日曜日…学生達が趣味や運動はたまた勉学等、思い思いの時間を過ごせる日。




そして僕のとても待ち遠しかった日。



「少し来るの早すぎたかなぁ…」
ふと時計を見る。時刻はまだ10時を少し過ぎたところだ。
気合を入れすぎたのか、約束の時間までまだ1時間程余裕がある。
休日の駅前は通勤のサラリーマンや学生が居ないため基本人通りは緩和されているが、
デートなどの待ち合わせの場所としてよく使用されるためカップルと思われる男女や、
うきうきした表情で待ち合わせをしている人たちがまばらに見受けられる。

なんというか…男一人では気恥ずかしくて来れないような場所だなぁ。
そう思うと急に何だか複雑な気分になった。






〜〜♪〜♪♪〜♪
少し時間が経った後、携帯にメールが届いた。
中身を見て気を引き締める、駅の時計を見ると
短針はそろそろ11:00を告げる時刻だ。



「まったか?」
鈴はいつもの見慣れた制服ではなく、新鮮味のある余所行きの格好をしていた。
白を主体に赤とピンクのボーダーの長袖に青のジーンズ。
いつもの服ではない鈴を見て何やら女の子らしさを認識すると同時に、
つい最近まで極度の人見知りをしていて常に恭介の後ろにいたあの鈴が
人通りの多くなった商店街を一人で歩いてきたことに、何か感慨深いものを覚えた。
「いくぞ」
鈴が歩き出す。












「えぇ。それでは」
        
 ……僕の視線を他所に、長身の男が後を追う……




遠き日の約束 /蒼泉市役所



ある日の学食。   

今日はご飯にわかめの味噌汁、鮭の切り身にほうれんそうの和え物、そして豆腐といったよくあるいつもの和風な朝食をトレイに載せ、僕はいつものように指定席へと座る。
つい最近になるまでここは僕たち五人分の指定席だったのだが、いつからかリトルバスターズの本拠地の様に、合わせて十人分の席が空いている。
朝の学食は特に慌しく混雑するので、通常、席などあいているところに座るのが普通なのだが真人と謙吾が喧嘩しあっていた時からの名残か、それとも恭介が根回ししてくれていたのか、分からないがどちらにせよ皆厄介ごとに巻き込まれたくないと思っているのだろう。
真人は基本起きるのが早いほうではないので学食に付く頃には大抵皆指定席に座っている。その日も真人は朝起床が遅かったため指定席はほとんど埋まっていた。
それでも十分間に合う時間なのでゆっくり朝食を食べ始めようとすると、
「あれ、鈴は?」
10人分の席で唯一空席な僕の向かい側の鈴の席。
たまに新入りの猫が入ったときなどに遅れてきたりもするのだが…
「ふぇ?りんちゃんなら朝誰かに呼ばれたって言ってたよ」
呼ばれる?誰に呼ばれたんだろう?まだ来てないってことはリトルバスターズの
メンバーではないということだけは確かだ、まぁ呼ばれて一人で行くのだから
知っている人なんだろうけど・・・
「おはよう、理樹」
ふと、急に後ろから挨拶された。鈴だ。
「おはよう」
鈴は皆にも挨拶し終えると一つだけ空いた自分の指定席に座り、
焼き鮭を綺麗に崩し始めた。
そして僕は先程から気になっていたことを聞いた
「そういえば鈴。何か話ししてたの?」
すると鈴はことも無さ気に言ってのけた。

「あぁ。大事な話があるから放課後に中庭に来てくれといわれたな」

 シン…と急に学食が不自然な形で凍りついたように静まり返った。
 鈴以外の時間が停止した。本人はなんだなんだと面食らっているようだ。
 普通驚くのはこっちだ。が余りにさらっとことを言われたため
 ことが理解できずにいた。周りの皆も同じようだ。
            数秒後

「な、なんだってーーーー!!!!?」

「ふえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!?」
「な、なんということだ」
「…!?」
「でぃす いず あ いまじねーしょん なのです!」
「葉留ちんびっくり!」
「そいつは俺より筋肉がある奴なんだろうな!?」
「それはお前より馬鹿だ、ということだな?」
「なっ・・・!お前俺の悪口はかまわねぇけど、筋肉の悪口は許さねぇぞ!」
バスターズの面々も驚きを隠せないようだ。
一方他でも、抜け駆けがどうの反逆者がどうの吊るし上げがどうのと
学食全体が阿鼻叫喚の地獄絵図になっていた
しかし、にも関わらずあの重度のシスコ…もとい、とても妹思いな恭介は何故か涼しい顔をしていた。まるで、この先大きな事態にならないことを予見しているかのようだ、
しかしそれでこそこのリトルバスターズのリーダーたる棗恭介その人だ。
「恭介…」
「あぁ。大丈夫だ理樹。お前等が思っているようなことは起きないさ、
 実はな俺と鈴以外知らないがこういうのはよくあったんだよ」
納得した。その余裕はその経験からきているのだ。
「この学校に来てからも鈴は1度3年生に告白されたことがあってな
 あまりに強引だったがそのときも俺が追い返してやったさ」
全く初耳だった。つまり恭介にとっては別に大きな事態でもなく、幼馴染の僕達に
知られるより早く、そして簡単に済ませてしまったということだった。
「じゃあ…!」
「あぁ。安心しろ理樹。まかせとけ。すぐに俺が追い返してきてやるよ。
 大丈夫だ、・・・・・・鈴には心に決めた奴がいるからな・・・」
そういうと恭介は鈴の元へいった。
あぁ。最近 棗恭介(21)とか騒がれてキャラが若干崩壊しかけていたのに。
さすが恭介は恭介のままだ。なんだか輝いて見えるよ。

「よぉ鈴」
「なんだきょーすけ!?これは一体何が起きたんだ」
まさか鈴もこの騒ぎの震源地が自分だとは夢にも思って無いだろう。
「まぁそっとしといてやれ。皆今はちょっと情緒不安定なんだ。ほっといたら直るさ」
「?そうか」
「ところで、放課後の呼び出しの件だが…いつも通り俺が言ってやるのでいいな?」
「……いや。…いい、自分で行く」
今度は恭介が凍りついた。同時に食事の済んだ鈴は学食にいる暴徒たちとメンバーを怪訝な顔で見て逃げるように去っていった。
とりあえず鈴を諭す為にしゃがんだままになっている恭介に呼びかけた。
「恭介…大丈夫?」
顔を覗き込むと恭介の頬に幾筋もの涙が流れていた。どうにか慰めようとすると、
「理樹、そっとしておいてやれ…」
謙吾はとても切実な目で僕に訴えかけてきた。





昼休み、まだ騒然としているクラス内にいるのが嫌なのか鈴は毎休みごとに教室を抜け出しているため一度も詳細を聞きだせることは無かった。
はぁ、と溜息をついていると窓から棗恭介(21)が勇むように入ってきた。
「よぉ!理樹元気ないじゃないか!?」
先ほどの学食を忘れさせるようなハイテンションだった。
もはや余りのショックでどこか大事な部分がやられてしまったのではないか、
と思われるようなテンションの変わりようだった
気付くと真人も謙吾も訝しむように恭介を見ている。
「辛かったんだね、恭介」
「?何の話だ」
「まぁ、そのアレだ。気を落とすな」
「そうさ、ここに立派な筋肉があるじゃないか」
「だから何の話だ」
皆本当に悲しそうな目で 恭介を見ていた。
「ふっ、何を言っているお前等。この俺があんなことでへこたれるとでも?」
「え…でも、だって」
「俺は鈴を信じている、さっきの話は恐らく鈴が成長したが故の決断なんだ。
 もう自分で断れるとな。だから、理樹安心しとけ」
そういわれれば納得せざるを得ない。小さい頃からの形だ。
「だから、俺は自らの耳で確かめることにした」
あれ?・・なんだか雲行きが・・・

「鈴に盗聴器をつけておいた」

「何してんだあんたはああぁぁぁぁぁ!!!!!」
「何だ?どうした理樹」
「何だじゃないよ!何盗聴器仕掛けちゃってんのさ!?」
「ミッションで使っているだろう?」
「それとこれとは大違いだよ!ただプライバシー侵害してるだけだよ」
「なに。どれも等しくミッションさ」


でもそれでも聞いてしまうのが人の性なわけで…。
「皆、心の準備はいいな?」
皆が小さなダンボールの机を囲い強くうなずく。
とりあえず教室に居ては、朝の学食になりかねないという恭介の提案から放課後
僕と真人の部屋に集まることになった。集まった9人はそれぞれ悪いと思いつつも
恭介の改造した携帯から音を聞き取ろうとしている。
「行くぞ」
恭介が通話のボタンを押す。

「ザザ・・・ら!ザ・・・ドルジ・・・ついて・・ザザ・・るな!・・ザザ」

電波が悪いのかザザザとノイズが時折流れるが皆そんなことは気にしていないようだ。

[ザザ…たせしてすいません。]

聞こえた!恐らくは相手の男の声だ。皆それを理解してかピンと背筋を伸ばす。

[ザ…ザ…大丈夫だ]
[今日はとてもいい天気ですね。絶好の…ザザ、日和だ]
[そうだな…ザ]
何だか無性に腹が立つ。余りに鈴に馴れ馴れし過ぎる。

[でザ…ザ用事とは何だ?]

いきなり鈴が単刀直入に話を切り出してきた。全員が息を呑む。
小毬さんやクドは顔を真っ赤にしてやり取りを聞いている。
葉留佳さんに来ヶ谷さんや西園さん、さらには恋愛関係にはめっぽう疎い謙吾や真人
までもが携帯に聞き入っている。恭介は僕と同じように怒りがこみ上げているようだ。

[…実はですね、わぬきゅーーーーー♪]

「ほわああぁぁぁ!!」
急に音声にはいってきた喜色満面のドルジの声に小毬さんは驚いてひっくり返ってしまった。重要な所だったため気を利かせて音量を上げようとしたのが裏目に出た。
ちなみに殆どの人間が今の奇声に驚いた。西園さんはおろか来ヶ谷さんまで驚いていた。
というか猫ってぬきゅーとかいえるのか?不思議だ…。

[ザ…ザザザ……ザザ…ザーーー]

「わふっ!?大変です!音が出ません!のっと ごー あうと さうんど なのです」
なんと小毬さんがひっくり返ったとき、携帯を床に落としてしまい、その際どこか接触が悪くなったのか、音が出なくなってしまっていた。
「…後英語間違ってますよ?」 
「わふーーっ!!?」

「恭介氏!」
「あぁわかっている」
来ヶ谷さんはクドの手から携帯を引ったくり恭介に投げ渡す。
恭介は必死で整備に取り掛かる。
「小毬!」「神北!」
「ほわああぁぁぁ!ごめんなさ〜〜〜い!!」
謙吾や真人は想像していたより興味津々だったようだ。
 
「出来たぞ!」
恭介が整備し終わった携帯を僕に手渡した。実質まだ30秒も経っていないのにもかかわらずもう整備を終えてしまっていた。さすが恭介といいたい。
僕は急いで通話ボタンを押す。でももしかしたらもう終わってるんじゃ…

[…好きザ…ザです。ザ…ザ…付き合っていただけませんか?]

「ぶらっくほわいとです!」
「うむ。間に合ったようだな。」
音声がつくと同時に相手の男は告白をした。
相手の告白に黄色い声で談笑するもの、再起して安堵の声を上げるものとで
部屋は一気に騒がしくなったが静かにという恭介の一喝でシンと静まり返った。
騒がしくなったのは恐らく皆この告白が失敗すると思っているから、
皆確信めいた自信で、安心していたから騒ぐほどの余裕があったからだ。
まるで新聞で結果を見た録画の野球中継の様に。



だからこそ、

次の一言を、

誰が予想できただろうか。






「…ザ…うん。いいぞ」







つづく