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就職活動

 焦燥感だけが募っていく。
 しなければいけないことは分かっているし、しなければいけない時期だということもわかっている。
 その方法も、一応はわかっているわけで、時間に後押しされるように俺は動いていた。
 いや、動かざるを得なかっただけだ。
 結局、馬鹿ばっかりやってきた高校三年間の終わりころ。
 受験勉強に精を出す周囲の奴らを尻目に、俺は就職部に通いつめていた。
 学校が終われば、今まで通り取って返すように春原の部屋へと向かう。
 ただ一つだけ違うのは、部屋の主がいないことだった。
 去年の暮れ辺りから、春原は地元へと帰っている。あいつは、地元で就職活動をするらしい。
 なんだかんだと愚痴をこぼしながらも、あいつは自分から仕事を探している。
 今までの三年間、ずっといたこの場所で、まだ燻った気持ちを抱えている俺とは大違いだった。
(なんか、俺一人子供だな……)
 溜め息をつく。しかし、それに反応を示してくれるやつはいない。
 こんな日が来ることは分かっていたけど、それでもどうにも気持ちを切り替えることが出来なかった。
 そんな自分に、また溜め息をつく。
 それで気分が晴れることはないが、なんとか動くことは出来そうだった。




    ○     ○     ○




 ジリリリリリリ

「……んっ」
 朝。目覚し時計の音。
 半ば寝ぼけたままで、目覚し時計を止める。ボタンを押すだけではなく、ならないようにセットすることも忘れない。
 それにしても、眠い。眠くて、目を閉じた。



 ピピピピピピピ

 今度は別の目覚まし時計。
「うぅ」
 目をあける。音の発信源は少し遠くて、ベッドからは直接目覚まし時計を止めることができない。
 仕方なく、のそのそとベッドから這い出る。そして目覚ましを止めた。
「あーもう、なんでこんなになってるんだよ……」
 まだ頭が働かない。だから俺は、わざと疑問を声に出してみた。
 まず眠いのは、昨日なかなか寝つけなかった所為だろう。眠気が来なくて、ずっとベッドの上でごろごろしていた。
 それで、こんな時間に目覚し時計を二つもセットしていたのは、確か今日が……。
「えっ!?」
 時計が示す時間を見て驚く。恐々ともう一つの目覚し時計のほうを見てみるが、表示されている時間は変わらない。
「やっべえっ!」
 頭が一気に覚醒した。今日はそう、自分で探した企業での面接が行われる日だ。
「ああああああ、なにやってんだよ俺はあっ!」
 こんな日まで寝こけていた自分に対して、あきれつつもあわただしく準備をはじめる。目覚し時計の一つ目は、余裕を持ってセットしていて、本来ならばそれで起きるはずだった。しかし、結局は時間ギリギリをセットした二つ目が鳴るまで寝てしまっていたのだ。
 一応、荷物は昨日のうちに準備しておいた。俺は着替えを済ませ、朝食を食べる暇もないままに鞄を引っつかみ、家を出た。
 そして、駅に向かって走る。
 面接先は、割と離れた場所にあり、下りの快速電車で40分くらいかかる場所にあった。
 厄介なのがこの快速電車で、悲しいことにこの町の駅には止まらない。
 そのため、大きな病院のある隣町のほうの駅へと、一旦上りの電車に乗ってから下りの快速に乗っていかなければならないのだ。
 上りの電車は沢山ある。下りの電車も、途中までのならば沢山ある。そう、ちょうどこの町の駅が終点となる下りの電車ならば。
 しかし、この町からさらに下りの電車となると、途端に数が減るのだ。
 どうあっても、乗り遅れるわけにはいかなかった。もし乗り遅れれば、面接には間に合わない。
 走りながら、時刻表を開いて電車の時間を確認する。
 今からだと、とりあえず間に合うだろう。途中で朝食を買っていくぐらいの時間はありそうだ。
 目的地までの下りの快速電車は、隣の駅についてから十分ほどの後にくるらしい。そして、それにさえ乗れれば、面接の時間に間に合う。
 現状を確認すると、とりあえず俺は一息ついた。ギリギリにかけた目覚ましでも、まだ多少の余裕はあったのだ。



「はあ、はあ、はあ」
 駅のホームにつく。電車は、今まさに発車しようとしているところだった。まだ開いている扉に体を滑り込ませ、どうにか間に合ったことに安堵する。
 なぜこんな風に電車に乗る羽目になったのかというと、朝食を買いにコンビニへ寄った時、財布がなかったことに気づいたのだ。鞄にいれるものの準備は、昨日のうちに済ませておいたというのに、制服のズボンから財布を出すことを忘れていた。自分の事ながら、情け無い。それで、走って家に戻ったら、もう時間の余裕なんて全然なくなっていた。
 電車の中は割と空いていて、まだまだ人が座れる状態だった。乱れる呼吸を落ちつけようとしながら、椅子へと座る。
「ふぅー」
 大きく息をつきながら、窓の外を眺めていた。
 とりあえず、この電車に乗ることができてよかった。せっかく、自分で探し当てた企業なのだ。せめて、挑戦くらいはしたいと思う。
 変わらなければならないとも思っているし、変わりたいとも思い始めている。今までのような、気ままな生活ではないのだ。いつまでも、甘えているだけではいけない。
 だから、就職部から提示された仕事から選ぶだけ、というのは避けたかった。最終的に提示された仕事につくとしても、せめて努力だけはしたいと思った。
 かつて俺のことを好きだといってくれたあいつ。もう、手の届かない高みへと上っていってしまったあいつ。
 もう、あいつと俺の人生が交わることはないだろう。でも、俺は少しづつでも変わっていきたいと思った。あいつはすごく頑張ってる。だから、俺だって少しぐらい頑張らないといけないと思う。
 一時でも、あんなすごい奴と付き合っていたのだと、せめて自分の中で胸を張れるように。前を向いていきたい、そう思った。
 きっと、あいつもそれを喜んでくれると思うから。例え、もう関わりあうことはなくても。
 

 ガタン、ゴトン

 外の景色を見ていると、すれ違う下りの電車が見えた。
「……えっ?」
 目に写った信じられない光景。それを確認するために、瞬きをしてもう一度その電車を見る。
 しかし、それでもその光景が変わることはない。
「えっ、えぇっ!?」
 その電車には、確かに――



 快速、と書かれていた。



 驚きのままに、時刻表を取り出す。先ほど確認した限りでは、まだ下りの快速電車が来るのは早いはずだ。
「……あれ?」
 不思議なことに、下りの快速電車の時間は、先ほど確認したときよりも、十分早い運行時間になっていた。つまり、今。
「って、まさか」
 恐る恐る休日ダイヤを確認する。
 するとそこには、先ほど俺が確認した、平日よりも十分遅い運行時間が記載されていた……。




    ○     ○     ○




 内定が出て、就職先が決まったのは、三学期の始業式を終えた午後だった。
 それは、最初から提示されていた仕事のうちの一つだった。
 自分の力で探し当てた企業は、どれもこれもダメだった。


 というか、そりゃダメだろうな、と自分でも思った。
 だが、俺はすぐさま、改めて頑張ることを誓うことになる。
 それは、この後のあいつとの会話が原因なのだが、それはまた別のお話。