七日目
7日目〜或いは、とある村人の物語〜
後悔先に立たず、とはよく言ったものです。
真実に気付くまで私は友人を、そして、私の分身にまで手をかけてしまいました。
勿論、辛いものはあります。何度も胸を痛めました。
けれど、ようやく、私は真実を見つけました。恐らく、小毬さんは本物の霊能者だったのでしょう。
最後に見せた涙と、最後に私たちに伝えたメッセージが私に、いえ、私たちに確信させました。
明日はもう、あの人の言葉を誰も信じないでしょう。そして、私たちはあの人を吊ろうと思うでしょう。
何せ、今日村人が死んだとしても残り5人――直枝さんが頑張って作ってくださった『本来ならありえない明日』があるのですから。
朝、目覚めると鈴さんの遺体がありました。共有者だと言ったからでしょうか。鈴さん、貴方の分の無念も、私が背負います。だからゆっくり休んでください。
「さあ、残りはあと一匹なのです! がんばりましょー! 来ヶ谷さんは村人でした!」
朝一番に発言したのは能美さんでした。
しかし、能美さんはどうやら自分で、自分の正体をばらしてしまったようです。
そう、それは今、彼女にとって一番言ってはいけない台詞だったのですから。
「私的にクドリャフカ君は破綻しているんだが……」
破綻――つじつまが合わないこと。
来ヶ谷さんの仰るとおり、能美さんの結果と、現状がどうしても一致しないのです。
「それに、何故先ほど能美さんは襲われなかったのでしょうか」
そう、本物の占い師なら、狩人のいない今なら、占い師を狙うのが普通のはず。
それなのに、人狼は共有者を狙った。
「クド公が偽物、だからデスね。それを人狼は知っていると」
「そのとおりです、三枝さん」
そう、能美さんは来ヶ谷さんに対して人狼判定を出さないとおかしかったのです。
「三枝さんの共有は騙りだったのです。もう片方は狂人か何かの生き残りでしょう。つまりそういうことなのです」
「能美さんが言っているのは、棗さんが狂人で、三枝さんが狼のパターンでしょう? そんなに上手くいくとも思えないけれどね……」
なるほど、確かに一見、朱鷺戸さんのおっしゃってることは一理あるかもしれません。
でも、ないのです。
「鈴さんが狂人であるなら、宮沢さんや古式さんが役職持ちを騙った理由に説明がつきません」
そう、あまりに多すぎるのです。役職騙りが。
「古式さんは狐だったという結論が出たはずなのですよ」
「ええ、そうでしょうね。でも……」
貴方はこれに対して反論できないはずです。
「能美さんの結果を前日までの推理を元にすると、宮沢さんが狂人、古式さんが狐、そして神北さんが人狼となります。そして貴方は今、鈴さんを狂人、三枝さんを人狼としました。この時点で、誰の目に見ても明らかですよね」
「狂人が一人、多いわね……」
そう、冷静に考えれば到達できる結果なのです。
混乱していたら、もしかしたらそれを信じこんでしまったかもしれませんが。
「で、でも……」
「言い訳苦しいんだよオンドゥルウラアアアアアア!!!」
能美さんに対して三枝さんが怒りました。まあ、自分が人狼判定されて切れない方がおかしいともいえますが。
「ともかく、今日は能美さんを吊りましょう。例え狂人だとしても、明日は村人2人と人狼1匹の争いになるはずです。下手に残しておくよりはずっと良いかと」
そうしていくうちに日が暮れて夕方。
7日目 投票結果。
朱鷺戸沙耶 0 票 投票先 → 能美クドリャフカ
能美クドリャフカ 4 票 投票先 → 三枝葉留佳
三枝葉留佳 1 票 投票先 → 能美クドリャフカ
西園美魚 0 票 投票先 → 能美クドリャフカ
来ヶ谷唯湖 0 票 投票先 → 能美クドリャフカ
「残念なのです。もう少し、頑張りたかったのですが……」
能美さんが残念そうに、しかし、仕方ないといった表情で話します。
「それでは一足お先に天国で待っています。リキ、お空に登ったらホメテクダサイネ」
能美さん……残念ながら、お空では貴方を憎む人、恐れる人しかいないでしょう。
それを、自業自得というのです。どうか、正常に戻れることを祈ってます。
――こうして、7日目の昼、村民協議の結果【能美クドリャフカ】は処刑された――
そして夜が来ました。まだ、人狼はこの村の中にいるということ。
扉を叩く音。
どうやら、今日の犠牲者は私のようですね。でも、私を狙うということは共有者が残るということです。
最後の日に残ったのは、三枝葉留佳、来ヶ谷唯湖、朱鷺戸沙耶の三人ということですか。
どうか、私の願いが叶うなら――この、村に勝利をお願いします……。
――【西園美魚】は翌日、無残な姿で発見された――
あとがきという名の時風の解説
時風「ほとんど西園に言われているので解説ないな……」
杉並「ですね。でも、どうして能美さんはよりによって来ヶ谷さんに村人判定を出したのでしょう。人狼判定を出しても良さそうなのですが」
時風「確かに、それも良い選択だった。自分が狙われないってことは狂人の占い結果が、人狼に既に村人判定を出したとも考えられるからな。だが、このとき狂人には懸念事項があったんだ。来ヶ谷が人狼かもしれないという懸念がな。だから狂人はああいう手段に出たんだ」
杉並「なるほど、確かに来ヶ谷さんが人狼の可能性があるなら、自分が吊られたほうがいいという判断をしたと」
時風「これはどっちも正解だ。攻めるタイプなら前者、少しでも最悪を想定するなら後者。どっちを選んでも恨まれることはないだろう」
杉並「戦術によっても変わると。やはり人狼は面白いですね」
時風「ああ、さて、いよいよ次回は最終回だ。誰が人狼なのか、そして、結果はどうなるのか。是非、期待していくれ」
杉並「それでは、また」