『彼と彼女のSWEET VALENTINE』

 

 今日は2月14日。
僕と唯湖さんが恋人になってから初めてのバレンタインデー。
一週間くらい前から「理樹君にはとっておきのチョコレートをプレゼントしよう」なんて言われていて、
それまで縁が無かった僕は、前日のうちから心が躍っていた。
鈴はバレンタインデーをチョコを食べる日くらいにしか認識してなかったし。


 女子寮の前で合流し、二人で、たまに他のメンバーも交えながら朝食を食べて登校するのが僕達の最近のスタイル。
並んで歩きながら、唯湖さんが尋ねてきた。
「理樹君、今日は何の日か分かっているな?」
「バレンタインデーだよね。」
「うむ、期待しているよ理樹君。」
「へっ!?」
期待している? どういう事?
「唯湖さん僕にくれないの!? 前にくれるって言ったよね?」
「いや、今考えたんだが、理樹君が女装して私にチョコをくれると言うのも良いなと思ってね」
「え〜?」
「その分ホワイトデーでお返しするから」
「いやいやいや、それ僕が普通に変態だよね?」
「謙遜するな理樹君。君なら女装もばっちり似合うさ」
「絶対やらないからね。それに嫌だよ僕、唯湖さんからチョコもらえないなんて」
「冗談さ。ちゃんと理樹君への愛情と欲情をたっぷり込めたチョコを用意しているよ。
ただ、学校内では渡せないチョコだから夕食後に私の部屋に来てくれ」
相変わらず来ヶ谷さんの冗談は心臓に悪い。
それにしても学校内で渡せないチョコってどんなのだろう?
ちょっと、いや凄く気にはなる。だけど、後になれば分かるだろうしそれまで楽しみにしていよう。



 教室に着くと、遊びに来ていた葉留佳さんに出会った。
「理樹君、はいチョコレートですヨ。それと、こっちはお姉ちゃんからだって。もう、義理チョコ渡すだけなのに
恥かしがり屋さんなんだから」
と、自分の分と二木さんの分のチョコレートを渡された。
それから小毬さん、クド、西園さん、そして驚いた事に鈴からも渡される。
「理樹、チョコやる。喰え」
「鈴、作ってくれたの?」
「こ、小毬ちゃんが一緒に作ろうって言ったからしょうがなくだ。義理だぞ?」
「義理でも嬉しいよ。有難う、鈴」
「分かれば良い」
凄く照れ臭いのだろう、顔がかなり赤くなっていた。
「ふふふ、鈴君は初々しいな。実に可愛いぞ♪ だが理樹君は渡さん」
「誰が取るかっ! はなせーっこらー」
その姿に萌えた唯湖さんが、鈴に抱き付き&すりすり攻撃を敢行していた。この二人もちっとも変わらないなぁ。
「あれ? 姉御〜。姉御は理樹君にチョコあげないんデスカ?」
そんな唯湖さんに、葉留佳さんが尋ねる。
「いや、今日の夕方に私の部屋で二人きりでいちゃいちゃしながら渡すつもりだよ」
「いや〜、あはははは。相変わらずラブラブですね〜、聞いてる方が恥かしくなっちゃいますヨ」
「はっはっは、照れるじゃないか」
「も〜、姉御にここまで言わせるなんてこの色男〜。憎いぞコンニャロー」
葉留佳さんはそう言いながら、僕の背中をバシバシ叩く。
「ちょっ、痛いってば葉留佳さん」
僕と葉留佳さんがそんな会話をしていると、唯湖さんが真人と謙吾、そして就職が決まってからほぼ毎日
遊びに来ている恭介の所に向かう。



 「おっと、忘れる所だった。そこの三人。君達にも義理チョコをくれてやろう」
そう言って三人ににチョコレートの箱を渡した。
「君達にも何かと世話になってるしな。有り難く受け取れ。心配せずとも毒など入っていないから安心しろ」
「「「・・・・・・」」」
三人は揃って顔を見合わせた後、校舎の窓に歩いて行ってから外を見た。
「なんだその態度は?」
唯湖さんが怒りで目を細める。
「「「だって来ヶ谷が俺達にチョコレートくれるなんて、隕石でも降って来るんじゃ無いかと思ったんだ」」」
どうして彼らは自分から死亡フラグを作ろうとするんだろう。
「ほう、ならば貴様等の今日の天気は、晴れ後白刃と言う事になるが、それで良いのだな?」
いつの間にか模造刀を抜き、刺突の構えを取っていた。
「貴様等の頭をまとめて串刺しにして『だんご三馬鹿』として売店に売り出してやろうか?」
売店の人がトラウマになりそうだからやめてあげて。
「「「あ、ありがたく頂戴いたしますです、マム」」」
綺麗に声をハモらせ、敬礼をビシッと決めて返答をする三人。
最初からそうしておけば痛い目に遭わないのになぁ。
「全く、君達もそんな風にいつも素直だったら良い男なんだから、少し落ち着いたらどうだ?
まぁ、理樹君には遠く及ばないがな」
「「「ポカーン(゜д゜)」」」
そう言ながら溜息をつく唯湖さんに、三人が惚けた顔になった。



 「理樹、ちょっとこっち来い」
「えっ、ちょ、何?」
唐突に三人に教室の隅に引っ張られる。
「なぁ理樹、あれ本当に来ヶ谷か?」
「別人が来ヶ谷の着ぐるみ着てるって訳じゃねーよな?」
「いつものあいつとは思えん態度だぞ?」
それからひそひそ声で尋ねられる。
いやまぁ、疑いたくなる気持ちは分からなくも無いんだけどさ。
「その線は無いよ、今日は僕が部屋に迎えに行って、一緒に朝食摂ってからもずっと一緒に居たし」
「だが、相手は来ヶ谷だ、何が起こっても不思議じゃない」
と恭介がなおも食い下がったその時。
「やはり貴様等は私のあま〜いチョコレートよりも、熱〜い弾丸の方がお好みのようだな?」
唯湖さんが顔を俯かせ、冷たい雰囲気を纏いながらそう呟く。
これは彼女が本気で怒った合図だ、僕もう知〜らないっと。



 「美魚君」
「はい、来ヶ谷さん。ご注文の物は出来ております」
来ヶ谷さんが指をパチンと鳴らすと、その横にすっと西園さんが現れトランクを取り出した。
「ほう、見せてくれ」
「今お届けしようと思っていましたが」
そう言ってトランクを開く。中に入っていたのは。
「対化物戦闘用13mm拳銃『ジャッカル』今までの454カスール改造弾使用ではなく 初の専用弾使用銃です。
全長39cm 重量16kg 装弾数6発。もはや人類では扱えない代物、のレプリカです。専用弾 13mm炸裂徹鋼弾」  
「弾殻(だんかく)は?」
「純銀製 マケドニウム加工弾殻」
「装薬は?」
「マーベルス化学薬筒 NNA9」
「弾頭は? 炸薬式か? 水銀か?」
「法儀式済み 水銀弾頭なんて当然有りませんので、硬質ゴム弾を改造した物になってます。
それでも人に向けて撃つには危険過ぎる代物ですが、『あの三人なら大丈夫さ!』とマッド鈴木が
サムズアップしながら保証してくれました」
「パーフェクトだ 美魚君」   
「感謝の極み」
「「「鈴木ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」」」
唯湖さんと西園さんがどこかで見た事が有るようなやりとりをしながら、銃の受け渡しをしている。
最近二人とも、科学部に遊びに行ってたようだから何かと思ったら、こんな物を作っていたのか。
西園さんも唯湖さんと一緒だと悪ノリして滅茶苦茶するんだよなぁ。
「では、教育してやろう。豚のような悲鳴を上げろっ!」
「「「あぎゃああああああああああああああああああああああああっ!」」」
ドゴン、ドゴンと銃をぶっ放す唯湖さんと吹き飛ぶ恭介達。結局いつものパターンか。
ちなみに他のクラスメートの皆さんはとっくに避難済みだったりする。
「止めないのですか? 直枝さん」
西園さんが聞いて来る。
「う〜ん、唯湖さん楽しそうだし、恭介達も全然学習しないからね。良い薬だと思うよ?」
正直フォローする気力も湧かない。
「心中お察しいたします」
げんなりした顔で呆れる僕に、西園さんが心底気の毒そうにそう言ってくれた。
「貴様等此処から生きて帰れると思うなよっ? ブチ殺すぞ人間(ヒューマン)!」
「「「お許し下さい来ヶ谷様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」
「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
唯湖さんの哄笑と銃声と恭介達の悲鳴が教室内に響き渡るのだった。
違和感が全く無い。お願いだから人外にはならないでね唯湖さん?



 恭介達が土下座して謝罪し、唯湖さんからチョコをもらった後。
恭介が鈴からチョコをもらって有頂天になって抱きついた挙句、鈴に蹴飛ばされたり、
謙吾がチョコを抱えた笹瀬川さんを筆頭としたファンの女の子達に追いかけられて学校中を逃げ回ったり、
真人が義理とは言え沢山チョコをもらえて号泣したりと、それ以降は比較的穏やか(?)に時間は過ぎて行った。



 それから放課後。唯湖さんの部屋に僕は居る。
「恭介氏達にも困ったものだな。人の感謝の気持ちも素直に受け取れんとは」
こんな調子で唯湖さんはご機嫌斜め。
「いつもがいつもだから警戒しちゃったんじゃないかな?」
「まずそこからおかしいんだ。だいたい私から仕掛けた事などほとんど無いんだぞ?」
確かに恭介達が仕掛けて来て唯湖さんは迎撃ってパターンが多い。
唯湖さんの仕返しは1024倍返しだから、普通の人ならもう関わりたくなくなるはずなんだけど。
「理樹君を弱いなどと言っておきながら、自分達が理樹君離れ出来て無いじゃないか? あの執着は正直引くぞ」
今日は余程腹に据えかねたのかいつもより文句が多い。
確かに彼らの僕への執着はちょっとおかしいかも。
「こうなったら、私が徹底的に奴らの性根を叩き直してやるしか手は無いな。そう、ハートマン軍曹のように」
そんな事されたら教室が新兵訓練キャンプになっちゃうよ。
唯湖さんが、放送禁止用語連発で罵る。うん、笑えない。
「ね、ねぇ唯湖さん。せっかく二人きりなんだし、僕早く唯湖さんのチョコ食べたいな?」
これはどうにかして話題転換しないとね。
「まだ文句を言い足りんが、確かに君との時間をそんな事で潰すのも勿体無いな。良いだろう、少しだけ待ってくれ」
そう言うと机の引き出しを開け、箱を取り出して僕の前に置く。
「これが私の、君への想いだ」
唯湖さんが箱を開けると、『RIKI I LOVE YOU』とアルファベットチョコで作られたメッセージが目に飛び込んで来た。
「流石にこれを皆の前で渡すのは気が引けてな、作る時も調理室を借りて一人で作ったんだ」
少し頬を染めて目を泳がせながらそう言う唯湖さん。確かにこれをクラスの皆の前で受け取るのは恥かしいかも。
「ちなみに、恭介氏達にはアルファベットチョコで『GIRI』と並べて渡してある」
唯湖さんのチョコを見て、なんとも言えない顔をする恭介達が想像出来た。
「本当は私のおっぱいで型を取ったチョコをあげようかと考えたんだが、手間や片付け等を考えて今回は見送ったよ」
断念してくれて助かった。
「まぁ、それもいつか挑戦してみるから楽しみにしてるが良い」
「あ、あははははは」

来年唯湖さんに弄り倒されそうで怖いなぁ。



 「さて、それでは私が食べさせてあげよう。ほら、あ〜ん」
「あ〜ん」
唯湖さんがチョコをつまみ僕の口元に持って来る。
素直に口を開けると指でチョコを押し込まれた。
「味はどうだ?」
「極端に甘く無いし、食べ易くて美味しいよ」
「そうか、良かった。毎回味身はしているが、君の反応が一番気になるからな」
そう言って、微笑む唯湖さん。
「ほら、どんどん行くぞ」
そう言うとまたチョコを摘んで僕の口に放り込む。
5個目まで同じように食べさせて貰ったら、喉が渇いてきた。


 「唯湖さん、飲み物もらって良いかな?」
「そう言うだろうと思って紅茶を用意して有る、これを飲むと良い」
「ありがとう。ちょっと変わった香りがするけど美味しい」
「あぁ、今日の為に特別なお茶を用意したからな。遠慮せずたっぷり飲むと良い。そう、たっぷりな」
なんだか意味深だなぁ? まぁ、いつもの事か。
「よし次はこうだ」
唯湖さんはそう言ってチョコを摘むと、自分の口に咥えて手招きする。
これは口移しですか、そうですか。
ここで引いたりすれば間違い無く機嫌を損ねてしまう。仕方がないので素直に唯湖さんの唇に口を寄せる。
とは言え恥かしいので、自分の唇で唯湖さんが唇で挟んでるチョコを素早く抜き取った。
「ん? むぅ!」
無言で恨めしげに睨まれる。どうやらちゃんと唇を重ねなかったのがご不満らしい。
「んっ!」
再び唇でチョコを咥えて再度手招き。これ以上逃げたら何をされるか分からない。
「ん、ちゅ、ちゅく、んっ、んむっ」
今度はきちんと唇を重ね合わせ、唯湖さんの唇とチョコを同時に味わう。
「ぷはっ。さて、お味はどうだったかな」
唇を離し、少し頬を上気させた唯湖さんが僕に尋ねる。
「凄く、甘いよ」
「ならば、次はもっと甘くしてあげよう」
今度は舌の上にチョコを乗せ、僕に向けて突き出す。
「れろっ、ちゅぱ、くちゅ、じゅる、ちゅ、れろ」
遠慮するのも今更なので、僕も舌を出して唯湖さんのそれに絡め、ディープキスに移行させた。
唯湖さんの唾液の味とチョコの味が混ざり、それが相乗効果になって甘さ以外に何も感じなくなる。



 同じようにして唯湖さんの舌や唇と一緒にチョコを味わって更に4個食べ、次のチョコを唯湖さんが咥えたその時。
「おっ〜と? いかんチョコを落としてしまった」
唯湖さんが唇を滑らせてチョコをよりによって胸の谷間に落っことした。凄くわざとらしい。
「すまん理樹君。取ってくれ」
あんですとー!?
「えー? 自分で取ってよ」
「嫌だ。理樹君が取ってくれないならこのままにしとく」
はい、無茶振り入りました。
「もう、しょうがないなぁ」
「うむうむ、人間素直が一番さ」
渋々手で唯湖さんの胸の谷間に有るチョコを取ろうとしたら、腕を掴まれる。
「待て、そんなつまらない取り方を私が許すと思うのか? こんな時は口で取るだろう常識的に考えて?」
何の常識?
「ほらほら早くしてくれないとチョコが溶けてしまうじゃないか」
腕で胸を寄せて更に強調させながら催促してくる。ええい、ままよ!
「そうそう良いぞ」
恥かしさとだんだん近づいてくる唯湖さんの胸にくらくらしながら、チョコを咥えた。
もうチョコの味なんて分からない。顔も体も熱くて爆発しそうだ。
「良く出来ました。と、言いたいところだが」
「へ?」
「君がもたもたしたせいで溶けたチョコが胸についてしまったぞ」
唯湖さんの胸の谷間を良く見るとうっすらとチョコが付いていた。
「責任取って、舐めて綺麗にしてくれ」
「・・・・・・本気?」
「私はいつも大真面目だが?」
ですよねー。
「分かった、じゃあ綺麗にするね」
唯湖さんの胸に舌をはわせる。
「んっ、そう、そこだ理樹君」
チョコなんてほとんど付いて無いから唯湖さんの柔らかい胸の感触しか感じない。
気が付けば、夢中になって谷間を舐めていた。
「んふふっ、私のおっぱいは美味しいか?」
「うん、とっても」
もうごまかそうとか、そんな気持ちも起きない。
「なら、ベタな展開で悪いが、次は私そのものを味わってみないか?」
そう言いつつ、唯湖さんは上着を脱ぎブラウスのボタンを一つずつ見せ付けるように外して行く。
「いや、でもさぁ?」
もう紙同然の理性で抵抗してみたけど・・・・・・
「そっちの理樹君は、もう我慢出来ないみたいだぞ?」
すっかり高ぶってしまっている股間を指差された。うぅ、恥かしい。
「まぁ、こうやって誘ってる私も限界なんだ。応えてくれると嬉しい」
唯湖さんは僕にのしかかりながら、耳元でそう囁く。
うん、僕の理性頑張ったよね? もうゴールしても良いよね?
「い、いただきます!」
「あぁん♪」



次の日の朝、所謂『朝チュン』状態の僕達。
「しかし、冗談で混ぜていたのだが良く効いたな」
「何の事?」
「理樹君がその気に、そして元気になるように紅茶にこれを混ぜた」
唯湖さんが僕に一本の瓶を見せる。そのラベルに書かれていた名前は、
マ〜カビンビン♪ マカビンビ〜ン♪ と某有名ラジオ番組でもおなじみの『マカビンビン』だった。
どうりで昨晩いつも以上に頑張れた訳だよ。
「いや〜、味をごまかすのに苦労したよ」
「そんな苦労しなくて良いから」
この人は本当にもう。
「最初からこうするつもりだったの?」
「君は洞察力が足りないな。例え皆に見せるのが恥かしいチョコだったとしても、それなら放課後に
放送室にでも連れ込めば済む事だろう? それとも、この展開を期待していたのかな?」
意地悪く笑いながら僕の頬をつつく。あぁ悔しい。
「それでどうだったかな今年のバレンタインデーは? 楽しんで貰えたか?」
「十分過ぎる程にね」
「そうか、良かった。」
にこりと微笑む唯湖さんはやっぱり可愛い。
「理樹君? んんぅっ」
抱き締めてキスをしながら、ホワイトデーどうやってお返ししようかなと考える僕であった。