プロローグ



プロローグ


 彼らが目覚めたとき、そこは見知らぬ村の中だった。
 ここはどこなのだろう、彼らは辺りを見渡すが全くわからない、せめてもの救いは、そこに一緒にいる人が、自分たちとよく関わりがある人たちだったことだろうか。彼らの作ったチーム、リトルバスターズに関わる人たちだったことに。

『やあ、お目覚めかね。諸君』

 そのときだった。どこからともなく声がしたのは。変声機を使っているらしく、機械的な声。
 改めて辺りを見渡すが、その声の主らしきものはどこにもいない。

『ようこそこの村へ。俺の名前は時風瞬。GM(ゲームマスター)と呼んでもらっても構わない』
「っ!? 出たわね時風!」

 その名前に声を荒らげたのは朱鷺戸沙耶、つい最近転校してきたばかりの子だ。

「今度は一体何を企んでいるの!」
『安心しろ。俺からは決して手を出したりはしない。ただ、お前らの仲間が手を出すことはあるだろうがな』

 意味深な発言をする時風。妙な空気が場に流れこむ。

「なにを言ってるんだ! あたしは真人以外蹴ったりしないぞ!」
「そうなのです!」

 それに反応したのは棗鈴と能美クドリャフカ。

「そうだな。仲間を守ることはあっても、裏切ることはない」
「おおー! そのとーり! ……信じていた人に傷つけられるのはもうコリゴリなのデスよ」
「そうだよね〜、鈴ちゃんの言うとおりだよ」

 宮沢謙吾と三枝葉留佳、そして神北小毬が二人の言葉に賛同していく。

「そうだよね。ありえないよ。そんなこと」

 未だ目覚めない西園美魚を介抱しながら、西園美鳥もうなずく。
 
『素晴らしい友情を持っているようだな。どうやら。だが、そうであるほどいい。それに、人狼はそんなに甘くはないぞ?』
「人狼、なんだそりゃ?」

 聞きなれない単語に井ノ原真人が反応する。

『人狼、夜になると狼となって人を襲い、喰らう。しかし昼は人間と瓜二つの姿でその正体を隠す化物だ』「その、人狼がもしかして……」

 直枝理樹は嫌な予感がした。その嫌な予感というのは完璧に当たっていた。

『ほう、察しがいいな。その人狼が2匹、既にお前らの中に紛れ込んでいる』

 思わず全員が顔を見合わせる。
 この中に人狼がいる――その一言だけで、先ほどの結束力を脆くも崩させる。

「誰! 誰なんですの人狼は!」

 笹瀬川佐々美が声を荒げるが誰も反応しない、いや、するわけがなかった。

『なお、人狼は化けた相手の記憶や行動を全て把握している。そんなところで探そうとしても無駄だ』

 押し黙る彼ら。
 
『それではGMがゲームのルールを伝える。何、簡単なことだ。人狼を全て倒せ、それだけだ。ただ、倒し方にも決まりがあってな、人狼は処刑機でしか死ぬことはない。そして、処刑機は一日に一度しか動かない。そして、処刑者を決める方法はただ一つ、各人からの投票で一番票が多かったものとする。そして夜だが、これは各自一人で家の中にこもってもらうことにする。その代わり、人狼側も夜は一つの家しか襲わない。何か質問はあるか』
「質問があります」

 途中で目を覚ましていた西園美魚が口を出す。

「貴方はこれをゲームとおっしゃいました。ゲームと言うからには、何かしら私たちにも有利となる情報があるのではないでしょうか」
『良い質問だ。お前らの中におそらく今日の夜、能力に目覚めるものが出てくるだろう。お前たち村人にとっての能力者は《夜、一人を占い、その者が人狼か村人かを見分けることができる【占い師】》、《夜、その日処刑された者が人狼か村人かを見分けることができる【霊能者】》、《夜、一人を守り、人狼からの襲撃を防ぐことができる【狩人】》、《二人で存在し、二人はお互いの情報をテレパシーで通じ合うことができる【共有者】》だ』
「村人にとって……というのは一体どういうことでしょう」

 古式みゆきが時風の言葉に疑問を抱く。

『おっと、そこはこれから話そうとしていたことだ。村人側なのに、人狼側に共感を得てしまった人間、それが【狂人】だ。能力に目覚めた瞬間、そいつはこの村の裏切り者となる」
「そいつは厄介ね……占いでも判別がつかないってことなのでしょ」

 二木佳奈多が忌まわしそうな顔をしながらつぶやく。

『理解が早くて助かる。そして、この村には人狼とは別にもう一匹獣がいる。それは【妖狐】。こいつは人狼よりも能力が高い。人狼が襲っても、決して死なないんだ。しかし、その能力の高さゆえ自分でルールを決めている。どちらかがいなくなるまでに自分が存在したら、この村を襲おうと。遊んでいるんだな、こいつは。ただしこいつは占われるのが嫌いでな、占われた瞬間、人狼に襲われたかのような跡を残して死んでいくんだ。占った人には村人という結果しか残らないようだがな』
「ほう、狐なんてものが存在するのか。でも、狐は私たちとも、人狼とも違う化物のだな。本来なら、私にぴったりの役割だな」

 来ヶ谷唯湖が狐に興味を示す。ただ、言葉の中に「私は違う」といった旨のメッセージを暗に添えて。

『おそらくひと通りのことは話しただろう、さあもう暗くなってきた。各自、自分の家に戻るといい。地図はそこにある。ルールを破ったものはその時点で死ぬ。ただ、まあ、今日は安心しろ。誰も死ぬことはない。代わりのものに死んでもらうからな』

 時風の言葉にしぶしぶ従う彼ら。人狼は夜になると活発化し、人を襲う。彼らも命が惜しいと判断したのだろう。
 こうして、仲間を仲間と思うことができない、恐怖に縛られた村が出来上がり、ゲームは始まった。
 しかし、彼らはまだ、わずかな希望にすがっていた。これは何かの冗談だ、所詮ゲームなんだ、と。
 それらは、次の日の朝、全て否定された。彼らが見つけてしまった遺体によって。



――初日に発見された死体は、棗恭介だった。




プロローグ 完



後書き
 とりあえずプロローグです。この話は実際にあった人狼村を元にして作成してあります。
 ちなみに、実際の村では古式みゆきは杉並睦美、二木佳奈多はドルジになってました。
 また、村の雰囲気もどっちかというと和気あいあいみたいなものでした。
 どうしても知らない方にも説明しないといけない都合上、説明が大半を占めてしまったことをお詫びします。なお、キャラの発言順はそのまま人狼村への参加順だったりします。


何か一言いただけるとありがたいです。

 
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