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 彼女の名前は宮沢有紀寧。一見するとどこにでもいる普通の女子高生である。

 本人も薄々感づいているようだが、ずばり彼女は不幸だった。ただ、不幸といっても人生を左右するような類の
ものではなく、あくまでもツイてるツイてないというレベルでの話である。

 今回はそんな彼女の日常の一コマを紹介しよう。








「UN☆HAPPY DAYS」         by鍵犬









 まず、生まれついての彼女の不幸は小、中、高といずれも、ご近所に学校がないということだった。従って、
現在の高校へは毎日片道二十分ほどかけてバス通学を余儀なくされていた。

 さらに、今日は彼女がツイていないことを象徴するかのように雨が降っていた。もう一つおまけに、梅雨時なの
で朝から外が蒸し暑かった。


「行ってきます」


折り畳み傘を片手に、家から二百メートルほど離れたバス停へと向かう。途中の路地で向こうから車がこちらへ
走ってくるのが見えた。反射的に彼女は身構える。


「そう簡単に、私に泥はかけられませんよ。えいっ」


何度も車に泥をはねられ体得した、傘バリアによる回避は今となってはお手の物だった。今日は一見、順調に
ここまで来ているように見える。だが、確実に不幸の足音は彼女の側に忍び寄っていた。

 バス停に着いた彼女はバスを待つ人の長蛇の列を目の当たりにすることとなった。出発点に近いということで、
いつもは座っていけるはずなのに今日は普通の二倍の乗客が並んでいた。


「あの、なんで皆さんこんなに並んでいるのでしょうか?」


今となってはすっかり人見知りのない彼女は、最後尾に並ぶ乗客の一人にそう尋ねた。


「なんでも、途中で交通事故があってバスが遅れてるらしいわよ」

「・・・そうなんですか」


彼女は仕方なさそうに、おまじないの本をカバンから取り出して読み始めた。








 結局バスがやってきたのは、それから十五分後のことだった。彼女は時計を気にしながらバスに乗り込む。

 車内は多くの通学・通勤者で混雑していた。彼女は折り畳み傘をカバンに挿し、背広の背中に囲まれて乗車
口付近の手すりに掴った。それにしても、混雑した車内は異様に暑い。しかも、背の低い彼女にはクーラーから
でる冷風は届かなかった。額からは自然と珠のような汗が滲んでいた。


「ううっ、とても熱いです。でも、私は負けません」


 自分に何度もそう言い聞かせる彼女の姿はとても健気だった。混雑したバスで唯一、得したことと言えば、バス
の走行中に人にもたれていれば足を踏ん張らずに済むということだろう。

 バスは一つ、二つとバス停を過ぎてゆき三つ目のバス停へと向かう。三つ目のバス停は駅前なので乗客の
ほとんどが降車する。以前今日みたいに混んでいた時に、このバス停で降車する人波に流されてバスに置いて
いかれたことがあった。


「む、もうすぐあのバス停ですね」


彼女は手すりをしっかりと握り、一度自分に気合をいれた。なるべく身体をバスの奥の方に入れる。

 かくして、バスは三番目のバス停に到着し降車口を開く。その瞬間客は一気に降車口に向かって流れ始めた。
人波に押し流されそうになりながら必死に耐える。


「やっぱり、ここは凄いですね。でも、あと少しです・・・」


 その時、不意に人の肩にカバンに挿した折り畳み傘の柄が引っかかる。あっと思った瞬間はもう遅かった。傘は
カバンからするりと抜けて、人から人へ肩を伝ってどんどんバケツリレーのように降車口に向かって運ばれてゆく。


「ああっ、傘さん、行かないで下さいっ!」


 まるで漫画のように、スルスルと人の間を移動してゆく傘。彼女は為す術なく、しばし呆然としながら、人ごみに消え
る傘をただ見守っていた。








 傘は無残な姿で、バス停の脇に転がっていた。彼女を残し無情にも発車するバスを余所に、しょんぼり肩を落として
ボロボロのそれを拾い上げる。試しに開いてみると骨が何本か反対の方向を向いていた。


「私のお気に入りだったのに・・・」


 生暖かい雨に身体を濡らしながら、大きなため息を一つ吐く。そして、彼女は時計の文字盤と傘を見比べてから、
意を決したように学校へと雨の中を駆けて行った。

 息を切らしながら、全身ずぶ濡れで教室に入った時には、すでにホームルームは始まっていた。


「なんだ宮沢が遅刻なんて珍しいな。最近、たるんでるんじゃないのか?」


こうして、最終的に担任にまで怒られた彼女は、やっとのことで自分の席へと辿り着いたのだった。








 昼休みの資料室にはコーヒーを飲んで談笑する朋也と有紀寧の姿があった。


「・・・という訳で、最悪の一日でした」

「わはははは、そりゃ面白いな」


今日彼女の身に降りかかった出来事を聞いて、朋也は腹を抱えて笑っていた。


「本当に最悪だったんですよ。他人事だと思って笑わないでください」

「・・・あっ、わりぃ、でも現実にそんなことも起こるのな」


頬を少し膨らませる彼女に、朋也は少し笑いすぎたかなと思い真面目な顔をした。


「私って、どういう訳かツイてないんですよねぇ」


そう言ってため息を吐く有紀寧を、不意に朋也は抱き寄せた。


「えっ、あの・・・ 朋也さん?」


朋也の突然の行動に頬を赤らめる有紀寧。彼女の耳元で朋也はそっと囁いた。


「・・・それじゃあ、今はツイてないか?」


朋也の温もりを肌で感じ、彼女は無言で首を横に振る。他に人気の無い資料室で朋也と唇をそっと重ね合わせな
がら、今こんなにツイているんだから、普段はツイていなくても仕方ないのかなと思ってしまう有紀寧なのであった。








 -END-









あとがき


どうも、実はあなたの従兄弟かもしれない鍵犬でございますw

最近、執筆速度が落ちてきたと思い、二時間即興SSに自分自身で勝手に挑戦いたしました。
有紀寧の不幸ネタはなんと全部事実です。別に私が体験したわけじゃないんですけどね・・・
「事実は小説より奇なり」とは、よく言ったものです。