三日目



3日目 〜或いは、とある占い師の物語〜


 俺が能力を持ったと気づいたのは、奴に言われたとおりその日の夜だった。
 他の人を占い、そいつが村人か人狼かを見抜く力。
 俺はそれを使って最初最も守りたかった人物を占った。
 そいつは、古式みゆき――俺が、一度守れなかった女。
 村人であってほしい、そんな願いを込めて占った結果は、非情の、人狼。
 俺は2日目、そのことを伝えた。ついでにそのとき、能美が敵側であることも知った。
――しかし、それをわかるのは俺だけ。皆には、俺が真実であるということを判別する手段がなかった。
 ならば少しでも信頼性をあげるために俺は占う、次は――俺が怪しいと思っていた相手、二木佳奈多。
 しかし、結果は村人。ということはあいつは敵じゃなかったのだろうか。
 ともあれ、村人側ならあいつの導く力は村人にとって大きなプラスになる。それだけでもよしとしよう。
 そう思い眠りに付く。
――次の日、俺が見たのは、俺が占った二木佳奈多が死んでいる姿だった。



「みんな……真人君は村人だったよ。ごめんなさい、疑ったりなんかして」

 辛そうに朝一番、小毬が言葉に出す。

「それは、時風の言っていた霊能者の能力、ということでよろしいのでしょうか」
「うん、そうみたいだね。昨日の夜、突然頭の中に流れ込んできたんだ、真人君は村人だって……」

 美魚の質問に答えたきり黙り込む小毬。よほどショックが大きかったのだろう。しかし、俺たちはこれを人狼がいなくなるまで続けなければならない。

「小毬ちゃん、元気出すんだ」
「うん、ごめんね。りんちゃん」

 それを励ます鈴。一見美しい光景。しかし、まだ二人が村人と決まったわけではない。そう疑ってみると、酷く滑稽なものに見える。
 確かに、辛いな。これは。

「僕らにできることは一刻も早くこんなゲームを終わらせてしまうことだよ。そのためにも、しっかりとみんなで考えていこう」
「そのとーり! 理樹君が今いいこと言った! じゃあ、そのためにも情報を集めましょう!」

 理樹の言葉に三枝が反応し、みんなに情報の提示を求める。ここでの情報、というのは占い結果のことだろう。

「わかりました! 朱鷺戸さんは村人です。占い理由は、発言内容がしっかりしていて誘導力が強そうだったので、仮に狼だと手ごわいですし、逆に味方だと頼もしいと思ったからなのです。村人でいてくれて、本当によかったのです。一緒に頑張りましょうなのです」

 そしてクドも早速自分の結果を周りに伝える。俺から言わせれば明らかな嘘、なのだが、村人からしたら能美を占い師だと思っても仕方ないだろう。

「占い結果。二木は村人だった。理由は昨日の投票で投票し続けた罪悪感から……といえばいいか」

 だけど俺も負けるわけにはいかない。この試合には俺たちの運命がかかっているのだから。能美と同様、結果と、その理由を伝える。

「と、いうことは今までの結果をまとめると謙吾君が古式さんが狼、二木さんが村人。能美さんが理樹君と朱鷺戸さんを村人として結果を出したわけね」

 それを西園の……妹だったか、妹がまとめてくれた。情報をまとめるというのは大事なことだからな。
 ふと、それで俺はあることに気づき、尋ねてみることにした。

「古式は先日誰を守ったのだ? 俺が言うのもなんだが」

 これは単に皮肉を混じえた質問、それに、答えられなかったらよりこいつが偽物と思われる――そう期待しての言葉。
 しかし、そう思い通りには進んでくれなかった。

「宮沢様……貴方視点狼なのに、古式さんが狩人じゃないなら守れる訳ありませんのに……」

 そう、逆に俺に対して疑いの目を向けてきたのだ。まさかこうなってしまうとは。

「謙吾が自爆したな」

 そして鈴までもが俺を疑い出す。

「い、いや、狩人が生きていたら村人を食うのに支障が出るだろう。そのことが気になってな」

 俺は必死で理由を説明し、無実を証明しようとする。

「私は、占い師を守っていました。私にとって真実の占い師である能美さんをです」

 そのタイミングでの、古式の言葉。一人が疑いだすと連鎖で人は同じ相手を疑っていく。そのタイミングでの、後押し。

「ち、違う! 俺は本物だ!」
「宮沢様……貴方のことを信じたいのですが、何だか華麗に自爆してらっしゃる発言に見えますわ……」

 もはや誰も俺の言葉を聞いてくれない。
 俺は真実を語っているはずなのに、村人には真実と映らない。皆、目を逸らしていく。
 そして、トドメとなる鈴の言葉。

「謙吾吊りでいいぞ」

 もう反論する気すら起きず、俺は絶望に打ちひしがれた。
 そして、その日の投票結果は、もはや俺が語るまでもなかった。

3日目 投票結果。
朱鷺戸沙耶 0 票 投票先 → 古式みゆき
棗鈴 0 票 投票先 → 宮沢謙吾
能美クドリャフカ 0 票 投票先 → 宮沢謙吾
宮沢謙吾 7 票 投票先 → 古式みゆき
三枝葉留佳 0 票 投票先 → 宮沢謙吾
神北小毬 0 票 投票先 → 宮沢謙吾
西園美鳥 2 票 投票先 → 宮沢謙吾
直枝理樹 1 票 投票先 → 西園美鳥
笹瀬川佐々美 0 票 投票先 → 西園美鳥
西園美魚 0 票 投票先 → 宮沢謙吾
古式みゆき 2 票 投票先 → 直枝理樹
来ヶ谷唯湖 0 票 投票先 → 宮沢謙吾



 ふらふらと、誘い込まれるように処刑機へと歩いてゆく。
 その途中、理樹が俺の元へやってきた。もう、誰にも信頼されていないと思い込んだ俺の元へ。
 そして、誰にも聞こえないよう、理樹は小さな声でつぶやいた。
 
「ゴメン、何もできなくて……」

――ああ、そうか。俺は皆に疑われていたわけではなかったんだ。
 本当は、これすらも人狼の策略なのかもしれない。だが、理樹の言葉が、顔が、理樹は俺を信じていてくれていたことを証明している。

「理樹、お前ならやれる。お前なら、この絶望的な村を希望に導いてくれる」

 そう、もう俺が死んでもこの村は大丈夫なはずだ。理樹がいるのだから。
 しっかりと処刑機の方へ向かっていく。
 さよなら、そして、後のことは任せた――。



――こうして、3日目の昼、村民協議の結果【宮沢謙吾】は処刑された――。





「――少し、言いすぎてしまったでしょうか」

 私――笹瀬川佐々美は夜になって、今日の昼のことを思い返していた。
 一度疑問に思ってから、疑いを止められなくなって言葉で追い詰めて、今、占いを吊るのが得策ではないと気づいたときには手遅れだった。
 自分の投票先は変えたものの、皆さんの投票先は宮沢様へと向かっていってしまった。

「……まあ、やってしまったことは仕方ありませんわね」

 辛いのは私だけではないはずだ。処刑前に宮沢様の元へ歩いていった直枝理樹はもっと辛かったかもしれない。彼も宮沢様を信じて、別の相手に投票しているのだから。

「とりあえず、明日のために考えをまとめませんと――」

 そのときだった。家の扉を叩く音がしたのは。
 この村では夜、外を出歩いてはいけないという決まりがある。外を出歩くのは――人狼、のみ。
 わざわざ扉を叩いたのもこちらを恐怖させるため。

『開けてください。まあ、開けなくても、無理やりに開けますけど』

 その途端、扉は破裂し、壁としての意味を成さなくなった。
 扉の先の姿の正体は――
 
「な、貴方は!!」
「ありがとうございます、笹瀬川さん。私は貴方のお陰で生き延びることができたんですから――」

 まごうことなく、古式みゆきだった。

「それで、是非お礼をと思いまして。それに、貴方のように発言力がある人が生きてますと、こちらにとって厄介ですから――」



「死んでください」



――【笹瀬川佐々美】は翌日、無残な姿で発見された――



あとがきという名の時風の解説

時風「では、今回の解説だ」
杉並「霊能者が出てきましたねー、そして、占い師吊られちゃいましたね」
時風「結果として、これは非常に悪手となったわけだ。何せ、村の一番使える情報源である占い師をよりにもよって吊ってしまったのだからな」
杉並「この展開は正直、予想外でした……」
時風「普通に考えたらありえないんだけどな。霊能者も出てきているのだからここは大人しく黒出し(人狼判定)相手された相手を吊るべきだろう。それに話の中でもあったが、生かされている狩人なんて怪しいことこの上ないぞ」
杉並「でも、実際怪しかったわけですから……」
時風「確かにそれもそうだな。だが主観ってのは間違っている可能性も十分にある。だからこそ、客観的なデータを得られるように行動するってのが大事だと俺は思うんだ。まあ、これすらも戦術の一つに過ぎないがな」
杉並「難しいんですね。人狼って」
時風「ああ、このゲームは初心者からベテランまで、色々な人が参加している。初心者に鯖のルールで行動しろって言っても無理な相談だし、ベテランだって初心者のよくわからない行動に翻弄されたりする。まあ、だからこそ面白いのだがな」
杉並「なるほど、勉強になります。他には何かありますでしょうか」
時風「何故まだ共有者が出てないのかと小一時間」
杉並「ま、まあRP村ですし」
時風「RPになると柔軟な思考をしづらくなるからな。ミスも多くなるってのは確かにある」
杉並「まあ考えることが増えますからねー」
時風「あとはまあ、作品の都合上なのだが、村人たち自体は狐が死んでいることには気づいていない。これは意識しておいてほしい」
杉並「そういえば、狐である佳奈多さんが死んだとき、死体は一つだけでしたね」
時風「それが何を意味するのかは、次回を見てくれ」
杉並「そんなわけで今日はここまでです。早く直枝君に活躍してほしいなあ」


何か一言いただけるとありがたいです。

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