『愛奴隷談義』





「愛奴隷が欲しいっ!」

 隣にぎりぎり聞こえないぐらいの声で春原はそう叫んだ。今日も今日とて寮の春原の部屋に来ていた俺はそれを間近で聞いてしまう。

「どうした春原、暑さにやられて頭がおかしくなったか」
「いや、僕は正常だ!」
「そうだよな、頭がおかしいのが普通の春原だものな」
「あんたひどいこと言ってますねえ!!」

 いや、だってそうだし。

「普通の人はいきなりそんな事は叫ばないと思うぞ」
「いや、でもさ。たまに自分の思うことを主張したくなることなんてない?」
「少なくともそんな欲望にまみれた意見を主張するのはおかしな奴だと思うが」

 普通の人ならそんなこと恥ずかしくてできやしない。

「だけどそういうのって男の夢じゃない?」
「同意はしかねるが……まあわからんでもないな」
「だろ? で、その人数だけど。一人でもいいけど、複数いた方がなおいいよな」
「ふーん、例えばどんな風にだ?」

 すると、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに春原は立ち上がり、熱弁を始める。

「まずは一番ステンバードなのだね。別に奴隷ってことを相手が自覚しているわけでもなく、単なる愛情で結ばれているんだけどご主人様ってちゃんと読んでくれたり、求めればそれに答えてくれるの」
「とりあえずスタンダードだからな。ふーむ、渚みたいなのかな」
「そうだね、渚ちゃんとか案外そういう風になりそうだよね」

 春原は一人でうなずいている。間違いの部分は流されたようだ。

「んじゃ次だけど。普段は反発気味なの。でも、なんだかんだ言って主人の言うことに逆らわない」
「あ〜なんか杏っぽいな」
「そうかなー? でも、確かにそういうとこありそうではあるけど」
「風子もありえるが」
「えっ、あのすばしっこい奴だろ? そうかあ?」

 どうやら悩ませることを言ってしまったらしい。考え込んでしまった。

「ま、こんなことで悩んでいてもしょうがないからね。次はちょっと趣向を変えて。愛しているからこそ従う。さっきとちょっと違うのは反発とかはないわけ。本当は嫌なんだけど、愛している人が言うからやるみたいな」
「椋…かな?」
「はは、確かに委員長ってそんな感じっぽいよね。杏と姉妹プレイとかいいんじゃない?」
「ああ、いいな」
「そんじゃちょっと休憩してと」

 そういって春原はジュースを口に含む。飲み終えた後再びしゃべり始める。

「そんで次。もう主人の言うことが全て。主人の愛を得る為ならなんでもする」
「智代だな。間違いなく」
「……正直想像ができないんですが」

 春原が考えている。あ、涙を流し始めた。どうやら想像の中で蹴られているらしい。俺が大根とかで刺されたみたいに。

「つっ次! 成績優秀者だったり優れた指導者が愛奴隷だったらかなりいいよな。カリスマがあるから多少のことはごまかせそうだし、そういう相手に羞恥プレイなんて最高じゃない? こっちの方が智代っぽいんだけど」
「あーあと、ことみとか宮沢もありだな」
「有紀寧ちゃんはわかるけど……ことみって一ノ瀬ことみか? 確かに超成績上位者だけど」
「羞恥プレイとか向いているぞ」
「……岡崎、僕に何か隠してない?」
「いや、何も」
「ならいいけど」

 疑いの視線で俺を見つめている。確かに俺は隠してはいない。

「あっそういえばちょっと計算高い女の子とかもいいよね。やっぱこれも最終的には愛ゆえにってやつだけど」
「あー芽衣ちゃんかな」

 そのとき、空気が凍りついた感覚がした。

「……岡崎、今なんて?」
「えっ?」
「芽衣って僕の妹の名前なんだけど」
「いや、ははは……」
「その態度からどうやら偶然じゃないみたいだね。一体どういうこと?」

 春原が詰め寄ってくる。退路は完全に防がれている……仕方がない。

「実は……」
「わたしが岡崎さんと仕組んだことなの」

 突然ドアが開き、芽衣ちゃんが部屋に入り込んでくる。

「げぇっ、めっ芽衣!? どうしてここに!」
「岡崎さんと学生寮の近くで出会って、岡崎さんがおにいちゃんと友達だって聞いたから」
「いや、友達だとは言ってはいないけどな」

 一応間違いは正しといてやったが、春原はもう俺の言っていることは聞いていないらしく、

「でっでもどうしてお前今まで隠れて……」
「おにいちゃんが普段どんな感じでいるか知りたいってわたしが言ったから岡崎さんが手伝ってくれたの」
「じゃっじゃあ今までのことは全部……」

 芽衣ちゃんはため息をついた後、キッと春原の方を見て、

「おにいちゃん、さいってー!!」
「ぐはぁっ!!」

 そうやって春原はノックダウンした。確かに兄にはこれはきついだろうな。

「今日は岡崎さんの家に泊めてもらうから。それじゃあね、おにいちゃん」
「いや、もう聞こえてないと思うが」

 気絶している春原を横目に俺たちは部屋を出た。春原、今回ばかりは同情するよ。














「ふう、今回は危なかった」

 外に出た後、俺は安堵感による大きなため息をついた。

「駄目ですよご主人様、あんなにおにいちゃんの質問に正直に答えちゃ」
「いや、ごめんごめん。あいつなら気づかないと思ったんだ」
「全く、わたしがいなかったらどうなっていたことか」
「お礼はするよ。今日は優先的に、な。あ、『おにいちゃん』でよろしく」

 そういうと芽衣ちゃんは顔をぼっと赤くさせた。もちろん『おにいちゃん』とはプレイ内容の一つだ。同じものが風子でも使える。

「あ……はい、ご主…いえ、おにいちゃん」
「さあ帰ろう、皆が待ってるしな」

 春原、確かに俺は一つ嘘をついていたよ。お前の男の夢、激しく同意だ。



終われ

あとがき
 愛奴隷万歳。DNMLにしても面白いかもとか思ったり。誰かしてください(マテ