーナーへ向かう。
「直枝、ちょっと欲しい本があったんで買ってきてもいいかしら」
「構わないけど、どれ?」
「これよ」
そういって見せられた本には【○楽天】と書いてあった。
「Hな本じゃないか!」
「買っちゃダメなの?」
「い、いや、ダメってわけじゃないけど」
そーいうのって、むしろ男が買うもんじゃないだろうか。
「これは私のお金で買うから大丈夫よ」
「んーまあ、それなら……」
「んじゃ、直枝は先に外で待っておきなさい」
そういうと佳奈多さんは真っ直ぐレジへと向かった。
まあ、僕も読みたい本はあるけど、佳奈多さんに言われちゃったし外で待つことにしよう。
「お待たせ」
僕が外に出て数分もしないうちに佳奈多さんが外に出てくる。手には雑誌の入った袋を持って。
「じゃ、帰ろうか」
僕は袋の中からH・M・Cを取り出し、蓋を開けて飲みながら歩いていく。
佳奈多さんも袋から雑誌を取り出し、それを読みながら歩いていく。
「――って何Hな本読みながら歩いてるのさ!?」
「夜だし誰も見てないわよ」
「そういう問題じゃないから!」
「ほら、この作家さん、お尻描くのうまいわよね。欲情するというか」
「わざわざ見せて解説しないでもいいから!」
確かにちょっとムラッときたけど、だから良いという話でもない。
「私も興奮してきちゃったわ。直枝、帰ったら……ね?」
「ねって言われても……」
「大丈夫、しっかりと安全戦士は買ってきたわ」
「いつの間に!?」
「Hな本と一緒によ。ばれないようにHな本の下に隠してたの」
「普通逆だよねそれ!?」
「そうと決まったらすぐに帰るわよ。足取りがものすごく軽いわ」
「僕は急に重くなったけどね……」
軽すぎるからかステップまで始める彼女を見ながら、背中にまで重石がのっかったように肩を落としながら歩く僕。
ただ、コンビニで買い物をしただけなのにこんだけ疲れるなんて……さっきのコンビニで栄養ドリンクでも買いに戻ろうかなんてことを思うのだった。
「あ、直枝。しっかりと栄養ドリンクも買っておいたわよ」
「あ、ありがとう。気が利くね……と言いたいところだけどそれって――」
「【マカビンビン】っていう下の方が元気になるドリンクよ」
「やっぱり!!」
終わり
あとがき
コンビニに安全戦士やマカビンビンが置いてあるかは知らないけど、まあその辺はフィクションってことで。
同様にコンビニでの配置もフィクションってことで。
ただ、【濃くておいしいミルク】って商品を見かけて飲んだから書いてみました。SSのきっかけってそんなもんだよね(ぇ
おまけ
「そういえば佳奈多さんは飲み物買わなかったの?」
「買ったわよ、どろり濃厚白桃味」
「へえ、そんなんあるんだ」
「どろり濃厚…白桃よ」
「それはもういいから!」