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「…ザ…うん。いいぞ」

…え?今、なんて?
鈴は今なんていった?

見ると、僕以外も全く状況が理解できない…いやしたくない人達ばかりだった。

「ふ、ふぇ…?」
「馬鹿な…」
「………!!」
「わふ…?」
「うっそ…」
「まじかよ…」
「どういうことだ…?」

同じような反応を学食でしたあのとき、皆はこんなにも蒼白な顔だったのだろうか。
驚いていた。確かに朝も驚いていた。
でもこんな言葉も出ないほど、信じられないような内容だっただろうか。

      こんなにも人を絶望させる内容だっただろうか?

「―――ッ!!」
立ち上がった。急に立ち上がったおかげで一瞬ふらっとした、が、かまわず部屋をでようとする。鈴に、鈴の真意を…

「待てっ!!!」
恭介が制止した。
「なんで!?」
「悪いが、お前が今行っても何か出来るとは思わない」

「いつまでも昔の僕のままじゃない。僕だって少しぐらい成長したんだ!」

「だからこそだ!」
つい数分前まで賑わっていた部屋は気付くと水を打ったように静まり返っていた。
みんな下を向き、苦虫を噛み潰した様な顔で座っている。怒鳴りあっている
僕と恭介以外言葉を発そうとする人は居なかった。

「思い出せ。感情のまま、我侭に突き進んで行った…末路を…」

恭介が何を言っているのか分からない。確かに冷静さを欠くことは良いことではない。
でも、そんな取り返しの付かないことになった覚えは無い。
取り返しの付かないことというものは、

一緒に居たいが為に戦地旅立つ彼女を引きとめ、後に家族が処刑されてしまったり
目の前の区別もつかず大事な人と別人を間違えてしまったり、

離しては二度と戻らない手を、離してしまったり

…っ!なぜか頭が痛む。見慣れた、でもありえない世界が一瞬だけ脳裏を掠めた。

「まずは冷静になれ」

そうだ、バスの転落事故のとき、まずは冷静になることが何よりも先だった。
その結果、僕は今を手に入れたんじゃないか。

「………」

そう言われれば納得せざるをえない…。でも…

「何で?どうしてなの?僕が一人自惚れてただけなの…?キスだってしたのに…?」

ははは…もう自嘲染みた笑いしか出来なかった。
身体の力が抜ける。頭がぼぅとする、いやどちらかといえばさぁーと血の気が引いていく。ドアに身体を預ける…でも重力に逆らえず身体はずるずると沈んでいく。
 
「…!? 理樹!」
きょうすけがなにかいっている。ききとれない。
せかいがとおくなる。
めのまえがくらくなる。


   
        少年は誓った
        
                「これからは強く生きる」



         
        少年は言った

                「一緒に生きよう」



        少女は問うた

                「…それは…プロポーズか?」




少年は答えた

たとえ暗闇でも、手が離れぬように
たとえ遠くに居ても、心が離れぬように  
強くまっすぐな声で言った 

「うん」





ひんやりした手が僕の額に触れる。
どこか懐かしい。ずっと前にもあったような、そんな感触。
意識が徐々に覚醒していく、朧げだった真っ白なその手は輪郭がハッキリしてきた。
僕は手の先を見つめ、ゆっくりとその先をたどっていく。
「…恭…介」
目の機能は完全に回復し目の前の恭介以外にも焦点が合い始めた。

僕の部屋だ。

「…僕は、一体」
「…唯の貧血だ。相当ショックが大きかったんだろうな。」
貧血…か。
「…今何時…皆は?」
そういえばいつの間にか恭介と二人きりだ。
「もう9時だ。女子は7時ごろまでいたが寮長に帰らされた。
 真人と謙吾はほんのついさっきまで俺と交代で見ててくれてたんだ。
 あいつ等は今学食じゃないか?」
真人と謙吾のことだ、恐らく学食も急いで食べ終わってこの部屋に戻ってくるだろう。
帰ってきたらお礼くらい言わなきゃな…。
「そっか…」

そして、僕は意を決して聞いた。
「・・・・・鈴は?」

恭介も少しこの話から避けたかったのか、少し話していいものやらと
戸惑っていた。
「・・・鈴は・・な・・・。あの後何にも話してくれなかった」

「あの後、夕食時間に鈴が学食に戻ってきたらしくてな。急いで真相を聞くために
 お前を診ていた真人と謙吾以外全員で学食に向かったんだ。」
 








― 恭介 ―

鈴は朝と同じように何事も無かったかの様に飯を食っていた。
朝騒いでいた学食のほかの生徒達も告白が失敗したと思ってるだろう。
だから話をそらされないために自然を装って聞くことにした。
まず小さい声で全員に指示し、普通に学食を食べに来たように振舞わせた。
そして今日鈴の告白についての話題を出させ、鈴の真意を聞く。
極普通な、極ありきたりな流れ。不自然なんて無い。鈴なら気付かない。
でも何でこんなに不安なんだ?   ・・・あぁそうか。恐いんだ。
もしも、あの言葉が間違いなんかじゃなく、真実だったとき・・・

学食の席に着く。いつからか決まってしまった俺たちの指定席だ。
恐らく謙吾と真人の喧嘩や俺の繰り出す厄介ごとに巻き込まれたくなかったからだろう。まだ少し時間の早い夕食だ。だからまだ人はほとんど居ないし、心なし皆ここから
遠くの位置に座っている。 ・・・有難い。
「・・・?あの馬鹿共と理樹はどうした?」
まあそう来るだろう。今まで何だかんだ全員で食事をしていたのだ。
「さぁ?ただメールで先に食っといてくれって言われたからな。
・・・大方、3人で町にでも繰り出しているんだろ」
「・・・そうか」
一度俺を見つめ不思議そうな顔をし、少しばかり訝しんでいたが
しぶしぶ納得し、食事に戻った。
俺は、周りの雰囲気を読んだ、皆そろそろ限界に近い。当然だ、本来の目的は食事ではなく鈴の告白の真意を尋ねることなのだからな。
ミックスフライの海老を二尾ほど咀嚼する、味は分からなかった。鈴から見えないほうの手は誰が見ても分かるぐらい震えていた。
        
この世界はもう後戻りできないのだと知っている
     だからこそ・・・恐怖する・・・・
あれだけ良心の呵責に耐え、痛み、悲しみに耐え伸び
      やっとの思いで手に入れた
この日常と、仲間達
            もう二度と手放したくない
          
大切なリトルバスターズと大切なこの時間
         
覚悟を決めろ。いくぞ棗恭介!ミッションスタートだ!

「鈴、そういや今日の放課後の件・・・・どうなったんだ?」
どうなったかは知っている。だが俺たちが現状を理解するには、余りにも情報が少なすぎた。・・・だが帰ってきたのは肯定よりも、もっと残酷答えだった。

「・・・いや。・・・なんでもなかったな」

絶望した。なんでだよ。どうして嘘をつくんだよ!
お前は理樹だけじゃなく、俺たちまで見捨てんのかよ!
昔から変なところで素直で、ストレートに物事にぶつかって来たのに、
一体・・・・・・・ははは・・そうか。そうしてしまったのは俺だったな。
俺が間違ってたのかよ。全部俺が間違ってたのかよ?
でもな・・・お前はそうかもしれないが、理樹はまだ駄目なんだよ。今日だってお前の
話になった途端、冷静さを欠いて前が見えなくなっちまうんだよ。









― 理樹 ― 

ショックだった。何よりも鈴が僕達にそんな大事なことを隠し事にするなんて。
僕が項垂れていると、恭介は真っ直ぐな目で僕に向かって言った。

言いたいことは分かった。でも僕は黙って恭介を見つめ続けた。

「・・・理樹。お前はどうする?」

沈黙が流れた。このまま待っていればすぐに真人と謙吾が戻って来るだろう。

        言わなければいい。

そうすれば傷つかなくてすむ          逃げるのか?



        わすれればいい。

そうすれば傷つかなくてすむ         逃げるのか?


 
        ただじっとしているだけでいい

そうすれば傷つかなくてすむ        逃げるのか?

逃げてしまえばいい。  
       
…違う・・・

お前は被害者だ。悪くない。
          
・・・違う・・・

言わなければいい。

・・・違う・・・

忘れればいい。

・・・違う・・・

傷付くのを恐れるなら。

・・・違う・・・

失うのが恐いのなら。

・・・違う・・・



あの日のように
また、殻に閉じこもってしまえばいい。

違う!!!!



  
あの日、僕は知ってしまった。でも知りたくなかったんだ。

生きることが、 
失うことだったなんて

生きることが、
恐いんだって

生きることが、
辛いんだって

生きることが、
過酷な事なんだって

生きていれば、いつかそこには悲しみが残るのだって


だからあの日
恭介の手をとるのを躊躇った。

でも、差し伸べられた手のひらは、
あの暗闇の中から、閉じこもっていた殻の中から  
抜け出す勇気とチャンスをくれた
   
それは少しの幸せの後に訪れる
大きな悲しみを受け入れることを・・・
      
この理不尽な世界の肯定を意味していた
          
それでも、僕は手を引いた

何故か分からない。でもそのとき頭に過ぎったのは、まだ知らない人たちと遊ぶ僕の姿。
きっとそれはもう戻ることない、遠く悲しい世界の話。
 
でも会いたい
それは・・・僕が…失うことより、出会う事の方が大切だと…知ったからだ。
人と出会い、一緒にすごす時間が・・・
大切で、かけがえの無いものだってことを知っている。
失うのは、もちろん悲しいけど・・・
たくさんの出会いが待ってくれている 

何物にも変えられない大切な仲間達と、
初めて僕が恋をした一人の不器用な少女との
       
たくさんのかけがえの無い時間が、待ってくれている
    


 だから僕は悲しみの世界を知った日
  
もう一度世界から目をそらし、殻に閉じこもる機会があった日
 
     


『またそこで、お前は殻に閉じこもるのか…』

(あの日から僕は後悔を捨てた、何があっても決して屈しない)

『…じゃ、これからはどうする?』

(幸せの後に悲しみが訪れるなら、これでもかというほど幸せになって)
   (どんなに悲しんでも悲しめないようにしてやる)



「これからは強く生きる」



僕はもう逃げたりはしない





そして、いつか、君に伝えよう

かつて失われた日々に消えた・・・大切な言葉を












「・・・それでも・・・いいんじゃないかな・・・?」

少しだが恭介の表情に翳りが差した気がした。
「だが・・・理樹・・」
「僕は鈴を信じている」
それでも何か言いかけようとした恭介だったが、口をつぐんだ。
今でもまだ鈴は恋というものを知らない。
僕のことを好きっていってくれていたけど、今、恋心を抱いているのは僕じゃないかもしれない。もしかしたら鈴が本当に恋をするのは別の男かもしれない。
そうなったら、僕は失恋するかもしれない。だからこんなにも胸が痛い。
今にでも泣き出したかった。恭介に泣きついてしまえば何もかも楽になるのかもしれない。でもいつか・・・此処ではないどこか遠くの世界で誓った。
          「これからは強く生きる」と
もう逃げたりはしないと。だから・・・
 
「もし・・・その男の人が鈴の恋した人なんだったら」

恭介は黙って聞いている。その沈黙の中,僕は泣きそうだった。いや、泣いていた。
いつか鈴が恋する相手、その男が僕であることをずっと願っていた。
でもそれは叶わなかったんだ。だったら彼女の・・・鈴の幸せを望もう。
いつまでも我が侭をしていてはいけない。
人はいつまでも子供じゃいられない…。
いつまでも子供として遊んでるわけにはいかないんだ…。
僕は涙をぬぐった。まだ涙腺が弱まっていて出てくる涙は弱く流れ続ける
…そうだ。強く生きるんだ。いいか、絶対に泣くな。ここから先は絶対に泣くな。
そんな弱さはもう許されないんだ。
             

「僕達は背中を押してやるべきなんだ。・・・・それで、皆で応援してやろうよ」




つづく