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 最近の理樹君は少々調子に乗り過ぎていると思う。
 恥ずかしい台詞も平気で言うし、何よりわざと私を驚かせ手玉に取ろうとしている節がある。
 別にいちゃつくことが嫌なわけではない。むしろこちらとしても大歓迎だ。
 が、いいように振り回されるのは本意ではなく、やはり私は理樹君をからかい愛でる側に回りたい。

「となると……ふむ。この方法がいいだろう」

 考えてみるとすぐにひとつの計画が浮かび上がった。
 私はそれを実行に移すべく、準備に取り掛かる。まあ、さして時間も掛からず終わるだろう。
 理樹君の困惑する顔を想像して、湧き上がる楽の感情を抑えきれずに、私の頬は薄く緩んで笑みの形を作った。










来週のデートで何を着ればいいのか決めてもらおうとしたらいつの間にか以下略









 日曜、僕は来ヶ谷さんに呼ばれて、女子寮旧館の玄関前で待ち合わせをしていた。
 ちょこちょこと出入りする寮の女生徒達は、時々携帯の時計を気にしながら立ち尽くす僕にちらっと視線を向けるけど、 誰一人として不審がることなく通り過ぎていく。正直、それでいいのかなあ、と思わなくもない。

 ……でも、頻繁に僕がこうしてるのは周知の事実だろうし、何を今更って感じだよね。

 僕の部屋は真人がいるのもあって来ヶ谷さんの部屋に行く(あるいは連れてかれる)ことが多く、 女子寮に足を踏み入れても追い払われないとはいえ自分から中に入るのはさすがに抵抗があるので、 迎えに来てもらうまではここでぼんやりしてるしかなかったりする。
 一応、男子禁制だし。ある意味僕は男として見られてないってことで、ちょっと悲しくもあるけど。
 そのおかげでこういう付き合い方ができるんだから、うん、喜ばしいことなのかもしれない。少しくらいは。

「……そういえば来ヶ谷さん、何だかいつもと違ってたなぁ」

 電話で誘いを受けたのが昨日の夜。
『明日の昼過ぎ……そうだな、二時頃に旧館の玄関前まで来てくれ』と言った来ヶ谷さんの声は、 ほとんど普段と変わらないトーンだったと思う。けど、僕はその裏に含みのようなものを感じた。
 錯覚ならいいけれど、気にならないと言ったら嘘になる。害にならないことだとはわかってても。

「少年、悩み事か? よければ相談に乗るが」
「あ、来ヶ谷さん。相変わらず五分前だね」
「理樹君こそ、必ず私より早く着いているだろう。そんな私に会いたかったのか?」
「それは勿論だよ」
「……即答だな。常々思うんだが、キミは付き合い始めてから少し性格が変わったんじゃないか」
「え、別にそんなことないと思うけど……」
「まあいい。行こうか、理樹君」

 僕の曖昧な反論を追求せず、来ヶ谷さんは先を歩く。
 後ろ姿を見ていると、まず視界に入るのは左右に小さく揺れる黒い髪。陽の光を浴びると艶やかに輝いて僕の目を奪う。
 背筋をぴんと伸ばした自然な歩き方は、特別なことなんて何一つしてないはずなのに、すごく凛としている。
 隣に並ぼうかとも思ったけど、もう少しその背中を眺めていたくて僕は来ヶ谷さんを追うように女子寮の玄関を通過した。
 靴を脱ぎ手に持って(念のため玄関には置いていかない)廊下を進めば、来ヶ谷さんの部屋はすぐだ。
 半開きの扉の向こうにすっと身を滑らせた来ヶ谷さんに続き、僕もお邪魔します、と呟いて入る。
 そしていつも通りベランダの方に靴を置こうとすると、部屋の奥、入口側から見て左隅にふと目が行った。
 本がいっぱい乗せられた机と本棚が動かされていて、それでできた隙間に、なんて言えばいいんだろう……試着室?
 カーテンらしき布で、人一人分が入る仕切りが作られていた。いつの間にこんなものが……。

「あの……来ヶ谷さん。あれって」
「簡易試着室だが」
「いや、だからどうしてそんなのが来ヶ谷さんの部屋にあるのさ」
「私が着替えるからに決まってるだろう」
「ここ個室でしょ? 誰かに見られるわけでもないし、それに女の子同士なら気にならないんじゃないの?」
「理樹君、その考えは些か短絡的に過ぎるぞ。女性の中にも着替えを見られることを嫌う者はいる」
「少なくとも来ヶ谷さんはそうじゃないと思うけど……」
「むしろ私は恥ずかしがる女の子を着替えさせてあげたい」
「真顔で駄目なこと言わないでよ……」

 のらりくらりと躱す来ヶ谷さん。僕を椅子に座らせ、ちょっと待っていてくれ、と部屋を出ていったかと思うと、 三分もしないうちに戻ってきた。……大量の服を抱えて。
 皺にならないよう丁寧に、一枚一枚を一緒に持ってきたハンガーに掛けていく。
 さらにタンスからもいくつかを取り出し、それは畳んだ形のままベッドに並べた。

「………………」
「さて、理樹君。これから何をしようとしているか、わかったら答えてみてくれ。見事正解したらご褒美をあげよう」
「さっぱりわからないんだけど……。ちなみに、ご褒美って何?」
「もれなく私の下着を一セットプレゼントだ」
「絶対要らないからね」
「む、そうか。そろそろ私のことをおかずにし始めているんじゃないかと思っていたのだが、予想は外れだったか」
「ぶっ! く、来ヶ谷さんっ!?」
「何、欲しい時はいつでも差し上げよう。真人少年に勘付かれないよう、存分に使うといい」
「使わないよっ!」
「それで、答えはわかったのか?」
「えっと……うーん、着替えるんだよね。ここで。来ヶ谷さんが」
「うむ。まあ、これらをキミに着せるのもいいのだが、それはまた次の機会にしよう」

 僕は来ヶ谷さんが用意した服を見る。
 ……何としても次が来ないようにしよう。

「要するに、だ。今度のデートで着ていくものを、理樹君に選んでもらおうと思ってな」
「え? 僕に?」
「やはり理樹君としては、私に好みの服を着ていってほしいものだろう?」
「いや、その……うん、そりゃあ来ヶ谷さんにぴったりの服だったら嬉しいよ」
「なら決まりだな。これから私が一着ずつ見せていくから、キミは自分の感性に従って判断してくれればいい」
「わかった。正直に言えばいいんだよね」
「何もファッションセンスを問おうとしているわけではないからな。単純に理樹君の好みで見てくれ」

 そう言うと、来ヶ谷さんはベッドの上に置かれたものを無造作に取り、部屋の隅に行く。
 小さなスペースに入り、しゃっ、と音を立てて仕切りの布を広げ、それに遮られた来ヶ谷さんの姿がこっちからは見えなくなる。 どうやら試着室という例えもあながち間違いじゃなかったらしい。
 そっちの方からごそごそと狭い空間で身動きする音が耳に入り、ふと気付いてしまった。
 来ヶ谷さん、僕がいるのにこの部屋で着替える気だ……!

「ちょ、ちょっと待ってよ来ヶ谷さんっ」
「む、何かね理樹君。今ちょうど制服のスカートを落としたところなのだが」
「そんな具体的なこと言わなくても……ってそうじゃなくて、僕いない方がいいでしょ!? 着替え終わるまで出るから!」
「却下する」
「どうしてっ!?」
「ええいうるさい。男なら黙ってこの状況を受け入れろ。役得だろう」
「役得とかいらないから!」
「しつこいぞ。逃げたら殺す。声を上げても殺す。助けを呼んでも殺す。……まあ後ろふたつは冗談だが」
「逃げたら殺すのは冗談じゃないんだ……」
「諦めて待っているといい。おねーさんの生着替えで息をハァハァ荒くしながらエロい妄想に耽っても全然問題ないぞ」
「問題しかないよっ!」
「脱ぎ立てが欲しければ言ってくれ」

 ああもう……。
 こういう時の来ヶ谷さんにはどんなに逆らっても駄目なので、仕方なく着替えが終わるまで待つことにする。
 しゅる、しゅるり――と妙にはっきり聞こえてくる衣擦れの音。他に動くものもない静かな部屋だと余計それが強調されるようで、 背徳感と気恥ずかしさに僕の視線はあてどなく彷徨う。
 来ヶ谷さんの部屋は、本当に素気ない。勉強机に本棚、ベッドとタンス、壁には制服を立て掛けるハンガー。置いてある家具はそのくらいだ。 至るところに積まれた本はジャンルがバラバラで、中にはいったいどんな内容なのか想像もつかないタイトルのものもある。 ちょっと読んでみたい気もするけど、僕の頭で理解できるかどうかは怪しいと思う。
 ぐるりと狭い空間を一巡すると、意識はまた簡易試着室の方へと向いてしまう。よく見れば仕切りのカーテンは少しだけ地面から浮いていて、 角度の問題でベッドに座ってるこっちの視界には入らないけど、たぶん床に頬を付けるようにしてみれば来ヶ谷さんの足先が映るんじゃないだろうか。

(……って、何考えてるんだ僕は)

 微妙な隙間の存在に、妙などきどきを覚える。ぱさり、と確かな質量を持った何かが落ちる音で、否応なく跳ね上がる心臓。 すぐそばで来ヶ谷さんが着替えてる、ということを思い知らされる。
 さっきスカートを脱いだって言ってたから、次は上着か……いやいや、想像しちゃ駄目だ。
 頬の熱を振り払うように首を振り、

「青少年としては至極真っ当な妄想に浸っているところすまないが」
「うわあっ!?」
「着替え終わったぞ」

 にやりと浮かべられた笑みに『してやった』色を感じ取り、僕は恥ずかしさのあまり目を逸らす。
 それが来ヶ谷さんのお茶目だとはわかっているけど、心の中を覗かれたようで顔が見られなかった。
 小さく深呼吸。落ち着いて、ようやく頭を上げる。

「まあ、まずは無難に、だ」

 そう言ってくるりと軽快にターンする来ヶ谷さんの服は、前にも目にしたことがあるものだった。
 白いブラウスに格子柄のスカート。制服のデザインに近いけれど、もう少しラフな感じだ。
 飾り気のないそのシンプルさは確かに無難と言えば無難で、誰が着ても似合いそうではある。
 一度この格好をした来ヶ谷さんとデートに出かけた時は、特に意識しなかったけど……うん、やっぱり似合ってる。
 僕の表情に満足したのか、感想を聞かないまま来ヶ谷さんは次の着替えを手に取った。

「では次に行こうか。きっと理樹君も驚いてくれるだろう」
「いや、それはちょっと目的と違うんじゃ……」

 簡易試着室に入り、再び仕切りを閉めて物音を響かせ始める来ヶ谷さん。
 ……そういえば今気付いたけど、わざわざあんなもの作らなくても、お風呂場の脱衣所で着替えればよかったんじゃないだろうか。 そっちならちゃんと戸も付いてるし、音だってここまで聞こえては来なかったはずだ。たぶん。

(でもなあ……。何か来ヶ谷さん、わざとやってるみたいだし)

 嫌じゃない。ただ、すごくいけないことをしてるようで落ち着かないというか。
 男子である僕が女子寮に堂々と入ってる時点で充分『いけないこと』だっていう自覚はあるんだけどさ……。
 そんな感じでうんうん悩んでいると、いつの間にか着替えていた来ヶ谷さんが出てきていた。

「……ってあれ、来ヶ谷さん、その服」
「うむ。さすがにすぐわかったようだな」

 今度は随分とボーイッシュだった。薄い赤とワインレッドのボーダーが目立つ長袖の上には、首に掛けて着けるタイプの白い。 下は鈍い青色のジーンズ。脛の辺りで荒く切られたようになっている。
 僕の記憶がおかしくなければ、それは鈴の私服と全く同じものだ。

「折角なので皆から一着ずつ借りてきた」
「何というか、よく貸してくれたね……」
「サイズの問題で能美女史のは泣く泣く断念したがな。ああ、合法的にクドリャフカ君の染み付いた匂いを 堪能できるまたとないチャンスだったのだが、惜しいことをしたと今でも思っている」
「そんなこと考えてたの!?」
「冗談だ」
「ごめん、僕にはとてもその言葉が信じられないよ……」
「正直過ぎるのも時には欠点と為り得るぞ。キミの無遠慮なひとことで、私はいたく傷ついた。 ということで、少年には後ほど五分間ハグの刑だ」
「ええっ!? ちょっと、理不尽だよ! っていうかそれ全然罰になってない!」
「もっと辛い方がいいのか? 理樹君にそういった性癖があったとは、知らなかったな……」
「どうしてそうなるのさ!?」
「冗談だ」

 来ヶ谷さんの冗談は、時々すごく疲れる……。
 重い溜め息を吐いた僕に、来ヶ谷さんはうむ、と頷き、

「しかし、やはり鈴君のサイズでも厳しいな」
「体格が全然違うからね。来ヶ谷さんの方が頭ひとつ分くらい大きいでしょ」
「おっぱいも大きいぞ」
「それは言わなくていいよ……」

 でも、どうしたって胸の辺りに目が行ってしまう。
 服の下から突き上げるようにしている膨らみのせいで、本来腰まで届くはずの服がかなり上がっていた。
 隠すものがないため、おへそと白く滑らかな肌が見える。

「理樹君、今お腹に触ってみたいと思っているだろう」
「い、いや、思ってないよ」
「はっはっは」

 ああ、見透かされてる……。

「さて、あまり動いて破れてしまわないうちに着替えてこよう」
「まだ続けるんだ……」
「当然だ。ここで止めてしまえば、わざわざ借りてきた意味がなくなる」
「何か色々と目的がすり替わってる気がするんだけど」
「心配しなくとも、本来の目的は忘れていない。キミはどれを次のデートで着てほしいか、最後に言ってくれればいい」
「……ちなみにあとどれくらいあるの?」

 僕のその問いには答えず、来ヶ谷さんの背中はカーテンの向こうに消える。
 さっきより絹擦れの音が気にならなくなったことに安心しながらも、次は何をするつもりなんだろう、 という新たな不安の種が芽生えてしまったからか結局落ち着かないのに変わりはなかった。










 理樹君の反応は、正直私の思惑を越えた良いものだった。
 中性的な鈴君の次は西園女史。腕先と襟に意匠をあしらった長袖の、スカート丈が膝まである白ワンピースに、 若干袖が短く襟のない黒のブラウスを重ね、アクセントに白いネクタイを着けた服装だ。 普段私が好むものとは全く別の方向性だが、どうやら悪くはないらしく「何かそうしてるとどこかのお嬢様みたい」という返答が得られたので、 私は満足して四着目を手に取った。

 今度は葉留佳君。赤を基調とした、些かパンクな印象を与えるノースリーブの上と、ベルトで押さえたマイクロミニのタイトスカート。 他の服と比べて格段に露出度が高く、トップスは身体のラインがはっきりと浮き出ることもあり、理樹君は見事に赤面してくれた。
 しかしこうしてみるとよくわかるが、意外に葉留佳君の胸も大きいな。 お風呂で何度か見たことはあるものの、残念ながらその時は直接触るところまでいかなかった。 よし、近いうちにさり気なく揉んでおこうと心に決め、次、なのだが……。

「……小毬君は、これを私服にしているのか」

 今日十分で作成した簡易試着室の中で広げたのは、何というか……そう、女の子らしい、としか形容できない衣服。
 あらゆる箇所に織り込まれたフリルは、確かに絵本の登場人物として出てきてもおかしくない小毬君には似合うだろうが、 そういった雰囲気と縁遠い私にぴったりだとは到底思えなかった。改めて見ても、やはり厳しいものは厳しい。

「………………」

 とりあえず美魚君の服を脱ぎ、備え付けた鏡の前で自分の身体に合わせてみる。
 首から上だけを挿げ替えたようなアンバランスさに、私は苦笑するしかなかった。
 が、ここで着ないわけにもいかない。それでは快く貸してくれた小毬君に申し訳ないし、少し――この服を着た私に 理樹君がどんなことを言うのか、興味がある。
 躊躇いは一瞬、なるべく鏡から目を背け、細い袖に腕を通していく。
 布が肌を擦る音。わざとそれが聞こえる場所で着替えるようにしたのも理樹君を恥ずかしがらせるためだが、 うむ、我ながらエロい。もし小毬君やクドリャフカ君がこうして目の前で今の私と同じことをしていたら、迷わず襲うと断言できる。

「む……こう、か?」

 少し戸惑いながらも、無事着衣が終わった。
 鏡に映る私の姿はまるで別人だ。サイズの問題でところどころきつく感じるが、それはさしたる問題ではない。
 何とも言えない気分で一度ターンをし、着方に間違いがないことを確認して、仕切りを開けた。
 一歩でベッドに座りぼんやりと待つ理樹君が視界に入る。
 物音と気配でこちらに気付き、僅かに俯いていた頭が上がった。どこか幼げなふたつの瞳が私に向く。
 そして理樹君は、驚いた表情を浮かべ、こう言ったのだ。










「うわぁ……」

 葉留佳さんの私服を脱いで出てきた来ヶ谷さんは、メルヘンチックな可愛らしい服を着ていた。
 二の腕と胸元に黒いリボンがあしらわれ、色々なところにフリルの装飾が散らされている。 ふんわり膨らんだスカートはもっとすごくて、何となく着飾られたフランス人形とかを思い出した。
 両手を前に置く淑やかな仕草は、普段来ヶ谷さんがしないようなもので、別の誰かを見ているみたいだ。
 僕の視線を受け、来ヶ谷さんは珍しく自信なさげに縮こまる。微かに頬を赤くして、

「……ど、どうだろうか」
「う、うん……意外、って言ったら変だけど、似合ってる」
「そうか……似合っているのか」

 贔屓目なのかもしれない。長くて艶やかな黒髪を持つ来ヶ谷さんは、どちらかと言えば日本人形風だと思う。
 でも、僕は今の来ヶ谷さんを可愛いと感じる。服装だけじゃなくて、恥ずかしがる様子も何もかも。

「来ヶ谷さん、可愛いよ」
「なっ……!」

 僕のひとことに来ヶ谷さんは反論しようと口を開きかけたけど、上手い言葉が見つからなかったのか、 顔を真っ赤にして振り返り、無言のまま簡易試着室に戻っていった。
 そんなところも可愛いと考えてしまう辺り、僕は相当来ヶ谷さんに参ってるみたいだった。

「そういえば、今のはやっぱり誰かの私服なのかな」
「小毬君のだ」
「……なるほど」

 さっきの服を着た小毬さんの姿を想像して、僕は頷いた。
 ちょっとしたお出かけに使うには気合が入り過ぎてるとも思うけど、ふわふわした雰囲気の小毬さんにはぴったりだ。
 こう、お菓子の国のお姫様というか、御伽噺のヒロインっぽくて。

 その後も来ヶ谷さんは色々な服を披露してくれた。
 よく街中で見かけるようなものから、いったいどこで調達してきたのかわからないものまで、 だんだん本来の趣旨を忘れてファッションショーめいてきた一連の繰り返しも、 二十着を越えたところでストックが切れたらしく打ち止め。
 制服に着替え直した来ヶ谷さんが簡易試着室から現れた時、正直少し残念な気持ちもあった。
 何だかんだで、色々な恰好をした来ヶ谷さんを見ているのは楽しかったから。

「では理樹君、先ほどまでの中から、次のデートで着てほしい物をひとつ選んでくれ……と言いたいところだが」
「え? まだ何かあるの?」
「まずは五分間ハグの刑の執行だ」
「え、あ、ちょっと待って、むぐっ!?」

 唐突な宣言と共に、僕が心の準備をする間もなく、隣に座った来ヶ谷さんの胸に引き寄せられた。
 抱きしめられるというより、胸の谷間に埋められる体勢。両側から頬を圧迫する柔らかな感触と仄かな来ヶ谷さんの匂いに、 息苦しさも忘れて僕の頭はくらくらしてくる。これじゃ罰になってない、と突っ込むのも無粋な気がして、 僕はきっちり五分間、来ヶ谷さんが手を離すまで抵抗はしなかった。

「うむ、偉いぞ理樹君。もし暴れていたら、さらに重い刑を科すところだった」
「……一応訊いておくけど、どんな?」
「私がさっき着た服の中からキミが一番女の子らしいと思うのを身に着けて女子寮練り歩きの刑だ」

 暴れなくて本当によかった……。
 胸を撫で下ろす僕に、来ヶ谷さんは満足そうな表情で微笑み、さて、と前置き。

「もうひとつ、頼みたいことがある」
「………………」
「そんな警戒しなくてもいいだろう。何、簡単なことだよ。理樹君の好みの下着を教えてほしい」
「………………へ?」

 あれ、僕、耳がおかしくなった?

「聞こえなかったのか? ならもう一度言おう。理樹君の好みの下着を教えてほしい」
「……えっと、それ、どういうこと?」
「言葉通りの意味だが。キミにだってこだわりのひとつやふたつあるだろう。デートの日にはこんな勝負下着を穿いてこねえかなウエヘヘ、 とか妄想したのも一度や二度ではないはずだ」
「そんな風にはしないよっ!」
「ほう。そんな風には、ということは、違う形でなら考えたことがあるということだな」
「え? あっ、いや、そのっ」
「純情ぶってもやはり理樹君は男の子か」

 つい言い淀んでしまい、ここぞとばかりに目を光らせた来ヶ谷さんがじわじわと追い詰めてくる。
 返す言葉を失い、僕は恥ずかしさのあまり来ヶ谷さんの顔が見られなくなって俯いた。

「はっはっは、恥じることはないぞ少年。健全な男子なら誰もが持つ正常な欲求だよ、それは」
「うう……」
「ということで次は下着選びをしよう。理樹君としても合法的に私の下着を手に取れるいいチャンスだぞ」
「全然合法的じゃないしチャンスだとも思えないよ……」
「そうか? 私なら確実に乗るぞ。これで例えばクドリャフカ君達の下着に触れられるとしたら、まず迷わない」
「そこは迷おうよ……」
「で、どうする? 拒否権はないが」

 ――まあ、結局、僕には頷く選択肢しかないわけで。










 渋々ながら、といった、しかし決して心から嫌がってはいない表情の理樹君を前に、私は弾む心を抑えられなかった。
 女性として下着を見せるのが全く恥ずかしくないのかと言えばそうではないのだが(もし少しも羞恥心がないのなら痴女の類だろう)、 これはもっとさっきのような理樹君の反応が見たいという気持ちが勝っているだけの話だ。
 こう言うと理樹君は落ち込むだろうが、恥ずかしそうにする顔は実に可愛らしかった。
 そう、本来私と理樹君の立ち位置は今のようなものだったはずだ。やはりからかわれるよりもからかう方が楽しい。
 気分を良くしながら、私はタンスから下着を引っ張り出していく。
 時折後ろを振り向くと、ベッドに腰を下ろしたままの理樹君は必死にこちらから身体を逸らしていた。

「……理樹君は可愛いなぁ」

 呟き、十着近いブラジャーをどさりとベッドの端に置く。
 今度はショーツ。きっちり畳まれたそれらを束にし、ブラジャーの隣に。
 いくつかある同じものは除外。残念ながらあまり派手なデザインのはないが、青少年にはこの程度でも充分刺激になるだろう。 均等に見渡せるよう並べ、私は理樹君に声を掛けた。
 最後の抵抗というように顔を背けているのは、頑張っていると評すべきか、それとも無駄な足掻きと断ずるべきか。

「さあ、どれが好みか、正直に言ってみるといい。おねーさんは理樹君がどんな性癖でも受け入れるぞ」
「……本当に、選ばなきゃいけないの?」
「うむ。羞恥心を押し殺しつつ、か細い声で『……これ』と指差すキミを見たい」
「すっごい具体的だね……」
「私としては、そうだな……これとか、この辺りはキミが好きそうだと思うのだが」

 一枚のショーツを手に取り、両端を持って横に広げる。

「……ショーツよりぱんつと言った方がエロくないか?」
「いや、いきなり訳がわからないんだけど……って、く、来ヶ谷さん、それっ」
「ん、どうした? このぱんつに何かおかしなところでもあるか?」

 私が掲げたのはサイドを紐で留めるタイプのもの、いわゆる紐パンだ。
 紐を解けば落ちるという点でアダルティな印象を与える下着であり、一度小毬君辺りに穿かせてみたいと常々思っている。 何と言っても脱がせやすいしな。可愛らしい小毬君に大人の色気をプラス……素晴らしい。

「フフフ……もしや理樹君、私が穿いているところを想像したな」
「してないよっ! してないからね!?」
「そこまで力強く否定することもないだろう。しかしそうか、理樹君は紐パンが好きか」
「……っ!」
「よし、エロエロなキミの要望に応えて、次回のデートで穿くパンツはこれにするとしよう」
「あうう……」

 ついに手のひらで顔を覆った理樹君の肩を、私は笑いながら叩く。
 そうしてとりあえず紐パンを横に置き、

「……こうして見ると、まるで少年が私の服や下着を物色しているようだな」

 ベッドの中間地点に腰掛ける理樹君。そこからタンス側には下着がずらりと並べられ、扉側には畳んだ着替えが適当に重ねてある。 特にパンツは私がさっきあれやこれやと手に取った結果、状況を知らない人間の目には荒らされた風に映るだろう。
 女子寮に侵入して下着を漁る男子生徒。色々な意味で言い訳が効かない光景だ。
 私は机の引き出しからデジカメを取り出し、おもむろにシャッターを切る。

「不穏な台詞言ったそばから何してるのさっ!?」
「見ての通り、現場を押さえているのだが」
「絶対そのデータ残さないでよね!? お願いだから消してっ!」
「はっはっは、では引き続き下着選びに行こうか」
「ちゃんと答えてよぉぉぉぉーっ!」

 ああ……これだから理樹君をからかうのは止められない。










 段々拷問めいてきた現状に逃げ出したくなるけれど、来ヶ谷さんは許してくれない。
 服、ショーツに続いて、何をどう間違ったのか、僕はブラジャーを選ばされていた。
 様々な色やデザインのものをひとつひとつ見せられ、否応なく僕の頬は赤くなる。
 いけないと思いながらも、無意識のうちに来ヶ谷さんの胸に視線を向けてしまってる自分に気付き、余計恥ずかしくなった。 何というか……ランジェリーショップに足を踏み入れたら、今の僕みたいな気分になるんじゃないだろうか。
 そんなこっちの葛藤を知ってか知らずか(たぶんわかってる)、来ヶ谷さんはにやにやと笑みを浮かべてさらに見せつけてくる。 当然まともに選べるはずもなく、ひたすら僕は俯いて生返事をするだけだった。

「……理樹君。理樹君?」
「え、あ、ごめん。何?」
「ふむ。どうやら少し調子に乗り過ぎてしまったようだな。顔が茹でダコのように真っ赤だぞ」
「だって、普通こんな状況で恥ずかしくないわけないよ……。来ヶ谷さんは平気なの?」
「全く恥ずかしくない、とは言えないが……まあ、一般基準と比べれば、私が感じる羞恥心は微々たるものなのだろう。 そもそも、キミのその反応を見るためにやっていることだしな。優先順位の違いという奴だよ」
「やっぱりそうだったんだ……」

 意味もなく下着を選ばせるはずないもんね……。
 相変わらずな来ヶ谷さんの行動理念に、僕は重い溜め息を吐いた。
 羞恥の熱でくらくらした頭のまま、部屋の中を見回す。散乱した服や下着がベッドの上を埋め尽くしていて、 片付けるのが大変そうだな、なんてことしか考えられなかった辺り、自分は相当参ってるのかもしれなかった。

「今の理樹君にブラジャーまで選ばせるのは酷か。あのパンツに合った色とデザインでセレクトするなら、この辺りが妥当と言ったところだな。 うむ、これで当日着けていく下着が決まった。安心するといい」

 だから、唐突に僕の口をついてこんな言葉が出てきたのは。
 きっと恥ずかしさのあまり、ちょっとおかしくなってたからだと思う。

「ねえ、来ヶ谷さん。……僕、来ヶ谷さんが下着を着けた姿、見てみたい」
「……それは、私が今ここで着替えるということか?」
「うん」
「率直に言おう。頭は大丈夫か?」
「まだ少しくらくらしてるけど大丈夫。それより来ヶ谷さん……駄目かな」
「いや、待て。理樹君、キミは今かなりおかしいぞ。馬鹿コンビと馬鹿でタイマン張れるくらいおかしい」
「……だめ、かな。ゆいこさん」
「う……っ」

 名前を呼ぶと、途端に来ヶ谷さんの顔も赤く染まる。
 自分がおかしくなってる自覚は一応あったけど、でも、するすると唇からこぼれる言葉は止まらない。
 上目遣いに見つめてしばらく、先に折れたのは来ヶ谷さんの方だった。
 僕の視線から逃げるように顔を背け、とてもか細い声で「……わかった」と呟いて、小さく頷き。
 立ち上がって、妙な空気のまま、横に置いた下着を鷲掴みにして試着室に入っていく。

「うわぁ……僕、なんてこと言ったんだろ……」

 我に返って考えてみると、断罪されても仕方ないようなトンデモ発言だった気が。
 でも、さすがに断ってもよさそうなのに、来ヶ谷さん、頷いたんだよね……。
 そりゃあ僕もちょっとあざといというか、断りにくい頼み方をしたとは思うけど。
 これは、色々な意味で、大丈夫かな……。一応僕も男だし、理性とかが。
 再び意識し始めた所為か、さらにはっきりと聞こえてくる絹擦れの音に、僕は不安と―― 小さな期待の気持ちを抱かずにはいられなかった。










 ……どうしてこんな展開になったのだろうか。
 理樹君が突然妙なことを言い出して、想像だにしなかった発言に即答で断るタイミングを逃し、 何とか説得しようとしたところでアレだ。上目遣いで瞳を潤ませて、紅潮した頬で顔は目の前、 泣きそうですらある声であんな風に頼まれて無理だと言うには、理樹君はちょっと可愛らし過ぎた。
 当人からすれば一種無意識無自覚な、計算高さなど微塵もない天然の行動だとは思うのだが、天然故に御し難い。
 そしてそれこそが、理樹君の一番恐ろしいところなのだ。
 手玉に取っているつもりが、いつの間にかいいように振り回されてしまう。

「本当に……ここで嫌がればいいものの」

 嫌ではない、と感じる自分の心が不思議だった。
 己の感情の機微を理解できない私は、絶対的な経験の少なさから、自分の気持ちがどういったものであるかを説明できないことが多い。 だが、理樹君と一緒にいて、色々な『初めて』を知った今、私は抽象的で曖昧な概念を、ひとつの単語で表せる。

「これが、恋……か」

 好きであるということ。好きでいられるということ。
 その人のために、どうしようもなく何かをしてあげたい心。
 その人を想って、どうしようもない愛しさを感じる、心。
 まあ、そんな気持ちを知った結果がこの現状だというのなら、あまりの馬鹿馬鹿しさに苦笑を禁じ得ないのだが。
 羞恥に勝る仄かな幸福感が、今の私を突き動かしているものならば、悪くはないだろう。

 ブラのホックを後ろ手で留め、パンツの紐を解けないよう念入りに結んでおく。
 脱ぎ捨てた服と下着は丁寧に畳んで端に。立ち上がれば視界に鏡が入り、見事な下着姿の自分が映った。
 ……露出度は水着と大差ないはずなんだが、何故比べ物にならないほど恥ずかしいのか。 真面目に考察すればそれなりに納得の行く結果も得られそうではあるが、とりあえず今はどうでもいい。
 このままで出ていくか一瞬迷い、スカートは着けていくことにする。
 薄布を一枚纏っただけでも恥ずかしさは半減してくれるのだから、我ながら面白いものだと思った。
 慌ただしい心臓の鼓動を静めるため、深呼吸。多少落ち着きを取り戻し、覚悟を決めて、出る。

 理樹君の視線が私に向いたのは、すぐわかった。
 足下から徐々に上へ移動し、胸の辺りで固定される。……やはり理樹君も男の子だな、と少し余裕ができた。

「キミの望み通り着替えてきたぞ」
「………………」
「……せめて何かひとこと言うことがあるんじゃないか?」
「あ……ごめん。その、来ヶ谷さんに……見惚れてて」
「なっ……! そ、そうか……」
「う、うん」
「それで、どうする? ……いや、理樹君はどうしたい?」

 間近でじろじろと見るのには抵抗があるのか、俯きがちにこちらを見上げる理樹君に訊ねる。
 私の姿を確認した時、ほんの僅かではあるがその手がぴくりと動いていた。
 何かに触れようとしたかのように。
 だから私は、理樹君の右手をそっと取る。

「ほら、言ってみるといい。今なら少しくらい大胆なお願いも許そう」
「……さ」
「さ?」
「触っても……いい、かな」
「どこをだ? ちゃんと場所も言わないとわからないぞ」
「む、胸を……」
「もっと適切な言葉があるだろう」
「うう……言わなきゃいけないの……?」
「本当に触りたいのならな」
「お……おっぱい、を……」
「うん。合格だ」

 最後の方は消え入りそうな声だったが、しっかり言えたご褒美に、手を導いてやる。
 胸に触れた手指は温かく、一瞬背筋をぞくりとした感覚が昇った。
 理樹君はしばらく硬直していたが、恐る恐る伸ばした手を動かし始めた。
 肌を撫でるように滑る。ブラジャーの薄い生地越しに伝わる熱と力。くすぐったさに声が漏れる。

「んっ……」
「ご、ごめん、大丈夫?」
「いや、平気だよ。少しくすぐったかっただけだ」

 私の反応に安心し、手指の動きにも遠慮がなくなる。
 覆うように手のひらを広げ、緩やかに力を加えて揉んできた。視界の下で、理樹君の指が肌の中に沈んでいく。
 今度はくすぐったさではなく、形容し難い震えと先ほどよりも強い電撃めいた感覚。触れられた箇所が、痺れる。

「ん、ふっ……理樹君、手付きが……はっ、いやらしいな……っ」
「そんなつもりはないんだけど……でも、来ヶ谷さんの胸、すごく柔らかい」
「そういえば、直接触らせたのは、初めてだったか」
「うん。頭の上に乗せられたり顔を埋めさせられたりしたことはあったけど」
「フフ……なら、今やってみようか。服の上から感じるよりいいかもしれないぞ」

 会話に気を取られ、揉む手が止まった瞬間を狙って私は理樹君の頭を抱き寄せた。
 遮るものがほとんどない胸に、挟み込むようにする。
「わぷっ」と声が上がり、掛かる息に思わず抱きしめる力を強くしてしまった。

「すまん理樹君、平気か?」
「………………」
「理樹君?」

 五秒後、くてっと弛緩したその反応で、私は慌てて手を離す。
 どうやら呼吸ができなかったらしく、しばし深呼吸を繰り返して一息。

「あはは……何だか決まらないね、僕」
「そうでもないさ。おっぱいに埋もれて窒息死しかけるのは名誉なことだぞ」
「色々な意味で情けない死に方だと思うな……」
「それで、後はどうする? 今なら大概の要求は飲んでみせるが」
「じゃあ、もうひとつ、いいかな。嫌ならいいんだけど」
「言ってみるといい」
「……そのスカートの下に穿いてるのって、さっきの……だよね」
「うむ。理樹君が選んだ紐パンだ。……もしかして、見せてほしいのか?」
「……うん。来ヶ谷さんが穿いてるところ、見てみたい」

 む……こうもストレートに言われると、逆に恥ずかしくなってくるものだな。
 しかし、あの理樹君がこんなことを口にするとは。

「一応訊いておくが、キミは今のがかなりの変態発言だということを理解しているか?」
「まあ、自分でもすごいこと言ってるのはわかってるけど……来ヶ谷さんだから言うんだよ」
「うっ」
「え、いきなり鼻押さえてどうしたの来ヶ谷さん!?」
「それはちょっと反則だろう……」
「僕、何かおかしなこと言ったかな……?」

 一時休憩。鼻に上ってきた血を抑えるのに二分ほどを要し、仕切り直し。
 この時点で妙な雰囲気は四散していたが、向かい合うと先ほどのことを思い出してまた何とも複雑な気持ちになった。 だいたいよく考えてみれば、私達は女子寮の一室でこんな危険な橋を渡っているのだ。 隣の住人は出かけたのを確認したとはいえ、いつ帰ってくるかまではわからない。 そう思うと、途端に心臓が跳ね上がった。
 もしかしたら、誰かに気付かれるかもしれない……そんな一種背徳的な状況に、思考が麻痺している。

「理樹君、どうしてほしい?」
「えっと……スカートを、めくって」
「……私が自分でか」
「うん。お願い」
「っ……こう、か?」

 言われるまま、スカートの前面をつまんで持ち上げた。
 遮断されていた外気が入り込み、本来隠されるべき場所が露わになる。
 極限の恥ずかしさで指が震え、スカートを落としそうになるが、耐える。
 理樹君の視線が今の私には見えないところに注がれているのを感じ、足にまで震えが伝播した。

「来ヶ谷さん、ふともももすごく柔らかそう……」
「キミには何度か、膝枕をしたこともあっただろう……っ」
「こっちも、触っていいかな」
「好きにするといい、ぁんっ!」

 胸に触れていた時は熱くすらあった理樹君の手が、今度は冷たさを以って腿を撫でさする。
 背筋を駆け巡る、快感にも似た感覚。膝が砕けそうになり、唇を強く噛み結んで堪えるも、崩れ落ちるのは時間の問題だった。

「理樹君の、手は……くっ、本当に、はっ、いやらしいぞ……」
「ゆいこさんの声も、何だかすごくいやらしいよ……」
「それはキミの所為だっ、んっ!」

 徐々に腿を上っていた手指が、パンツの紐辺りに触れた。
 そこは駄目だ、と言いかけるが、意思に反するかのように声は出ない。
 ただ、身体の僅かな震えが伝わったのか、理樹君はそれ以上のことをしなかった。
 ここで雰囲気に流されれば、おそらく私は拒めないだろうに――しかし、それでこそ理樹君なのかもしれないな。
 スカートの中から手が抜かれ、こちらは持ち上げていた前面を離し、互いに一息。

「感想は……聞くまでもないか」
「ごめん、やり過ぎたよね……。何か途中でブレーキが利かなくなってきて……」
「その気持ちはよくわかる。私もクドリャフカ君を抱きしめたりしていると段々ムラムラしてきてな、」
「いやもう言わなくていいから」
「そうか。……で、もういいのか?」
「あー、うん。これ以上続けたら、ちょっと危ない気がする」
「ほほう、危ないとは何がだ?」
「そ、そこで追及しないでよ……」

 まあ、勿論訊かずともわかるがな。

「はっはっは、では着替えるとしよう。理樹君はそこで待っていてくれ」
「わかったよ」
「……覗いても構わんよ?」
「覗かない!」

 試着室に意気揚々と戻り、思う。
 色々あったが――最後に主導権を取れたのだから、結果的には成功ということでいいだろう。
 理樹君の様々な反応を見られただけでも、事後処理の面倒さや羞恥心を忘れられるくらいの収穫にはなった。

「何だかんだで、楽しかったしな」

 こういう恋人同士のじゃれ合いも、悪くはない。










 明けて翌週、日曜。
 先週のどたばたも全部今日のデートのためにやったことで、そう考えれば何だかんだで微笑ましかった……とはさすがに思えないけど。 僕は校門横の壁に寄り掛かり、携帯をちらちらと眺めながら、来ヶ谷さんがやって来るのを待っていた。
 そしてやっぱり五分前。足音が聞こえ、振り返る。

「……あれ?」

 確かに今、誰かの気配を感じたんだけどなぁ……。
 首を傾げてふと壁の反対側を覗いてみると、そこには来ヶ谷さんの姿が。

「もう来ヶ谷さん、どうして隠れるのさ」
「いや、この服装はさすがに色々と厳しいぞ?」
「でも着てくれるって言ったのはそっちだよね?」
「む、そ、それはそうだが……」
「だいたいそんなこと言ったら小毬さんに失礼だよ」

 僕の視線から逃れるように縮こまる来ヶ谷さんを、下から眺めてみる。
 フリルいっぱいのスカートと、同じくフリルいっぱいの白い服。リボンで左右を結った髪。
 ……結局、僕が今日のデートに選んだのは、小毬さんに借りたものだった。
 一番来ヶ谷さんが着た中では意外だったし、だからこそ余計似合ってると思ったのかもしれない。
 実際、こうして現れた来ヶ谷さんには普段にない魅力があって、どきどきしてきた。

「理樹君、あまり見つめられると、その、恥ずかしいんだが」
「今日は一日その格好でいるんだよ? 今のうちに慣れておかなきゃ」
「くっ……! あの時調子に乗って選択を保留させるのではなかった……!」
「ほら、行こうっ」
「あ、こら理樹君っ、まだ歩き慣れてないんだ、引っ張るな……っ!」

 楽しい一日の始まり。
 僕らは二人で、晴れた空の下を行く。

 恥ずかしそうにしながらも小さく笑みを浮かべた来ヶ谷さんに、僕は精一杯、笑い返した。










  あとがき


 これは、来ヶ谷さんが理樹君を部屋に連れ込んで着替えるだけの話です。いや本当にそうなんだってば。
 とりあえずかなり狙い過ぎていて逆に酷くなってるんじゃないかと思いますが、まあ、うん。ごめんなさい。
 頑張るけど最終的にはてごm……じゃなくて、手玉に取られてしまう来ヶ谷さんが書きたかったんです。
 もうね、無敵なのに誘い受けってそれなんて好物。姉御可愛らし過ぎる。
 終始二人だけの世界が展開されてますが、経緯諸々に関してはツッコミ不可。考えたら負け。
 何か当初は20KBくらいで終わるとか言ってたのに気付けば30KB後半なのも考えたら負け。
 ちなみにスカートめくりのシチュは後から挿入したので違和感あるかもしれません。
 そしてコロコロ視点変わり過ぎててわかりにくかったらマジすみません。
 服に関しては超絶独自解釈。専門用語も合ってるかどうか怪しいところです。
 間違えまくってると思いますのでこれも先に謝っておこう……orz

 ではではどうでもいい一人語りはこのくらいにして。
 唯湖祭り、盛り上がるといいなぁ、と祈りつつ。

 ……一番悩んだのはタイトルでしたw