四日目
4日目〜或いは、とある人狼の物語〜
私は古式みゆき。その人の記憶を継いでいる。けれど、ワタシは人狼。
ヒトという食料を得るため擬態し、欺き、貪り、恐怖に陥れる存在。
記憶があるというのは便利なもので、そう簡単に正体はばれない。しかし、同時に不便でもあり、記憶によって生み出された感情というものが時々行動を阻害する。
あの日だってそうだ。ワタシは占われていた。よりにもよって、この村の中で数少ない私と関わりを持つ存在に。
それは私の心を苦しめた、あの人の視線が、表情が、行動が、私の心を苦しめた。
だが、ワタシの本能がその動揺を見せないよう、嘘をつくという行動に出ていた。あわよくば、相手を陥れるようにと。
そして村人は、とうとう彼を信じることができず、処刑した。
痛かった。
キモチヨカッタ。
助けたかった。
イイキミダトオモッタ。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ワたシが、食べテあゲたカった。
だからだろうか、私が笹瀬川さんを襲ったのは。もう、そのときには記憶と本能の齟齬は生じなくなっていた。
同じようにあの人のことを少なからず想っていたにも関わらず、疑惑の目を向けさせ、よりによって村人に始末させてしまった張本人の一人。
勿論、建前もしっかりとあった。でも、本音は復讐、だった。
食事を終え、外に出ると仲間が待っていた。
「ええ、気は済みました。明日はいつもどおりで。――そうですね、本物の占い師が死に、妖狐も死んでいる今、恐れるものはありません」
私たちは知っていた。妖狐が死んでいることを。何せ妖狐が死んだ日、私が襲ったのはあの人――宮沢さんだったのだから。
「ええ、あれは不思議でした。襲おうとしたのに、襲うことができませんでした。あれが狩人の力なのでしょう。――ええ、そのとおりです。そのおかげで村人たちには一人食われたものとしか映ってないわけですから、とても滑稽なものです」
妖狐の死に方と、私たちが襲った後の村人の死に方はよく似ている、判別は不可能だろう。
「まもなく夜が明けます、疑われる前に家へと戻りましょう。それでは、また、お互い夜に会えることを祈って」
そういって私は仲間に別れを告げた。さあ、また今日も私は嘘をつき続ける――。
そして、4日目の朝がやってきた。みな、心なしかやつれてきているようにも見える。
連日のことに対する気疲れだろう。特に、神北さんはその中でもそれが顕著に見て取れた。
「謙吾君も違ったよ……まだ、この村には2匹とも生きている……」
「大丈夫だ、小毬ちゃん。謙吾はきっと狂人だった。だから村人だったんだ」
棗さんが励ましているが、そこには謙吾を狂人と見て今も疑ってないように見える。
笑える話だ、占い師を本物だと知っているのが人狼で、偽物だと信じているのが村人だなんて。
「笹瀬川さん…発言がしっかりしてて先導力があったのが狙われたのかしら…」
朱鷺戸さんは昨日何故笹瀬川さんが食べられたかを推理している。間違ってはいないけど、全てが正解というわけでもなかった。まあ、仕方のないことだろう。
「それに、狐がまだ生きている可能性もありますね」
「そう、ですね」
西園美魚さんが狐の存在の可能性を疑っていたので、私もそれに同意しておく。
こうすれば、私は人狼としての情報を知らない一村人を装える。
「鈴さんも村人です。鋭い推理をされていたので、村人判定を出すことができれば試合を有利に導けると思って占ったのです。よかったです、鈴さんも味方でした! 狼さんを見つけられなかったのは残念ですが……ごめんなさいなのです……」
能美さんも順調に占い師のフリを続けている。宮沢さんが狂人と判断して吊られている今、その信頼はそう簡単には揺るがないだろう。
「こっこではるちんが共有者だってことをみんなにご報告ー!」
ああ、そういえばそんな能力者もいたのだった。二人で意識を共有し合っているんでしたっけ。
「どうしてこんな遅くまで黙っていたのだ? 葉留佳君は」
「えーっと、その。ないしょっ!」
「ないしょって……まあ、共有者の能力的に嘘ついてもすぐにばれそうだし、本物なんじゃないかなあ」
来ヶ谷さんは三枝さんのことを疑ったみたいだけど、直枝さんの一言で事無きを得たみたいだ。
こちらとしては疑ってもらった方がありがたかったけれど。
その後も、話しは続いていくものの、それ以外の有益な話は出ず、投票時間となった。
4日目 投票結果。
朱鷺戸沙耶 0 票 投票先 → 西園美魚
棗鈴 0 票 投票先 → 来ヶ谷唯湖
能美クドリャフカ 0 票 投票先 → 西園美鳥
三枝葉留佳 0 票 投票先 → 来ヶ谷唯湖
神北小毬 1 票 投票先 → 西園美鳥
西園美鳥 4 票 投票先 → 神北小毬
直枝理樹 1 票 投票先 → 西園美鳥
西園美魚 2 票 投票先 → 西園美鳥
古式みゆき 0 票 投票先 → 西園美魚
来ヶ谷唯湖 2 票 投票先 → 直枝理樹
「えっあたし!?」
「貴方は、私たちが議論していたときに会話に参加しようとせず、悩んでいた。そんな非協力的な人はいらないと判断しました」
私がもし村人なら、という視点で投票した理由を伝えた。
他の人もどうやら同じ理由らしい。
「そんな……それに、美魚にも投票されているし……」
「私も、普段と違って黙っている美鳥を信用出来ませんでした……ごめんなさい」
「……ま、しょうがないね。それじゃ、一足お先にお空の上で待ってるけど、皆やってきたりしたら承知しないんだからね!」
最後に精一杯の強がりを言って、西園美鳥さんは処刑機の方へと向かった。
――こうして、4日目の昼、村民協議の結果【西園美鳥】は処刑された――。
これはとても良い状況、私への投票もついになくなり、狂人も生きている。
このままいけばこの村の人全員を食べるのも容易いことだろう。
「――ああ、そうですね。確かに、そろそろ狩人が死んでいてもおかしくはないでしょう。それに生きていたとして守っているとも限りませんから、襲うのは妥当だといえます」
仲間の人狼と会話し、襲う対象を決める。
私個人としては棗鈴を襲いたかったのだが、今の誤った思考はまだ利用価値がある。それよりは、村人の能力持ちを襲うのは当然の行為と言えるだろう。
「そう、あの占い師ほどではないですけど、厄介な霊能者をね」
私たちは神北さんの家へと向かい、そして、辿り着く。
神北さんを食べてしまえば残るのは狂人と共有者、共有者は所詮村人、私たちを見つけ出すことはできない。より、確実な勝利が見える。
私は、いつもどおり、扉を叩こうとした。
途端、不思議なオーラに弾かれる。こ、これは宮沢さんを襲ったときに感じたものと全く一緒!
つまり、狩人は生きてる! そして、霊能者を守ってる!
「――はい。これ以上は無駄みたいですね。してやられました。まさかまだ生きていたとは。ええ、仕方ありません。戻ることにしましょう」
こうして私たちは、この日は誰も襲わず、家へと引き返した。
このとき、まだ村人側の大きな反撃があるとも知らずに。
そして次の日、村人側の一人が動き出した。
その日、真っ先に私に対して仕掛けてきたのはあの、直枝さんだった。
「謙吾……今、仇を取るよ。古式さん、貴方はニセモノだ!」
あとがきという名の時風の解説
杉並「キャーッ!! カッコイイー!!」
時風「……おい、杉並。落ち着け」
杉並「はっ……ご、ごめんなさい! つい……」
時風「ストッパーの方が興奮してどうする……まあ、そんなわけで4日目の解説だ」
杉並「あんまり動きがありませんでしたね」
時風「ああ、共有者がようやくCOしたことくらいだな。それ以外のことは前回までに語っているから置いておく」
杉並「他に何か言っておくことは」
時風「会話に対してなら色々こういう発言にしたほうがとかあるんだが、そんなところまであげるとキリがないからな」
杉並「総括的に、おとなしい日だった、ということですね」
時風「嵐の前の静けさだな。実際この後は非常に熱い展開が続いていく。是非楽しみにしておいてほしい!」
杉並「次回は特に楽しみです!」
時風「ま、まあお前はな……それでは、また次回」