あの忘れられない事故の後、僕は唯湖さんに告白され、それを受けて僕達は正式に恋人になった
時には喧嘩したりもしたけど、僕達は少しずつ二人で絆を深めて行った。
去年のクリスマスから僕は唯湖さんと呼ぶようになり、唯湖さんもそれを許してくれた。
これは僕と唯湖さんの高校生活最後の夏休み前に有った、ちょっとした出来事。

『彼と彼女の巫女さん騒動』

 ある日曜日の朝、僕は唯湖さんに携帯で『見せたい物が有るから私の部屋に来てくれ』
とメールを受け、彼女の部屋の前に来ている。
「唯湖さん、来たよ」
今までの経緯を思い、期待と不安半々でドアをノックする。
「来たか理樹君。まぁ、入って来てくれ」
「じゃあ、お邪魔します」
そう言いながらドアを開けた僕の目に飛び込んで来たのは。
「やぁ、いらっしゃい」
「うあっ!?」
その豊満な体を巫女服に包んだ唯湖さんの姿だった。
「ゆ、唯湖さん。そ、その格好は」
「うむ、ご覧の通り巫女服だ」
「なんでそんな服着てるの?」
「理樹君。君はこの近所の『光神社』を知っているか?」
「うん、この学校の近所に有る神社だよね」
確かバイトの巫女さんが、可愛い子ばかりの神社だとクラスの男子生徒が話題にしていた。
その会話している男子の中に謙吾が混ざっていて、一番熱く語っていたのが凄く印象に残っている。
ぶっちゃけるとその時はドン引きでした、はい。
「可愛いバイトの巫女さんが沢山居ると聞いてな、私も先週見に行ったんだが」
イイ笑顔で神社に向う唯湖さんの姿が容易に想像出来る。
「神社を歩きながら、彼女達の仕事ぶりを眺めていたら神主に声を掛けられて」
「それから?」
「『君の顔を見たらティンと来た! 是非我が神社で巫女のアルバイトをして欲しい』と言われたんだ」
「ふーん」
「もうすぐ受験の時期になってそうそう馬鹿もやれなくなるし『夏祭りの忙しい間だけで良い』
とも言ってたんで少しの間なら良いかと思って承諾した」
言ってる事はもっともらしいけど、僕は騙されない。
「本音は?」
「可愛い巫女さん達と仕事や着替えが一緒に出来る。しかもバイト代まで出ると言う
そんなムッハーなチャンス逃がす方がおかしいだろう常考」
「うん、まぁそんな事だろうと思ってたけどね」
「・・・・・・私が悪かったから、そんな可哀想な人を見る目で見ないでくれ」
心底呆れたと言う表情を作ってやると、冷や汗を垂らしながら謝罪してきた。
「ほどほどにね?」
「あぁ、気を付ける」
でもまぁ、唯湖さんはこういう駄目な部分も可愛いんだけどね。


 
 「それはそうと、私の巫女服姿はどうかな?」
そう言いながら唯湖さんが、僕の目の前でくるりと一回転する。
「凄く、巫女さんです」
「似合っていると取って良いのかな?」
「うん、綺麗だよ」
上半身は白衣と呼ばれる上着と、下はスカート状になっている緋袴。
一回転した際に緋袴がふわりと浮いて、唯湖さんのすらりとした綺麗な生足と白い足袋が見えた。
そして、唯湖さんは今回髪をポニーテールにしていて、それがまた新鮮だ。
いつもは長い髪で隠れて見えないうなじがばっちり見えて凄く色っぽい。
黒い髪と巫女服の白と赤のコントラストが映えて、神秘的な魅力をかもしだしていて、
本職の巫女さんだと言われたら信じてしまいそうだった。
「お気に召してくれたようで何よりだ」
唯湖さんが嬉しそうに微笑む。
「その巫女服は神社からの借りて来たの?」
ふと、入手経路が気になって尋ねてみる。
「いや、これは光神社で採用されている巫女服を真似して私が作った」
「作った!?」
確かになんでも出来る器用な人だけど、服まで自作出来るとは。
「一人で作ったわけじゃないがな。美魚君や謙吾少年に手伝ってもらったのさ」
「西園さんはともかく謙吾も?」
コスプレとか、同人活動とか、そっち方面に詳しい西園さんはまだ分かるんだけど。
「謙吾少年は『巫女服についてなら俺に任せろっ! 腕が鳴るぜヒャッハー』と、実にノリノリだったぞ」
謙吾、どんだけ巫女さん好きなんだよっ!? 
「言うだけ有って腕前は見事な物で、半分以上をやってくれた。その残りを私と美魚君で仕上げたんだ」
「そうなんだ」
なんと言うか、言葉が出ない。
謙吾、もう僕の手の届かない領域にまで行っちゃったんだね・・・・・・
あ、なんか涙出て来た。
「理樹君、心中お察しする」
「うん、有難う唯湖さん。じゃあ、見せたい物って巫女服だったんだ?」
気を取り直して唯湖さんに問う。
「巫女服もだが、見せたい物は他にも有る」
「何かな?」
「実はその神社の夏祭りで行う『奉納の舞』の踊り手に選ばれたんだ」
「アルバイトなのに?」
「まぁ、メインの人の横で踊るサブの位置だがな。本来はアルバイトにはやらせないそうなんだが、
神主は私の身のこなしを見てこれは『イケる』と思ったんだそうだ。神主は人を見る目が有るな」
えへんとその豊かな胸を張って威張る唯湖さん。
そう言う態度が嫌味にならないのは唯湖さんのキャラクターの勝利と言うべきか。
僕の主観が入ってるだけなのかもしれないけれど。
「さて、本題だが。君にその『奉納の舞』を見て貰おうと思って、今日は来て貰った」
「あ、そうだったんだ?」
「まぁ、その、なんだ。最初に見て貰うのは、やっぱり理樹君が良いしな」
「唯湖さんにそう言ってもらえて嬉しいよ」
「そ、そうか、理樹君が嬉しいなら私も嬉しい」
唯湖さんは、髪をいじりながら照れ臭そうに顔を赤くする。
今の僕が鏡を見たらきっとにやけていて、物凄くだらしない顔をしてるはずだ。



「さて、それでは始めるとしよう。本来は巫女服の上に千早と言う上着を着るのだが、
そこまで手が回らなかったんで、今回は省略させてもらう」
そう言うと部屋の中央に立ち、目を閉じて精神を統一し、一呼吸置いてから唯湖さんは舞い始めた。
時に激しく、時にゆったりと流れるように淀みなく軽やかに、華麗に舞う。
僕の乏しい表現力では上手く説明出来無いのがもどかしい。
滅多に見せない真剣な表情に美しさと凛々しさを感じ、時間としては10分位だったけれど、
僕は唯湖さんの舞にすっかり魅了され、すっかり虜となっていた。
「おいっ、理樹君? どうした? しっかりしろ!」
「えっ、あぁ、終わった? ごめん見惚れててぼうっとしてたよ」
唯湖さんに体を揺さぶられて正気に戻る。
「どうだったかな私の舞は?」
「ボキャブラリー無くて申し訳無いけど、凄く綺麗だったよ。妬けちゃう程にね」
「妬ける? どう言う事だ?」
「うん、その舞を奉納してもらえる神様が羨ましいなってね」
「どれだけ嫉妬深いんだ君は」
僕の言葉を聞いて唯湖さんが呆れた顔になる。
「そんな嫉妬はするだけ無駄だ。私には君しか見えていないんだからな?
そうでなければ君一人だけの為に舞を披露したりなどするものか」
「分かってるつもりなんだけど、ごめん」
「まぁ、理樹君の愛を改めて確認出来たし、それでチャラにしてあげよう。
もう夏が近いから暑いな。すっかり汗をかいてしまった」
そう言いながら白衣をつまんでぱたぱたさせつつ、手で扇いで胸元に風を送り込む唯湖さん。
「うぇっ!?」
その時、白衣の隙間から唯湖さんの胸の桜色の先端が見えた。
「唯湖さん、し、ししししし下着はっ!?」
僕が震える指先で胸元を指しながら尋ねると、唯湖さんはにやりと意地の悪い笑みを浮かべる。
「おやおや? どこを見ていたのかな理樹君?」
「あ〜、いや〜、その見たと言うか見えちゃったと言うか」
「もう気付いたと思うが下着は着けていない、上も下もな」
「な、なんでそんな事を?」
「勿論理樹君とこう言う事をする為さ」
「うわあっ!?」
唯湖さんに押し倒され、上に跨られる。
「いつ君にばれるかと踊ってる最中もずっとどきどきしてたんだぞ?」
手を唯湖さんの胸に誘導され、そのまま胸に手を当てさせられる。
「本当、どきどき凄いや」
かく言う僕も唯湖さんの一連の行動で胸がどきどきしている。
「さっき君は神様に嫉妬したと言ったな?」
「う、うん」
「なら理樹君が神様になれば良い」
「はいっ!?」
「まぁ正確に言うなら神様の役を演じるって事なんだが」
いきなりぶっ飛んだ話をされ、混乱する。
「ど、どう言うこと?」
「古来より神話や伝承には神が人間の娘を見初め、そのままお手付きしてしまう話が良く有る」
「まぁ、確かにそうだね」
「つまりだ、君が神の役をやり、私がその人間の娘の役をやってまぐわおうって事だよ」
「ま、まぐわうってまた直球な」
「もし君が受けてくれるなら、私は君の昂ぶりを鎮めてあげよう。君が満足するまでな?」
吐息が当たる程顔を寄せて囁かれ、僕はごくりと唾を飲む。
「さぁ、どうする?」
「断る理由は無いね」
「ほう? 随分あっさり受けたな?」
「実は巫女服見た時にちょっと期待してたんだ。流石に『下着着けてない』は予想外だったけど」
「随分えっちになったものだな」
「おかげ様でね」
「ならば二人で淫らな舞を舞おうじゃないか」
「むぐっ!?」
唯湖さんはそう言うと、僕の方へ体を倒し、その胸を僕の顔に押し付けた。



 それからだいたい1時間後。
「確かに君の昂ぶりを鎮めてあげるとは言ったが、どんだけ頑張るんだ君は?」
「巫女服着た唯湖さんにあてられちゃったからかな〜?」
巫女姿で乱れる唯湖さんが可愛い過ぎて、最高回数を更新しちゃった手前返す言葉が無い。
「でもさ、唯湖さんだって足袋とか髪とか、相当マニアックな事したじゃん?」
「気持ち良かっただろう? 可愛い反応をしてくれたから、ぞくぞくしたよ私は」
「それは、まぁ」
かなり恥かしかったのに、癖になりそうで怖い。
「悔しいっ! でも感じちゃうっ! そんな所かな?」
唯湖さんは、その僕の葛藤に気付いてるみたいでにやにやしている。
完全に否定出来ないのが悔しい。
「と、ところでさ。本番でも下着着けないなんて事無いよね?」
このままだと弄られまくるから話題を変えてみる。
「安心しろ、本来は襦袢や下着をちゃんと着けて舞う。それとも、理樹君は私に『下着を着けずに
衆人環視の前で舞え』とか、そんな羞恥プレイをさせたいのかな?」
「んな訳無いでしょっ!?」
「はっはっは、ちょっとしたお茶目な冗談さ。私の裸を見ても良いのは理樹君だけだからな」
嬉しい事を言ってくれるものの、唯湖さんの冗談は常に心臓に悪い。
「まぁ、本番も期待していてくれ。今日以上に君を魅了してみせるからな」
「うん、期待しておくね」
その後僕達は、二人で寄り添い、のんびり過ごした。



 それから時間が過ぎて夏休みに入り、本番当日。
「唯湖さんやっぱり巫女服似合うね」
「君に言われるのが一番嬉しいな。では、しっかり見ていてくれ理樹君」
「頑張ってね、応援してるから」
「来ヶ谷、時間。早く来る」
「神主さんがお待ちですよ〜」
「恋人との逢瀬は終わった後にしてくれないか? 妬けてしまうぞ」
「あぁ、すまない川澄女史、倉田女史、坂上女史すぐ行く。じゃあ、行って来る」
巫女服を纏った唯湖さんは、他のアルバイトの巫女さん達と一緒に舞台に上がって行った。
確かにメインでは無かったけれど、その踊りは素晴らしく、僕にとってはどの巫女さんよりも
唯湖さんが一番輝いて見えた。
こうして巫女服にまつわる一連の話は終わったかと思いきや・・・・・・



 「なぁ理樹君、確かに最初に誘ったのは私だが、今の君は謙吾少年以上に巫女フェチになってないか?」
巫女服姿で僕に抱き締められながら、半ば呆れ気味に言う唯湖さん。
唯湖さんの巫女さん姿が忘れられず、僕達はこうやって時々巫女さんプレイしてたりする。
「あはは、そうかもね〜? でもさ、唯湖さんだってノリノリじゃない」
「理樹君が喜んでくれるからな」
「ありがとう唯湖さん。やっぱり唯湖さんは最高に可愛い! 巫女唯湖さん最高っ!」
「あぁ、もう。調子が良い奴め」
僕は苦笑する唯湖さんを強く抱き締め、幸せに浸るのだった。




おしまい



 
あとがき

え〜あんぱん大明神様、大変長らくお待たせしました。
なんとか巫女SS完成いたしました〜。
またもや、単なる煩悩だだ漏れな話しでは有りますが、お楽しみいただけたら幸いです。
光神社をネタに使用させていただき有難うございました。
唯湖さんでネタがやりたくなったら、またSS送ります。
それではまた次回の作品で。