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4月、高校3年生の春
教師の企みか分からないけど、恭介が卒業して「リトルバスターズ」の新リーダーとなった僕は皆とは違うクラスになってしまった
やっぱり騒ぎを起さない為だろうか、あの8人の中の誰一人として同じ教室に居ない
それでも今は寂しいとは思わない、いやそりゃ皆と違うクラスで寂しいのだけれど
ここには、この教室には僕の大事な人が居るから――

4間目の授業が終わって昼休み

「行こう、笹瀬川さん」
「ええ、行きましょうか」

さささっさs
・・・
笹瀬川佐々美さん、去年の10月頃以来付き合ってたりするのだ
お嬢様の文字がそのまま歩いてそうな笹瀬川さんと一緒に遭遇したあの奇妙な体験
それは夢のような物だけど、夢の中で起きた事は僕達にとっては現実で
その夢が終わっても僕達の中にはそこで見て聞いて経験した事がしっかりと残っている

それまで鈴のライバルとしか見てなかった笹瀬川さんの事をいっぱい知りたくて
それまで鈴と一緒に居るとしか見られてなかった僕の事をいっぱい知って欲しくて
僕は彼女が好きになった
彼女も僕を好きになってくれた
夢が終わってもまだ夢の中に居るような気さえしていた
だって僕は彼女が好きで、彼女も僕が好きだから

「急ぎますわよ、直枝さん」

少し駆け足になって購買を目指す
割と人気のあるサンドイッチの類は直ぐに売切れてしまうのだ
時々笹瀬川さんはお弁当を作ってきてくれるけど
今日はパンが食べたい気分らしい

「ま、まってよ笹瀬川さん!あんまり走ると佳奈多さんに見つかっちゃうよ!」

風紀委員長の二木佳奈多さんは葉留佳さんの双子のお姉さんで、去年の夏までは家の事情で“仲が悪い状態”じゃないとダメだったらしい
詳しい事情は知らない
でもあの事故以来仲直りして、そのおかげか佳奈多さんの物腰が柔らかくなった(気がする)

ビシッ!
急に笹瀬川さんが止まった

「え!ちょ、ちょっと、どうしたの?笹瀬川さん」
「二木さ・・・前で・・・は・・・」

何かぶつぶつ言いながら下を向いている
そんなに佳奈多さんに見つかるのが怖いのだろうか?

「笹瀬側さん!早くしないとサンドイッチ売り切れちゃうよっ」
「わ、分かってますわよ!行きますわよ!」

そして急に、今度は走り出す笹瀬川さん
まだまだ彼女の事はよく分からない

「わっ!走っちゃダメだって!」

何とか二人分のサンドイッチを手にして中庭の方までやってきた
食べ物を前にした学生ほど恐ろしい物は無い、とかの有名な人も言っていた(と恭介が言っていた)
春なんだから桜でも咲けば綺麗なのに、残念ながらここに桜の木はないらしい
ベンチに二人、飲み物とサンドイッチを手に腰掛けた

「あー気持ちいいね、春だなあ」
「本当ですわね、春は大好きですわ」
「猫もそこいらじゅうで昼寝してる、てかホント多いね猫・・・」
「あら、可愛いらしいじゃありませんか」

そう言って微笑む笹瀬川さん、物凄い可愛い、思わず見とれてしまう

「どうしたんですの?」

こちらを向きながら訊かれる
照れ隠しに欠伸一つ

「眠くなってきちゃった」
「この陽気ですからね、私も少々眠気がさしますわ」

皆とクラスが違うと言う事もあって、最近は放課後以外もっぱら二人で居る事が多い
放課後は勿論僕はリトルバスターズの皆と、笹瀬川さんはソフトボールの部活
だから昼休みも当然二人っきりな筈なんだけど・・・

「あっ!さーちゃーん、理樹くーん!」

今日は小毬さんに遭遇
そう、最近皆の中の誰か1人と昼休みにかち会うのだ
昨日は葉留佳さん、三日前は鈴に見つかってその前は恭介がやってきた事もある
恭介仕事は大丈夫なのかな・・・何故かこの学園でよく見かけるのだ

「あ、小毬さん、こんにちは」
「あら・・・神北さん」

小毬さんは元から笹瀬川さんと仲が良い事もあって割と3人で居る事も多かったり
だから話も弾む筈なんだけど・・・笹瀬川さん、機嫌悪い・・・?
少し棘のある挨拶だった気がする

「ふぇ・・・?さーちゃん、具合でも悪いの?」
「い、いえ、そんな事ありませんわよ?」

そんな事もないみたいだ、やっぱりまだまだよく分からない
その後3人で仲良く昼ごはんを食べて過ごした
何故かマタタビを持っていた小毬さんが猫に埋もれていたけど
もう時間も少なく、教室に向かう時に

「どうし・・・神北さ・・・名前で・・・わたくしは」

またぶつぶつ言ってる
どうしたんだろ・・・

「大丈夫?笹瀬川さん、やっぱり具合悪いの?」
「何でもありませんわっ!」

そう言って教室にまた走り出す

「わわっ、だからダメだって走っちゃ!」

放課後
リトルバスターズの皆でかくれんぼ+だるまさんが転んだをやった
残念ながら笹瀬川さんは部活だ、晴れて部長となって部活を休むのも難しいらしい
これは遮蔽物の多い場所で鬼が目を瞑って「だーるまさんがこーろんだ」と言い目を開ける
他のメンバーは鬼に見つからないように隠れて、鬼が目を瞑っている間に鬼にタッチすると言うゲーム
コレが中々難しい、なんたって全方向OKなのだ、勿論上も
普通の「だるまさんが転んだ」なら一方向にだけ意識をむけたら済む事だが、これは360度、何処にだって隠れていいのだ
コレだけ聞くと鬼が圧倒的に不利に思われるが、そんな事もない
以前缶ケリする時に恭介が用意したセンサーを皆付けているので、近付いたら音が鳴る様になっている
それに鬼は「だーるまさんがこーろんだ」のいつでも目を開けてもいいのだ
はっきり言って掛け声は不要だが、やっぱり必要なのだ
両者緊張感が計り知れない

放課後と言う事もあり時間制限を設けた
タッチされるかブザーが鳴るかで鬼が交代だ
まず僕、次に鈴、西園さん、クド、謙吾、葉留佳さんと言う順番
そして最後には真人が鬼になった
もう日も暮れ皆帰る気満々だったが真人がどうしても、と言うので仕方なく付き合う事に
1人やる気満々な人が

「筋肉さんがこ〜むらが〜えった!」
「筋肉さんがこ〜むら・・・」
「見つけたぜ謙吾ォ!」
「はっ!しまったああぁぁ、俺とした事がああぁぁぁ!」

あぁ・・・謙吾・・・遂に脳味噌にも筋肉革命したのか・・・

「あいつばかだ」

隣に居た鈴が声を抑えてつっこむ

「少年」

急に耳元で声がした

「わっ!来々谷さん、黙って後ろに居ないでよ、吃驚するじゃない」

慌てながらも小声で話すのは忘れない、何てったって今はゲームの真っ最中なのだ

「いや、これはまだやらないといけないのか?」
「え?どういう事?」
「いい加減に疲れてきてな、それに小毬君も西園女史も限界のようだ」

そう言い後ろを指差すとそこにはぐったりとした小毬さんと西園さんが

「も〜う〜だ〜め〜」「疲れました・・・」

本当にダメみたいだ・・・
しょうがない
僕はゲームの終了を告げようとメールを打ち始めると

「ちょっと待て少年」

来々谷さんに止められた

「ん?」
「この時間までやってるのもあの馬鹿に付き合っての事だ、少し灸をすえてやろう」
「えええ・・・」
「取り合えずあの馬鹿以外には終了の旨を送ってくれ」
「うん、まあ」

言われた通りにメールを出す

「出したよ、来々谷さん」
「よし、帰るか」
「いやいやいや、真人はどうするのさ!」
「永遠に筋肉をこむらがえしておけばいい」
「ええええ・・・」

いやまあ、真人が無理言ったわけだし、それでも流石に酷いんじゃないだろうか・・・
そんな事を考えていると、来々谷さんに連れられて寮の前まで来ていた

「ごめんよ真人・・・」

僕は心の中の優しい筋肉に謝った・・・いや、真人に

その後真人が怒りながら部屋に入ってきた

「おい理樹!どうして先に帰っちゃってんだよ!その筋肉があれば1人でも大丈夫ですよね、無駄にある筋肉で永遠にこむらがえっていてくださいねって言いたいのかよっ!!」

出たっ!お金を払ってでも聞きたくなってしまう真人の言いがかりだっ!
まあ今回は中々言い当ててるけど・・・
とほぼ同時に来々谷さんから電話がかかってきた

「少年、あの筋肉馬鹿に代わってくれ」

何で帰ってきたって知ってるんだ・・・?
そんな疑問は脳味噌の筋肉の隅に置いといて、真人に携帯を渡す

「なんだ、来々谷!」

威勢よく携帯に怒鳴る真人
の顔がどんどんおかしくなっていく
仕舞いには死んだ魚のような目をしてうつろに僕を見て

「理樹・・・俺これからは便所カバーとして生きていく・・・」
「えええ・・・」
「どこかで会ったら便器にしいて使ってくれ・・・」
「いやいやっ、気持ち悪いから・・・」

そういいながら部屋を出て行った
相変わらず何言ったんだろうか、来々谷さんは・・・
ふと携帯のディスプレイを見ると新着メールの記号が

『今から会えませんこと?』

笹瀬川さんからだ
急いで返信する

『大丈夫だよ、どこに行けばいい?』

『ではあの場所まで来てくださる?』

すぐに返ってきた
待ってたのかな・・・悪い事しちゃったな

『うん、今から行くよ』

そんなこんなで今校舎裏
笹瀬川さんが飼っていた黒猫のお墓があるところだ
この猫の思いが作った「世界」以来ここは二人だけの場所となっている
いやまあ、占領してる訳じゃないけど・・・
校舎裏に急ぐとそこには既に笹瀬川さんが居た

「どうしたの笹瀬川さん?」
「・・・やっぱりそうなのですわね」
「・・・え?」

何の事かよく分からない
当の本人を見ると何故か俯いている
――やっぱりそうなのですわね・・・?
何が“そう”なのだろうか、今の格好?
でもいつもと同じ制服だし・・・

「えーと・・・何の事?」
「あの、その・・・」

んんー何か話しづらい事なのかな
恥ずかしがり屋な彼女は大事な話の時はよく言葉を濁す

「で、ですからっ!どうして二木さんや神北さんはっ!名前でお呼びになって・・・わたくしは・・・」

ああ、なるほど、そういう事か
別に意識してたわけじゃなくてそれまでの惰性と言うかなんと言うか
でも僕はこの時ちょっとした悪戯心が芽生えてしまったのだ

「じゃあ、笹瀬川さんも僕の事名前で呼んでくれないかな?」
「え・・・えええええっ!!そ、そんな事・・・わたくし・・・」
「僕だけだと不公平でしょ?」
「で、ですが・・・」

名前で呼ぶぐらいでそんなに恥ずかしがらなくても・・・

「ど、どうしてわたくしがあなたの事を名前で呼ばないといけなくてっ!?」
「えーじゃあいいよ、さ・さ・せ・が・わ・さん」
「・・・っ!!」
「それじゃあまた明日」

言いすぎかな・・・ごめん、佐々美さん
心の中で謝り歩き出そうとすると

「ま、待ちなさいっ!殿方の方から行動するのが普通ですわっ!!」

女尊男卑なこの世の中でよく言いますね・・・

「分かった、佐々美さん」
「・・・っ!!!」

顔を真っ赤にして驚いた表情の佐々美さん
自分で言い出した事なのに・・・
それでもまだ僕の事を呼ぶのは躊躇しているようだ・・・

「あのね、佐々美さん」
「ひぇ!!?な、何かしら!?」
「いや、そんなに吃驚しないでも・・・」
「どうでもいいですわよっ!で、何なんですの?」
「僕はね、好きな人の事はその人の名前で呼びたい」

赤い顔を更に赤めて、それを隠すように俯く

「だから大好きな人からはやっぱり名前で呼んでほしいんだ、佐々美さん」
「・・・」
「それとも佐々美さんは僕の事、嫌い?」
「そんなっ!そんなわけ無いでしょっ!!わたくしはあなたの事が大好きで・・・あ」
「じゃあ・・・ね?」

出来る限り自然に微笑む
うまい事笑えてるのか心配だけど
彼女の想いを聞けて頬は緩んでるから大丈夫

「・・・」
「だめ?」
「わ・・・分かりましたわよっ!!わたくしも呼べばいいのでしょう!?」
「うん」
「・・・・っ!!即答ですわね・・・・理樹、さん」
「うん、合格、かな」
「な・・・何ですの、そのい・い・か・た・はあぁぁあ!!」
「ひ、ひょっほ、ひはいほ」
「うるさいですわね!罰ですわっ!!」

僕の頬をむんずと摘んで上下左右に引っ張る
い、いたい・・・

「これで勘弁して差し上げますわ、まったく・・・」

真っ赤になった(想像だが)頬を擦る
熱い・・・酷いなあ、佐々美さん
それでも彼女との距離が一歩近付いたようで嬉しい

「じゃあ、今日はもう遅いしそろそろ寮に戻ろうか?」
「そ、そうですわね。ごめんなさいね、呼び出してしまって」
「ううん、可愛いい佐々美さん見れたからいいよ」
「・・・っ!!」

あ、恥ずかしい・・・
見ろ、佐々美さんの顔がトマトのようだ!!

「じゃ、じゃあ、おやすみ佐々美さん」
「ええ、お休みなさいませ・・・理樹さん」

なんかこそばゆいな

「あ、あの、その・・・忘れてますわよ、いつもの」

ああ、本当に僕の彼女は可愛い

「ご、ごめん」

こうやって僕達の距離は縮まって

「は、早くしなさい!」

いつの日か気兼ねなく呼び捨てあえる関係になる事を願って

おやすみのキスを彼女に


Fin