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愛奴隷談義えくすとら


「なあ、岡崎……愛奴隷って、どう思う?」
「ぶはっ!」

 昼休み、昼食を終えた後で唐突にそんな事を芳野さんが言い出したため、俺は思わず飲んでいたジュースを吐き出した。

「げほっ、げほっ、い、一体何を言い出すんですか芳野さんっ!?」

 前々から、自分の世界に入りこんで白昼堂々恥ずかしい台詞を吐くことはあったものの、このような意味での恥ずかしい台詞を聞いたのは初めてだった。
 いや、もしかして、愛がついてるからか?

「ああ、すまない、さすがに唐突だったな」

 芳野さんは、どうも困惑したような顔をする。思えば、今日は朝からそんな顔だった。
 でも、今困惑するのはこっちだっての。

「とはいえ、すまないが余り事情を説明するわけにもいかないんだ。ここは一つ、なにも聞かずに相談に乗ってくれないか?」
「はあ、まあ良いですけど……」

 しかし、それって俺に相談するようなことなのだろうか。
 さっきの単語から察するに、風子のやつが妙なことを言い出したとか、そういうのかもしれないが……。

「助かる。それで、だ。最初の質問に戻るわけだが、愛奴隷をどう思う?」
「どう思うって、また漠然とした質問ですね」

 おそらく、芳野さん自身も頭の中でうまく整理出来ていないせいなのだろう。

「そうですね……一応主従関係ではあるものの、それ以前に愛情で結ばれていて、本人が望んで仕えている状態、ってところですか」

 言ってて恥ずかしいな、なんか。

「そうか……やはり岡崎もそう思うか。ということは、岡崎も、別にマイナスイメージを持っているわけではないんだな?」
「ええ、まあそうですね。奴隷ってのは余り響きの言い言葉じゃありませんけど、この場合だと、別に嫌な印象は無いです」
「やはり、愛か」
「そういうことになりますけど――って」
「愛。人は、愛した人を幸せにしたいと願う。愛する人の願いをかなえ、愛する人に尽くしたいと思う」

 あ、どうやらスイッチが入ってしまったみたいだ。

「相手の幸せを一途に願う心。相手の願いをかなえたい、相手のために尽くしたい、そうして相手を幸せにすることによって、自分も幸せになる。その思いが高まって、ただ一人のためだけに自己を存在させるほどの愛――それを持つ、愛奴隷」
「そーですね……」

 どうにも、今日の主張は恥ずかしすぎて、返事もおざなりになってしまう。いや、言ってることは普段と余り変わりないんだが。

「と、すまない、話がずれたな。相談の続きなんだが、自分の事を愛奴隷にして欲しい、と言う女の子が目の前に現れたら、どうする?」
「――は?」

 あまりにもぶっ飛んだ質問に、俺は呆けた声を出してしまった。
 だって、あの芳野祐介だぞ。春原のバカじゃないんだぞ。芳野さんが真剣な顔してこんなこと聞いてくるなんて……。
 いや、待てよ。もしかしたら、本当に真剣な悩みなのかもしれない。
 考えてみれば、いろいろあったとはいえ、今でも芳野さんに憧れているやつは数多くいるだろう。芽衣ちゃんもそうだったし。
 こう考えれば、一連の質問にも筋が通る。芳野さんに憧れた女の子が、家とかなんとかを皆捨ててきたとか。

「とりあえず、なんといいますか、困惑する状況ですね」
「そう思うよな、やはり……」

 あ、溜め息ついた。やっぱり、それで困ってるのか。

「その子の家族とかは、どんな風に言ってるんでしょう?」
「ん、それがな、大賛成しているというか、むしろ積極的に推し進めているというか……」
「そ、そりゃあすごいですね……」

 おいおい、マジか。愛奴隷になるのに、積極的に推し進めるってなんだよそれ……。

「ああ、そう言えば、その子自体はどんな子なんですか?」
「ん、そうだな。可愛らしい子だ。性格は、ちょっとだけ難があるかもしれないが」
「性格に難があって、愛奴隷って言うのが勤まるんでしょうか……」
「俺もそう思うんだがな」

 でもまあ、いきなり愛奴隷、だもんな。そりゃ性格に難があるのは当然か。正しく言えば、ぶっ飛んだ頭というか。

「ちなみに、断ったりしたらどうなるんでしょうか、それ?」
「それはわからんな。次の手を考えるか、それともそのまま続けるのか……いずれにせよ、諦めることは無いだろう」
「それ、ヤバイですね……」

 結局のところ、それはストーカーというんじゃなかろうか。

「やはり、警察に連絡したほうが……」
「い、いやっ、それはだめだ」
「どうしてです?」
「それはその、そ、そう、それは愛がないからな」
「はあ」

 愛が無い、といわれてもな……。

「確かにちょっとおかしな形かもしれないが、相手は愛を持ってきたわけだろう。それは岡崎も同意してくれたじゃないか」
「ええ、そりゃしましたけど」
「ならば、せめて誠意を持って相手をすることが必要だと、俺は思うんだ」
「うーん……」

 まあ、常日頃から愛万歳な芳野さんとしては、相手を無下に追い返すことも、警察を呼んで対処してもらうことも出来ないってことか。
 なんか、色々と大変だな、それは。

「まあ芳野さんの言いたいことは分かりますけど、さすがに周囲に迷惑がかかるようなことになったら、そういう手段を取らざるを得ないんじゃないですか」
「それは、そうかもしれないな。では、お前の場合は周囲に迷惑がかからなければ、どうする?」
「俺の場合は……うーん、やっぱり説得するとか、それぐらいしか思いつかないです。さすがに手を上げるわけにはいかないですし」

 まあ、そもそも俺のところに、そんなのが来るわけないんだが。

「そうか。やはり岡崎も、いきなりそんなことになったら、喜ぶよりは引くよな」
「そりゃ引きますって。なんとか帰ってもらおうとしますね」
「それが普通だよな。分かった。相談に乗ってくれて、感謝する」
「いえ、それは構いませんけど、芳野さんも大変ですね」
「ああ……お前もな」
「?」

 なぜ、俺のほうまで大変になるんだろう?
 疑問には思ったが、聞き返す気にもならず、気にしないことにする。
 芳野さんが小さく「でもまた、次の手段でいくんだろうな……」とつぶやいた後、俺達は仕事を再開した。


あとがき
更新履歴を見た瞬間に感じたことを、最初の2行にこめたかっただけです。深く考えないで下さい