『彼と彼女の結婚行進曲』

これは来ヶ谷唯湖と直枝理樹の結婚式前日のお話。

「いよいよ、だね」
「そうだな」
二人並んでパジャマに着替えてベッドに横たわり、明日の結婚式について話している。
「なんだかまだ実感湧かないなぁ。何もかもが上手く行き過ぎて」
「結婚式は明日なんだ。そんな調子じゃ困るぞ旦那様?」
「あはは、ごめんね。凄く嬉しいから余計にね」
「まぁ、分からなくも無いがな」
あまりにも結婚までのプロセスがとんとん拍子に進み過ぎたので、二人がこう思うのは無理も無い。
高校二年生の秋、唯湖に告白された理樹はそれを受けて晴れて恋人同士になった。
それをリトルバスターズのメンバーに伝えた所、色々とどたばたしたが最終的には皆に認められ、公認となる。
 それからの二人は順調に初デート、初キス、初のバレンタインデーにホワイトデー、初エッチとステップアップして行き、校内でも屈指のバカップルとなる。
その最たる例としては、野菜嫌いの井ノ原真人に「今ならゴーヤが生でも喰えそうな気がするぜ」と言わしめる程の甘さだったとか。
 進路を考える時期に差しかかった頃、唯湖から「海外に居る両親が日本に戻ってくるので会って欲しい」と請われ両親と面会したのだが・・・


「まさか泣かれるとは思わなかった。『リズに将来結婚したいと思う程好きな人が出来るなんて。きっとこれは夢に違いない』とはなんだ。全く失礼な」
来ヶ谷唯湖の父親はそう言って大騒ぎし、怒った唯湖にコークスクリューブローでぶっとばされ、その痛みで現実だと認識したそうだ。
「まぁまぁ、『娘をお前なんかにやれるかぁぁぁぁぁぁぁ』って反対されなかっただけでも僕は嬉しいよ」
「しかしだな私を何だと思ってるんだ? ええい、いまだに腹が立つ」
「まぁまぁ。僕は『リズに笑顔を与えてくれて、そして愛してくれて本当にありがとう』ってお母さんに言われたの凄く嬉しかったな」
「むぅ」
当時の事を思い出して憮然とする唯湖を宥める理樹。
「でも、『直枝君って可愛い顔してるのね、リズが悪戯したくなっちゃうのも無理無いわ』って女の子の服着せられた時は、あぁ親子だなと思ったよ」
「母さんも可愛いものには目が無いからな。だが本当に可愛かったぞ理樹君?」
「素直に喜べないってば」
真顔で言う唯湖に苦笑で返す理樹。
『リズにこんなチャンスが巡って来る事は、もう二度と無いだろうからよろしくお願いします』と二人揃って頭を下げられた上、
『どうせなら結婚しちゃいなさい』とあれよあれよと言う間に婚約、結納、そして高校卒業と同時に結婚する事となった。


 最初は理樹も、自分が就職してちゃんと生活出来るようになるまでは、と遠慮したのだが『出世払いで構わないよ、しっかり大学に行ってやりたい事を
見つけてくれば良い。まぁ、私の事業を君に手伝ってもらえれば最高なんだがね』と唯湖の父親に説得され、理樹も素直に好意に甘える事にした。
大変余談ではあるのだが、
「直枝君、私の事は本当のお母さんだと思って遠慮無く甘えてね? ほらママって呼んで良いのよ」
「ええっ? むぐっ」
唯湖と遜色の無い豊満な胸に抱き締められ大慌てする理樹。
「ちょっと待て、いくら母さんでも理樹君は譲らんぞ」
「直枝君、リズとの仲は認めるが私の妻に手を出したら許さんぞっ!」
「いや、僕そんなつもり無いですからっ! お母さんお願いですから離して下さいっ」
「あらあら♪」
こんな事も有ったそうだが、両親へのご挨拶は滞りなく済み、明日がいよいよ挙式の日。


「理樹君。私を選んでくれて、そして愛してくれてありがとう」
「どうしたのさ? いきなり」
「いや、あの事故の時の事を思い出したら、改めて君に感謝したくなっただけだよ」
「・・・・・・」
「私は恭介氏の提案に最初は賛同しておきながら、君を愛して、それを無くすのが惜しくなって皆を裏切ってしまった」
「唯湖さん何度も言うけど」
「まぁ、良いから黙って聞いてくれ。酷い事した上に、他にも君に好意を持っている女子が居るのも知っていて、それでも君が私に好意を持ってくれて
いるのを良い事に私は君を独占してしまった。本当に卑怯な女なんだ」
「そんなに自分を責めないでってば、僕はそんな風に思ってないし、きっと他の皆だってそうだよ」
「結論を急ぐな、まだ続きが有るんだから。確かに私がそうやって自分を貶して責め続ければ、悲劇のヒロイン気取りで自分に酔って、私自身は
それで良いかもしれない。だが、その行為は理樹君を好きだった女の子達と理樹君の優しさに胡坐をかいた傲慢かつ卑怯な態度だ。
それは皆に対する侮辱でしかない。だから私は君を絶対に幸せにしてみせると決めたんだ。理樹君を安心して私に任せてもらえるようにな。
それが、私の義務で、責任だと思っている」
「ねぇ、それじゃあ唯湖さんは義務や責任だけで僕と一緒になるの?」
「そ、それは違う。そういう部分も有るが、君の妻になりたいと思ってる事も嘘じゃない」
拗ね出した理樹に慌ててフォローをする唯湖。
「なら良かった。それに僕は嫌だよ、ただ唯湖さんに幸せをもらうだけなんて。僕は唯湖さんと一緒に幸せになりたいんだからね?」
「ぐは、本当に君はいつもいつも」
笑顔でそう言う理樹に唯湖轟沈。
「僕達二人ともが幸せにならなきゃ、それこそ祝福してくれた皆に申し訳無いよ。だから一人だけ頑張るのは無し」
「私ばかりがこんなに幸せで良いのだろうかと、不安になってしまったのかもしれない。全く私ともあろうものが情け無い」
「気にしちゃ駄目だよ。お互いが不安なときは支え合えば良いんだ。僕達は夫婦になるんだからね」
「・・・・・・やれやれ、理樹君には一生敵いそうに無いな」
「そんな事無いと思うんだけど」
「だけどな、それも悪く無いと思っているよ」
「そっか」
「幸せになろう理樹君。他の皆が地団駄踏みながら、涙やら鼻水やらありとあらゆるものを垂れ流しながら悔しがる程にな?」
「その表現は正直どうかと思うけど。うん、幸せになろう」
「さて、それじゃあ明日に備えて寝るとしようか、おやすみ理樹君」
「え、これで終り? この良い雰囲気でお預け?」
目に見えて落胆する理樹に呆れる唯湖。
「やりたい盛りの性少年なのは分かるが、今日くらい我慢しろ。頑張りすぎて明日の式に差し支えたらどうするんだ?」
「大丈夫だよ、加減するから」
「ええい、そう言って加減出来たためしが一回も無いじゃないか? 私だって我慢してるんだから君も我慢しろ」
「我慢するくらいならしようよ、ガマンイクナイ」
「あぁもう、エッチが絡むと途端に頭が悪くなるな君は」
「唯湖さんが可愛いのがいけないんだ」
「そんな事言っても駄目だ。お楽しみは明日だ明日」
「ちぇー」
「拗ねるなっ! 全く、刹那的に物事を楽しむ性分だった私が、止める側に回る日が来るなんて思わなかったよ」
「じゃあ、我慢するからキスして良い?」
「おまけでハグも認めてやろう」
「分かった。それじゃおやすみ唯湖さん。明日絶対良い式にしようね」
「あぁ、おやすみ」
口付けを交わした後、お互い抱き締め合って眠りにつく唯湖と理樹であった。
「って言ってる端からナニをおったててやがるんだ君はっ!」
「へぶぅっ、ふ、不可抗力です・・・・・・がくり」
まぁ、こんなオチもお約束って事で。



結婚式は問題無く行われたものの、披露宴はカオスの一言であった。
恭介と真人が、
「「来ヶ谷ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、理樹を幸せにしねぇと許さねぇからなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」
とマイク持って泣きながら怒鳴るのに対し、
「もう私は直枝唯湖だ、間違えるな。それに私を誰だと思っている、理樹君は私が責任を持って幸せにしてやる」
「ちょっ、唯湖さん、むぐっ?」
理樹の頭をその豊満な胸に埋もれさせるように抱き締めながら、自信たっぷりに返す唯湖。
「ぷはっ、駄目だよ唯湖さん。二人で幸せになるって昨日約束したばかりじゃない」
「あぁ、すまない理樹君。と言う訳だから、心配は無用だ」
「恭介、真人、僕の事心配してくれて有難う。でも僕はもう大丈夫だから自分達の将来を考えてね? 僕そっちの方が心配だし」
と目の前でいちゃつかれた挙句理樹にとどめを刺され、
「「ぐああああああああ、ジェラスィィィィィィィーーー」」
と悔しさの余りに会場中を転げ回って叫んで、「おめでたい席で騒ぐなぼけー」と鈴に蹴飛ばされた。


そして、お色直しでは。
「絶対やると思ってましたよコンチクショーーーー!」
「まぁ良いじゃないか。これも良い思い出になるさ」
「一生物のトラウマだよっ!」
唯湖の母親を含む女性陣が、結託して理樹にウエディングドレスを着せられ、これが参列者の男女問わずに大絶賛された。
唯湖もタキシードを着て男装し、『姉御、宝塚の男役みたいでカッコイー!』と葉留佳を筆頭に好評であった。
「はっはっは、正しく理樹君は俺の嫁と言った所だな♪」
「嬉しくないってば」
新婚初夜の話だが、もう語るのも野暮ってもんであろう。
昨日お預けを喰らった理樹君の股間の波動砲は、エネルギー充填200%で、バーサーカーソウルでずっと俺のターンだったとだけ記しておく。


 十数年後の直枝家の食卓にて。
「と、まぁこれが私と理樹君の結婚式の経緯さ。いやもう理樹君が元気過ぎて困った困った。ウェディングドレス姿の私に理性がぶっ飛んで
ホテルの部屋に入るなり押し倒されたし、お風呂でもベッドでも何度も求められて私はたじたじだったよ」
唯湖は自分の娘である直枝理佐に当時の事を語っていた。理樹のハッスル振りも包み隠さず。
「と、年頃の娘に夜の生活の事まで語らなくても良いんじゃないかなぁ?」
多感な14歳の理佐には刺激が強すぎたようである。
「何、これも性教育の一環だと思えば良い。そういう事が分からない年でもあるまい?」
引きつった笑みを浮かべる娘にすました顔で流す唯湖。
「でも、お母さんもそうやって悩んだりしたんだ? 恋する乙女って感じで可愛ったんだね♪」
「ほう、生意気な事言う悪いお口はこれかな? だいたい私はまだ現役だ。そういう意地悪な所は父親に似やがって」
「い、いひゃい、いひゃいよおはーはんっ! ほっへたひっはるのやめへぇ〜!」
「流石我が娘。張りが有って柔らかいほっぺただな。ほれほれ学級文庫と言ってみろ」
からかう娘にそれ以上の制裁を加える唯湖。このあたりは年を重ねても相変わらずのようだ。
「悔しかったら、理樹君並に素敵な彼氏でも連れて来るが良い。私が品定めしてやる」
「お母さんそのまま手を出しそうで怖いんだけど?」
「私には理樹君と言う最高の旦那様が居るんだから、そんな事はしないさ」
「はいはい、ご馳走様です」
「せいぜい理佐と彼氏君を弄り倒す位だよ」
「だからそれをやめて欲しいんだってば!」
「まぁ、見た目は優しそうで可愛くてもあっちの方はバーサーカーと言う子も居るからな。気を付ける事だ」
「もうその話は良いよー」
「ふーん、楽しそうな話してるね? 二人とも」
「な゛っ!? 理樹君」
「あ、お父さん」
二人の所に唯湖の夫で、理佐の父の理樹が苦笑しながら入って来た。
唯湖はやっべーという表情を、理佐は私知らないよーって表情をする。
「いっつも僕ばかり悪者にして、ちょっとずるいんじゃないかなぁ?」
「いやまぁ、あれは分かり易くする為にちょっと脚色しただけであってだな?」
「はいはい、どうせ僕はおっぱい魔人で、スケベ大魔王ですよ」
「いやそこまで言って無いぞ私はっ! ってこら何をするんだ理樹君?」
理樹は拗ねた表情で唯湖をひょいっとお姫様抱っこの要領で抱き上げる。
「理佐、話してる所ごめんね。僕は唯湖さんにちょっと話が有るから借りて行くよ?」
「あー、はいはいどうぞご自由に♪」
唯湖の抗議をガン無視して二人で勝手に話を進める理樹と理佐。
「じゃあ僕達の部屋に行こうね唯湖さん。言い訳はベッドの上でたっぷり聞いてあげるからさ」
「ちょっ、朝から何をする気だ? こら、降ろせ理樹君」
「アーアーキコエナーイ」
色々な意味ですっかり逞しくなった理樹は、じたばた暴れる唯湖をものともせずに部屋へ連れて行った。
「まぁ、今のはお母さんの自業自得だよね」
一人残された理佐は苦笑する。
「でも、恋人になってから随分経つのにいまだにあれだけ仲が良いってのは凄い事だよね。私もあんな恋出来ると良いな」
と理佐はラブラブな両親を羨むのであった。


そして、理樹と唯湖の部屋では。
「ようしっ、唯樹(息子)と理佐に弟か妹作ってあげよう〜♪」
「ちょ、待て理樹君。あれは私が悪乗りし過ぎた。だから落ち着いてくれ」
「大丈夫大丈夫♪ 僕達まだまだ現役なんだからやってやれない事は無いさ」
「あぁぁん、こらぁっ、話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇっ」
本当に弟か妹が出来たかどうかは、ご想像にお任せいたします。



お・し・ま・い