八日目
8日目〜或いは、終わりと始まりの物語〜
私は、生き残ってしまった。
怪しいと思われた人は処刑され、優秀だと思われた人は襲われ、そうして残った。
きっと、中途半端な存在なのかもしれない。
でも、私は【共有者】として、最後に村を導いていかなければならない。
選択を誤ってしまえば村は終わる、そんな責任を課せられた。とてもとても重い責任を。
でも、頑張らなければならないんだ。頑張る必要があるんだ。
よーし、はるちんMAXパワー!!
HAPPY ENDに向かって一直線!
狼どもに見せてやりますよ。はるちんの力を。
だから皆、お空で見ていてね。はるちんの頑張りを。
――私は、そう考えていたのだ。次の日の朝、あんなことになるまでは。
次の日の朝、みおちんが死んでいた。
きっと、優秀すぎて、邪魔者と思われたんだろう。
そして、残ったのは私と、姉御、そして沙耶ちん。
これまでの流れでどっちが偽物かを判断する要素は一つしかない。それはこれまでの会話とか、投票結果とか、そういったもの。
でも、私はあえて、それ以外のものを信じようと思っていた。
「ここに来て、どうして三枝さんが襲われていないのかしら。普通、明らかに村人だって人を残しておくわけなんかないのに」
「みおちんの推理力を恐れたんじゃナイデスカね? どちらにせよ、私が共有者だってことは鈴ちゃんが証明してくれているのですよ」
そう、共有者って役職はそれだけで絶対的な信頼力を持つ村人なのです。そんなのに騙される人なんているわけない!
「さあ姉御ォ。最後の一匹をやっつけちゃいましょう!」
だから私は、沙耶ちんを人狼だと考えた。
それに姉御とはこれまでの絆がある、それに姉御視点なら沙耶ちんしか怪しむ相手がいないはず!
もし、姉御が敵だったら負けですけど、そのときは仕方ない! 覚悟はしてきた!
「クドリャフカ君真だとすれば、葉留佳君を極刑にして村側の勝ちだな」
けれど、姉御はとんでもないことを言ってきた。
破綻したはずの占い師を、真だと考えてきた。
「ちょ、ちょーっと待ってくださいよ。昨日クド公は破綻したじゃないですか! な、何を言ってるんですか!」
みおちんが証明したはずなのに、まさか、姉御が人狼!?
「案外、能美さんが三枝さんは人狼だ、と言っていたのは正しいんじゃないか、という気もしてきたわ……」
「ま、待ってくださいよ! 共有者なんですよ!? 鈴ちゃんも証明してくれたんですよ!?」
片方は人狼だから仕方ないけどもう片方は村人でしょ!? なんで、なんで私を信じてくれないの!?
「というかあたし視点からすると来ヶ谷さんか三枝さんのどちらかが狼なのよ、それで、より怪しいと感じるのは、この状況で未だに生きている三枝さん」
「いやいやいや!? もう何言ってるのかわかんないよぉ……」
なんで、どういうことなの!?
何が起こっているの!?
狂人は死んでいるはずなのに、一人だけならわかるけど、なんで二人とも村人の味方をしていないの!!?
なんで? なんで! どうして!!
「クドリャフカ君真とすると、わからんのは鈴君の行動だったな……」
「だから鈴ちゃんと私は共有者で、鈴ちゃんの行動は正常ですよ!」
「だからその鈴ちゃんが狂人だったんでしょ?」
「昨日の話し合いは一体なんだったの! じゃあ!」
私の話を二人とも聞いてくれない! 共有者なのに、共有者なのに疑われている!
い、いや、どっちかはブラフをはっているんだきっと。ブラフをして、誰が怪しいかを判断しているんだ!
だからきっと投票のときには、ちゃんと正しいところに投票をしてくれているんだ!
もう、それにかけるしかなかった。
「とーにーかーく! 私はみんなを信じて怪しい方に投票シマスよ!」
でもどっちに投票する? どっちも正直怪しい。どっちも、人狼にみえてしまう。
じゃあ――私が信じたい方はどっちだ。そんなの、考えるまでもなかった。
私が信じたいのは姉御――だから、私は最初の予定どおり、沙耶ちんに投票することにした。
そして、その日の投票結果が出た。
8日目 投票結果。
朱鷺戸沙耶 1 票 投票先 → 三枝葉留佳
三枝葉留佳 2 票 投票先 → 朱鷺戸沙耶
来ヶ谷唯湖 0 票 投票先 → 三枝葉留佳
結果は私にとって非情なものだった。
会話の流れどおり、二人は私に投票していた。
「そん……な……」
声がでない。
私は信用されなかった。もっとも信用されるはずの職業で、信用されなかった。
もう、この村の運命は決まった。
この村は、破滅したのだ。
「……」
「……」
姉御も、沙耶ちんも何も言わない。私は、どっちが人狼だったのか、その真実すらわからず今から処刑されるのだ。
いや、知らなくて幸せなのかもしれない、村人なのに、簡単に人狼の言葉にのってしまったその人を許すことが出来ないだろうから。
――こうして、8日目の昼、村民協議の結果【三枝葉留佳】は処刑された――
「夜が、来たか」
来ヶ谷唯湖は外にいた。もう、この村には二人しかいない。
家など、無意味だ。それが彼女には分かっていたのだろう。
「こんな場所にいたのね」
そこに朱鷺戸沙耶がやってくる。
「滑稽ね、あたしが人狼だってこと気づかずに、仲が良かった相手を処刑するなんて」
沙耶の姿が人狼と呼べる姿へと変わっていく。元の風貌を多少残しているのは挑発なのか、それとも手向けなのか。
「いや……」
しかし、それを恐れず唯湖は言葉を発す。人狼すら、思いもよらなかった言葉を。
「気づいていたさ。そんなこと」
「えっ……」
「あの日、私にとって怪しいと呼べる相手はキミしかいなかった。そんなもの、考えればすぐに分かることだ」
「で、でも貴方は……」
「やれやれ、そんなこともわからないかね」
そのとき、沙耶は唯湖の顔を初めてマトモに見た。
泣いている、泣きながら笑っている、狂気とも呼べる顔を。
「私はね、理樹君が死んだときに初めて泣いたのだよ。ああ、これが人並みの感情かって。初めて人並みの感情というのに気付くことができたんだ。そこからはもう、一人死ぬたびに泣いたさ。誰にも気づかれないよう、泣いたさ。それは、ひどく心地よかった。ああ、私は人間なんだって、安心できたんだ」
それは、きっと、彼女にとってとても大事なことだったのだろう。
「それに、時風はこういっていた。これはゲームだと、勝たないと出られないと。それで私はピンときたさ。きっと、この村は繰り返すのだと。だから私はわざと負けることにした。もしかしたら立場は変わるのかもしれないが、また、この感情というものを知る喜びを感じることができるのだと。その、可能性にかけたんだ」
「貴方……狂ってるわ」
それは人狼すらも恐怖させる言葉。思わず、沙耶も言葉をぶつけてしまう。
「まあ、結果的にこの村は終わりだ。私の死により終わりを迎える。そして、きっと始まりなのだろう。私たちが勝つまで続く、な」
「……」
「さあ、襲うがいい。人狼よ、私を。この勝負は、私を生かしていた村人の負けであり、お前たちの勝ちだ」
「そう、ね。じゃあ、遠慮なく襲わせてもらうわ」
「さようなら、だ。次の私はマトモであることを祈るよ」
こうして、最後の一人を食い殺すと人狼達は次の獲物を求めて村を後にした・・・。
【人狼】の勝利です。
時風のあとがきという名の解説
杉並「……」
時風「……」
杉並「えっと、その、解説を」
時風「……まあ、負債というかなんというか、これまでの悪い部分が一気に凝縮した結果だったな。だが、やはり共有者が死ぬとは思わなかった」
杉並「でも、RP村ですし……ちゃんとまとめている方もいませんでしたから」
時風「確かにな。冷静に考えればわかることでも、村の雰囲気やRPに必死になって、当たり前が見えなくなることはよくある。そして、そういうことになった人を人狼ではこう呼ぶ。『リアル狂人』と」
杉並「リアル狂人への対策はなんでしょう」
時風「リアル狂人にならないよう、努力するしかないな。あとは冷静に、データを元に行動する。もし、一緒にやっている人の中にリアル狂人がいたら――」
杉並「いたら?」
時風「処刑するんだ。リアル狂人になってしまった村人は、村にとってある意味人狼よりも厄介だからな」
杉並「そ、それは……」
時風「人狼とはそういうゲームだ。だが、まあ、リアル狂人になってしまった人は試合終了後に詫びを入れたり、なりそうって理由で吊るのではなく、ちゃんとしたマトモな理由をつけて処刑したりしろよ。それは最低限のマナーだ。終わった後も、反省会はするにせよ、最後まで楽しく、和気あいあいとするべきだな」
杉並「ですね、ゲームである以上、参加者みんなが楽しめるものであるべきです」
時風「そういうことだ。さて、これで俺の解説も終わりだ。みんなが少しでも参考にしてくれたら、俺は嬉しい」
杉並「ありがとうございました。次は私も参加します! というか、参加してたんですけどね……」
時風「ま、まあ次はきっと、きっと登場するからな」
杉並「そうなるよう祈ってます。それでは、また」
時風「ああ、お疲れ様だ」
「やれやれ、こんな結果になるとはな」
時風瞬――いや、棗恭介はこの村を惨状を見てつぶやいた。
初日に死んでいった棗恭介はダミーである、ゲームマスターである彼にはその程度、造作も無いことであった。
「まさか、気づかれるとはな。そして、それを自分の欲望のために利用するとは……恐れいった」
そう、唯湖の言うとおりこの村は繰り返していた。
もちろん、勝利するまでである。
「前の村は理樹と鈴の逃亡で終わったりしたな。その前は、信じた相手が人狼だったという救いようのないオチだった」
もう、何度目だろうか。
いつになったら勝つのだろうか。
「おい、お前。見てたんだろう」
恭介は語りかける。向いている先に人はいない。見ているのは、どこか遙か遠く。
「お前が理樹なのか、鈴なのか、それとも他の誰なのかわからない。が、見てたのだろう。この村の悲劇を」
誰も答えない。だが、恭介は気づいている。
「救いたいと思うなら、お前が救えばいい。お前は知識を得た。悲劇に立ち向かう資格がある――まあ、悲劇を続ける可能性もあるがな」
恭介は言葉を続ける。
「そう、次はお前だ。お前に託してみよう。俺たちの――運命を。きっと、そのときがハッピーエンドを迎えるときだ」
そう言い切ると恭介は歩き出す。次第に、村が元通りに、いや、これまでのことがなかったことになっていく。
「さあ、お前は敵か、味方か。いや、こう言うべきかな――」
始まりへと戻る村を歩きながら、恭介は最後にもう一度、遙か遠くに向かってつぶやいた。
「――汝は、人狼なりや?」
―――――next Refrain――?