六日目
6日目 〜或いは、とある狂人の物語〜
神様がささやいたのデス。
この村に初めて来た日の夜、私の耳元で誰かがそっとささやきました。
『今朝のあの男の話は嘘だ。本当は村人を皆殺しにすることで救われる。楽園へと、導かれる』
それを聞いた途端、追いつめられていた私の気持ちはスッと軽くなり、私の為すべきことがわかったのです。
人狼の味方をして、村人を皆殺しにすること。
そう、これは皆のため。皆のために私は人狼の味方をする。
でも、どうやって? 非力な私にできることって?
それもふと閃きました。そう、能力者を騙ること。きっと、神様が教えてくれたに違いありません。
私には神様がついている。神様に従って皆を殺せば、楽園へ導くことができる。
もう、恐れるものはありませんでした。
だから私は、占い師のフリをしました。占い師のフリをして、本物だっただろう宮沢さんを処刑させました。しかも、皆私を信じきっている。
騙すのは心苦しかったですが、これも皆を楽園へと招待するため。きっとそのままこのことを伝えるより、ずっと効果的な手段。
このままうまくいく、私たちは幸せになる。ずっと、ずっとそう思っていました。昨日までは。
『――僕は、狩人だ』
狩人。私の目的を邪魔する厄介な存在の一人。まさか、リキが邪魔物だったなんて。そして、それに追い打ちをかけるリキの私への言葉。
『僕は、クドのことを信用していない』
私は、目の前が真っ暗になりました。
最初に村人ということで村人に信用させ、できるだけ長く一緒にいようとしたことが仇になってしまいました。
リキに嫌われたリキに嫌われたリキに嫌われた。
誰のせい誰のせいだ誰のせいでこんなことになったのですか。
私が声にならない悩みで押しつぶされそうになったとき、また、神が囁きました。
『それは、能力者のせいだ』
ああそうです、能力者なんていなくなってしまえばいいんです。思えば最初から邪魔だったのです。
そう、霊能者である神北小毬さんはいらない子だったんです。しかも、直枝さんに守ってもらっているなんて、害悪の塊なのです。
だからこそ私は、小毬さんを殺すための方法を考えることにしました。
フフフ、ウフフフフ、ウフフフフフフフ――。
私を敵に回してしまったこと、思い知らせてやりますよ、小毬さん。
そして、朝がやってきました。
朝、発見されたのはリキの遺体。
でも、それはリキが先に楽園に召されたことの証明。これで、私が死んでも怖くありません。きっと、リキも楽園で私を応援してくれています。楽園に私がいったら、ほめてくれます。それが神のお導きなのですから。
「理樹くん、ありがとう……ついに、人狼が一匹いなくなったみたいだよ。ありがとね、理樹くん――」
「残すは、後一匹ね! 理樹君の死を無駄にしないためにもがんばりましょう!」
小毬さんの霊能者としての能力で、人狼が一匹いなくなったことが皆に伝えられます。それを聞いてはりきる朱鷺戸さん。
フフフ、楽しみデス。今からその表情が絶望に歪んでいくのが。
悪いのは小毬さんなんですよ? はんせーしてください。
「小毬さん、もう、そんな嘘はつかなくていいのです」
「え、クーちゃん……?」
「小毬さんを占ったら、人狼、とでました。まさかとは思ってたのです。残念です、小毬さんが敵だったなんて」
途端、皆の小毬さんを見る目が変わりました。クフフ、まだまだこれからなのです。
「ま、まってよクーちゃん! もしかしてクーちゃんが……騙りだったの……」
ハイ、ソノトオリデス。なんて、死んでもいいませんけど。
「完全に騙されたのです。霊能力者は一人しか出なかったので、嘘をついているという可能性が頭から抜けていたのです」
「待って、クーちゃんは偽物だよ。考えてもみて、そう都合よく村人ばかり引くわけない。占いの騙りは人狼を間違って選んでしまうのが怖くて出しにくかったはずだし」
小毬さんが必死に抵抗しますが、無理でしょう。
何せ私は本物っぽい占い師、その占い師の出した判定なのです。ちょっとした抵抗は無意味でしょう。
「小毬さん、残念です……協力して狼さんを退治できると思ってたのですが……」
「で、でも、能力者の数的に可笑しくないかな。だって、ほら、既に占い師と狩人、2つとも偽物と本物が存在してるよ。それなのに……」
ほう、抵抗してきましたか。
確かにそれは私も考えたことです。でも、既にそれを打ち破る手段は用意出来ているのです!
「前日の死体なしは、おそらく狩人が守ったのではなく狐噛みだったと思うのです。古式さんは狐で、吊られかけたから序盤で仕方なく狩人だと言ったのだと思います」
「古式さんが狐、ね。能美さんの推測はありうるかもしれない」
そう、これは本当のことかはわかりません。でも、村人にとっては有りうることなのです。
だってリキ以外の村人は、まだ宮沢さんを本物の占い師と信じていないのですから。
「狩人がこれまで狙われなかったのは、そもそも古式さんの狩人とばらしたこと自体が、人狼からすると苦し紛れの嘘に見えたからじゃないかと思うのです。狂人なら襲うよりは生かしておいた方がいいですし、狐なら無駄噛みに終わっちゃいます。どうせ疑惑も濃くて後々に吊られるの見えてたから放置されたんだと思います」
「なるほど、宮沢さんが狂人、古式さんが狐、そして神北さんが人狼ということですね」
「流石西園さん、理解が早いのです!」
フフフフフ、フフフフフフフ、クフフフフフフフフフフフ。
いつもなら心配してしまうような小毬さんの泣き顔が、今はとても滑稽に見えますよ。
「小毬ちゃん、そうなのか……?」
「ち、違う、違うの! 私は人狼なんかじゃない」
「でも、クドがそう言ってるんだ」
「だからそれはクドが偽物だからで……そーいう鈴ちゃんだって、まだ、クーちゃんが偽物と確信している私にとって村人か敵かわからないんだよ?」
おやおや、小毬さんがまさか鈴さんに対して反論するなんて。
よっぽど限界に来ていたんですね。
「うん、やっぱり、私は小毬ちゃんに投票する。ちなみに小毬ちゃん……私、葉留佳と共有し合ってるんだ今」
「えっ……」
おお、これは気付かなかったです。鈴さんがまさか共有者だったとは。村人判定出しておいて正解でした。
「まあ、仮に小毬君が人狼じゃなかったとしても、まだ、村人側は勝つチャンスはある。そのときは謙吾少年の占いが当たっているということで、どちらにせよ人狼は一匹なのだからな」
「で、でも……」
「往生際が悪いですよ、狼さん」
もう、私は小毬さんなんて呼びません。
そう、貴方は私にとっての狼さん。リキをたぶらかし、守ってもらうなんてうらやましいことをされた悪い人。
そして、投票時間がやってきました――。
6日目 投票結果。
朱鷺戸沙耶 0 票 投票先 → 神北小毬
棗鈴 0 票 投票先 → 神北小毬
能美クドリャフカ 2 票 投票先 → 神北小毬
三枝葉留佳 0 票 投票先 → 来ヶ谷唯湖
神北小毬 4 票 投票先 → 能美クドリャフカ
西園美魚 0 票 投票先 → 神北小毬
来ヶ谷唯湖 1 票 投票先 → 能美クドリャフカ
やりました――!
正義は勝つのです! そして正義とは、神様の思し召しなのです!
「仕方…ない、よね……」
小毬さんはゆっくりと処刑機に向かっていきます。あれがワルモノの末路です。
ふと、小毬さんが立ち止まりました。悪あがきでもするつもりでしょうか。
「でもね、私、一つだけ嬉しかったことがあるんだ」
小毬さんは出てくる涙を拭おうともせず、そのまま、こう続けました。
「鈴ちゃんが村人で良かったって。一緒で良かったって」
「小毬……ちゃん?」
「ごめんなさい、疑って。うん、鈴ちゃんならきっと村人を導いてくれるよ。がんばってね」
そして再び歩きだす小毬さん。
ええ、やはり小毬さんはワルモノでした。大悪人です。だって、
「小毬、ちゃん……小毬ちゃーん!!!」
鈴さんに、いえ、みんなにとてつもない罪悪感を植え付けて処刑されていったのですから――。
――こうして、6日目の昼、村民協議の結果【神北小毬】は処刑された――。
うう、あたしはなんてことをしてしまったんだ。
もう、何度もトイレで吐いていた。もはや胃には何も入ってない。何かを食べようとしても、受け付けようとしない。
小毬ちゃんを裏切ってしまった、大事な友達を裏切ってしまった。
それだけじゃない、この日まであたしのやったことがほとんど間違っていたことに気づいてしまった。
限りなく、重い、そして辛い。
でも、小毬ちゃんがあたしに使命を与えてくれた。村人を導いてと。
なら、やらなければならない。どんだけ辛くても、あたしは、やり遂げなければならない。
理樹だって、自分がどうなるかをわかっていて、あそこまで前に出て、そして、村人たちのために動いたんだ。
あたしも、やろう。みんなのために、頑張ろう。
――コン、コン。
扉を叩く音。誰だろう、こんな時間に。仕方ないから扉を開け、中にいれてやろうとする。
「なんだ、一体何の用だ――」
そう言った瞬間、あたしは切り裂かれていた。
ああ、そうだったのか、こいつが人狼だったのか……。
結局、何も出来なかった。
覚悟をようやく決めたばかりなのに、ようやく、辛い現実と立ち向かう勇気が出たのに。
何も、何も出来なかった。
みんな、ゴメン。みんな、ゴメン。みんな、ゴメン――。
ひたすら懺悔の言葉を思い浮かべながら、私の意識は薄れて言った――。
――【棗鈴】は翌日、無残な姿で発見された――
あとがきという名の時風の解説
杉並「いよいよ終盤が近づいてきた、って感じでしたね」
時風「前回がこれぞ狩人って感じの活躍だとしたら、今回はまさにこれぞ狂人って感じの活躍だったな。この2つは参考にしてもいいと思うぞ」
杉並「破綻してない理論、声の大きさ(発言数)、これまでの信頼――全てを使った凄まじい霊能者吊りでしたね」
時風「実際考えたらリアリティというか、確率的な話でほとんどありえないことではあるんだがな。それを信頼させたって点ではお見事だった。まあ、本物の占い師があまりに偽物っぽかったってのもあるが……」
杉並「ここでまさか狐の死亡タイミングでのGJが響くことになるとは……」
時風「人狼ってのはデータも大事だがこういう、印象操作ってのも大事なゲームなんだよな」
杉並「『ちなみに私はデータ重視です』と、作者は言ってますが」
時風「データは客観的に見れるからな。確かに強いっちゃ強いんだが、その代わり、印象での人狼を見逃しやすいって欠点もある。まあ、一長一短ってとこだ。じゃあここで、データ重視の作者がやってる中でオススメの行動を教えよう」
杉並「それはすっごく気になります!」
時風「何、おそらく他のプレイヤーもやっているとは思うが、『メモを取る』ことだ。特に、過去ログと役職関係まとめの2つは作っておくとかなり楽になるぞ」
杉並「ああ、確かに。役職関係って混乱しますからね」
時風「占い先まとめとか、他の人に任せるのではなく、自分でも取っておくことだ。上手くなるには必須だな」
杉並「初めて講座っぽいことしましたね」
時風「確かにな。では、今回はこの辺で」
杉並「またお会いしましょー」